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第10話 サッカー部
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三日連続でレドとの戦いがあったが、しばらくは平和なものであった。おそらく伝説の戦士が二人になった事で、敵が慎重になったのだろう。これで引いてくれればいいのだが、油断は禁物だ。
部活も再開した事で、今日も千春はサッカーに打ち込んでいる。
「いっけー、千春!」
マネージャーでもないのに美空が部活を見学していた。それというのもチェリーとグローリからの提案である。パステルピンクとパステルシアンという伝説の戦士二人は、敵への対応からなるべく一緒に居た方がいいという判断をしたのである。
ぶっちゃけ千春からしたら迷惑なのだが、幼馴染みに応援されるのは別に悪い気はしなかった。まぁ、迷惑な理由といえばこれだ。
「おう、千春。いいなぁ、幼馴染みから応援してもらえてさ」
「マネージャーに誘えよ、このっこのっ」
部員からやたら絡まれるのである。千春からすれば、美空は家の近所のただの幼馴染みだ、特別な感情なんてものはない。兄妹のようなものだと考えていた。だがしかし、こうも部員からせっつかれてしまうと、否が応にも意識してしまうものである。
(はぁ、うっぜぇ……)
千春はため息を吐きながら部活をこなしていた。
その日の帰り道、千春は横で歩く美空に声を掛けていた。
「なあ、美空」
「なに、千春」
少しの沈黙が流れる。千春は目を一旦美空から外すと、もう一度視線を戻して言う。
「他の部員がしつこかったんだけどさ、美空はサッカー部のマネージャーになる気はないのか?」
千春からこう言われて、目をぱちくりさせる美空。意外と面を食らったような反応をしていた。
「えっ、千春ったら私にマネージャーをして欲しいの?」
「いや、別にそう言ってるわけじゃないんだが、チェリーたちの提案の事を考えるとなぁ……」
「ああ、なるべく一緒に居た方がいいっていう話ね」
口ごもる千春の言葉に、美空はなんとなく言いたい事が分かった。
「確かに、ただ見学してるよりはマネージャーになった方が違和感はないわね」
腕を組んであごに手を当てながら、美空は考え込み始めた。しばらく考えた美空は、
「うん、それもいいかも知れないわね」
と、マネージャーを引き受ける事にしたのだった。
翌日、美空は早速サッカー部に入部届を出していた。マネージャーはすでに一人居たのだが、美空の入部はすぐに了承されたのだった。
放課後、サッカー部の練習へ向かう千春と美空。そこには先輩マネージャーの姿もあった。
「あら、桃川君、その子は?」
マネージャーが声を掛けてきた。
「あの、初めまして。今日からサッカー部のマネージャーをする事になりました、2年の山海といいます。よろしくお願いします」
千春が紹介する前に、美空は自己紹介をする。それを聞いたマネージャーはきょとんとしたが、
「そっか。新しいマネージャーがやっと来たのね。ごめんなさい、ちょっと不機嫌にしてしまって」
そう言いながら笑っていた。
「私は3年の風祭というの。よろしくね、山海さん」
「はい、よろしくお願いします」
美空は大きく頭を下げた。
ちなみにこの風祭というマネージャー。先日レドに襲われて逃げ惑っていた人物である。ただ、その時の記憶は無くなっているようだった。その事が分かった時の千春は、すごく安心した。あんな体験が記憶に残っているようじゃ可哀想だからだ。
無事に挨拶が済んだというわけで、千春たちが練習している間、美空は風祭さんにマネージャーの仕事を教えられていた。ライン引きだったり、練習の小道具の出し入れだったり、練習試合の得点管理だったり、サッカーボールを磨いたり、とにかく仕事は多かった。音を上げるかと思った美空だったが、しっかり最後までついてきていた。単純にすごいと思われる。
「やるわね、山海さん。絶対途中で投げ出すと思ってたのに」
「根性だけなら負けませんよ。えへへ」
褒める風祭さんに、美空は笑顔で返していた。
「ほぉ、そうか」
風祭さんは素直に感心していた。
「あの彼を時々目で追っていたようだが、マネージャーになったのは彼のためかな?」
「えっ?」
風祭さんは、くいくいと千春の方を指差している。
「いやですね、先輩。そんなわけないじゃないですか」
美空は笑ってごまかした。
「ははっ、そうか。でも、頼もしい後輩ができて私は嬉しいかな。私たち3年は秋には引退するから、それまでは一緒に頑張りましょうね」
「はい、風祭先輩」
美空の返事に、風祭さんは満足そうに笑っていた。
サッカー部の練習が終わり、千春と美空は着替えて下校する。
「どうだったよ、美空」
「うん、割と楽しかったよ、千春」
マネージャー初日の感想を聞いたら、笑顔で満足げに返されて困惑する千春。普通に見ててえげつない仕事の量な気がするのだが、それを楽しんでいたのだから驚いたのだ。
「風祭先輩にも褒めてもらえたんだから。私、頑張るわ」
「お、おう。頑張れよ」
意気込む美空に、千春はちょっと引いた。
「確かに忙しなく動いていたけど、ずっと走りっぱなしの千春に比べたら動かないもん。そう思ったらずいぶん楽になったわ」
「そ、そういうもんかな?」
美空の感覚が分からない。そういった表情をする千春だったが、美空は両手を握って鼻息を荒くしていた。
だが、その時だった。
二人の間の微妙な空気を切り裂くように、最近やたらと聞く事になった声が聞こえてきた。
「千春ーっ、美空ーっ! 大変だ、奴らが現れた!」
目の前からチェリーが走ってきたのだ。
「ちっ、ここ数日間おとなしかったのに、もうお出ましかよ」
「仕方ないわね。千春、急ぎましょう」
千春と美空は頷き合うと、それぞれの変身道具を取り出す。
「パステル・カラーチェンジ!」
そう叫んで、パステルピンクとパステルシアンへと変身するのだった。
部活も再開した事で、今日も千春はサッカーに打ち込んでいる。
「いっけー、千春!」
マネージャーでもないのに美空が部活を見学していた。それというのもチェリーとグローリからの提案である。パステルピンクとパステルシアンという伝説の戦士二人は、敵への対応からなるべく一緒に居た方がいいという判断をしたのである。
ぶっちゃけ千春からしたら迷惑なのだが、幼馴染みに応援されるのは別に悪い気はしなかった。まぁ、迷惑な理由といえばこれだ。
「おう、千春。いいなぁ、幼馴染みから応援してもらえてさ」
「マネージャーに誘えよ、このっこのっ」
部員からやたら絡まれるのである。千春からすれば、美空は家の近所のただの幼馴染みだ、特別な感情なんてものはない。兄妹のようなものだと考えていた。だがしかし、こうも部員からせっつかれてしまうと、否が応にも意識してしまうものである。
(はぁ、うっぜぇ……)
千春はため息を吐きながら部活をこなしていた。
その日の帰り道、千春は横で歩く美空に声を掛けていた。
「なあ、美空」
「なに、千春」
少しの沈黙が流れる。千春は目を一旦美空から外すと、もう一度視線を戻して言う。
「他の部員がしつこかったんだけどさ、美空はサッカー部のマネージャーになる気はないのか?」
千春からこう言われて、目をぱちくりさせる美空。意外と面を食らったような反応をしていた。
「えっ、千春ったら私にマネージャーをして欲しいの?」
「いや、別にそう言ってるわけじゃないんだが、チェリーたちの提案の事を考えるとなぁ……」
「ああ、なるべく一緒に居た方がいいっていう話ね」
口ごもる千春の言葉に、美空はなんとなく言いたい事が分かった。
「確かに、ただ見学してるよりはマネージャーになった方が違和感はないわね」
腕を組んであごに手を当てながら、美空は考え込み始めた。しばらく考えた美空は、
「うん、それもいいかも知れないわね」
と、マネージャーを引き受ける事にしたのだった。
翌日、美空は早速サッカー部に入部届を出していた。マネージャーはすでに一人居たのだが、美空の入部はすぐに了承されたのだった。
放課後、サッカー部の練習へ向かう千春と美空。そこには先輩マネージャーの姿もあった。
「あら、桃川君、その子は?」
マネージャーが声を掛けてきた。
「あの、初めまして。今日からサッカー部のマネージャーをする事になりました、2年の山海といいます。よろしくお願いします」
千春が紹介する前に、美空は自己紹介をする。それを聞いたマネージャーはきょとんとしたが、
「そっか。新しいマネージャーがやっと来たのね。ごめんなさい、ちょっと不機嫌にしてしまって」
そう言いながら笑っていた。
「私は3年の風祭というの。よろしくね、山海さん」
「はい、よろしくお願いします」
美空は大きく頭を下げた。
ちなみにこの風祭というマネージャー。先日レドに襲われて逃げ惑っていた人物である。ただ、その時の記憶は無くなっているようだった。その事が分かった時の千春は、すごく安心した。あんな体験が記憶に残っているようじゃ可哀想だからだ。
無事に挨拶が済んだというわけで、千春たちが練習している間、美空は風祭さんにマネージャーの仕事を教えられていた。ライン引きだったり、練習の小道具の出し入れだったり、練習試合の得点管理だったり、サッカーボールを磨いたり、とにかく仕事は多かった。音を上げるかと思った美空だったが、しっかり最後までついてきていた。単純にすごいと思われる。
「やるわね、山海さん。絶対途中で投げ出すと思ってたのに」
「根性だけなら負けませんよ。えへへ」
褒める風祭さんに、美空は笑顔で返していた。
「ほぉ、そうか」
風祭さんは素直に感心していた。
「あの彼を時々目で追っていたようだが、マネージャーになったのは彼のためかな?」
「えっ?」
風祭さんは、くいくいと千春の方を指差している。
「いやですね、先輩。そんなわけないじゃないですか」
美空は笑ってごまかした。
「ははっ、そうか。でも、頼もしい後輩ができて私は嬉しいかな。私たち3年は秋には引退するから、それまでは一緒に頑張りましょうね」
「はい、風祭先輩」
美空の返事に、風祭さんは満足そうに笑っていた。
サッカー部の練習が終わり、千春と美空は着替えて下校する。
「どうだったよ、美空」
「うん、割と楽しかったよ、千春」
マネージャー初日の感想を聞いたら、笑顔で満足げに返されて困惑する千春。普通に見ててえげつない仕事の量な気がするのだが、それを楽しんでいたのだから驚いたのだ。
「風祭先輩にも褒めてもらえたんだから。私、頑張るわ」
「お、おう。頑張れよ」
意気込む美空に、千春はちょっと引いた。
「確かに忙しなく動いていたけど、ずっと走りっぱなしの千春に比べたら動かないもん。そう思ったらずいぶん楽になったわ」
「そ、そういうもんかな?」
美空の感覚が分からない。そういった表情をする千春だったが、美空は両手を握って鼻息を荒くしていた。
だが、その時だった。
二人の間の微妙な空気を切り裂くように、最近やたらと聞く事になった声が聞こえてきた。
「千春ーっ、美空ーっ! 大変だ、奴らが現れた!」
目の前からチェリーが走ってきたのだ。
「ちっ、ここ数日間おとなしかったのに、もうお出ましかよ」
「仕方ないわね。千春、急ぎましょう」
千春と美空は頷き合うと、それぞれの変身道具を取り出す。
「パステル・カラーチェンジ!」
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