マジカル☆パステル

未羊

文字の大きさ
上 下
22 / 197

第22話 静かなる焦り

しおりを挟む
 千春たちがゴールデンウィークを謳歌している頃、モノトーンのアジトでは……。

「くそっ! 誰がおばさんよぉっ!」
 ブルーエが荒れていた。
 というのも、パステルピンクにおばさん呼ばわりされたのが相当に頭に来ているようである。ブルーエ本人は若いつもりだからだ。
「ぷくくっ……。そのパステルピンクって子、なかなかやるじゃなぁ~い。ざんね~ん、その現場を直に見てみたかったものだわぁ~」
 荒れるブルーエとは対照的に、イエーロには大うけしているようである。お腹を抱えて笑い転げていた。その様子に、ブルーエの青筋の数が増えていく。怒り狂うブルーエと大声で笑うイエーロ。その様子にまったく動じる事なく、グーリは淡々とお茶をすすっている。
 この様子を見る限り、モノトーン四天王はひとつの目的を共有しているが、決して仲が良いというわけではなさそうだ。
「お前たちはいつまでそうやっているつもりだ。のんびりしている暇はあるというのか?」
 低く重い声が四天王の居る部屋に響く。
「……これはマジェ様。ご機嫌麗しゅうございます」
 ブルーエが意外と最初にマジェの登場に対処する。続いて、イエーロも笑うのをやめて跪いた。
「無様なものよな、ブルーエ」
 ギラリとマジェの瞳が光る。
「コケにされた上に、あっさりとモノトーンを撃破されるなど、お前は自分の立場が分かっているのか?」
 マジェは鋭い視線を向けて見下している。その視線の鋭さに、ブルーエたちは震え上がっており、言葉を発する事ができなかった。
「お前たちの目的は聖獣どもを葬り、あの地球とかいう世界を我らが支配下におさめる事だ。悠長に遊んでいる暇はないぞ」
 これだけ伝えると、マジェは立ち去ろうとする。だが、
「お待ち下さい、マジェ様」
 ブルーエが声を発した。
「なんだ、あたいに意見するつもりか? ……面白い、言ってみろ」
 それに対してマジェは、不快感を露わにしてより強く睨みつけた。その視線にブルーエは恐ろしくて言葉を詰まらせてしまった。
「……なんだ。呼び止めただけとは愚かなものだな。……あたいらモノトーンに無能は要らぬ。さっさと奴らを抹殺して来い!」
 マジェが声を張り上げて叫ぶと、部屋の中に恐ろしい衝撃波が走る。イエーロとグーリはいいとばっちりである。
「……仰せのままに」
 ブルーエはぎゅっと唇を噛みしめた。その後は、マジェが立ち去るのをただ見送る事しかできなかった。
「マジェ様ったら、本当に怖~い。誰かさんのおかげで~、私たちまで怒られちゃったじゃないの~。どうしてくれるの~?」
 マジェが立ち去って完全に空気が落ち着いたところで、イエーロがブルーエにウザ絡みをする。なんというか、空気がとんでもなく重かった。
「……分かったわよ。何としてでもパステルピンクとパステルシアンの二人だけでも仕留めるわ」
 ブルーエは拳を握った。
「……パステルオレンジはどうするつもりじゃ?」
「パステルオレンジは、マジェ様が対応なさるらしいわ。だから、あたしはあの腹立たしい小娘どもを葬り去らなきゃ気が済まないのよ!」
 グーリから指摘されると、ブルーエは最初こそ冷静だったが、どんどんとパステルピンクのおばさん発言を思い出して腹が立ってきたようだ。最後は床を思い切り強く踏みつけていた。
「あらやだ~。ブルーエのその表情、と~っても~、醜いわね」
「お黙り、イエーロ!」
 イエーロが突けば、ブルーエはブチ切れて怒鳴りつける。本当に、この組織どうやって成り立ってるんだというくらい、壊滅的な仲だった。
「マジェ様とパステルオレンジの間には、ただならぬ因縁があるって感じだったわ。やけにこだわっている感じだったもの」
 ブルーエは両腕を組みながら、ようやく冷静さを取り戻しながら話している。
「しかし、マジェ様の事は、わしらもよく知らぬ」
「そうね~、気が付いたら、幹部に居座っていたものね~。本当、何者なのかしら~」
 どうやら、モノトーン四天王はマジェの事はよく知らないらしい。それでも四天王がこれだけ圧倒されるという事は、四天王よりも実力は上という事である。よくは知らないが実力では負けているので、四天王はマジェに逆らえないのである。
「とにかくあたしは、パステルピンクとパステルシアンを潰す。二人は残りの二匹をさっさと探して潰すのよ!」
「ブルーエに命令されるのは、癪だわね~。でも~、残りの連中を潰すのは賛成ね」
「わしも同意じゃな」
 苛立つブルーエの言葉に、イエーロとグーリはやれやれといった感じで同意する。
「だが、ブルーエよ」
「なによ」
「おぬしももう数度の失敗を繰り返しておる。あと何度失敗が許されるか分からぬゆえ、本気で掛かるのだぞ」
 太い眉で見えなかったグーリの目がきらりと光って、ブルーエを凝視する。
「……分かっているわよ。今までは様子見だったのよ。次こそは葬ってやるわ」
 ブルーエはギリギリと歯を食いしばっている。
「一人ではどうともならんと思ったら、いつでも声を掛けろ。プライドが許さぬかも知れんが、レドを失っておる以上、あまり形振りに構うな」
「ええ、心遣いはありがたく受け取っておくわ」
 グーリの予想外の申し出に、ブルーエは一応感謝を言っておく。
「でも、これはあくまでもあたしの問題よ。必ずあたしだけで成し遂げてみせるわ」
 ブルーエは表情を引き締めて、グーリにそう言い切った。そしたらば、グーリは何も言う事なく、そのままブルーエを送り出したのだった。
「あら、グーリ。いいの? あのままあの女を送り出して」
「構わん。奴の決意が固い以上、わしらがどうこういう話でもなかろう」
 グーリはくるりと振り返る。
「さて、わしらは残りの聖獣を探しに行くぞ」
「は~い。待っててね、聖獣ちゅあ~ん!」
 モノトーン四天王たちは、それぞれの思惑を秘めてパステル王国の残党潰しへと赴いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...