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第171話 依頼の経過
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さらに時が経っていく。
もう2月も目の前という頃、登校してきたわっけーのところに真彩が近付いていく。
「おはよう、わっけー」
「おはようなのだ、まぁ。その顔はなんなのだ?」
どこかそわそわとした感じの真彩に違和感を感じるわっけー。声を掛けられてぴたりと動きを止めた真彩は、わっけーの至近距離まで近付く。
「お父さんからの伝言。『放課後、浦見市警察署まで来てくれ』だそうよ」
その話を聞いて、わっけーは忙しく瞬きをしていた。さすがのわっけーでも、ちょっとよく分からなかったらしい。
「確かに伝えたから、必ずお願いね」
「う、ああ、分かったのだ」
とことこと離れていく真彩に、戸惑いながらも返事をするわっけーだった。
放課後になると、わっけーは一度家に戻ってから警察署に向かう。
以前にも学校を休んでまでやってきた事のある場所だ。
だが、今回はその時とは違う。自分の意思ではなく、呼ばれたから来たとあってどことなく落ち着かないわっけーなのだ。
警察署の建物に入り、受付に話し掛けるわっけー。
「脇田恵子です。来るように言われたのですが、ご用件は何でしょうか」
わっけーが珍しく丁寧語で普通に喋っている。しかし、わっけーの普段を知らない受付は、普通に対応をしていた。
「ちょっとお待ち下さいね」
そう言いながら、カタカタとパソコンを操作する受付。
しばらくすると、ぴたりと手が止まる。
「はい、面会予定が入っていますね。ちょっとお呼びしますのでしばらくお待ち下さい」
そう言うと、今度は受話器を手に取って電話をする。その間、わっけーはずっと立ちっぱなしである。
その目の前で受付は誰かと電話をしている。わっけーはつま先をタンタンと叩いて待ち続けていた。
「お待たせしました。もう間もなく参られると思いますので、そこの椅子にお掛けになって待って下さい」
「分かりました」
わっけーはおとなしく椅子に座って待つ事にした。
しばらく待っていると、見た事のある男性が走ってくる姿が見えた。
「すまない、よく来てくれたな」
「まぁパパ、待たされたのだ」
「すまない。いろいろと情報が回ってくるから、その対処に追われていたんだ。さっ、部下を待たせてあるからさっさと行こうじゃないか」
「分かったのだ」
わっけーは水崎警部と一緒に目的の場所へと移動していく。
「それにしても、一度家に帰ったんだな」
「教科書とかが重いのだ。それに、こういう時はこっちの方がいいと思ったからな」
水崎警部が確認するように聞くと、わっけーは答えながら自分の背中に視線を送った。よく見るとわっけーの背中には鞄が背負われている。
「なるほど、ノートパソコンか。機械に強いとは聞かされていたが、本当なんだな」
「浦見市の事件の類は、あたし独自でも調査をしていたからな。ここにもいろいろデータがあるのだ」
「それは頼もしいが、あまり危険な事はして欲しくないな。いくつか法律法令違反がありそうだ」
「わっはっはっはっ」
水崎警部が苦笑いをすると、わっけーは笑ってごまかしていた。この分では間違いなくやらかしていそうである。
「まあ、きっかけはおじさんなのだ。おじさんがおかしくならなければ、こういう事はしなかったのだ」
ごまかし笑いから一転、しゅんと俯き加減になるわっけー。そのわっけーの頭に水崎警部が手を置く。
「今日はそのおじさんの話で来てもらったんだ。それじゃ、部屋に入ろうか」
「うん」
わっけーと水崎警部は会議室に入っていく。そこには部下である警察官が数人待ち構えていた。わっけーに配慮してか女性の警察官も居る。
「それじゃ、ここに座ってくれ」
水崎警部が勧めてきたのは、水崎警部と女性警察官の間だった。わっけーはそこにおとなしく座る。
「恵子くんは何から聞きたい?」
「おじさんに関係している事件のすべて」
気を遣って質問をした水崎警部だが、わっけーから返ってきたのはそんな答えだった。
「そうか。……分かった」
そもそもこの話はわっけーからの依頼を受けて調べてきた事件だ。気を遣うような言葉は愚行だったのかもしれない。それにしても、普段の様子からすれば想像もできないような覚悟の決まり方だ。そのくらいには、わっけーの中ではおじさんの存在が大きかったのだろう。
プロジェクターを使いながら事件の調査の結果を話す水崎警部たち。わっけーはそれをただじっと見聞きしていた。自分が好きなおじさんの話ゆえ取り乱すものと思われたが、わっけーは終始落ち着いていた。わっけーの覚悟は相当に決まっていたのである。自分の娘と同い年の親友のその姿に、水崎警部は胸を打たれてしまった。
「おじさんの事は残念だけど、はっきりして安心したのだ」
「そうだな。犯人はまだ追跡中なので完全に解決したわけではないがな。今は犯人検挙に向けて全力を尽くさせてもらう」
「頼むのだ」
話も終わり、わっけーは警察署を後にする。
片付けをする警察官は、水崎警部に質問をしていた。
「今日来ていたあの子、一体何者なんですか?」
「娘の親友だよ。ちょっと変わり者だが、頼もしいタイプのな」
水崎警部の言葉の意味がよく分からないと首を捻る警察官。
「本当に、あの子が居たからこの事件は解決に向かっているようなものだよ」
それに対して水崎警部は、穏やかな笑みを浮かべるのだった。
もう2月も目の前という頃、登校してきたわっけーのところに真彩が近付いていく。
「おはよう、わっけー」
「おはようなのだ、まぁ。その顔はなんなのだ?」
どこかそわそわとした感じの真彩に違和感を感じるわっけー。声を掛けられてぴたりと動きを止めた真彩は、わっけーの至近距離まで近付く。
「お父さんからの伝言。『放課後、浦見市警察署まで来てくれ』だそうよ」
その話を聞いて、わっけーは忙しく瞬きをしていた。さすがのわっけーでも、ちょっとよく分からなかったらしい。
「確かに伝えたから、必ずお願いね」
「う、ああ、分かったのだ」
とことこと離れていく真彩に、戸惑いながらも返事をするわっけーだった。
放課後になると、わっけーは一度家に戻ってから警察署に向かう。
以前にも学校を休んでまでやってきた事のある場所だ。
だが、今回はその時とは違う。自分の意思ではなく、呼ばれたから来たとあってどことなく落ち着かないわっけーなのだ。
警察署の建物に入り、受付に話し掛けるわっけー。
「脇田恵子です。来るように言われたのですが、ご用件は何でしょうか」
わっけーが珍しく丁寧語で普通に喋っている。しかし、わっけーの普段を知らない受付は、普通に対応をしていた。
「ちょっとお待ち下さいね」
そう言いながら、カタカタとパソコンを操作する受付。
しばらくすると、ぴたりと手が止まる。
「はい、面会予定が入っていますね。ちょっとお呼びしますのでしばらくお待ち下さい」
そう言うと、今度は受話器を手に取って電話をする。その間、わっけーはずっと立ちっぱなしである。
その目の前で受付は誰かと電話をしている。わっけーはつま先をタンタンと叩いて待ち続けていた。
「お待たせしました。もう間もなく参られると思いますので、そこの椅子にお掛けになって待って下さい」
「分かりました」
わっけーはおとなしく椅子に座って待つ事にした。
しばらく待っていると、見た事のある男性が走ってくる姿が見えた。
「すまない、よく来てくれたな」
「まぁパパ、待たされたのだ」
「すまない。いろいろと情報が回ってくるから、その対処に追われていたんだ。さっ、部下を待たせてあるからさっさと行こうじゃないか」
「分かったのだ」
わっけーは水崎警部と一緒に目的の場所へと移動していく。
「それにしても、一度家に帰ったんだな」
「教科書とかが重いのだ。それに、こういう時はこっちの方がいいと思ったからな」
水崎警部が確認するように聞くと、わっけーは答えながら自分の背中に視線を送った。よく見るとわっけーの背中には鞄が背負われている。
「なるほど、ノートパソコンか。機械に強いとは聞かされていたが、本当なんだな」
「浦見市の事件の類は、あたし独自でも調査をしていたからな。ここにもいろいろデータがあるのだ」
「それは頼もしいが、あまり危険な事はして欲しくないな。いくつか法律法令違反がありそうだ」
「わっはっはっはっ」
水崎警部が苦笑いをすると、わっけーは笑ってごまかしていた。この分では間違いなくやらかしていそうである。
「まあ、きっかけはおじさんなのだ。おじさんがおかしくならなければ、こういう事はしなかったのだ」
ごまかし笑いから一転、しゅんと俯き加減になるわっけー。そのわっけーの頭に水崎警部が手を置く。
「今日はそのおじさんの話で来てもらったんだ。それじゃ、部屋に入ろうか」
「うん」
わっけーと水崎警部は会議室に入っていく。そこには部下である警察官が数人待ち構えていた。わっけーに配慮してか女性の警察官も居る。
「それじゃ、ここに座ってくれ」
水崎警部が勧めてきたのは、水崎警部と女性警察官の間だった。わっけーはそこにおとなしく座る。
「恵子くんは何から聞きたい?」
「おじさんに関係している事件のすべて」
気を遣って質問をした水崎警部だが、わっけーから返ってきたのはそんな答えだった。
「そうか。……分かった」
そもそもこの話はわっけーからの依頼を受けて調べてきた事件だ。気を遣うような言葉は愚行だったのかもしれない。それにしても、普段の様子からすれば想像もできないような覚悟の決まり方だ。そのくらいには、わっけーの中ではおじさんの存在が大きかったのだろう。
プロジェクターを使いながら事件の調査の結果を話す水崎警部たち。わっけーはそれをただじっと見聞きしていた。自分が好きなおじさんの話ゆえ取り乱すものと思われたが、わっけーは終始落ち着いていた。わっけーの覚悟は相当に決まっていたのである。自分の娘と同い年の親友のその姿に、水崎警部は胸を打たれてしまった。
「おじさんの事は残念だけど、はっきりして安心したのだ」
「そうだな。犯人はまだ追跡中なので完全に解決したわけではないがな。今は犯人検挙に向けて全力を尽くさせてもらう」
「頼むのだ」
話も終わり、わっけーは警察署を後にする。
片付けをする警察官は、水崎警部に質問をしていた。
「今日来ていたあの子、一体何者なんですか?」
「娘の親友だよ。ちょっと変わり者だが、頼もしいタイプのな」
水崎警部の言葉の意味がよく分からないと首を捻る警察官。
「本当に、あの子が居たからこの事件は解決に向かっているようなものだよ」
それに対して水崎警部は、穏やかな笑みを浮かべるのだった。
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