マジカル☆パステル

未羊

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第48話 パシモとメルプが揃う時

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 傷つきモノトーンのアジトから逃げてきたマジェは、陽が暮れて薄暗くなった道を歩いていた。
「くそっ、グーリの奴め……。まさかあたいの仮面に細工をしているなんてね。あいつらの勢力をもうちょっと削ってからのつもりだったのに、こうなってしまったら仕方ない」
 体のあちこちに傷を負っており、マジェは腕を押さえて痛そうにしている。そして、足も若干引き摺っているようにも見える。
「あれっ、その姿ってまさか……」
 誰かが道路に居たようで、マジェに気が付いて声を出している。
「ちっ、誰だ」
 声に反応して、マジェも声を出してしまう。
「その声は姉さんね」
 声の主が走って近付いてくる。陽が暮れて姿が見づらかったようだ。
「姉さん、怪我してるじゃないの。一体何があったの?」
 声の主は杏だった。左腕にはエコバッグが見えるあたり、どうやら買い物帰りのようである。
「パシモか。ちょっとドジを踏んじまっただけだよ。それよりもあたいらは敵同士なんだ、放っておいてくれ」
「いやよ。そんな怪我している姉さんを放っておけるわけないでしょう?!」
「ちょ、ちょっと……」
 強がるマジェの肩を抱えて、杏は一緒に歩き始めた。
「敵とか言ってても、やっぱりあたしには姉さんを見捨てる事なんてできないわ。それに、戦うというのならお互い万全な状態でやりたいものよ」
「パシモ、あんたって奴は本当に甘ちゃんなんだから……」
 鼻で笑うマジェだったが、その顔はどこか嬉しそうだった。なんだかんだ言っても二人は双子の仲良し姉妹なのである。
 こうして、どうにか家である寺まで戻ってきた杏。すぐさま住職に事情を説明して、マジェを床に寝かせて、体をきれいに拭いたり、傷口の消毒をしたりする。
「痛っ……」
「姉さん、しみる?」
 杏が尋ねるが、マジェは黙ったままだった。
「姉さん、一体何があったの? あたしらじゃ姉さんにこれほどの傷を負わせるなんて厳しいはずだし……」
 杏が心配そうにマジェの顔を覗きながら声を掛ける。
 しばらく黙っていたマジェだったが、少しずつ事情を話し始めた。
「グーリの奴に全部バレたのよ。あたいが何をしようとしていたのかがね。そして、あいつと戦いになってこの様だ……」
「そんな、姉さんにこれだけの怪我を負わせるなんて、そんなに強いの?」
「グーリの能力は【模写】だ。あたいの技の劣化コピーだったが、それでも威力は同等にできていたから、あいつ自身も相当に強いのは間違いないね」
「そんな……、姉さん相手でもあんなだったのに、それよりも強い可能性があるなんて……」
 マジェの話に、杏は不安のあまりに顔を伏せた。
「心配するな、パシモ。あれにバレた以上は、あたいはあっちに戻るつもりはない。とはいえ、千春と美空の二人とは敵対したから、こっちもすぐに合流ってわけにはいかないかな」
 マジェは杏の顔を見ながらそう呟いた。
 このマジェの懸念はその通りなのである。散々モノトーンの手先として現れたのだ。今さら味方になったといって、誰が信用できるというのだろう。杏と双子と言われても顔が似ているだけで済みそうな話だ。だからこそ、マジェは冷却期間が必要と考えた。
「話は聞かせてもらいましたよ」
「住職」
 寺の住職がふすまの向こうから声を掛けてきた。そして、すっとふすまを開けて部屋に入ってくる。その手にはお粥があった。
「なるほど、似ているとは思いましたが、双子だったのですね」
 住職はお粥を部屋の机に置くと、杏とマジェに近付いた。
「あんたは?」
「私、杏さんの親代わりをしています、この寺の住職ですよ」
 マジェの問い掛けにすんなりと答える住職。
「ふーん、それで何なの?」
「聞けば行き場を失ったようですから、どうでしょう、杏さんと一緒にここで暮らしてみては」
 思わぬ提案に、マジェの表情が固まる。確かに、今の自分はもうモノトーンには居られない。しかし、出ていったとして住む場所があるわけではない。
 マジェは少し悩んでいたが、杏の顔を見て決心を固める。
「……そうね、こういうのはどこかで望んでいた事だし、それがいいかも知れないわね」
 マジェは体を起こしながらそう答える。すると、杏は嬉しそうな顔をしていた。
「だったら、あたいも別の名前を名乗るとしようかしら。聖獣としてメルプ、モノトーンとしてはマジェを名乗っていたけど……」
 悩み始めたマジェに、ふっととある単語が降ってきた。
「……楓。そうね、あたいは秋葉楓あきはかえでと名乗らせてもらおうかしら」
 どうしてこの言葉が出てきたのかは分からない、だが、マジェはこの名前で非常に納得してしまった。まったくもって理解不能なのだが、杏が喜んでいるのでまぁいいかと思うマジェだった。
「楓、いい名前だと思いますよ」
 住職からも褒められた。それに対してどこかむず痒くなるマジェだった。
「それと、この姿ももう捨てた方がいいわね」
 モノトーンを離脱する決意をしたマジェは、その姿を人間界へのお忍び用の姿に変えた。杏は慌てて、念のために住職に向こうを向いてもらった。
 変化していくマジェ。紅色だった髪は茶色に変わり、服装もシャツにショートパンツというラフな姿へと変わっていった。
「これでよしっと。……なんで向こうを見ているの?」
「あはははは、気にしなくていいのよ姉さん」
 マジェの問い掛けに、杏は笑ってごまかしていた。
「おや、ずいぶんと落ち着いた姿になりましたね。それはいいとして、ここを家のように思って過ごして下さい。あそこにお粥を置いていますので、食べておいて下さいね。杏さん、片付けはお願いします」
「はい、住職」
 住職はそうとだけ言うと、部屋を出ていった。
「姉さん、やっと一緒に暮らせるね」
「ええ、心配を掛けたわね、パシモ」
 今ここに、5体の聖獣がついに一つの街に集ったのだった。
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