マジカル☆パステル

未羊

文字の大きさ
上 下
15 / 197

第15話 無表情

しおりを挟む
 明るい茶髪が特徴的な秋葉杏あきはあんず。この顔を見た千春は、なんかどこかで見たような印象を受けた。
 だが、千春はすぐに頭を振ってそれを否定する。転校してきたばかりの少女をどうして見た事があると言えるのだろうか。そんなわけがないはずなのだ。だが、どういうわけか、やはりあの杏の顔にはどこか見覚えがあるのだ。
 千春が悶々としている中、杏は空いている席に座る。そして、しれっと朝のホームルームが終了したのである。
 ホームルームが終わると、恒例の転校生への質問攻めだ。まったく節操のない学生たちである。好奇心たっぷりに質問をする学生たちだが、杏は無表情だが実に迷惑そうな仕草が見て取れる。
「おい、お前ら、いい加減にしろ」
 千春はつい口を挟んでしまった。
「どう見ても答えたそうにしてないじゃないか。さすがに転校初日で不安なんだろうからさ、もうやめてやれよ」
 挟んでしまった以上、とにかく質問攻めをやめさせる千春。するとクラスメイトたちは、千春の目つきにびびって席へと戻っていった。
「まったく、あれじゃいじめと変わんねーぜ。程度ってものを考えろ」
 席に戻っていたクラスメイトを見て、千春は呆れて言い捨てた。杏は無表情かと思いきや、驚いた顔をして千春を見ていた。おそらく助けられるとは思っていなかったのだろう。
「災難だったな。こんな時期の転校だから大変だとは思うけど、何かあったら頼ってくれ、クラスメイトなんだからな」
 千春は杏の顔を見ながら話し掛けている。それに対して杏は、
「あ、ありがとう……」
 とだけ言って顔を背けてしまった。
「なにナンパしてるのよ、千春」
「うるせえな、美空。クラスの連中が遠慮なしに詰めかけてあれこれ聞いてるから、それを追い払っただけだろうが」
 美空がジト目で千春に声を掛けると、千春は少し慌てたように弁解している。その様子を見ていた杏が少し笑ったような気がした。
 だが、ここで授業開始のチャイムが鳴ってしまったので、よくは確認できなかった。気にはなるところだが、今は授業に集中である。こうして、午前中の間は杏に人が群れる事もなく無事に時間は過ぎ去っていった。

 給食の時間も杏は机をくっつけながらも黙々と食べていた。千春と美空はその様子を見ていたが、本人が構ってもらいたそうにしていないので、二人は示し合わせてそっとしておいた。
 昼休みになると、あまり大きな声ではないが、不意に杏が千春と美空に話し掛けてきた。
「……あなたたち二人って、仲がいいの?」
 千春と美空は一瞬向かい合う。そして、笑いながら杏の質問に答える。
「仲がいいというか、幼馴染みの腐れ縁だよ。家も近所だから大した付き合いじゃない」
「そうね。子どもっぽい千春を見張るのが私の役目って感じね」
「誰が子どもっぽいだよ?」
「そういうところが子どもっぽいって言うのよ」
 横目で見ながら愚痴っていたはずが、知らない間に顔を向き合わせて口げんかになっていた。ケンカするほど仲がいいとは言うが、険悪そうに見えて微笑ましいものである。なにせ、それを見ながら杏が笑うくらいなのだから。杏が笑うところを見て、千春と美空の口げんかがぴたりと止まった。
「なに?」
 二人から凝視されているのに気が付いた杏は、ぴたりと笑うのをやめて、元の仏頂面に戻る。すごい早い変わり身である。
「いや、ほとんど無表情だったから、笑った顔が意外過ぎてな」
「……何よ。あたしだって笑う事くらいあるわよ」
 千春が弁明すると、杏は怒ったように顔を背けて窓の外を見てしまった。
 この行動を見た千春と美空は、どういうわけかかえって安心したよう表情を見せた。慣れない環境で戸惑っていただけなのだろうと。
 微笑む千春と美空の様子をチラ見する杏。その様子に眉をひそめて困惑するのだった。

 一方その頃、モノトーンのアジトでは……。
「レドがやられたか……。惜しい男を亡くしたものだな」
 グーリが呟いている。
「でも~、パステルピンクが放った技の花に気を取られてるなんて~、ホント、お・バ・カ・さんよね~?」
 相変わらずイエーロがグネグネ動きながら発言している。じっとしていられないのだろうか。ブルーエがもの凄い顔で睨んでいる。
「……次はあたしが行くわ」
 ブルーエが神妙な面持ちで発言する。
「やだ~。ブルーエったら、この間パステルオレンジに、一方的にボコられてたじゃな~い。やだ~、無駄死にするつもり~?」
「うるさい! あれは不意を突かれただけだ。一方的にやられるだけが、あたしじゃないわよっ!」
 茶化すように話し掛けてくるイエーロに、ブルーエは本気でキレている。イエーロは怯えたふりをしながら不気味に笑っていた。
「パステルピンクとシアン、この二人とパステルオレンジはまだ協力関係にないみたいだしね。二人居るとはいえ、弱い方から叩き潰して戦力を削ぐわよ」
 ブルーエはギリギリと爪を噛んでいる。パステルオレンジに一方的にやられ、イエーロにコケにされたブルーエは悔しくてたまらないのである。ここで一発逆転を狙いたいのだ。
 ぎゃあぎゃあと騒ぐモノトーン四天王の部屋に、こつん、こつんと靴音が響く。
「パステルオレンジ……、それは本当?」
「これは、マジェ様。はい、三人目の戦士として現れました」
 問い掛けにブルーエが答えると、マジェと呼ばれた女性が考え込む仕草を見せた。
 全体的に濃い赤の光沢のある衣装、へそ出しのチューブトップにミニスカート、ヒールの高いサイハイブーツにマントを羽織り、マスクで顔を隠したその姿はどういうわけか威圧感に満ちあふれていた。
「そう……。そのパステルオレンジとかいうのは、あたいに任せてもらえない?」
「マジェ様自らでございますか?」
 マジェの言葉にブルーエが確認すると、マジェの顔がブルーエに向けられる。すると、なんとブルーエがその睨みだけで吹き飛んだ。
「かはっ!」
「うるさい、口答えするな。お前たちは黙って、その未熟な伝説の戦士を潰してこい」
 マジェはそうとだけ言うと、こつんこつんという靴音だけを響かせて部屋を出ていった。部屋には恐怖と焦りに満ちたモノトーン四天王だけが残されたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...