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第35話 さあ、始めましょう
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「さて、どうやらパシモたちは合流できたみたいね」
部屋でこう呟くのはマジェだった。モノトーンのボスであるダクネースの娘と名乗っている割に、敵方に思ったより肩入れをしているようである。
「……そろそろイエーロたちを遠ざけるのも限界かしらね。まったく、ワイスの居場所があたいにも分からないなんてね。一体どこに居るのよ、あいつは……」
マジェはぎりっと爪を噛んでいる。
「そろそろあの単細胞たちに気付かれないように、仕上げをしなきゃね。なんてったって、あたいはあいつらの……」
マジェは何か思い詰めたように呟いていた。
マジェが思い詰めている頃、すっかり杏は千春たちと打ち解けていた。あれだけ冷たい態度を取っていた杏が、笑顔を見せて笑っているのである。これだけクラスに走った衝撃は計り知れないものだった。
「おい、千春。何があったんだ!?」
悪友が大げさに話し掛けてくる。この友人もだいぶ杏の事を気に掛けていたようなので、変化に驚いている一人なのである。
「何もねーよ。用もないのに絡んでくるな」
「嘘だっ! あの氷のような態度がよかったのに、あれではただの美少女ではないか!」
「お前は何を言っているんだ?」
悪友が訳の分からない事を叫んでいるので、千春は軽くあしらっておく。泣いていようが知ったこっちゃない。今の千春にとっては、ただうざいだけである。さすがに、杏絡みの件ではさっさと話を打ち切った方がよさそうだった。しかし、冷たくあしらわれる方がいいって、こいつは変態だったか。
「あら、千春。友人との話はもういいの?」
美空の方に行くと、千春はそんな事を言われる。
「杏の事でうるさいから捨て置いてきた。そういう愚痴は俺にしないでもらいたいもんだぜ」
もううんざりした様子で千春は椅子に座る。
「意外と薄情なのね、千春ってば」
「あいつらは付き合うには関係が薄っぺらいからいいんだ。昔っからろくな目に遭わされてないからな」
杏の感想には、実にぶすっとした顔で答えている。よっぽど腹に据えかねているだろう事が読み取れる。美空は実に困惑したようだ。
「とりあえず、あいつらの訳の分からん愚痴に付き合うくらいなら、まだお前らと一緒に居て羨ましがられる方が断然いい」
千春は腕組みをして言い切った。その態度に美空も杏もただ笑う事しかできなかった。本当にすっかり打ち解けて仲良くなっているようである。お互いを名前で呼び合うようになっている事からもよく分かる。クラスの男子からは、ものの見事に羨望の眼差しを向けられている千春だった。
昼休み、教室から離れて千春たちは三人で校庭に出てきていた。
「ところで、杏が俺たちを見つけられた理由ってのは何なんだ?」
木陰の花壇に座った千春は、いきなりぶち込んできた。その質問に、杏は少し顔を歪ませた。
「そうね、ここまであえて聞かなかったけど、そろそろ教えてもらいたいかな」
「ああもう、あたしたちの能力についてはチェリーやグローリから聞いてるでしょ。聖獣同士は互いを感知できるって」
千春と美空が迫ってくるので、杏はややキレ気味に答える。
「ああ、確かそんな事を言ってたような……」
千春はあごに手を当てて、うろ覚えの記憶を引っ張り出している。
「あたしの場合は、人化して伝説の戦士になった影響なのか、その辺の能力が強化されたみたいでね、ある程度の勘みたいなのが働くようになったのよ。……それでも、姉さんやワイスの居場所は分からなかったわ」
勢いよく喋っていた杏だったが、残るもう2体の事となると急にトーンダウンしてしまった。
「残る2体って、確かメルプとワイスっていう聖獣よね? メルプって杏のお姉さんなのね」
「そうよ。あたしたちは双子の姉妹なのよ。あたしが彩りの聖獣で、姉さんが実りの聖獣というわけなの」
「そうなんだな。それにしてもその日本人としての名前は?」
「うーん、急に降って湧いたとしか言えないわね。ただ、杏って秋じゃないし食べ物だし、あたしとの共通点は色だけよ」
杏はそう言いながら、困ったようにはにかんでいた。
と、その時だった。
「な、なんだ?!」
急に空間が歪んだかと思うと、周囲が紅色の結界に包まれてしまった。
「これは、マジェだなっ?!」
「ご名答……、褒めてあげるわよ」
空間が揺らいだかと思えば、そこからマジェが現れた。
「何しに来たのよっ!」
美空が叫ぶ。
「今は昼休みよね。大丈夫10分くらいで用事は済むわ」
マジェはそう言うと、結界内に転がってきていたサッカーボールに目を付けた。
「今日は無理に倒す必要はないわ。10分間耐え切れればあなたたちの勝ち。そしたらモノトーンの動きを止めて倒せるようにするから」
マジェが淡々と説明するが、千春たちにはまったく理解ができない。
「あたしたちで遊ぶつもりなのね」
「何とでも言えばいいわ。ただ、あたいたちとまともに戦う気であるのなら、これくらいできなきゃいけないわよね?」
マジェはそう言いながら、いきなりリフティングを始める。そのボール捌きは千春が見惚れるほどであった。
「さて、変身くらい待ってあげるわ。あたいがボールを蹴ったらゲームスタートよ」
この間もリフティグを続けているマジェ。その姿に、千春たちは黙って頷いた。
「パステル・カラーチェンジ!」
校庭に三色の光が解き放たれたのであった。
部屋でこう呟くのはマジェだった。モノトーンのボスであるダクネースの娘と名乗っている割に、敵方に思ったより肩入れをしているようである。
「……そろそろイエーロたちを遠ざけるのも限界かしらね。まったく、ワイスの居場所があたいにも分からないなんてね。一体どこに居るのよ、あいつは……」
マジェはぎりっと爪を噛んでいる。
「そろそろあの単細胞たちに気付かれないように、仕上げをしなきゃね。なんてったって、あたいはあいつらの……」
マジェは何か思い詰めたように呟いていた。
マジェが思い詰めている頃、すっかり杏は千春たちと打ち解けていた。あれだけ冷たい態度を取っていた杏が、笑顔を見せて笑っているのである。これだけクラスに走った衝撃は計り知れないものだった。
「おい、千春。何があったんだ!?」
悪友が大げさに話し掛けてくる。この友人もだいぶ杏の事を気に掛けていたようなので、変化に驚いている一人なのである。
「何もねーよ。用もないのに絡んでくるな」
「嘘だっ! あの氷のような態度がよかったのに、あれではただの美少女ではないか!」
「お前は何を言っているんだ?」
悪友が訳の分からない事を叫んでいるので、千春は軽くあしらっておく。泣いていようが知ったこっちゃない。今の千春にとっては、ただうざいだけである。さすがに、杏絡みの件ではさっさと話を打ち切った方がよさそうだった。しかし、冷たくあしらわれる方がいいって、こいつは変態だったか。
「あら、千春。友人との話はもういいの?」
美空の方に行くと、千春はそんな事を言われる。
「杏の事でうるさいから捨て置いてきた。そういう愚痴は俺にしないでもらいたいもんだぜ」
もううんざりした様子で千春は椅子に座る。
「意外と薄情なのね、千春ってば」
「あいつらは付き合うには関係が薄っぺらいからいいんだ。昔っからろくな目に遭わされてないからな」
杏の感想には、実にぶすっとした顔で答えている。よっぽど腹に据えかねているだろう事が読み取れる。美空は実に困惑したようだ。
「とりあえず、あいつらの訳の分からん愚痴に付き合うくらいなら、まだお前らと一緒に居て羨ましがられる方が断然いい」
千春は腕組みをして言い切った。その態度に美空も杏もただ笑う事しかできなかった。本当にすっかり打ち解けて仲良くなっているようである。お互いを名前で呼び合うようになっている事からもよく分かる。クラスの男子からは、ものの見事に羨望の眼差しを向けられている千春だった。
昼休み、教室から離れて千春たちは三人で校庭に出てきていた。
「ところで、杏が俺たちを見つけられた理由ってのは何なんだ?」
木陰の花壇に座った千春は、いきなりぶち込んできた。その質問に、杏は少し顔を歪ませた。
「そうね、ここまであえて聞かなかったけど、そろそろ教えてもらいたいかな」
「ああもう、あたしたちの能力についてはチェリーやグローリから聞いてるでしょ。聖獣同士は互いを感知できるって」
千春と美空が迫ってくるので、杏はややキレ気味に答える。
「ああ、確かそんな事を言ってたような……」
千春はあごに手を当てて、うろ覚えの記憶を引っ張り出している。
「あたしの場合は、人化して伝説の戦士になった影響なのか、その辺の能力が強化されたみたいでね、ある程度の勘みたいなのが働くようになったのよ。……それでも、姉さんやワイスの居場所は分からなかったわ」
勢いよく喋っていた杏だったが、残るもう2体の事となると急にトーンダウンしてしまった。
「残る2体って、確かメルプとワイスっていう聖獣よね? メルプって杏のお姉さんなのね」
「そうよ。あたしたちは双子の姉妹なのよ。あたしが彩りの聖獣で、姉さんが実りの聖獣というわけなの」
「そうなんだな。それにしてもその日本人としての名前は?」
「うーん、急に降って湧いたとしか言えないわね。ただ、杏って秋じゃないし食べ物だし、あたしとの共通点は色だけよ」
杏はそう言いながら、困ったようにはにかんでいた。
と、その時だった。
「な、なんだ?!」
急に空間が歪んだかと思うと、周囲が紅色の結界に包まれてしまった。
「これは、マジェだなっ?!」
「ご名答……、褒めてあげるわよ」
空間が揺らいだかと思えば、そこからマジェが現れた。
「何しに来たのよっ!」
美空が叫ぶ。
「今は昼休みよね。大丈夫10分くらいで用事は済むわ」
マジェはそう言うと、結界内に転がってきていたサッカーボールに目を付けた。
「今日は無理に倒す必要はないわ。10分間耐え切れればあなたたちの勝ち。そしたらモノトーンの動きを止めて倒せるようにするから」
マジェが淡々と説明するが、千春たちにはまったく理解ができない。
「あたしたちで遊ぶつもりなのね」
「何とでも言えばいいわ。ただ、あたいたちとまともに戦う気であるのなら、これくらいできなきゃいけないわよね?」
マジェはそう言いながら、いきなりリフティングを始める。そのボール捌きは千春が見惚れるほどであった。
「さて、変身くらい待ってあげるわ。あたいがボールを蹴ったらゲームスタートよ」
この間もリフティグを続けているマジェ。その姿に、千春たちは黙って頷いた。
「パステル・カラーチェンジ!」
校庭に三色の光が解き放たれたのであった。
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