マジカル☆パステル

未羊

文字の大きさ
上 下
2 / 197

第2話 パステルピンク、誕生!

しおりを挟む
 徐々に収まっていく光。その中から現れたのは、なんとフリフリでピンク色中心の服をまとった少女だった。
「命目覚める時、春の妖精【パステルピンク】、ここに参上!」
 少女はそう口上を述べると、左手を顔の前で握りしめ、右手を伸ばしてポーズを決める。この姿を見た赤色の男は、何が起きたのか分からないといった感じでその姿を見ていた。
 赤い男の理解が追い付かないのも無理はないだろう。光に包まれる前に居たのは少年だったはず。しかし、いざ光が消えると、そこに現れたのは少女。しかも、変声期を終えた少年の声ではなくハイトーンの少女の声が響き渡っているのだ。これで驚くなという方が無理なのである。
 ただ、ブローチを渡した張本人である小動物だけが、目を輝かせてその姿を眺めていた。
「な、な、なんじゃこりゃーっ!」
 パステルピンクが叫ぶ。ミニスカートにノースリーブのワンピース。ニーハイに踵の高いヒール。ピンクの長い髪が風にたなびき、下を見れば膨らんだ胸部。少年がこの姿を見て驚かないわけがない。
 我に返った千春は、足元の小動物を抱え上げると思い切り睨み付けた。
「おい、これはどういう事だ。説明しろ」
 怒った声も可愛い。千春は自分の声に寒気がした。
「すまないね、パステルピンク。ボクの国に伝わる伝説の戦士は、みんな【純真な少女】なんだ。だから、その姿の事は勘弁してほしい」
「ふ・ざ・け・る・なっ!」
 釈明をする小動物だが、千春が納得するわけがなかった。千春、いや、パステルピンクが体をわなわなと震わせていると、小動物がいきなり大声で叫んだ。
「パステルピンク、危ない!」
 この声に、パステルピンクは小動物が見る方向へと振り向く。すると、さっきまで倒れていたはずの赤色の化け物が襲い掛かってきていた。
「危ねえっ!」
 パステルピンクはその攻撃を軽い身のこなしで避ける。そして、小動物を腕に抱えたまま空中でくるりと回って、化け物に蹴りを食らわせた。
「グ……、ガアッ!!」
 蹴りを食らった化け物は、勢いよく吹き飛んでいく。この状況に、このまま小動物を問い質している場合じゃないとようやく理解したパステルピンクは、覚悟を決めて小動物に声を掛ける。
「ちくしょう、この姿の事は今はいい。どうやったらあれを倒せるんだ? 教えてくれっ!」
 パステルピンクの真剣な表情を見て、小動物はその方法を教える。
「君の手に神経を集中させて、【パステルブラシ】と叫べばいい。後の事はそのブラシが教えてくれるから!」
 小動物の言葉を聞いたパステルピンクは、黙って頷いた。言われた通りに手に神経を集中させる。
「パステルブラシ!」
 こう叫ぶと、パステルピンクの手に光が集まり、それがピンク色のブラシへと変化した。そして、それを手に取ると、不思議な事に頭の中に言葉が浮かんできた。
「モノ、トーンッ!」
 赤い化け物が再び起き上がり、諦めずにパステルピンクたちに襲い掛かる。だが、パステルピンクは落ち着いてブラシを構え、頭に浮かんだ言葉を叫ぶ。
「輝け、ぬくもりの色よ! 舞え、春風に乗せて! スプリング・カラフル・ストーム!!」
 すると、呪文に合わせて舞うパステルピンクの持つブラシの先から、虹のような帯が飛び出していく。虹の帯は化け物の体を包んでいき、どんどんと球体へとまとまっていく。そして、化け物の抵抗虚しく、完全な球体となった虹の帯は、膨らんで弾け飛んだ。
「勝った……のか?」
 呆然とするパステルピンクの目の前に、虹の帯から解放されたサッカーボールがぽてんと地面へと落ちて転がった。それと同時に、赤く染まっていた部員たちも元の姿へと戻っていき、あちこちにできた破壊の後も消え去っていった。
 肩で大きく息をしてようやく安堵するパステルピンク。だが、それを打ち破るかのように大きな声が響き渡った。
「くそっ! パステル王国の死にぞこないが!」
 そこに居たのはあの真っ赤な男だった。
「今日のところは見逃してやろう。だが、次に会った時はそこのガキともどもぶっ殺して、すべてを真っ赤に染め上げてやる。覚えておけっ!」
 男はそう叫ぶと、かき消すようにその場から姿を消したのだった。
 千春は安心したのだが、部員たちが目を覚ましそうだったので、小動物を抱えて慌ててその場を走り去った。そして、人気の無い所で小動物を問い詰めて変身を解くと、そのまま家へと帰っていった。

 家に戻った千春は、ようやく自室で落ち着く事ができた。しかし、すぐさま連れ帰った小動物に詰め寄る。
「おい、いろいろ説明してほしいんだが?」
 聞きたい事があり過ぎて、とにかく千春は怖い顔で小動物に迫る。
「お、落ち着いてほしいな。そんなに凄まれたら、説明したくてもできないから」
「ちっ、しょうがねーな」
 千春は近付けた顔を引く。
「一つ一つ説明していくね」
 小動物は説明を始めた。
 小動物は【パステル王国】という異世界の生き物だという。そのパステル王国が、さっき千春たちに襲い掛かった赤い男たち、【モノトーン】と名乗る集団によって滅ぼされてしまった。そのモノトーンは、すべての次元の征服を目論む悪い奴らで、次はこの地球を狙っているらしいのだ。
 小動物はなんとか先回りをしたものの、パステル王国とは勝手の違う世界に、世界を救う伝説の戦士が見つけられずに途方に暮れていたという事なのだそうだ。
「ふーん。なんでパステル王国では見つけられなかったんだ?」
「奴らはボクたちの国の伝説を知っていて、用意周到に計画していたようなんだ。だから、伝説の戦士を出現させる前にあっという間に制圧させれしまったんだよ」
「なるほどな……」
「この世界じゃ、ボクたちの姿を見る事ができる者が居なくて、本当に困ってたんだ。少年とはいえ、ボクが見える人物を見つけられて、……本当に、嬉しかったよ」
 相当に苦労してきたのだろう。小動物はぽつりぽつりと涙をこぼし始めた。さすがにこれには、千春も心動かされたようである。
「はぁ……、正直面倒事は嫌いなんだが、そこまでつらそうにしてる奴を見捨てられないな」
 千春は、諦めたようにため息を吐く。
「それにだ。この世界をめちゃくちゃにするっていうんなら、そいつは放っておけない。いいだろう、手伝ってやる」
「本当にいいのかい? 本当に、すまない」
 小動物はぽてぽてと千春に歩いて近付くと、深く頭を下げる。
「それにだ。今日の事で俺もそのモノトーンとかいう奴らに目を付けられたみたいだしな。黙ってやられるつもりはないさ」
「ありがとう。ボクはパステル王国の神獣の一体【春風のチェリー】。よろしくお願いするよ」
「俺は【桃川千春】っていうんだ。チェリー、よろしくな」
 こうして、モノトーンとの戦いに巻き込まれる事になった千春。はたして、モノトーンを打倒して、平和を取り戻す事ができるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...