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第164話 約束の新聞部
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「……そうですか。正式に決まってしまいましたか」
調部長の言葉に、栞は無言で頷いている。
決定の場に居合わせた真彩は無反応だったものの、知らなかったわっけーたちは驚きの表情で栞を見ている。
「しおりん、本当なのか……?」
栞に確認するようにわっけーが声を掛ける。
「ええ、本当よ。だから、4月になったら、私はまた市の職員として窓口に座る事になるわね」
後ろに立つわっけーに対して、くるりと振り返って笑顔で話す栞。それに対して無言で栞をじっと見るわっけー。あのわっけーの顔が、なんだか不思議な表情を見せている。
「……こんな日が来るのは分かってた事なのよ。第一、20歳を超えた人間が中学生である事が無理なのよ。だから、元通りになるだけなんだからね……」
珍しいわっけーの表情に困惑しながらも、栞は一生懸命に言い聞かせている。それは、まるで自分に言っているようにも見えた。
「まぁ分かってはいましたけれどね。いざ決まるとなかなかに寂しいものですね。私たちが卒業するまでの間はこうやって一緒に居られる事は分かりましたが……」
こう言いながら、調部長は詩音に視線を向ける。すると、詩音は急におどおどとし始めた。
その姿を見た調部長は、詩音に近付いていく。
「大丈夫ですよ。私は家には居ますし、高石さんだってずっとお別れになるわけじゃないんですから」
きゅっと詩音を抱きしめる調部長である。その行為についほっとしてしまう詩音。姉である調部長、メロディ・バーディアの事が本当に好きなのである。
「それにしても、高石さんには私たち姉妹もすっかりお世話になってしまいましたね」
「えっ、まぁそうかも知れませんね」
調部長に言われて、照れくさそうに返す栞。
「実際にそうですよ。高石さんが気が付かなければ、リリックはあのまま準備室の中で生き埋めだってありえたのですから。それを思えば、感謝してもしきれませんよ。狂犬レオンを捕らえる事もできましたし」
調部長は詩音を抱えながら、栞に感謝の弁を述べている。栞はついつい顔を赤くしながら、頬を小さく掻いて照れていた。
「うむ、しおりんは実際にすごいのだ。さすがこのわっけー様のお気に入りなだけあるのだ。わーはっはっはっ」
大口を開けて笑うわっけーである。これには真彩と理恵はつられて笑うしかなかった。
それが落ち着くのを見計らって、調部長は次の話題に入る。
「私と軽部副部長は卒業となってしまいますが、ここで問題となるのがこの新聞部です」
「ああ、そういえばそうですね」
調部長の言葉に、思わず同意してしまう栞である。
部活として継続するには、最低5人の部員が必要となる。現在は調部長、軽部副部長、栞、真彩、勝という5人で部員を構成している。ところが、部長に副部長、それと栞が年度末に籍から抜けてしまう。そうなると、来年度は部として成立しなくなってしまうのだ。これはどうしたものかと悩むものであった。
「元々は校長先生が勝手に作ったものでしたし、それを私たちが利用するという形で今は存在していました。バーディア一家の件が解決した今、正直いって存在価値があるかといわれたら、微妙なのですよね」
調部長が腕を組んで状況の説明をしている。実際、部活としての活動ももう数える程度しかしていないし、集まっても雑談で終わってしまう状況だ。部としての存在意義が問われかねない状況なのだ。
「部活は終わらせませんよ」
どこかしんみりしたところに口を出したのは真彩だった。
「そうなのだ。あたしたちが居るのだ」
それに続いたのがわっけーである。
「まぁとりぃ、あたしにうたとまさが居れば5人揃うのだ。これで問題がないのだ」
「えっ、私も?!」
突然巻き込まれた理恵が驚いている。
「りぃは絵が描けるのだ。りぃの絵を新聞に載せるのだ」
「えええ?!」
また突拍子もない事を言うわっけーである。理恵が完全に戸惑ってしまっている。とはいえ、継続するにはそれしかないだろう。
「理恵ちゃん。とりあえず入部だけでしておくだけでいいのよ。無理に参加する必要はないわよ」
「うう、で、でも……」
「ははは、気にする事はないのだ。あたしらの仲だぞ?」
真彩も説得に回る。そして、よく分からないわっけーの言葉が決め手となったようだ。
「うーん、分かったわよ。と、とりあえず在籍だけだからね?」
理恵は新聞部に籍だけ置く事を了承したのだった。とてもじゃないが、あのレオンの娘とは思えないくらいに謙虚なのである。
「うふふ、話がまとまったようで何よりです。これで、詩音も安心できるでしょうから、私たちの心配が一つ減って助かります」
調部長も安堵の表情を浮かべているようだった。
これによって来年以降の新聞部の継続も決まったので、心残りは大体解消できただろう。
この面々でこうやって会うのも、残りわずかかも知れない。その来るべき時を迎えるまで、できる限り中学生としての生活を満喫しようと心に決めた栞なのである。
調部長の言葉に、栞は無言で頷いている。
決定の場に居合わせた真彩は無反応だったものの、知らなかったわっけーたちは驚きの表情で栞を見ている。
「しおりん、本当なのか……?」
栞に確認するようにわっけーが声を掛ける。
「ええ、本当よ。だから、4月になったら、私はまた市の職員として窓口に座る事になるわね」
後ろに立つわっけーに対して、くるりと振り返って笑顔で話す栞。それに対して無言で栞をじっと見るわっけー。あのわっけーの顔が、なんだか不思議な表情を見せている。
「……こんな日が来るのは分かってた事なのよ。第一、20歳を超えた人間が中学生である事が無理なのよ。だから、元通りになるだけなんだからね……」
珍しいわっけーの表情に困惑しながらも、栞は一生懸命に言い聞かせている。それは、まるで自分に言っているようにも見えた。
「まぁ分かってはいましたけれどね。いざ決まるとなかなかに寂しいものですね。私たちが卒業するまでの間はこうやって一緒に居られる事は分かりましたが……」
こう言いながら、調部長は詩音に視線を向ける。すると、詩音は急におどおどとし始めた。
その姿を見た調部長は、詩音に近付いていく。
「大丈夫ですよ。私は家には居ますし、高石さんだってずっとお別れになるわけじゃないんですから」
きゅっと詩音を抱きしめる調部長である。その行為についほっとしてしまう詩音。姉である調部長、メロディ・バーディアの事が本当に好きなのである。
「それにしても、高石さんには私たち姉妹もすっかりお世話になってしまいましたね」
「えっ、まぁそうかも知れませんね」
調部長に言われて、照れくさそうに返す栞。
「実際にそうですよ。高石さんが気が付かなければ、リリックはあのまま準備室の中で生き埋めだってありえたのですから。それを思えば、感謝してもしきれませんよ。狂犬レオンを捕らえる事もできましたし」
調部長は詩音を抱えながら、栞に感謝の弁を述べている。栞はついつい顔を赤くしながら、頬を小さく掻いて照れていた。
「うむ、しおりんは実際にすごいのだ。さすがこのわっけー様のお気に入りなだけあるのだ。わーはっはっはっ」
大口を開けて笑うわっけーである。これには真彩と理恵はつられて笑うしかなかった。
それが落ち着くのを見計らって、調部長は次の話題に入る。
「私と軽部副部長は卒業となってしまいますが、ここで問題となるのがこの新聞部です」
「ああ、そういえばそうですね」
調部長の言葉に、思わず同意してしまう栞である。
部活として継続するには、最低5人の部員が必要となる。現在は調部長、軽部副部長、栞、真彩、勝という5人で部員を構成している。ところが、部長に副部長、それと栞が年度末に籍から抜けてしまう。そうなると、来年度は部として成立しなくなってしまうのだ。これはどうしたものかと悩むものであった。
「元々は校長先生が勝手に作ったものでしたし、それを私たちが利用するという形で今は存在していました。バーディア一家の件が解決した今、正直いって存在価値があるかといわれたら、微妙なのですよね」
調部長が腕を組んで状況の説明をしている。実際、部活としての活動ももう数える程度しかしていないし、集まっても雑談で終わってしまう状況だ。部としての存在意義が問われかねない状況なのだ。
「部活は終わらせませんよ」
どこかしんみりしたところに口を出したのは真彩だった。
「そうなのだ。あたしたちが居るのだ」
それに続いたのがわっけーである。
「まぁとりぃ、あたしにうたとまさが居れば5人揃うのだ。これで問題がないのだ」
「えっ、私も?!」
突然巻き込まれた理恵が驚いている。
「りぃは絵が描けるのだ。りぃの絵を新聞に載せるのだ」
「えええ?!」
また突拍子もない事を言うわっけーである。理恵が完全に戸惑ってしまっている。とはいえ、継続するにはそれしかないだろう。
「理恵ちゃん。とりあえず入部だけでしておくだけでいいのよ。無理に参加する必要はないわよ」
「うう、で、でも……」
「ははは、気にする事はないのだ。あたしらの仲だぞ?」
真彩も説得に回る。そして、よく分からないわっけーの言葉が決め手となったようだ。
「うーん、分かったわよ。と、とりあえず在籍だけだからね?」
理恵は新聞部に籍だけ置く事を了承したのだった。とてもじゃないが、あのレオンの娘とは思えないくらいに謙虚なのである。
「うふふ、話がまとまったようで何よりです。これで、詩音も安心できるでしょうから、私たちの心配が一つ減って助かります」
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これによって来年以降の新聞部の継続も決まったので、心残りは大体解消できただろう。
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