マジカル☆パステル

未羊

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第28話 マジェの思惑

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 モノトーンのアジトに戻ったマジェは、すぐさまイエーロとグーリに会いに行く。今回の件を伝えるためである。
 部屋に着くと、イエーロの陽気な声とグーリの年寄り染みた、反りの合いそうにない正反対な声が聞こえてくる。マジェはその部屋へと、ノックも無しに突如として乱入する。
「まったく、うるさい声だわね。外まで丸聞こえよ」
 とりあえずいつものように不機嫌な態度を取るマジェ。しかし、このモノトーンの界隈では外まで漏れ出ていたとしても、誰もそれを聞く事はないのだ。
「あら~、マジェ様じゃないの~。どうしたの~?」
 相変わらず体をくねらせながら、冷静に見れば気持ち悪い動きを見せるイエーロ。だが、マジェもさすがにそれに動じるような肝の小ささではない。
「ふむ、仮面で表情はよく見えぬが、雰囲気を見る限り、あまりよろしくない報せのようじゃな」
 イエーロとは対照的に落ち着いた反応を見せるグーリ。さすがに年の功か、鋭い洞察力を持ち合わせている。
「ええ~、そうなの~。何なのかしら~?」
「……イエーロ、マジェ様が話しづらそうじゃ。ちょっと黙っておれ」
 相変わらずの軽いノリのイエーロを、渋く落ち着いたグーリが叱っている。それに対してイエーロは渋々いう事を聞いていた。
 ようやく場が落ち着いた事で、マジェは両腕を組んだ状態で話を始めた。
「ブルーエがやられたわ。パステルピンクとパステルシアンに気を取られ過ぎたところを、パステルオレンジの急襲を食らってね」
「何ですと。それは本当ですか、マジェ様!」
 グーリは信じられないという反応を示すが、
「グーリ、あたいの言う事が信じられないとでも?」
 マジェは不機嫌に睨み付けた。
「……いえ、決してそのような事ではございません」
 その威圧感に、グーリはやや小さくなりながら反応している。
「やっぱりね~。こないだパステルオレンジ一人にいいようにされていたから、こうなるんじゃないかと思ってたわ~。本当、ブルーエのおばさんって単純だわね~」
 イエーロは先日の一件を覚えていたようで、ブルーエがやられた事に対して、ほとんど驚いていなかった。仲間意識があるようで希薄、それがモノトーンという集団なのである。
「予想の範疇だったとしても、さすがにレドに続いてブルーエまでやられたとなると、いよいよわしら二人だけか」
 グーリは慎重なタイプなようで、状況をすぐさま分析にかかる。
 一方のイエーロは楽観主義なせいか、一応仲間である二人がやられたというのに、特に気にしている様子は見られない。
 モノトーン四天王もなかなかに個性的な面々なのである。
「幸いにも、パステルピンクとパステルシアンの二人と、パステルオレンジとの間にはまだ溝があるわ。そこであんたたちに命令よ」
 モノトーン四天王の二人の動きを無視して、マジェは重苦しい声で語り掛ける。
「はっ、何なりと」
 イエーロとグーリは跪く。
「パステルオレンジの聖獣はなぜか見えないけれど、残り二匹の聖獣を探し出して始末しなさい。これ以上奴らを合流させるわけにはいかないもの」
 マジェはピシッと決めた姿勢のまま、二人を見下しながら命令を出す。ところが、二人はこれには不服そうだ。
「で~も~、あの三人がまだ協力する状態にないのなら、今のうちに叩いておく方がいいのでは~?」
「いや、あながちそうとも言えんな。ブルーエの失態の事もある。甘く見ていると痛い目を見かねん」
 ここでも楽観的なイエーロと慎重派なグーリとの間で意見が割れた。そして、意見を言い合った後で二人は睨み合っている。その様子にはマジェも呆れるくらいだった。
「心配するな。あんたたちが聖獣探しをしている間は、あいつらにはあたいの暇つぶしに付き合ってもらうわ。おもちゃは大事に扱ってこそですもの」
 にやりと笑うマジェの姿に、イエーロとグーリは思わず恐怖を覚える。そして、頭を深く沈めて跪き直す。
「マジェ様の仰せの通りに」
 二人はこの言葉を言い残して部屋からすっと消え去った。それを見送ると、マジェはその部屋から立ち去り、自室へと戻った。

「ふぅ……」
 マジェは自室に戻るなり、マントと仮面を外してベッドに横たわる。
 マジェの自室は、自分の名前の由来となったマゼンダ一色の部屋である。モノトーンの一員の部屋はこういった部屋ばかりなので、なんとも一般的な感覚なら気が狂ってしまいそうである。
「はあ、こういう部屋だけど、自室だと思えば案外落ち着けるものね」
 マジェのこの言葉は、モノトーンの一員としては異質な言葉である。というのも、モノトーンの面々は誕生からずっとこういう部屋なので、他人の部屋を訪れて違和感を持つ事はあっても、自室で違和感を持つ者は居ないのだ。
 それにしても、マジェの部屋の中はいろいろと特殊なものがある。今転がっているベッドもそうだが、鏡だって備えている。マジェはベッドから立ち上がって、その鏡へと向かっていく。すると、その鏡には驚くべき顔が映し出された。
(やっぱり、あたいとよく似ているわね。あのパステルオレンジとかいう奴……)
 そう、マジェの顔立ちや瞳の感じがパステルオレンジとよく似ていたのだ。
「ふっ、もし仮にそうだとしても、今のあたいはモノトーンのボス、ダクネース様の娘。伝説の戦士どもの心を、根本から徹底的に叩き折ってやるわ!」
 マジェは表情を引き締める。その後、マジェの部屋からしばらくの間、笑い声が響き渡ったのだった。
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