160 / 182
第160話 打ち上げ(前編)
しおりを挟む
レオン・アトゥールとの戦いが終わった事は、水崎警部や調部長など、いろいろな方面から栞の耳に入る事となった。ただその時の声が、全員が一様に終わったという安堵の声に包まれていたのが印象的だった。
特に詩音にいたっては、栞たちと一緒に居られる上に、姉である調部長も高校進学で少なくとも3年間の日本滞在の延長を決めたために、ものすごく嬉しそうな表情をしていた。さすがは日本へ行った姉を追っかけて単身日本に乗り込んできただけの事はあるというものだ。
というわけで、解決の報から一週間経った日のこと、浦見市内の市民ホールの一部を借りての慰労会が開催される事となった。
こう考えるのも無理はないだろう。犯罪者集団のブレーンは確実にレオンだったと見られているのだから。残った連中では資金などの面から見ても、実行はほぼ不可能と見られていた。
まだ完全な解決ではないけれども、これで草利中学校を巡った一連の事件は解決を見たはずである。
心配に思う栞だったものの、お祝いムードに水を差すまいとおとなしくしていた。
「栞ちゃん、どこか痛むの? 浮かない顔してるけど」
真彩が栞を心配して声を掛けてくる。
「ああ、まあちゃん。何でもないよ」
にこりと微笑む栞。笑ってごまかそうというわけである。しかし、真彩はこれで十分だったらしく、安心したように栞から離れていった。
むしろ面倒なのはこいつの方だった。
「しおりん、やっぱり気になるのか?」
わっけーだった。
普段は大声でふざけているわっけーだが、その実は勘も鋭い天才少女なのである。今回の事件の解決にはかなり彼女の活躍によるところが大きかった。
ところが、栞に話し掛けてきたわっけーの言葉から察するに、わっけーも解決の本質を見出せていないようである。
主犯格であるレオンは捕まって本国に強制送還されたとはいえ、まだその手下は逃走を続けているからだ。頭脳と資金の面で難があるとはいえ、伝手がないとは限らない。だからこそ、わっけーは警戒を解けないというわけだ。
「気になるのは同じみたいね。でも、一応これは草利中学校の噂の解決を祝う席だから、これでいいんじゃないのかしらね」
「まぁ、確かにそうなのだ」
栞の説明に、わっけーは渋々ながら納得していたようである。
「確かにそうですね。そちらの方は私たちもどうにか協力致しましょう」
「調部長」
「うたあね!」
そこへ近付いてきたのは調部長だった。
「レオンが絡んでいたわけですし、バーディア一家の不始末にもなります。なので、私にも責任はあるのですよ」
にこやかに話をしてはいるが、内容は実に重かった。
「うたあねには責任はないのだ。それでもやるというのなら、あたしだって手伝うのだ」
「うふふ、詩音はいい友人を持ちましたね」
わっけーの言葉に、感慨深く笑顔になる調部長である。
「いやはや、私たちは出番なしでしたね」
「本当、知らない間に解決しちゃってるんだもの。困ったものだわ」
やって来たのは飛田先生と千夏だった。
確かに途中からは完全に蚊帳の外だった。栞は今さらながらにそれを思い出して苦笑いをしていた。
「いえいえ、千夏を遠ざけて下さってありがとうございます。居たら絶対面倒な事になっていましたから」
「そうかそうか。そう捉えてもらえたのなら、私も役に立ったみたいですね」
「ちょっと、栞?!」
栞が酷い事を言うものだから、千夏は思わず栞の頬を思い切り掴んでいた。
その様子を見て周りは笑っている。栞は頬を思い切り引っ張られているが、雰囲気自体は和やかだった。
「ほうひえは、ひはへふほう」
頬をつままれたまま、思い出したように調部長に声を掛ける栞。
「詩音なら、軽部副部長とカルディと一緒にあそこに居ますよ」
栞の言葉をすんなり解読した調部長は、詩音の居る方向へと視線を向ける。そこでは水崎警部と勝、真彩の双子に加えて、見た事のない女性が立っていた。
「ああ、あれはまぁままなのだ。しおりんは見るのは初めてなのか?」
見た覚えがないので頷く栞である。
「ならちょうどいいのだ。みんなで挨拶に行くのだ」
「ちょっ、ちょっとわっけー?!」
突然わっけーに腕を引っ張られる栞である。おかげで千夏の頬っぺたつねつねからは逃れられたものの、状況としては落ち着かないままだった。
栞はわっけーに腕を掴まれたまま、水崎警部たちのところまで連れてこられたのだった。
「まぁぱぱ、まぁまま、久しぶりなのだ」
「おお、恵子くんか。ずいぶんと大活躍だったな」
「ははは、よすのだ。あたしは悪い奴が許せなかっただけなのだ」
水崎警部が褒めると、わっけーは一瞬照れるも真面目な顔をして切り返していた。
「『能ある鷹は爪を隠す』とはいうけれど、本当にうまく本性を隠してましたね、恵子ちゃん?」
真彩の母親に言われた瞬間、わっけーの顔が凍り付いた。
どうしたのかと思った栞だったが、真彩の母親の顔を見てそれを悟った。
顔は笑顔だというのに、まったく笑っている感じがしなかったのだ。おそらくわっけーは、散々何かやらかしてきたのだろう。わっけーは少しずつ視線を逸らしていた。
「それはそうと、あなたが高石栞さんね?」
「は、はい」
「そう、話は真彩や夫から聞かされているわ。本当に成人しているとは思えませんね」
失礼だなとは思った栞だが、それを思い切り飲み込む。一応社会人なので、取り繕う癖がついてしまっているのだ。
「初めまして、真彩と勝の母、水崎真珠です。どうぞよろしくですわ」
真珠と名乗った真彩の母親。その雰囲気はただ者ではなかった。
特に詩音にいたっては、栞たちと一緒に居られる上に、姉である調部長も高校進学で少なくとも3年間の日本滞在の延長を決めたために、ものすごく嬉しそうな表情をしていた。さすがは日本へ行った姉を追っかけて単身日本に乗り込んできただけの事はあるというものだ。
というわけで、解決の報から一週間経った日のこと、浦見市内の市民ホールの一部を借りての慰労会が開催される事となった。
こう考えるのも無理はないだろう。犯罪者集団のブレーンは確実にレオンだったと見られているのだから。残った連中では資金などの面から見ても、実行はほぼ不可能と見られていた。
まだ完全な解決ではないけれども、これで草利中学校を巡った一連の事件は解決を見たはずである。
心配に思う栞だったものの、お祝いムードに水を差すまいとおとなしくしていた。
「栞ちゃん、どこか痛むの? 浮かない顔してるけど」
真彩が栞を心配して声を掛けてくる。
「ああ、まあちゃん。何でもないよ」
にこりと微笑む栞。笑ってごまかそうというわけである。しかし、真彩はこれで十分だったらしく、安心したように栞から離れていった。
むしろ面倒なのはこいつの方だった。
「しおりん、やっぱり気になるのか?」
わっけーだった。
普段は大声でふざけているわっけーだが、その実は勘も鋭い天才少女なのである。今回の事件の解決にはかなり彼女の活躍によるところが大きかった。
ところが、栞に話し掛けてきたわっけーの言葉から察するに、わっけーも解決の本質を見出せていないようである。
主犯格であるレオンは捕まって本国に強制送還されたとはいえ、まだその手下は逃走を続けているからだ。頭脳と資金の面で難があるとはいえ、伝手がないとは限らない。だからこそ、わっけーは警戒を解けないというわけだ。
「気になるのは同じみたいね。でも、一応これは草利中学校の噂の解決を祝う席だから、これでいいんじゃないのかしらね」
「まぁ、確かにそうなのだ」
栞の説明に、わっけーは渋々ながら納得していたようである。
「確かにそうですね。そちらの方は私たちもどうにか協力致しましょう」
「調部長」
「うたあね!」
そこへ近付いてきたのは調部長だった。
「レオンが絡んでいたわけですし、バーディア一家の不始末にもなります。なので、私にも責任はあるのですよ」
にこやかに話をしてはいるが、内容は実に重かった。
「うたあねには責任はないのだ。それでもやるというのなら、あたしだって手伝うのだ」
「うふふ、詩音はいい友人を持ちましたね」
わっけーの言葉に、感慨深く笑顔になる調部長である。
「いやはや、私たちは出番なしでしたね」
「本当、知らない間に解決しちゃってるんだもの。困ったものだわ」
やって来たのは飛田先生と千夏だった。
確かに途中からは完全に蚊帳の外だった。栞は今さらながらにそれを思い出して苦笑いをしていた。
「いえいえ、千夏を遠ざけて下さってありがとうございます。居たら絶対面倒な事になっていましたから」
「そうかそうか。そう捉えてもらえたのなら、私も役に立ったみたいですね」
「ちょっと、栞?!」
栞が酷い事を言うものだから、千夏は思わず栞の頬を思い切り掴んでいた。
その様子を見て周りは笑っている。栞は頬を思い切り引っ張られているが、雰囲気自体は和やかだった。
「ほうひえは、ひはへふほう」
頬をつままれたまま、思い出したように調部長に声を掛ける栞。
「詩音なら、軽部副部長とカルディと一緒にあそこに居ますよ」
栞の言葉をすんなり解読した調部長は、詩音の居る方向へと視線を向ける。そこでは水崎警部と勝、真彩の双子に加えて、見た事のない女性が立っていた。
「ああ、あれはまぁままなのだ。しおりんは見るのは初めてなのか?」
見た覚えがないので頷く栞である。
「ならちょうどいいのだ。みんなで挨拶に行くのだ」
「ちょっ、ちょっとわっけー?!」
突然わっけーに腕を引っ張られる栞である。おかげで千夏の頬っぺたつねつねからは逃れられたものの、状況としては落ち着かないままだった。
栞はわっけーに腕を掴まれたまま、水崎警部たちのところまで連れてこられたのだった。
「まぁぱぱ、まぁまま、久しぶりなのだ」
「おお、恵子くんか。ずいぶんと大活躍だったな」
「ははは、よすのだ。あたしは悪い奴が許せなかっただけなのだ」
水崎警部が褒めると、わっけーは一瞬照れるも真面目な顔をして切り返していた。
「『能ある鷹は爪を隠す』とはいうけれど、本当にうまく本性を隠してましたね、恵子ちゃん?」
真彩の母親に言われた瞬間、わっけーの顔が凍り付いた。
どうしたのかと思った栞だったが、真彩の母親の顔を見てそれを悟った。
顔は笑顔だというのに、まったく笑っている感じがしなかったのだ。おそらくわっけーは、散々何かやらかしてきたのだろう。わっけーは少しずつ視線を逸らしていた。
「それはそうと、あなたが高石栞さんね?」
「は、はい」
「そう、話は真彩や夫から聞かされているわ。本当に成人しているとは思えませんね」
失礼だなとは思った栞だが、それを思い切り飲み込む。一応社会人なので、取り繕う癖がついてしまっているのだ。
「初めまして、真彩と勝の母、水崎真珠です。どうぞよろしくですわ」
真珠と名乗った真彩の母親。その雰囲気はただ者ではなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる