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第147話 対峙の時
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その日の夜、浦見市郊外の廃工場に一つの人影が立っていた。
「なんや、トラの奴。こないな時に報告があるとか言いおってからに。しょぼいようやったらバラさなあかんよなぁ?」
それはレオンだった。仕事が終わった後なのか、自家用車で乗り付けていた。
「まったく、今は忙しいっちゅうに……。ホンマ、四方津の連中ってのは分からん奴ばかりやわ」
頭をぼりぼり掻きながら、レオンは待ち合わせ場所となった廃工場の事務所へと入っていく。
廃工場ながらも電気はいまだに通っており、事務所は煌々とした明かりがついている。本来なら警戒すべきような事項ではあるものの、レオンは散々ここを使ってきているので何とも思わなかった。
レオンが部屋に入ると、そこにはトラこと四方津義人がでんと座って待ち構えていた。
「よう、トラ。ここに俺を呼びつけたっちゅう事は、ヤマぁ片付けてきたんやろな?」
首を少し後ろに傾け、見下すような態度を取りながらレオンが確認をしてくる。だが、義人は開いた脚の膝に手を置いて黙り込んでいた。その態度にレオンは少し眉をひそめている。
「……なんやぁ? 言いたい事があるんならはっきり言えや。トラ名乗とるくせに、猫みたいなやっちゃなあ……」
沈黙する義人に、イラつきを見せるレオン。
だが、これは作戦だった。
レオンを怒らせて冷静な判断を奪わせるという作戦だ。なぜこんな事をするのか。
「……レオン、お前はもう終わりだよ」
「……なんやと?」
義人がぽつりと呟くと、レオンが青筋を立てる。
次の瞬間だった。
カッと事務所の部屋に向けて明かりが照らされたのである。アニメとかで見るような強烈なライトが照射されたのだ。
「トラぁ? お前、裏切りよったな?」
「……最初からお前の味方なんかじゃなかったんだよ。俺は常に兄貴と一緒にある」
「おおん?」
怒りを湛えながら、レオンはトラを睨みつける。
「レオン、お前は終わりだよ。俺の呼び出しに一人でのこの事やって来た事を後悔するんだな」
「トラぁ!」
レオンは激昂して、懐に手が伸びる。だが、そこへ予想外な場所から何かが飛んできた。
「でりゃぁっ!」
その何かの攻撃は、的確にレオンの腕を蹴り飛ばしていた。天井からの勢いの乗った蹴りは、いくら軽いとはいっても相当な威力である。
「ぐわっ!」
レオンが声を上げて痛がっている。
「これ以上、理恵ちゃんに悲しい思いはさせたくないからね。遠慮なくやらせてもらうわよ!」
「この、アマぁ!」
飛び出してきたのは栞だった。その栞に対して、冷静さを失ったレオンは殴り掛かろうとしている。
「甘いわねっ!」
だが、栞は冷静だった。レオンの拳を躱して、その回転を利用してレオンの首筋に蹴りを食らわせていた。
「かはっ!」
かなり効いているようだが、それでもレオンは気を失わないし、倒れない。逆にこの一撃に冷静さを取り戻して、懐に手を伸ばしていた。
「動くなっ!」
レオンの手が懐にしまった何かに届く前に、入口の扉が勢いよく開いて警察官たちが飛び込んできた。真ん中には水崎警部が立っている。
「はっ、なんや刑事さんらか。何の用やねん」
「阿藤玲央、いや、レオン・アトゥール。建造物侵入の現行犯で逮捕する」
余裕ぶっているレオンに対して、水崎警部はそう言い放つ。すると、レオンの顔色が少し悪くなった感じがした。
「はっ、何を言うてるんや。俺に言うんやったら、こいつらかて……」
レオンはそう言いながら、水崎警部の顔を見る。そして、何かに気が付いた。
「……そういう事かいな」
自分が置かれている状況を、レオンは改めて把握した。
そう、トラに嵌められたのだ。今さらながらに気が付くとは、なんともうかつだった。しかし、この状況になってもレオンはまったく諦める様子はなかった。
「はっ! かかってもうたんはしゃーないけど」
レオンは体を震わせ始める。
「お前らを皆殺しにすりゃあ、問題はないな?」
舌をべろりと出しながら、不気味に微笑むレオン。
「さっきは油断してたが、この俺を簡単に止めれる思うてんなら、甘いっちゅうもんやで?」
この時のレオンの表情に、若手の警察官たちが一気に飲まれてしまう。そのくらいおぞましい雰囲気を放っていたのだ。
再び懐の中へと手を伸ばすレオンだったが、またもや予想外なところから妨害が入る。
「あたっ!」
何かが勢いよくぶつかったのだ。
「くそっ、今度はなんやねん!」
「はーっはっはっはっ! 観念するのだ、りぃぱぱ!」
外から響いてくるのはわっけーの声だった。よく見ると、トントンと黄色い物体を地面で弾ませていた。……硬式テニスのボールである。
なんと、外から2階にある事務所の中へとテニスボールを打ち込んでいるのだ。わっけーの能力をもってすれば、このくらいは余裕なようである。
なんとも予想外な妨害を食らいまくったレオンは、その体を激しく震わせている。
「どいつもこいつも舐め腐りおって! 俺一人や言うたかて、はいそうですかと捕まると思うとるんか!」
レオンはおとなしく応じるつもりはないようである。
「来いや! 狂犬レオン様の実力、ここに見せてやろうやないか!」
あくまでも強気に挑発するレオン。廃工場の事務所の中は、異様な雰囲気に包まれていったのだった。
「なんや、トラの奴。こないな時に報告があるとか言いおってからに。しょぼいようやったらバラさなあかんよなぁ?」
それはレオンだった。仕事が終わった後なのか、自家用車で乗り付けていた。
「まったく、今は忙しいっちゅうに……。ホンマ、四方津の連中ってのは分からん奴ばかりやわ」
頭をぼりぼり掻きながら、レオンは待ち合わせ場所となった廃工場の事務所へと入っていく。
廃工場ながらも電気はいまだに通っており、事務所は煌々とした明かりがついている。本来なら警戒すべきような事項ではあるものの、レオンは散々ここを使ってきているので何とも思わなかった。
レオンが部屋に入ると、そこにはトラこと四方津義人がでんと座って待ち構えていた。
「よう、トラ。ここに俺を呼びつけたっちゅう事は、ヤマぁ片付けてきたんやろな?」
首を少し後ろに傾け、見下すような態度を取りながらレオンが確認をしてくる。だが、義人は開いた脚の膝に手を置いて黙り込んでいた。その態度にレオンは少し眉をひそめている。
「……なんやぁ? 言いたい事があるんならはっきり言えや。トラ名乗とるくせに、猫みたいなやっちゃなあ……」
沈黙する義人に、イラつきを見せるレオン。
だが、これは作戦だった。
レオンを怒らせて冷静な判断を奪わせるという作戦だ。なぜこんな事をするのか。
「……レオン、お前はもう終わりだよ」
「……なんやと?」
義人がぽつりと呟くと、レオンが青筋を立てる。
次の瞬間だった。
カッと事務所の部屋に向けて明かりが照らされたのである。アニメとかで見るような強烈なライトが照射されたのだ。
「トラぁ? お前、裏切りよったな?」
「……最初からお前の味方なんかじゃなかったんだよ。俺は常に兄貴と一緒にある」
「おおん?」
怒りを湛えながら、レオンはトラを睨みつける。
「レオン、お前は終わりだよ。俺の呼び出しに一人でのこの事やって来た事を後悔するんだな」
「トラぁ!」
レオンは激昂して、懐に手が伸びる。だが、そこへ予想外な場所から何かが飛んできた。
「でりゃぁっ!」
その何かの攻撃は、的確にレオンの腕を蹴り飛ばしていた。天井からの勢いの乗った蹴りは、いくら軽いとはいっても相当な威力である。
「ぐわっ!」
レオンが声を上げて痛がっている。
「これ以上、理恵ちゃんに悲しい思いはさせたくないからね。遠慮なくやらせてもらうわよ!」
「この、アマぁ!」
飛び出してきたのは栞だった。その栞に対して、冷静さを失ったレオンは殴り掛かろうとしている。
「甘いわねっ!」
だが、栞は冷静だった。レオンの拳を躱して、その回転を利用してレオンの首筋に蹴りを食らわせていた。
「かはっ!」
かなり効いているようだが、それでもレオンは気を失わないし、倒れない。逆にこの一撃に冷静さを取り戻して、懐に手を伸ばしていた。
「動くなっ!」
レオンの手が懐にしまった何かに届く前に、入口の扉が勢いよく開いて警察官たちが飛び込んできた。真ん中には水崎警部が立っている。
「はっ、なんや刑事さんらか。何の用やねん」
「阿藤玲央、いや、レオン・アトゥール。建造物侵入の現行犯で逮捕する」
余裕ぶっているレオンに対して、水崎警部はそう言い放つ。すると、レオンの顔色が少し悪くなった感じがした。
「はっ、何を言うてるんや。俺に言うんやったら、こいつらかて……」
レオンはそう言いながら、水崎警部の顔を見る。そして、何かに気が付いた。
「……そういう事かいな」
自分が置かれている状況を、レオンは改めて把握した。
そう、トラに嵌められたのだ。今さらながらに気が付くとは、なんともうかつだった。しかし、この状況になってもレオンはまったく諦める様子はなかった。
「はっ! かかってもうたんはしゃーないけど」
レオンは体を震わせ始める。
「お前らを皆殺しにすりゃあ、問題はないな?」
舌をべろりと出しながら、不気味に微笑むレオン。
「さっきは油断してたが、この俺を簡単に止めれる思うてんなら、甘いっちゅうもんやで?」
この時のレオンの表情に、若手の警察官たちが一気に飲まれてしまう。そのくらいおぞましい雰囲気を放っていたのだ。
再び懐の中へと手を伸ばすレオンだったが、またもや予想外なところから妨害が入る。
「あたっ!」
何かが勢いよくぶつかったのだ。
「くそっ、今度はなんやねん!」
「はーっはっはっはっ! 観念するのだ、りぃぱぱ!」
外から響いてくるのはわっけーの声だった。よく見ると、トントンと黄色い物体を地面で弾ませていた。……硬式テニスのボールである。
なんと、外から2階にある事務所の中へとテニスボールを打ち込んでいるのだ。わっけーの能力をもってすれば、このくらいは余裕なようである。
なんとも予想外な妨害を食らいまくったレオンは、その体を激しく震わせている。
「どいつもこいつも舐め腐りおって! 俺一人や言うたかて、はいそうですかと捕まると思うとるんか!」
レオンはおとなしく応じるつもりはないようである。
「来いや! 狂犬レオン様の実力、ここに見せてやろうやないか!」
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