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第173話 トンネルを抜けた先
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バレンタインも過ぎた日のこと、軽部副部長、いやもう部活の職を引き継いだのでただの軽部瞬の元に、連絡が入った。
「はい、ジャンです」
通話に応える軽部。ジャンという本名を名乗っているので、日本に来てからの知り合いというわけではなさそうだった。
軽部はしばらく電話の相手を話のやり取りをしている。それを聞き終えた軽部は、通話を切って大きくため息を吐いていた。
「そうか。こちらに来た理由は、ついに無くなってしまったのか……」
いつもならゲームのために持ちっぱなしになっているスマホを放り出して、放心したように天井を見上げる軽部。
しかし、すぐに頭を振って気を奮い立たせていた。
「とりあえず、お嬢様と兄貴には伝えないといけないな」
再びスマホを手に取ると、軽部は部屋を出て行った。
「あら、瞬。どうしたのですか、そんな顔をして」
今では調部長改め鳥子が詩音を相手にくつろいでいた。とはいっても、日本の勉強についていけない詩音の勉強を見ている真っ最中である。
「兄貴も居るな、ちょっといいだろうか」
「どうした、ジャン」
ちょうど夕食の準備をしているカルディが反応している。それにしても、スーツ姿にエプロンとは……。なんとも違和感のある姿である。しかし、鳥子たちにとっては見慣れた光景であるがために、もう誰もツッコミはしなかった。
「もう少しで食事ができる。とりあえずそれまでは待ってもらおう」
「分かったよ、兄貴」
カルディが手を離せそうにない様子を確認した軽部は、仕方ない夕食の支度ができるまで待つ事にしたのだった。
そして、夕食の用意ができて食卓を囲む鳥子たち。
去年からそこに加わった詩音も、カルディの作る食事にはとても満足しているらしく、わくわくとした表情で料理を眺めている。
「カルディさんの料理、私、好き」
まだだいぶたどたどしさの残る日本語ではあるものの、精一杯の気持ちを話す詩音である。
そんな和やかな食事が始まると、鳥子が軽部に話し掛けていた。
「瞬、先程何か言いかけていましたよね。どんな話なのですか?」
ところが、軽部はすぐには反応しないで黙々と食べている。そして、口の中を空っぽにしてからようやく反応していた。
「正人からの連絡。どうやらレオンと逃げていた男をようやく捕まえたらしい」
「そうですか。というか、校長先生ですし、年上の方を呼び捨てにするのはよしなさい」
話に頷きながらも、しっかりとツッコミを入れておく鳥子である。そのツッコミに、軽部は実に嫌そうな顔をしている。まったく、相変わらずどこかいい加減な男なのである。
「レオンと一緒に居たという事は、いずれこっちに移されて取り調べでしょうね」
「ですね。その男が全部話せば、いよいよ私たちがこっちにやって来た案件はすべて解決というわけですね」
「鳥子もそう思うか」
軽部が同意を求めてきたので、鳥子は黙って頷いておく。
レオンの腰巾着が捕まったのであれば、レオン絡みの話は間違いなく終わりを迎えるだろうから。これで鳥子たちもひと安心というものである。
「必要であれば俺たちも出向きましょうかね」
「警察からの要請でもない限りはやめておきましょう。それと、そもそもカルディは私の護衛でしょう?」
「そうでございます。失礼致しました」
カルディがつい口に出した言葉を、鳥子が窘める。するとカルディは素直に謝罪していた。
「それに、私と軽部は来月に高校受験を控えております。余計な心配をしなくていいというのは非常に助かりますよ」
くすりと笑いながらカルディの手料理を食べる鳥子。さすがに3年間も作っていたとなれば、カルディの料理の腕前も大したものなのだ。
「まったくだな。余計な事に時間を取られないのはいい事だ」
「瞬、あなたはいつもゲームばかりでしょうが」
食事中はゲームを控えているとはいえ、それ以外はゲームばかりをしている軽部。それをよく知る鳥子は苦言を呈していた。
「日本のゲームはクオリティがいいからな。いつまで遊んでも飽きないんだよ」
軽部はすっかりゲーム中毒のようである。
「まったく、我が弟ながら情けない限りですよ」
「本当ですね」
鳥子もカルディも、軽部のゲーム中毒には頭が痛い限りだった。
「ところでカルディ」
「はい、何でしょうか、鳥子様」
気を取り直した鳥子がカルディに話し掛ける。
「これからは私ではなく詩音の護衛を頼みます。私たちも高校生になりますから、いい加減に自衛もできないといけません。それに、今までと違って高校と中学の2か所を見なければいけなくなりますから、それではカルディがもたないでしょう?」
鳥子にそう言われて、カルディは考え込んだ。
確かにその通りなのである。
「承知致しました。ジャン、これからはお前が鳥子様をお守りするのだ、いいな?」
考え抜いた末、カルディは鳥子の命令を受け入れる。そして、軽部に鳥子を任せる事にしたのだった。
「分かったよ、兄貴」
しょうがないなという表情で、軽部は渋々引き受けたのだった。
決意をもって日本へやって来たメロディ・バーディアたち。ようやくその決意の終着点に到達しようとしていたのだった。
「はい、ジャンです」
通話に応える軽部。ジャンという本名を名乗っているので、日本に来てからの知り合いというわけではなさそうだった。
軽部はしばらく電話の相手を話のやり取りをしている。それを聞き終えた軽部は、通話を切って大きくため息を吐いていた。
「そうか。こちらに来た理由は、ついに無くなってしまったのか……」
いつもならゲームのために持ちっぱなしになっているスマホを放り出して、放心したように天井を見上げる軽部。
しかし、すぐに頭を振って気を奮い立たせていた。
「とりあえず、お嬢様と兄貴には伝えないといけないな」
再びスマホを手に取ると、軽部は部屋を出て行った。
「あら、瞬。どうしたのですか、そんな顔をして」
今では調部長改め鳥子が詩音を相手にくつろいでいた。とはいっても、日本の勉強についていけない詩音の勉強を見ている真っ最中である。
「兄貴も居るな、ちょっといいだろうか」
「どうした、ジャン」
ちょうど夕食の準備をしているカルディが反応している。それにしても、スーツ姿にエプロンとは……。なんとも違和感のある姿である。しかし、鳥子たちにとっては見慣れた光景であるがために、もう誰もツッコミはしなかった。
「もう少しで食事ができる。とりあえずそれまでは待ってもらおう」
「分かったよ、兄貴」
カルディが手を離せそうにない様子を確認した軽部は、仕方ない夕食の支度ができるまで待つ事にしたのだった。
そして、夕食の用意ができて食卓を囲む鳥子たち。
去年からそこに加わった詩音も、カルディの作る食事にはとても満足しているらしく、わくわくとした表情で料理を眺めている。
「カルディさんの料理、私、好き」
まだだいぶたどたどしさの残る日本語ではあるものの、精一杯の気持ちを話す詩音である。
そんな和やかな食事が始まると、鳥子が軽部に話し掛けていた。
「瞬、先程何か言いかけていましたよね。どんな話なのですか?」
ところが、軽部はすぐには反応しないで黙々と食べている。そして、口の中を空っぽにしてからようやく反応していた。
「正人からの連絡。どうやらレオンと逃げていた男をようやく捕まえたらしい」
「そうですか。というか、校長先生ですし、年上の方を呼び捨てにするのはよしなさい」
話に頷きながらも、しっかりとツッコミを入れておく鳥子である。そのツッコミに、軽部は実に嫌そうな顔をしている。まったく、相変わらずどこかいい加減な男なのである。
「レオンと一緒に居たという事は、いずれこっちに移されて取り調べでしょうね」
「ですね。その男が全部話せば、いよいよ私たちがこっちにやって来た案件はすべて解決というわけですね」
「鳥子もそう思うか」
軽部が同意を求めてきたので、鳥子は黙って頷いておく。
レオンの腰巾着が捕まったのであれば、レオン絡みの話は間違いなく終わりを迎えるだろうから。これで鳥子たちもひと安心というものである。
「必要であれば俺たちも出向きましょうかね」
「警察からの要請でもない限りはやめておきましょう。それと、そもそもカルディは私の護衛でしょう?」
「そうでございます。失礼致しました」
カルディがつい口に出した言葉を、鳥子が窘める。するとカルディは素直に謝罪していた。
「それに、私と軽部は来月に高校受験を控えております。余計な心配をしなくていいというのは非常に助かりますよ」
くすりと笑いながらカルディの手料理を食べる鳥子。さすがに3年間も作っていたとなれば、カルディの料理の腕前も大したものなのだ。
「まったくだな。余計な事に時間を取られないのはいい事だ」
「瞬、あなたはいつもゲームばかりでしょうが」
食事中はゲームを控えているとはいえ、それ以外はゲームばかりをしている軽部。それをよく知る鳥子は苦言を呈していた。
「日本のゲームはクオリティがいいからな。いつまで遊んでも飽きないんだよ」
軽部はすっかりゲーム中毒のようである。
「まったく、我が弟ながら情けない限りですよ」
「本当ですね」
鳥子もカルディも、軽部のゲーム中毒には頭が痛い限りだった。
「ところでカルディ」
「はい、何でしょうか、鳥子様」
気を取り直した鳥子がカルディに話し掛ける。
「これからは私ではなく詩音の護衛を頼みます。私たちも高校生になりますから、いい加減に自衛もできないといけません。それに、今までと違って高校と中学の2か所を見なければいけなくなりますから、それではカルディがもたないでしょう?」
鳥子にそう言われて、カルディは考え込んだ。
確かにその通りなのである。
「承知致しました。ジャン、これからはお前が鳥子様をお守りするのだ、いいな?」
考え抜いた末、カルディは鳥子の命令を受け入れる。そして、軽部に鳥子を任せる事にしたのだった。
「分かったよ、兄貴」
しょうがないなという表情で、軽部は渋々引き受けたのだった。
決意をもって日本へやって来たメロディ・バーディアたち。ようやくその決意の終着点に到達しようとしていたのだった。
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