マジカル☆パステル

未羊

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第32話 圧倒的な差

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 パステルピンクの口上キャンセルから始まった、対マジェ戦第2回戦。
 河川敷に半分埋められた古タイヤが変化した化け物は、遠慮なくパステルピンクに襲い掛かってくる。
「モノ、トーンッ!」
 化け物の鋭い右ストレートが、パステルピンク目がけて振り下ろされる。だが、それほど速くはないので、後方へ少し下がって回避する。そして、着地と同時に化け物へと攻撃を入れる。
「うらあっ!」
 カウンターのパンチが化け物の顔に入る。
「モノォッ?!」
 予想外の反撃に化け物は少しふらついた。
 その様子を冷静に見ているマジェ。あごに手を当てて鋭く考察を始める。
「ふむ、一人の方が動きがいい。連携は苦手なタイプか。よくそんなので、チームプレイであるサッカーなんてやってられるわね」
 まったくもって鋭い指摘である。
「まあ、パステルシアンに遠慮して動きが悪くなってるんじゃ、イエーロやグーリにはとてもじゃないけど通用しないわよ!」
 マジェはそう叫ぶと、化け物に少し力を与える。単独で動きがいいものだから、少し難易度を上げたのである。
「何しやがるんだ!」
「難易度調整よ、調整。ゲームなんかでよくあるでしょ?」
「ゲームと一緒にするな!」
「あら、あたいにとってあんたたちとの戦いはただのゲームよ」
 本気で怒っているパステルピンクに、どこまでも冷淡に対応するマジェ。これが強者の余裕というものだろうか。
「さぁ、パステルピンク。ちゃっちゃとそのモノトーンを倒しちゃいなさい。あんたの実力はそんなもんじゃないでしょう?」
 高みの見物にしゃれ込むマジェに、正直イライラするパステルピンク。しかし、このマジェの言葉が、とても敵対してる相手の言葉とは思えないのである。しかし、目の前の化け物で手一杯のパステルピンクが、その事に気付く事はなかった。とにかくパワーアップした化け物の攻撃は、躱すのが精一杯。攻撃パターンが増えたのが一番つらいのだ。
 パンチは一発だけではなく、ワンツーと打つようになったし、タイヤを飛ばしてくる攻撃も1個ではなく2~3個に増えている。実に面倒になってきた。
「ちっ、隙が無くなってきやがった」
 パステルピンクは躱しながらどうするか考えている。考える余裕はあるという事である。
 苦戦するパステルピンクを見ながら、マジェは楽しそうに笑っている。だが、パステルピンクが倒せそうだから笑っているのではない。成長の兆しを見せている事に楽しくなっているのである。
「そうよ。もっと強くなってあたいを楽しませてちょうだい」
 マジェは興奮でにやけている。その時だった。
「パステル・オータム・ペイントレイ!」
 不意打ちのように絵の具の波が襲い掛かってきた。
「ちょっと、楽しみを邪魔しないでくれるかしら」
 不意打ちであるはずの攻撃を、なんと躱すではなく受け止めてかき消してしまった。しかも、必殺技を、である。
「そんなに死に急ぎたいのかしら、パステルオレンジ」
 静かな怒りを込めた声を放つマジェ。その視線の先には、攻撃を防がれた事に驚きを隠せないパステルオレンジが立っていた。
「あれで不意を突いたつもりなんでしょうけど、甘いわね。攻撃に覚悟が足りていないわ」
 マジェは左手を腰に当てて、ゆっくりとパステルオレンジに歩み寄っていく。そのマジェの姿からは、言い知れぬ恐怖が感じられる。その威圧感に、パステルオレンジは恐れおののくとともに、別の妙な感覚を覚えた。
(なに、この不思議な感覚は……)
 パステルオレンジは、恐怖と違和感で動けない。普段は淡々としたパステルオレンジが恐怖する相手、それがこのマジェなのである。
「今のあたいはパステルピンクと遊んでいるのよ。あんたは邪魔なの、寝ててちょうだい!」
 マジェが両手を頭上に掲げる。本気モードだ。
「マゼンダ・ペンシル・ロケット! ……ハーフ」
 マジェは小さく何かを付け足し、パステルオレンジを攻撃する。すっかり足のすくんでしまったパステルオレンジに、その攻撃を躱す余裕はなかった。
「きゃああっ!」
 6本の色鉛筆がパステルオレンジを打ち付けていく。その威力にパステルオレンジを大きく吹き飛んでしまった。
「見物人に死なれちゃ困るからね。しばらくそこで自分の無力を反省するのね」
 マジェはパステルオレンジにそう言い捨てて、パステルピンクの方へと向き直った。こちらの戦いもまだ続いていた。
「ふん、未熟すぎね。この程度のモノトーン相手に、何を苦戦しているというのかしら」
 パステルピンクの戦いぶりに、マジェは失望のため息を吐いた。
「もういい。その未熟者を懲らしめてやりなさい」
「モノ、トーンッ!!」
 更に強化された化け物は、パステルピンクを取り囲むようにタイヤを発生させ、それを一気にパステルピンクへ飛ばす。上空からも襲い掛かっており、完全に逃げ場はなかった。
「うわぁっ?!」
 悲鳴を上げるパステルピンク。次の瞬間にズドドドという音を立てて、タイヤが地面に突き刺さった。
「ふん、この程度か。なんて期待外れなのかしらね」
 マジェがそう言い捨てた次の瞬間だった。
 突如として化け物の足元の土が盛り上がり、そこからパステルピンクが植物の蔓と一緒に飛び出してきた。そして、そのまま下から飛び蹴りを食らわせ、化け物の体勢を崩した。
「輝け、ぬくもりの色よ! 舞え、春風に乗せて! スプリング・カラフル・ストーム!」
 すかさず必殺技を放つパステルピンク。
「モ、モノトーンッ!」
 必殺技をまともに食らった化け物は、体勢を崩しながら浄化されて消えていった。パステルピンクの勝利である。
「はあはあ……、地面が土だから何とかなったぜ……」
 しかし、パステルピンクも完全に疲労困憊である。両ひざをついて、大きく息をしている。
「お見事。今回は地形が有利に働いたわね」
 マジェが拍手をしながら近付いてきた。
「戦いの中では一瞬の判断が生死を分けるわ。状況把握と勘をもっと鍛えなさい。きっと普段でも役に立つわよ」
「な、何を教師みたいな事、言ってるんだよ……」
「別に? あたいがしたいからしてるだけ。あんたたちは所詮暇つぶしなのよ」
 パステルピンクの言い分に、マジェは真顔で言ってのけていた。さすがにパステルピンクも、呆れと疲れで言葉が続かなかった。
「そうそう、あっちでのびてるあれも連れて帰ってちょうだい。多分変身が解けてるから、あんたは驚くだろうけど」
「……俺たちを、殺さないのか?」
 マジェの言葉に、パステルピンクはこう問いかける。
「言ったでしょ? あんたたちは暇つぶしだって。殺しちゃったら遊べないじゃないの」
 マジェはきょとんとして真面目に答えている。
「それじゃ、また遊びましょうね」
 こうとだけ言い残して、マジェは姿を消したのだった。
 パステルピンクはしばらく呆けていたが、マジェが指し示していた方向へと歩いていく。そこには一人の少女が倒れていたのだが、その人物はとても意外な人物だったのだ。
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