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第34話 パシモが仲間に加わった
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「あたしがパシモなのよ!」
それはチェリーたちを驚愕させるに十分な告白だった。人間「秋葉杏」の正体は、パステル王国の聖獣の1体である「パシモ」であり、伝説の戦士の一人「パステルオレンジ」だったのだ。
「そんな……。どうしてパシモが人間の姿に?」
グローリも驚愕のあまり、後退り気味によろけている。
「知らないわよ。気が付いたらこっちの世界に居てこの姿だったんだから。姉さんもみんなも居ない。あたし一人で慣れない姿に戸惑ったものだわ。幸い身の回りの事は自分の力でどうにかできたからよかったけど……」
杏はそう言って、黙り込んでしまった。千春たちには分からない相当の苦労を、杏は体験してきたのだろう。掛ける言葉が見つからなかった。
「なるほど、姿が変わっていたからボクたちは見つけられなかったのか。気付いてあげられなくてすまなかったよ」
チェリーは杏を見ながら謝罪した。すると、杏はチェリーを抱え上げる。再会に抱き締めるのかと思ったら、そのままベッドの上に叩きつけた。
「ぶへっ!」
チェリーが変な声を上げる。床に叩きつけなかったのは同じ聖獣としての優しさだろうか。
「なによ、あたしの事は分からなかったくせにっ! それに、見つけたと思った伝説の戦士はすごく情けないし、見た時のあたしの絶望がどれだけだったか分かるの?!」
杏はめちゃくちゃ泣きながら怒っている。だが、それも長くは続かなかった。
「でも、あたしは一人でもやれると思ったけど、マジェには手も足も出なかった。あんなに強いだなんて、あたしも随分と思い上がってたものだわ」
杏は影を落として落ち込んでいる。自分がやられた攻撃は、本来の半分の威力しか出ていない技だった事が分かっているからだ。手加減されて一方的にやられた事が、杏はとても悔しかったのだ。
「秋葉さん、今日はとりあえずうちに泊まっていく?」
美空は杏の悔しそうな表情を見て、放っておけなくなったようだ。
「いいえ、それには及ばないわ。一応帰る場所はあるし、あんたたちの世話になるつもりはないわ」
杏は一応丁寧なつもりで断る。態度の端々から馴れ合うつもりはまだないという気持ちが滲み出ている。
「モノトーンの連中はあたしの事をパシモだとは分かってないだろうし、あたしは基本的に一人の方が気楽なの」
杏はそう言って、ぷいっと顔を背けている。そこにパステルピンクが声を掛ける。
「いや、少なくともマジェって奴は秋葉さんの事を知ってるようだぜ」
「嘘よっ!」
すぐに否定する杏。だが、パステルピンクは引かなかった。
「あのマジェって奴は、『変身が解けてるはず』と言った後に、その姿に俺が驚くだろうって事も話してたからな。パステルオレンジの正体を知っていないと、こればかりは言える事じゃないからな」
「……」
パステルピンクの言い分に、杏は衝撃のあまり黙り込んでしまった。
「……ただ、マジェの奴は他人に話してるような事はないと思う。敵なはずなんだが、どうにもそうとしか思えない。俺たちの事も正体を含めて知っているみたいだし、その辺りも自分の中だけにしまっているって感じだ」
「私たちの事も知られてるの?」
美空がパステルピンクに訊く。
「ああ、じゃないと最初の時に変身していないの俺たちの前に現れた事の説明がつかない。それを踏まえた上で、それ以外の敵が現れていないって状況を合わせると、俺たちの正体はマジェだけの知る情報って事になる」
なんとも恐ろしいパステルピンクの想像である。これが事実とするならば、マジェはいつでも千春たちを襲い放題なのだが、今のところ不意打ちだけは行っていない。パステルピンクたちにはマジェの意図が分からなかった。
「俺たちと戦う時に、遊びだとかゲームだとか言ってるが、本当によく分からねえぜ」
「そうね。化け物は召喚するのに、絶対自分は手を出さないものね。本当に不思議な敵よね」
パステルピンクと美空は、揃いも揃って腕を組んで首を捻っている。こういうところは妙に行動が揃う幼馴染みである。
「……ところで、パステルピンク」
「なんだよ」
「いつまで変身したままなの?」
杏がパステルピンクが変身したままなのを気にしている。すると、パステルピンクは美空を見ながらため息を吐いた。
「いや、こいつの家に秋葉さんを運んだのはいいんだけど、変身を解くタイミングが無くてな。それに、女子の居る空間に男一人紛れ込むのは気が引けるだろう?」
パステルピンクは頭を掻きながら、変身を解いていない理由を恥ずかしそうに答えていた。それを聞いた美空と杏は、思わず笑ってしまった。
「ばっかみたい。妙に律儀なのね、あんたは」
「でっしょー? 普段はあんなにがさつで適当なのに、妙なところで気を遣うんだから」
「うるせえよ。それに今は靴も脱いじまってるし、変身解いたらどうなるか分からないからな。仕方なくだよ、仕方なく」
二人があまりに笑うものだから、パステルピンクはふて腐れて横を向いてしまった。
「ふふっ、正直一人でいいとは思ってるけど、あんたたちと居ると退屈しなさそうね。あたしには姉さんのメルプを探すっていう目的もあるからあまり一緒に戦う事はないでしょうけど、普段はよろしく頼むわよ」
「ああ、こちらこそ頼むな。……えっと、杏でいいかな?」
「ええ、今のあたしはこっちの世界の人間と同じだから、それでいいわ。どういうわけかパシモの姿に戻れないからね」
こうして、秋葉杏ことパステルオレンジ(パシモ)が仲間に加わったのだった。これにはチェリーとグローリも大喜びである。
それはチェリーたちを驚愕させるに十分な告白だった。人間「秋葉杏」の正体は、パステル王国の聖獣の1体である「パシモ」であり、伝説の戦士の一人「パステルオレンジ」だったのだ。
「そんな……。どうしてパシモが人間の姿に?」
グローリも驚愕のあまり、後退り気味によろけている。
「知らないわよ。気が付いたらこっちの世界に居てこの姿だったんだから。姉さんもみんなも居ない。あたし一人で慣れない姿に戸惑ったものだわ。幸い身の回りの事は自分の力でどうにかできたからよかったけど……」
杏はそう言って、黙り込んでしまった。千春たちには分からない相当の苦労を、杏は体験してきたのだろう。掛ける言葉が見つからなかった。
「なるほど、姿が変わっていたからボクたちは見つけられなかったのか。気付いてあげられなくてすまなかったよ」
チェリーは杏を見ながら謝罪した。すると、杏はチェリーを抱え上げる。再会に抱き締めるのかと思ったら、そのままベッドの上に叩きつけた。
「ぶへっ!」
チェリーが変な声を上げる。床に叩きつけなかったのは同じ聖獣としての優しさだろうか。
「なによ、あたしの事は分からなかったくせにっ! それに、見つけたと思った伝説の戦士はすごく情けないし、見た時のあたしの絶望がどれだけだったか分かるの?!」
杏はめちゃくちゃ泣きながら怒っている。だが、それも長くは続かなかった。
「でも、あたしは一人でもやれると思ったけど、マジェには手も足も出なかった。あんなに強いだなんて、あたしも随分と思い上がってたものだわ」
杏は影を落として落ち込んでいる。自分がやられた攻撃は、本来の半分の威力しか出ていない技だった事が分かっているからだ。手加減されて一方的にやられた事が、杏はとても悔しかったのだ。
「秋葉さん、今日はとりあえずうちに泊まっていく?」
美空は杏の悔しそうな表情を見て、放っておけなくなったようだ。
「いいえ、それには及ばないわ。一応帰る場所はあるし、あんたたちの世話になるつもりはないわ」
杏は一応丁寧なつもりで断る。態度の端々から馴れ合うつもりはまだないという気持ちが滲み出ている。
「モノトーンの連中はあたしの事をパシモだとは分かってないだろうし、あたしは基本的に一人の方が気楽なの」
杏はそう言って、ぷいっと顔を背けている。そこにパステルピンクが声を掛ける。
「いや、少なくともマジェって奴は秋葉さんの事を知ってるようだぜ」
「嘘よっ!」
すぐに否定する杏。だが、パステルピンクは引かなかった。
「あのマジェって奴は、『変身が解けてるはず』と言った後に、その姿に俺が驚くだろうって事も話してたからな。パステルオレンジの正体を知っていないと、こればかりは言える事じゃないからな」
「……」
パステルピンクの言い分に、杏は衝撃のあまり黙り込んでしまった。
「……ただ、マジェの奴は他人に話してるような事はないと思う。敵なはずなんだが、どうにもそうとしか思えない。俺たちの事も正体を含めて知っているみたいだし、その辺りも自分の中だけにしまっているって感じだ」
「私たちの事も知られてるの?」
美空がパステルピンクに訊く。
「ああ、じゃないと最初の時に変身していないの俺たちの前に現れた事の説明がつかない。それを踏まえた上で、それ以外の敵が現れていないって状況を合わせると、俺たちの正体はマジェだけの知る情報って事になる」
なんとも恐ろしいパステルピンクの想像である。これが事実とするならば、マジェはいつでも千春たちを襲い放題なのだが、今のところ不意打ちだけは行っていない。パステルピンクたちにはマジェの意図が分からなかった。
「俺たちと戦う時に、遊びだとかゲームだとか言ってるが、本当によく分からねえぜ」
「そうね。化け物は召喚するのに、絶対自分は手を出さないものね。本当に不思議な敵よね」
パステルピンクと美空は、揃いも揃って腕を組んで首を捻っている。こういうところは妙に行動が揃う幼馴染みである。
「……ところで、パステルピンク」
「なんだよ」
「いつまで変身したままなの?」
杏がパステルピンクが変身したままなのを気にしている。すると、パステルピンクは美空を見ながらため息を吐いた。
「いや、こいつの家に秋葉さんを運んだのはいいんだけど、変身を解くタイミングが無くてな。それに、女子の居る空間に男一人紛れ込むのは気が引けるだろう?」
パステルピンクは頭を掻きながら、変身を解いていない理由を恥ずかしそうに答えていた。それを聞いた美空と杏は、思わず笑ってしまった。
「ばっかみたい。妙に律儀なのね、あんたは」
「でっしょー? 普段はあんなにがさつで適当なのに、妙なところで気を遣うんだから」
「うるせえよ。それに今は靴も脱いじまってるし、変身解いたらどうなるか分からないからな。仕方なくだよ、仕方なく」
二人があまりに笑うものだから、パステルピンクはふて腐れて横を向いてしまった。
「ふふっ、正直一人でいいとは思ってるけど、あんたたちと居ると退屈しなさそうね。あたしには姉さんのメルプを探すっていう目的もあるからあまり一緒に戦う事はないでしょうけど、普段はよろしく頼むわよ」
「ああ、こちらこそ頼むな。……えっと、杏でいいかな?」
「ええ、今のあたしはこっちの世界の人間と同じだから、それでいいわ。どういうわけかパシモの姿に戻れないからね」
こうして、秋葉杏ことパステルオレンジ(パシモ)が仲間に加わったのだった。これにはチェリーとグローリも大喜びである。
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