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第163話 気の重い栞
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翌日、栞はいつも通りに登校する。
靴を履き替えて教室に顔を出すと、いつものようにわっけーに声を掛けられた。
「わーはっはっはーっ、おはようなのだ、しおりん!」
「お、おはよう、わっけー」
ちょっとびっくりしている栞。その姿を見てわっけーが違和感を感じたのか、首を少し傾げている。
「どうしたのだ、しおりん?」
ずずいっと迫ってくるわっけーに、
「近い、近いってば!」
両手を出して引き離そうとする栞。わっけーはそれに必死に抵抗していた。
「むむっ、おかしいぞ、しおりん! おとなしく白状するのだ!」
「分かった、分かったから。とりあえず昼休みまで待ってくれない?」
しつこいわっけーに、栞は仕方なく折れる。しかし、それが今すぐ説明できるかといったら無理な話なので、少々ばかり待ってもらう必要がある。栞のこの提案に、わっけーは仕方ないなといって納得して離れた。わっけーも少しは成長したようである。
「まぁちゃんと理恵ちゃんと詩音ちゃんも、みんな揃って新聞部の部室でいいかしら」
栞がそう付け加えると、事情を知る真彩はもちろん、理恵と詩音も了承したのだった。
そんなわけで昼休み。
みんな揃って新聞部の部室に行くと、調部長と軽部副部長もしっかり揃っていた。この二人が居ないと部室の鍵が開けられないので、ちょうどよかった。
「あら、今日は皆さんお揃いですね」
部室に入った栞たちをいつもの笑顔で出迎える調部長である。
「本当に、みなさん。毎日のように来て下さってありがとうございます。軽部副部長があんな調子ですので、正直退屈なんですよね」
パソコンを操作する手を止める調部長。一度視線を向けた先では、軽部副部長が相変わらずスマホを必死にいじっている。
ため息を吐いて視線を戻した調部長は、立ち上がるとゆっくりと栞へと近付いていく。
「扉の開けっ放しは困りますよ。ちゃんと閉めて下さいね」
体を強張らせた栞だったが、通り過ぎて扉を閉める調部長の動きに、心臓をバクバク言わせていた。一体何を思ったのだろうか。
調部長は座っていた椅子に戻ると、栞に向けてくすりと笑っていた。
「年度末まで待たれるとは、本当にありがたい限りです。バーディア一家の情報も密かに渡せますからね」
不敵に笑う調部長である。
これが本当に15歳の顔なのだろうか。さすがギャングとして名を馳せた事のある家の一員である。
「今現在もレオンの取り調べは続いております。お父様もかなり怒っていらっしゃいますから、そのうちに全容は明らかにできると思います」
調部長の説明を聞いて、理恵の表情が暗くなる。レオンは理恵の父親だからだ。
「それにしても、あのレオンの娘さんがこのような方だとは思いませんでしたね。でも、レオンのあの親バカぶりを見ていたら、なんだか納得できてしまいます」
ギャップを思い出して、どうしても笑ってしまう調部長である。それに対して理恵の表情は曇ったままだった。
「あのお父さんが、まさかそんな悪い人だっただなんて……。私にはまだ信じられないです」
理恵は弱々しく呟くように話している。
「それはそうでしょうね。普段知っている姿と違うものというのは、簡単に受け入れられるものではありません。理恵さんがそう仰るように、私の方からしてみれば、あの親バカ全開のレオンの姿の方が信じられませんでしたからね。仮にも『バーディアの狂犬』と呼ばれた男ですからね」
調部長は理恵を慰めながら話している。
「信じられないっていうのはあたしもそうだな。調べているうちにとんでもない過去が出てきて、あたしは動揺したもんだからね」
わっけーは頭の後ろで手を組みながら話している。そういえばわっけーも親バカなレオンしか見た事がなかったのだ。
わっけーがレオンの事を正式に調べ始めたのは、自分のおじが行方不明になってからだ。知った時には思わずしばらくの間動けなくなったらしい。そのくらいには、浦見市に居る間の表のレオンは人当たりがよかったのである。
「レオンを追い込んだのは、結果的にあたしだ。だから、友だちとして、りぃの事はちゃんと面倒見させてもらうぞ」
「わっけー……」
理恵は思わず瞳を潤ませていた。
「それはそうとして、栞ちゃん」
その最中、真彩が栞に話し掛けてきた。
「なに、まぁちゃん」
思わずびっくりした顔をして尋ね返す栞。
「もう、とぼけないでよ。ここで何かを話しするんだったんでしょ?」
このまま忘れてくれていればと思う栞である。さすがは警部の娘が相手では、そう事は思うように運ばないのである。栞は観念したような顔をしてしまう。
「そうなのだ。さあ、正直に吐くのだ、しおりん」
ちゃっかりわっけーが思い出してしまう。さすがにわっけーに思い出されてしまえば、これ以上とぼけるのは厳しいというものだった。
「分かった、分かったから、話せばいいんでしょ?!」
半ばやけくそになる栞である。そして、盛大にため息を吐くと、真面目な表情で重大発表を行う事になった。
「実は昨日なんだけどね、市役所に呼ばれて行ってきたのよ」
「それは、まさか……」
神妙な面持ちの栞の言葉に、調部長が察したのか栞に声を掛ける。それに対して、栞はこくりと小さく頷く。
「実は、草利中学校の調査団なのですが……」
ごくりと息を飲む一同。
「今年度末、つまり来年の3月31日をもって解散することが決まりました」
衝撃的な決定事項が、栞の口から告げられたのだった。
靴を履き替えて教室に顔を出すと、いつものようにわっけーに声を掛けられた。
「わーはっはっはーっ、おはようなのだ、しおりん!」
「お、おはよう、わっけー」
ちょっとびっくりしている栞。その姿を見てわっけーが違和感を感じたのか、首を少し傾げている。
「どうしたのだ、しおりん?」
ずずいっと迫ってくるわっけーに、
「近い、近いってば!」
両手を出して引き離そうとする栞。わっけーはそれに必死に抵抗していた。
「むむっ、おかしいぞ、しおりん! おとなしく白状するのだ!」
「分かった、分かったから。とりあえず昼休みまで待ってくれない?」
しつこいわっけーに、栞は仕方なく折れる。しかし、それが今すぐ説明できるかといったら無理な話なので、少々ばかり待ってもらう必要がある。栞のこの提案に、わっけーは仕方ないなといって納得して離れた。わっけーも少しは成長したようである。
「まぁちゃんと理恵ちゃんと詩音ちゃんも、みんな揃って新聞部の部室でいいかしら」
栞がそう付け加えると、事情を知る真彩はもちろん、理恵と詩音も了承したのだった。
そんなわけで昼休み。
みんな揃って新聞部の部室に行くと、調部長と軽部副部長もしっかり揃っていた。この二人が居ないと部室の鍵が開けられないので、ちょうどよかった。
「あら、今日は皆さんお揃いですね」
部室に入った栞たちをいつもの笑顔で出迎える調部長である。
「本当に、みなさん。毎日のように来て下さってありがとうございます。軽部副部長があんな調子ですので、正直退屈なんですよね」
パソコンを操作する手を止める調部長。一度視線を向けた先では、軽部副部長が相変わらずスマホを必死にいじっている。
ため息を吐いて視線を戻した調部長は、立ち上がるとゆっくりと栞へと近付いていく。
「扉の開けっ放しは困りますよ。ちゃんと閉めて下さいね」
体を強張らせた栞だったが、通り過ぎて扉を閉める調部長の動きに、心臓をバクバク言わせていた。一体何を思ったのだろうか。
調部長は座っていた椅子に戻ると、栞に向けてくすりと笑っていた。
「年度末まで待たれるとは、本当にありがたい限りです。バーディア一家の情報も密かに渡せますからね」
不敵に笑う調部長である。
これが本当に15歳の顔なのだろうか。さすがギャングとして名を馳せた事のある家の一員である。
「今現在もレオンの取り調べは続いております。お父様もかなり怒っていらっしゃいますから、そのうちに全容は明らかにできると思います」
調部長の説明を聞いて、理恵の表情が暗くなる。レオンは理恵の父親だからだ。
「それにしても、あのレオンの娘さんがこのような方だとは思いませんでしたね。でも、レオンのあの親バカぶりを見ていたら、なんだか納得できてしまいます」
ギャップを思い出して、どうしても笑ってしまう調部長である。それに対して理恵の表情は曇ったままだった。
「あのお父さんが、まさかそんな悪い人だっただなんて……。私にはまだ信じられないです」
理恵は弱々しく呟くように話している。
「それはそうでしょうね。普段知っている姿と違うものというのは、簡単に受け入れられるものではありません。理恵さんがそう仰るように、私の方からしてみれば、あの親バカ全開のレオンの姿の方が信じられませんでしたからね。仮にも『バーディアの狂犬』と呼ばれた男ですからね」
調部長は理恵を慰めながら話している。
「信じられないっていうのはあたしもそうだな。調べているうちにとんでもない過去が出てきて、あたしは動揺したもんだからね」
わっけーは頭の後ろで手を組みながら話している。そういえばわっけーも親バカなレオンしか見た事がなかったのだ。
わっけーがレオンの事を正式に調べ始めたのは、自分のおじが行方不明になってからだ。知った時には思わずしばらくの間動けなくなったらしい。そのくらいには、浦見市に居る間の表のレオンは人当たりがよかったのである。
「レオンを追い込んだのは、結果的にあたしだ。だから、友だちとして、りぃの事はちゃんと面倒見させてもらうぞ」
「わっけー……」
理恵は思わず瞳を潤ませていた。
「それはそうとして、栞ちゃん」
その最中、真彩が栞に話し掛けてきた。
「なに、まぁちゃん」
思わずびっくりした顔をして尋ね返す栞。
「もう、とぼけないでよ。ここで何かを話しするんだったんでしょ?」
このまま忘れてくれていればと思う栞である。さすがは警部の娘が相手では、そう事は思うように運ばないのである。栞は観念したような顔をしてしまう。
「そうなのだ。さあ、正直に吐くのだ、しおりん」
ちゃっかりわっけーが思い出してしまう。さすがにわっけーに思い出されてしまえば、これ以上とぼけるのは厳しいというものだった。
「分かった、分かったから、話せばいいんでしょ?!」
半ばやけくそになる栞である。そして、盛大にため息を吐くと、真面目な表情で重大発表を行う事になった。
「実は昨日なんだけどね、市役所に呼ばれて行ってきたのよ」
「それは、まさか……」
神妙な面持ちの栞の言葉に、調部長が察したのか栞に声を掛ける。それに対して、栞はこくりと小さく頷く。
「実は、草利中学校の調査団なのですが……」
ごくりと息を飲む一同。
「今年度末、つまり来年の3月31日をもって解散することが決まりました」
衝撃的な決定事項が、栞の口から告げられたのだった。
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