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第145話 焦りの兄弟
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水崎警部が同行を求めた看護師は、結局そのまま殺人未遂で逮捕となった。動機などの解明は始まったばかりだが、教頭が危険な状態にあるのは変わりはなかった。ひとまず懸命の治療が進められる事になった。
部下に看護師の見張りを頼んだ水崎警部は、すぐさま校長と連絡を取った。
すると、校長はこの事態も予測していたのか冷静な反応を示していた。本当にどこからそれだけの情報を集めてくるのか、本当に得体の知れない人物である。
「捕まった看護師は、四方津組の人間だよ」
いつもの飲食店であった校長は、水崎警部にそう告げた。容姿も名前も何も伝えていない状況なのに、それを告げたのだ。
「昨日だけどね、連絡があったんだ。四方津組の人間の一部には、いまだに連絡先を消していない連中が居るからな。ちなみに、その看護師は当時の四方津組のメンバーの娘さんだ。おそらく両親の事をネタにゆすられたんだろう。まったく、可哀想な話だよ。思いとどまるようには言ったんだが、実行してしまうとはな……」
校長は悔しそうな顔をしながら、お茶を煽っていた。
「とはいえ、これで確定した。その子の親が、レオンと関わっているとな」
空になった湯飲みをテーブルに叩きつけるかのように置く校長。見た目には分からないが、怒りに震えているようだった。
水崎警部はかける言葉が見当たらず、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
「パスポートの準備と旅券の準備で、せいぜい残された猶予は一週間ってところだな。それまでにレオンの尻尾を掴んでやらねば、帰国を許す羽目になってしまう。……日本でやらかしてくれた事の落とし前もつけさせずに帰すのは、恥ってもんだ。そうだろう、水崎」
「え、ええ。そうですね」
「しかし……だ。恵子ちゃんだったか、彼女の協力もあってかだいぶ情報は集まったが、まだ足りないな」
「あの廃工場が商店街の会長の私物で、工場への立入の許可を出していないらしいですよ。来たところを不法侵入の現行犯っていうのが現実的でしょうが、張り込んでいたら気が付かれるでしょうしな。……まったくもどかしいものです」
校長も水崎警部も、頭を悩ませていた。それにしても、校長がこれだけ頭を悩ませるとは、やはりレオンという男は簡単にはいかないのである。
「義人を使いますか?」
「……それがいいだろうな。ちょうど看護師が騒ぎを起こしてくれたし、いい機会かも知れん」
水崎警部の提案に校長は乗っかる事にした。
水崎警部と別れた校長は、すぐさま弟の義人に連絡を入れる。
『兄貴、一体どうしたんだ』
思ったより早く電話に出た義人。
「ああ、教頭が殺されかけた」
『なんだって?』
校長が静かに告げた言葉に、義人が驚きを持って反応している。
「やられたよ。あの野郎、他にも殺しの手を回していたようだ。四方津組の親族を使ってまでな」
『……』
校長から告げられた予想もしなかった内容に、義人は言葉を失っていた。念には念をという事だろうが、これは自分が信用されていないという評価以外のなにものでもなかったのだから。
『……兄貴』
「なんだ?」
ぽつりと呟いた義人の言葉から、おぞましいまでの殺気を感じる校長。対応が電話越しで助かったものである。目の前だったら身震いをしている様を見られていたのだから。
『レオンの奴をとっ捕まえるのは、いつやるんだ?』
電話越しからも怒りがよく伝わってくる。
「水崎との調整次第だな。なにぶんいろいろ重なっちまった事もあって、あっちもあっちで忙しい。人を割くのも手厳しいだろうな」
校長はこのように言う。実際、教頭殺害未遂が起きてしまったのだ。病室内での現場検証など人手が割かれてしまうのは容易に想像がつく。ただでさえ、わっけーのおじさんの件でも人手を割いている。これ以上人が回せるのかという疑問が頭をよぎるのだ。
『……できる限り早くしてくれ。でなければ、俺があいつを殺してしまいそうだ。兄貴だって、俺を人殺しにしたくはないだろう?』
だが、さすがに今回の事には義人に衝撃を与えすぎてしまったようだった。
「それはそうだが、相手はあのレオンだ。慎重に越した事はない。数日は耐えてくれ」
『分かった。だが、守れる保証はないからな』
義人はそう言うと、電話を切ってしまった。
「やれやれ、さすがに今回の件はあいつの堪忍袋の緒が切れたか……。早まってくれるなよ、義人」
落ち着かせようとした校長だったが、電話を終えて厳しそうな表情をしていた。あまり感情的にならなかった弟が、あそこまで怒りの感情を露わにしていたのだ。心配にならない方がおかしいというものだ。
その後、校長は水崎警部ともう一度連絡を取り合い、ようやく帰路についたのだった。
迫るレオンとの最終決戦。浦見市を舞台とした、暴力団とギャングによる暗躍に終止符を打つ事ができるのだろうか。その時が刻一刻と迫りつつあった。
様々な人物の思いが交錯する中、草利中学校の噂に端を発した一連の事件は最終局面を迎える。
部下に看護師の見張りを頼んだ水崎警部は、すぐさま校長と連絡を取った。
すると、校長はこの事態も予測していたのか冷静な反応を示していた。本当にどこからそれだけの情報を集めてくるのか、本当に得体の知れない人物である。
「捕まった看護師は、四方津組の人間だよ」
いつもの飲食店であった校長は、水崎警部にそう告げた。容姿も名前も何も伝えていない状況なのに、それを告げたのだ。
「昨日だけどね、連絡があったんだ。四方津組の人間の一部には、いまだに連絡先を消していない連中が居るからな。ちなみに、その看護師は当時の四方津組のメンバーの娘さんだ。おそらく両親の事をネタにゆすられたんだろう。まったく、可哀想な話だよ。思いとどまるようには言ったんだが、実行してしまうとはな……」
校長は悔しそうな顔をしながら、お茶を煽っていた。
「とはいえ、これで確定した。その子の親が、レオンと関わっているとな」
空になった湯飲みをテーブルに叩きつけるかのように置く校長。見た目には分からないが、怒りに震えているようだった。
水崎警部はかける言葉が見当たらず、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
「パスポートの準備と旅券の準備で、せいぜい残された猶予は一週間ってところだな。それまでにレオンの尻尾を掴んでやらねば、帰国を許す羽目になってしまう。……日本でやらかしてくれた事の落とし前もつけさせずに帰すのは、恥ってもんだ。そうだろう、水崎」
「え、ええ。そうですね」
「しかし……だ。恵子ちゃんだったか、彼女の協力もあってかだいぶ情報は集まったが、まだ足りないな」
「あの廃工場が商店街の会長の私物で、工場への立入の許可を出していないらしいですよ。来たところを不法侵入の現行犯っていうのが現実的でしょうが、張り込んでいたら気が付かれるでしょうしな。……まったくもどかしいものです」
校長も水崎警部も、頭を悩ませていた。それにしても、校長がこれだけ頭を悩ませるとは、やはりレオンという男は簡単にはいかないのである。
「義人を使いますか?」
「……それがいいだろうな。ちょうど看護師が騒ぎを起こしてくれたし、いい機会かも知れん」
水崎警部の提案に校長は乗っかる事にした。
水崎警部と別れた校長は、すぐさま弟の義人に連絡を入れる。
『兄貴、一体どうしたんだ』
思ったより早く電話に出た義人。
「ああ、教頭が殺されかけた」
『なんだって?』
校長が静かに告げた言葉に、義人が驚きを持って反応している。
「やられたよ。あの野郎、他にも殺しの手を回していたようだ。四方津組の親族を使ってまでな」
『……』
校長から告げられた予想もしなかった内容に、義人は言葉を失っていた。念には念をという事だろうが、これは自分が信用されていないという評価以外のなにものでもなかったのだから。
『……兄貴』
「なんだ?」
ぽつりと呟いた義人の言葉から、おぞましいまでの殺気を感じる校長。対応が電話越しで助かったものである。目の前だったら身震いをしている様を見られていたのだから。
『レオンの奴をとっ捕まえるのは、いつやるんだ?』
電話越しからも怒りがよく伝わってくる。
「水崎との調整次第だな。なにぶんいろいろ重なっちまった事もあって、あっちもあっちで忙しい。人を割くのも手厳しいだろうな」
校長はこのように言う。実際、教頭殺害未遂が起きてしまったのだ。病室内での現場検証など人手が割かれてしまうのは容易に想像がつく。ただでさえ、わっけーのおじさんの件でも人手を割いている。これ以上人が回せるのかという疑問が頭をよぎるのだ。
『……できる限り早くしてくれ。でなければ、俺があいつを殺してしまいそうだ。兄貴だって、俺を人殺しにしたくはないだろう?』
だが、さすがに今回の事には義人に衝撃を与えすぎてしまったようだった。
「それはそうだが、相手はあのレオンだ。慎重に越した事はない。数日は耐えてくれ」
『分かった。だが、守れる保証はないからな』
義人はそう言うと、電話を切ってしまった。
「やれやれ、さすがに今回の件はあいつの堪忍袋の緒が切れたか……。早まってくれるなよ、義人」
落ち着かせようとした校長だったが、電話を終えて厳しそうな表情をしていた。あまり感情的にならなかった弟が、あそこまで怒りの感情を露わにしていたのだ。心配にならない方がおかしいというものだ。
その後、校長は水崎警部ともう一度連絡を取り合い、ようやく帰路についたのだった。
迫るレオンとの最終決戦。浦見市を舞台とした、暴力団とギャングによる暗躍に終止符を打つ事ができるのだろうか。その時が刻一刻と迫りつつあった。
様々な人物の思いが交錯する中、草利中学校の噂に端を発した一連の事件は最終局面を迎える。
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