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第150話 わっけーの機転
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結局レオンには逃げられてしまった。これで終わりにしてしまうはずだった栞たちは、この現実に悔しさをにじませた。
実際、水崎警部も悔しさを隠す事はなかった。
だが、わっけーの機転の利いた助言によって、すぐさま警察署へと戻り、全国の空港へと指名手配を出す準備に取り掛かった。
栞たちの方はあれだけごたごたした後だから大丈夫だろうと、ひとまずは普段通りの生活を送る事になった。
報復は考えられるだろうが、逃げ出したばかりの今なら海外逃亡かしばらく息を潜めるかのどちらかになるだろうと踏んだからである。
翌日、日曜日だというのにまったく栞は落ち着かなかった。
もちろんその理由はレオンの事である。あの場で決着をつけるために栞も手を貸したというのに、レオンの配下の手によって失敗に終わってしまったのだ。まったくもって落ち着けるわけがないのである。
だが、部屋から動く気の起きない栞は、部屋でゴロゴロしていた。
そんな中、突然スマホがぶるぶると鳴り始めた。どうやら着信のようである。
画面を見ればわっけーだった。
「もしもし、何よ、わっけー」
栞は手に取って応答する。
『しおりん、うちに今すぐ来るのだ』
「今すぐって……。どんだけ離れてると思ってるのよ」
『四の五の言わずに来るのだ』
「分かったわよ。すぐ行くから待っててちょうだい」
通話を切った栞は服装を整えて、母親に言って家を出た。
時間にすれば、学校に行くのと変わらない時間がかかったが、無事にわっけーの家に到着した栞。玄関ではわっけーが待ち構えていた。
「待っていたのだ、しおりん」
「まったく何よ」
「とにかく部屋に上がるのだ」
強引に栞を家へと上げるわっけー。ほとんどされるがままの栞だが、とにかく何の用か気になるので、特に抵抗はしなかった。
わっけーの部屋に入ると、そこには理恵の姿もあった。先日の騒ぎの結果、わっけーの家に居候する事になったから、居るのは当然である。
「栞ちゃん、こんにちは」
「うん、こんにちは、理恵ちゃん」
居るという話は聞いていたが、実際に見ると戸惑う栞だった。
わっけーは椅子に座り、目の前のパソコンを触っている。一体何をしているというのだろうか。
「このわっけー様から逃げられると思うななのだ!」
そんな事を呟きながら、わっけーはパソコンで何かを操作している。まったく、こんなキャラだったっけと思わされる光景だった。
パソコンの画面には何やら地図と思しきものが映し出され、何やら光が点滅している。
「わっけー、これってまさか……」
「その通り、あの一瞬だけど、発信機を取り付けてやったのだ。どこに仕掛けたかは内緒なのだ」
呆れたものである。やはり癖のある性格の持ち主は、思わぬ事をやってくれるものだった。
「これはまぁぱぱにも伝えてあるし、おそらくは手を回していると思うのだ。りぃぱぱ、逃げられると思うななのだ」
わっけーが過去一番の悪い顔をしていた。
「ごめんなさい、私のお父さんのせいで……」
「りぃは悪くないのだ。悪いのはりぃぱぱなのだ」
謝る理恵を、わっけーは責める事はなかった。当然ながら、栞もそんな気はないので、黙って理恵を慰めていた。悪いのは理恵の父親であるレオンであり、理恵には全く責任がないのだから。
「とりあえずゆっくり動いているから、まだ気づかれていないと思うのだ。まぁぱぱにも連絡を入れておかないといけないのだ」
わっけーはそう言うと、スマホを取り出そうとしている。
「わっけー、私から連絡するわよ。私の事情知ってるでしょう?」
「うん? ……分かったのだ、しおりん」
それを制止して、栞が水崎警部へと電話をする。その二人を見て、理恵は驚きを隠せなかった。何といっても話している内容がまったく理解できなかったのだから。
「りぃ、全部が落ち着いたら話すから、今は何も聞かないでほしい」
「う、うん……」
わっけーが真剣な表情で理恵に話し掛けると、理恵は雰囲気に飲まれたのか、こくりと頷いたのだった。
「わっけー、代わってだってさ」
「ほいきた」
電話をしていた栞が、スマホをわっけーに渡す。すると、わっけーはパソコンのモニターを目の前にして座ると、水崎警部と事細かに話をし始めたのだった。その会話は専門的な言葉も混ざっていて、栞ですらも理解しきれなかった。
その話の間、栞は理恵の気を紛らわせるために適当な話題で話をしていたのだった。
しばらくすると、ようやくわっけーは通話を切っていた。
「よし、大体は話し終えたのだ。あとの事は全部警察任せになるけど、まあそこは仕方ないのだ」
そう言いながら、わっけーは栞にスマホを返していた。
理恵は気が付かなかったかも知れないが、この時のわっけーはどこか悲しそうな表情を浮かべていた。おそらくはこれで自分の慕っていたおじの無念を晴らせると感じたからなのだろう。そう感じた栞は、わっけーに掛ける言葉を見つけられなかった。ただただ無言でスマホを受け取る事しかできなかったのである。
わっけーの機転によって、事態は動くのだろうか。今後は警察の動き次第となった。
無事にレオンが捕まるように、栞は祈るような気持ちになったのだった。
実際、水崎警部も悔しさを隠す事はなかった。
だが、わっけーの機転の利いた助言によって、すぐさま警察署へと戻り、全国の空港へと指名手配を出す準備に取り掛かった。
栞たちの方はあれだけごたごたした後だから大丈夫だろうと、ひとまずは普段通りの生活を送る事になった。
報復は考えられるだろうが、逃げ出したばかりの今なら海外逃亡かしばらく息を潜めるかのどちらかになるだろうと踏んだからである。
翌日、日曜日だというのにまったく栞は落ち着かなかった。
もちろんその理由はレオンの事である。あの場で決着をつけるために栞も手を貸したというのに、レオンの配下の手によって失敗に終わってしまったのだ。まったくもって落ち着けるわけがないのである。
だが、部屋から動く気の起きない栞は、部屋でゴロゴロしていた。
そんな中、突然スマホがぶるぶると鳴り始めた。どうやら着信のようである。
画面を見ればわっけーだった。
「もしもし、何よ、わっけー」
栞は手に取って応答する。
『しおりん、うちに今すぐ来るのだ』
「今すぐって……。どんだけ離れてると思ってるのよ」
『四の五の言わずに来るのだ』
「分かったわよ。すぐ行くから待っててちょうだい」
通話を切った栞は服装を整えて、母親に言って家を出た。
時間にすれば、学校に行くのと変わらない時間がかかったが、無事にわっけーの家に到着した栞。玄関ではわっけーが待ち構えていた。
「待っていたのだ、しおりん」
「まったく何よ」
「とにかく部屋に上がるのだ」
強引に栞を家へと上げるわっけー。ほとんどされるがままの栞だが、とにかく何の用か気になるので、特に抵抗はしなかった。
わっけーの部屋に入ると、そこには理恵の姿もあった。先日の騒ぎの結果、わっけーの家に居候する事になったから、居るのは当然である。
「栞ちゃん、こんにちは」
「うん、こんにちは、理恵ちゃん」
居るという話は聞いていたが、実際に見ると戸惑う栞だった。
わっけーは椅子に座り、目の前のパソコンを触っている。一体何をしているというのだろうか。
「このわっけー様から逃げられると思うななのだ!」
そんな事を呟きながら、わっけーはパソコンで何かを操作している。まったく、こんなキャラだったっけと思わされる光景だった。
パソコンの画面には何やら地図と思しきものが映し出され、何やら光が点滅している。
「わっけー、これってまさか……」
「その通り、あの一瞬だけど、発信機を取り付けてやったのだ。どこに仕掛けたかは内緒なのだ」
呆れたものである。やはり癖のある性格の持ち主は、思わぬ事をやってくれるものだった。
「これはまぁぱぱにも伝えてあるし、おそらくは手を回していると思うのだ。りぃぱぱ、逃げられると思うななのだ」
わっけーが過去一番の悪い顔をしていた。
「ごめんなさい、私のお父さんのせいで……」
「りぃは悪くないのだ。悪いのはりぃぱぱなのだ」
謝る理恵を、わっけーは責める事はなかった。当然ながら、栞もそんな気はないので、黙って理恵を慰めていた。悪いのは理恵の父親であるレオンであり、理恵には全く責任がないのだから。
「とりあえずゆっくり動いているから、まだ気づかれていないと思うのだ。まぁぱぱにも連絡を入れておかないといけないのだ」
わっけーはそう言うと、スマホを取り出そうとしている。
「わっけー、私から連絡するわよ。私の事情知ってるでしょう?」
「うん? ……分かったのだ、しおりん」
それを制止して、栞が水崎警部へと電話をする。その二人を見て、理恵は驚きを隠せなかった。何といっても話している内容がまったく理解できなかったのだから。
「りぃ、全部が落ち着いたら話すから、今は何も聞かないでほしい」
「う、うん……」
わっけーが真剣な表情で理恵に話し掛けると、理恵は雰囲気に飲まれたのか、こくりと頷いたのだった。
「わっけー、代わってだってさ」
「ほいきた」
電話をしていた栞が、スマホをわっけーに渡す。すると、わっけーはパソコンのモニターを目の前にして座ると、水崎警部と事細かに話をし始めたのだった。その会話は専門的な言葉も混ざっていて、栞ですらも理解しきれなかった。
その話の間、栞は理恵の気を紛らわせるために適当な話題で話をしていたのだった。
しばらくすると、ようやくわっけーは通話を切っていた。
「よし、大体は話し終えたのだ。あとの事は全部警察任せになるけど、まあそこは仕方ないのだ」
そう言いながら、わっけーは栞にスマホを返していた。
理恵は気が付かなかったかも知れないが、この時のわっけーはどこか悲しそうな表情を浮かべていた。おそらくはこれで自分の慕っていたおじの無念を晴らせると感じたからなのだろう。そう感じた栞は、わっけーに掛ける言葉を見つけられなかった。ただただ無言でスマホを受け取る事しかできなかったのである。
わっけーの機転によって、事態は動くのだろうか。今後は警察の動き次第となった。
無事にレオンが捕まるように、栞は祈るような気持ちになったのだった。
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