ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第172話 ロマンチスト

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 気が付けばもうバレンタイン。
 調部長たち3年生が学校にやって来るのも、もう半月となってしまった。3年生は3月に入れば受験勉強の追い込みだし、学校に来るのは卒業式だけになる。本当に月日が経つというのは早いものだった。
 ちなみに栞たちは新聞部と友人たちと一緒に友チョコの交換をしていた。栞が学生だった頃にはなかった習慣だし、チョコなんて持ってこようものなら没収されていた。その事もあってか、栞はとても満足そうに笑っていたらしい。

 そんなこんなの昼休み、調査員の仕事から解放されて教師の仕事に打ち込んでいた千夏に、飛田先生が声を掛けていた。
「南先生、今日はお暇ですか?」
「はい、今日でしたら大丈夫ですよ」
 質問に素直に答える千夏である。その答えを聞いて安心する飛田先生。
「よかった。それでしたら、今日の放課後は私にお付き合い願えますかね」
 飛田先生からのお願いに、少しだけ考える千夏。
「特に問題なさそうですから、お付き合い致しましょう」
 予定とかも何も思い当たらなかったので、千夏はそれをにこやかに了承している。その返事を聞いて、飛田先生はほっとしていたようだった。
 その後、放課後になるまでの間、千夏はにやにやしながら授業をしていて、学生たちからはドン引きされていたのだった。

 放課後になると、ひとまずは家へと帰る千夏と飛田先生。
 家に戻った千夏は、せっかくのデートだと、かなり気合の入った服装に着替えていた。
 そして、午後6時になると、家まで飛田先生がやって来たのである。
「お待たせしました、南先生」
「お待ちしていました、飛田先生」
 お互いに挨拶をするのだが、呼び方がお互いに硬い。だけど、その間に漂う雰囲気はなかなかに穏やかなものだった。
 草利中学校の中に巣食う謎を解く上での付き合いだったとはいえ、今ではすっかり親密になっている二人だ。お互いの呼び方は堅苦しいとはいえ、その雰囲気はすっかり恋人同士なのである。
 ちなみにだが、二人はお互いの家を知っている。なので、今回はこうやって飛田先生が家まで迎えに来たのであった。
 それにしても、ずいぶんと緊張しているのか、お互いにまったく喋らない。
「それでは参りましょうか」
「……はい」
 ようやく口を開いたかと思えばこれである。とりあえずは無事に家を出て車に乗り込む二人である。
「はあ、千夏がいい男を連れてきましたねぇ」
「しかし、なんだ。見ているこっちが恥ずかしくなるな」
「まったくですねぇ……」
 そのやり取りを見ていた千夏の両親にはこんな風に言われる始末だった。
 あまりの初々しさに戸惑う両親だったが、娘に恋人ができた事には素直に嬉しがっているようだった。
「それで、連日台所に入り浸っていたんですね」
「はははっ、好きな男のために手料理をか。娘も大きくなったものだな」
 両親は感動のあまり、久しぶりにお酒を酌み交わすのだった。

 家で両親が盛り上がっているとも知らず、千夏は飛田先生と一緒に街中のレストランを訪れていた。駅ビルにあるちょっとお高いレストランである。教師の給料で来られるかどうか分からないような場所だったがゆえに、千夏は驚きを隠せなかった。しかし、ちょっと気合いを入れた服を選んだのは、逆に正解だったようである。
「何名様でしょうか」
「二名です」
「ご案内致します」
 バレンタインデーだというのに、待つ事なくすんなりと案内される二人。すると、ちょうど窓際の席が空いていたらしく、そこへと案内される。窓からは浦見市内の景色がよく見える。キラキラと光る街の明かりと、遠くに見える海の闇とがいい対比になっている。
 緊張しているのか、お互いにメニュー表を手に取って黙々と注文を選んでいる。
 これまで異性との付き合いが少なかったせいか、いざという時にどういう話をしたらいいのか分からないのである。
 結局これといった話をする事なく、とりあえずは料理の注文を終える二人だった。
 料理が運ばれてきてからも黙々と食事をする二人。そして、その料理を食べ終わって食器もすっかり下げられた時の事だった。
「南先生」
 ようやく飛田先生が口を開いた。
「何でしょうか、飛田先生」
 少し動揺しているようだが、淡々と返す千夏。だが、その時の飛田先生の表情に、思わず驚いてしまっていた。
「守るといった割には何もしないまま、事件が解決してしまって、正直失望させてしまったかもしれませんね」
「いえ、そんな事はありませんよ。とても心強いと感じました」
 申し訳なさそうに話す飛田先生に、千夏は微笑みながら言葉を返す。
「そう言って頂けるとは、嬉しい限りですね」
 飛田先生が笑みをこぼす。
「お詫びといっては何ですが、その言葉の期限を延ばそうと思いましてね」
 ごそごそと何かを取り出す飛田先生。そこで出てきたものに、千夏は思わず口を両手で押さえてしまう。
 目の前に出てきたのはよく見る小箱だった。ふたが開くと、そこには予想通りのものがあったのだ。
「南先生、私と結婚して下さいませんか」
 これには千夏もすっかり言葉が出てこなかった。
 千夏は嬉しくて泣きそうになりながら、どうにか言葉を絞り出す。
「はい、よろしくお願いします」
 調査の協力者から、結婚を誓い合った仲になった瞬間だった。
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