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第166話 年末を前に
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レオンの1件が片付いてからというものの、捜査は相変わらず難航を続けていた。
けがから回復した校長先生の弟である義人も加わって行われたのだが、レオンの部下だった人物の行方はつかめずにいた。
警察や校長先生たちは捜査のために大忙しではあるものの、時というのはただ淡々と過ぎていってしまう。
気が付けば期末試験も終わり、もう終業式を間近に控えた時期となっていた。
期末試験では相変わらずわっけーが騒ぎ、恒例の栞との対決が行われた。結果は言わずもがな、年の功で栞の勝ちだった。それをわっけーが本気で悔しがり、みんなで笑うといういつもの光景が繰り広げられた。
しかしだ。その光景が見られるのもあと2回だ。そう思うと、ふと栞の中にはちょっとばかりの寂しさが湧き上がっていた。
その日の昼休みには、いつも通り新聞部に顔を出す栞。
「あら、高石さん、おはようございます」
「おはようございます」
調部長がいつもの笑顔で出迎えてくれた。
「お互いもう少しで顔を合わせる事が減りますね」
パソコンから目を外して、栞の方を見ながら話をする調部長。
そういえばそうである。
調部長は今年度で卒業してしまい、高校に進学してしまうのだ。一方の栞の方はただの市の職員に戻るので、よっぽどでなければ接点が無くなってしまう。
「うふふ、そんな顔をしないで下さい。高校に通うとはいっても同じ市内なんですから、都合をつければいつでもお会いできますよ」
そう言いながら笑顔を向けてくる調部長である。本当に中学三年生とは思えないくらい大人びた印象を受ける女性である。
ちなみにだが、その調部長の後方では、軽部副部長がいつものようにスマホをいじり倒していた。本当にまったくいつもと変わりのない二人である。
「軽部副部長は相変わらずですね」
栞が伸びをしながら奥の方を見る。調部長がつられてそちらを向くと、軽部副部長は一瞬視線を向けたものの、再びスマホに視線を落としていた。相変わらずぶれない男だ。
「軽部副部長、それで高校受験は大丈夫なんでしょうかね……」
つい心配になってしまう栞。すると、調部長が笑っていた。
「これでも勉強はできる方ですから、問題ありませんよ。やる気の問題なんです」
それはもう、表情が歪むくらい笑いながら話していた。あの冷静な調部長がここまで笑うのだから、相当なタイプなのだろう。軽部副部長はそれにも動じず、淡々とスマホとにらめっこを続けている。
「そういえば、進学予定の高校は決まっているのですか?」
「ええ、決まっていますよ。浦見高校、……順当に同じ市内の公立高校への進学です」
「ああ、私も通ったところだわ」
「あら、そうなのですね。てっきり向こう側の高校だと思っていましたけれど」
栞の答えが意外だったのか、驚いたように反応している。
「父親がうるさかったですからね。私の家はアスリート一家でしたから、目の届く範囲でスポーツの強い高校をという事で浦見高校になったんですよ。うちから近いところは文科系でしたからね」
「なるほどです」
栞の言い分に納得のいく調部長だった。
「それにしても、調部長は何を見ていらしたんですか?」
話をしながら、栞はふと調部長の目の前のモニターが気になった。
「ああ、これですか?」
調部長がモニターに視線を戻す。
「もうそろそろクリスマスではないですか。一週間前なので予約タイミングとしては遅いのですが、どこか会場を借りられないかと思いましてね」
「えっ、クリスマスパーティーでもされるのですか?」
驚く栞である。
「そうですよ。レオンの1件が片付きましたので、せっかくですから張り切って豪華な事をしてみたいのです。進学先の選定でちょっとごたつきましたから、こんな時期になってしまったのですけれどね」
話す調部長の顔が苦笑いになっていたので、おそらくは祖国の両親との話で揉めたのだと思われる。
「お金は私のお小遣いとカルディの給金からどうにかしますので、高石さんたちは気にしなくても大丈夫です。これでもバーディア一家ですからね」
調部長から思わぬ言葉が出てきて、つい笑ってしまう栞である。
「ここでそれを強調されますか?」
栞が笑いながら片目を開けて言うと、
「こういう時くらいにしか使えませんからね」
調部長からは笑いとともにそんな答えが返ってきた。ギャングの娘とはいっても、年相応に茶目っ気のある少女なのである。
「さて、これで予約が終わりました。大人はカルディが居ますので助かりますね」
背もたれにもたれ掛かりながら、体を伸ばす調部長。顔はやり切った感が出ている。
「服装は普段の格好でも大丈夫なのですかね」
「大丈夫ですよ。心配なら、会場で衣装が借りられますよ」
「さすが調部長……。抜け目がありませんね」
「うふふふ。バーディア一家の娘ですからね」
栞が感心していると、可愛らしくウィンクをする調部長である。
「そんなわけですので、25日は日中は空けておいて下さいね。真彩さんたちにもお声掛けをお忘れなく」
「分かりました。伝えておきます」
そんなこんなで、調部長……もといメロディ・バーディア名義でクリスマスパーティーを行う事になったのだった。
昼休みを終えて教室に戻る栞の顔には、実に楽しそうな笑みがあふれていたのだった。
けがから回復した校長先生の弟である義人も加わって行われたのだが、レオンの部下だった人物の行方はつかめずにいた。
警察や校長先生たちは捜査のために大忙しではあるものの、時というのはただ淡々と過ぎていってしまう。
気が付けば期末試験も終わり、もう終業式を間近に控えた時期となっていた。
期末試験では相変わらずわっけーが騒ぎ、恒例の栞との対決が行われた。結果は言わずもがな、年の功で栞の勝ちだった。それをわっけーが本気で悔しがり、みんなで笑うといういつもの光景が繰り広げられた。
しかしだ。その光景が見られるのもあと2回だ。そう思うと、ふと栞の中にはちょっとばかりの寂しさが湧き上がっていた。
その日の昼休みには、いつも通り新聞部に顔を出す栞。
「あら、高石さん、おはようございます」
「おはようございます」
調部長がいつもの笑顔で出迎えてくれた。
「お互いもう少しで顔を合わせる事が減りますね」
パソコンから目を外して、栞の方を見ながら話をする調部長。
そういえばそうである。
調部長は今年度で卒業してしまい、高校に進学してしまうのだ。一方の栞の方はただの市の職員に戻るので、よっぽどでなければ接点が無くなってしまう。
「うふふ、そんな顔をしないで下さい。高校に通うとはいっても同じ市内なんですから、都合をつければいつでもお会いできますよ」
そう言いながら笑顔を向けてくる調部長である。本当に中学三年生とは思えないくらい大人びた印象を受ける女性である。
ちなみにだが、その調部長の後方では、軽部副部長がいつものようにスマホをいじり倒していた。本当にまったくいつもと変わりのない二人である。
「軽部副部長は相変わらずですね」
栞が伸びをしながら奥の方を見る。調部長がつられてそちらを向くと、軽部副部長は一瞬視線を向けたものの、再びスマホに視線を落としていた。相変わらずぶれない男だ。
「軽部副部長、それで高校受験は大丈夫なんでしょうかね……」
つい心配になってしまう栞。すると、調部長が笑っていた。
「これでも勉強はできる方ですから、問題ありませんよ。やる気の問題なんです」
それはもう、表情が歪むくらい笑いながら話していた。あの冷静な調部長がここまで笑うのだから、相当なタイプなのだろう。軽部副部長はそれにも動じず、淡々とスマホとにらめっこを続けている。
「そういえば、進学予定の高校は決まっているのですか?」
「ええ、決まっていますよ。浦見高校、……順当に同じ市内の公立高校への進学です」
「ああ、私も通ったところだわ」
「あら、そうなのですね。てっきり向こう側の高校だと思っていましたけれど」
栞の答えが意外だったのか、驚いたように反応している。
「父親がうるさかったですからね。私の家はアスリート一家でしたから、目の届く範囲でスポーツの強い高校をという事で浦見高校になったんですよ。うちから近いところは文科系でしたからね」
「なるほどです」
栞の言い分に納得のいく調部長だった。
「それにしても、調部長は何を見ていらしたんですか?」
話をしながら、栞はふと調部長の目の前のモニターが気になった。
「ああ、これですか?」
調部長がモニターに視線を戻す。
「もうそろそろクリスマスではないですか。一週間前なので予約タイミングとしては遅いのですが、どこか会場を借りられないかと思いましてね」
「えっ、クリスマスパーティーでもされるのですか?」
驚く栞である。
「そうですよ。レオンの1件が片付きましたので、せっかくですから張り切って豪華な事をしてみたいのです。進学先の選定でちょっとごたつきましたから、こんな時期になってしまったのですけれどね」
話す調部長の顔が苦笑いになっていたので、おそらくは祖国の両親との話で揉めたのだと思われる。
「お金は私のお小遣いとカルディの給金からどうにかしますので、高石さんたちは気にしなくても大丈夫です。これでもバーディア一家ですからね」
調部長から思わぬ言葉が出てきて、つい笑ってしまう栞である。
「ここでそれを強調されますか?」
栞が笑いながら片目を開けて言うと、
「こういう時くらいにしか使えませんからね」
調部長からは笑いとともにそんな答えが返ってきた。ギャングの娘とはいっても、年相応に茶目っ気のある少女なのである。
「さて、これで予約が終わりました。大人はカルディが居ますので助かりますね」
背もたれにもたれ掛かりながら、体を伸ばす調部長。顔はやり切った感が出ている。
「服装は普段の格好でも大丈夫なのですかね」
「大丈夫ですよ。心配なら、会場で衣装が借りられますよ」
「さすが調部長……。抜け目がありませんね」
「うふふふ。バーディア一家の娘ですからね」
栞が感心していると、可愛らしくウィンクをする調部長である。
「そんなわけですので、25日は日中は空けておいて下さいね。真彩さんたちにもお声掛けをお忘れなく」
「分かりました。伝えておきます」
そんなこんなで、調部長……もといメロディ・バーディア名義でクリスマスパーティーを行う事になったのだった。
昼休みを終えて教室に戻る栞の顔には、実に楽しそうな笑みがあふれていたのだった。
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