145 / 182
第145話 焦りの兄弟
しおりを挟む
水崎警部が同行を求めた看護師は、結局そのまま殺人未遂で逮捕となった。動機などの解明は始まったばかりだが、教頭が危険な状態にあるのは変わりはなかった。ひとまず懸命の治療が進められる事になった。
部下に看護師の見張りを頼んだ水崎警部は、すぐさま校長と連絡を取った。
すると、校長はこの事態も予測していたのか冷静な反応を示していた。本当にどこからそれだけの情報を集めてくるのか、本当に得体の知れない人物である。
「捕まった看護師は、四方津組の人間だよ」
いつもの飲食店であった校長は、水崎警部にそう告げた。容姿も名前も何も伝えていない状況なのに、それを告げたのだ。
「昨日だけどね、連絡があったんだ。四方津組の人間の一部には、いまだに連絡先を消していない連中が居るからな。ちなみに、その看護師は当時の四方津組のメンバーの娘さんだ。おそらく両親の事をネタにゆすられたんだろう。まったく、可哀想な話だよ。思いとどまるようには言ったんだが、実行してしまうとはな……」
校長は悔しそうな顔をしながら、お茶を煽っていた。
「とはいえ、これで確定した。その子の親が、レオンと関わっているとな」
空になった湯飲みをテーブルに叩きつけるかのように置く校長。見た目には分からないが、怒りに震えているようだった。
水崎警部はかける言葉が見当たらず、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
「パスポートの準備と旅券の準備で、せいぜい残された猶予は一週間ってところだな。それまでにレオンの尻尾を掴んでやらねば、帰国を許す羽目になってしまう。……日本でやらかしてくれた事の落とし前もつけさせずに帰すのは、恥ってもんだ。そうだろう、水崎」
「え、ええ。そうですね」
「しかし……だ。恵子ちゃんだったか、彼女の協力もあってかだいぶ情報は集まったが、まだ足りないな」
「あの廃工場が商店街の会長の私物で、工場への立入の許可を出していないらしいですよ。来たところを不法侵入の現行犯っていうのが現実的でしょうが、張り込んでいたら気が付かれるでしょうしな。……まったくもどかしいものです」
校長も水崎警部も、頭を悩ませていた。それにしても、校長がこれだけ頭を悩ませるとは、やはりレオンという男は簡単にはいかないのである。
「義人を使いますか?」
「……それがいいだろうな。ちょうど看護師が騒ぎを起こしてくれたし、いい機会かも知れん」
水崎警部の提案に校長は乗っかる事にした。
水崎警部と別れた校長は、すぐさま弟の義人に連絡を入れる。
『兄貴、一体どうしたんだ』
思ったより早く電話に出た義人。
「ああ、教頭が殺されかけた」
『なんだって?』
校長が静かに告げた言葉に、義人が驚きを持って反応している。
「やられたよ。あの野郎、他にも殺しの手を回していたようだ。四方津組の親族を使ってまでな」
『……』
校長から告げられた予想もしなかった内容に、義人は言葉を失っていた。念には念をという事だろうが、これは自分が信用されていないという評価以外のなにものでもなかったのだから。
『……兄貴』
「なんだ?」
ぽつりと呟いた義人の言葉から、おぞましいまでの殺気を感じる校長。対応が電話越しで助かったものである。目の前だったら身震いをしている様を見られていたのだから。
『レオンの奴をとっ捕まえるのは、いつやるんだ?』
電話越しからも怒りがよく伝わってくる。
「水崎との調整次第だな。なにぶんいろいろ重なっちまった事もあって、あっちもあっちで忙しい。人を割くのも手厳しいだろうな」
校長はこのように言う。実際、教頭殺害未遂が起きてしまったのだ。病室内での現場検証など人手が割かれてしまうのは容易に想像がつく。ただでさえ、わっけーのおじさんの件でも人手を割いている。これ以上人が回せるのかという疑問が頭をよぎるのだ。
『……できる限り早くしてくれ。でなければ、俺があいつを殺してしまいそうだ。兄貴だって、俺を人殺しにしたくはないだろう?』
だが、さすがに今回の事には義人に衝撃を与えすぎてしまったようだった。
「それはそうだが、相手はあのレオンだ。慎重に越した事はない。数日は耐えてくれ」
『分かった。だが、守れる保証はないからな』
義人はそう言うと、電話を切ってしまった。
「やれやれ、さすがに今回の件はあいつの堪忍袋の緒が切れたか……。早まってくれるなよ、義人」
落ち着かせようとした校長だったが、電話を終えて厳しそうな表情をしていた。あまり感情的にならなかった弟が、あそこまで怒りの感情を露わにしていたのだ。心配にならない方がおかしいというものだ。
その後、校長は水崎警部ともう一度連絡を取り合い、ようやく帰路についたのだった。
迫るレオンとの最終決戦。浦見市を舞台とした、暴力団とギャングによる暗躍に終止符を打つ事ができるのだろうか。その時が刻一刻と迫りつつあった。
様々な人物の思いが交錯する中、草利中学校の噂に端を発した一連の事件は最終局面を迎える。
部下に看護師の見張りを頼んだ水崎警部は、すぐさま校長と連絡を取った。
すると、校長はこの事態も予測していたのか冷静な反応を示していた。本当にどこからそれだけの情報を集めてくるのか、本当に得体の知れない人物である。
「捕まった看護師は、四方津組の人間だよ」
いつもの飲食店であった校長は、水崎警部にそう告げた。容姿も名前も何も伝えていない状況なのに、それを告げたのだ。
「昨日だけどね、連絡があったんだ。四方津組の人間の一部には、いまだに連絡先を消していない連中が居るからな。ちなみに、その看護師は当時の四方津組のメンバーの娘さんだ。おそらく両親の事をネタにゆすられたんだろう。まったく、可哀想な話だよ。思いとどまるようには言ったんだが、実行してしまうとはな……」
校長は悔しそうな顔をしながら、お茶を煽っていた。
「とはいえ、これで確定した。その子の親が、レオンと関わっているとな」
空になった湯飲みをテーブルに叩きつけるかのように置く校長。見た目には分からないが、怒りに震えているようだった。
水崎警部はかける言葉が見当たらず、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
「パスポートの準備と旅券の準備で、せいぜい残された猶予は一週間ってところだな。それまでにレオンの尻尾を掴んでやらねば、帰国を許す羽目になってしまう。……日本でやらかしてくれた事の落とし前もつけさせずに帰すのは、恥ってもんだ。そうだろう、水崎」
「え、ええ。そうですね」
「しかし……だ。恵子ちゃんだったか、彼女の協力もあってかだいぶ情報は集まったが、まだ足りないな」
「あの廃工場が商店街の会長の私物で、工場への立入の許可を出していないらしいですよ。来たところを不法侵入の現行犯っていうのが現実的でしょうが、張り込んでいたら気が付かれるでしょうしな。……まったくもどかしいものです」
校長も水崎警部も、頭を悩ませていた。それにしても、校長がこれだけ頭を悩ませるとは、やはりレオンという男は簡単にはいかないのである。
「義人を使いますか?」
「……それがいいだろうな。ちょうど看護師が騒ぎを起こしてくれたし、いい機会かも知れん」
水崎警部の提案に校長は乗っかる事にした。
水崎警部と別れた校長は、すぐさま弟の義人に連絡を入れる。
『兄貴、一体どうしたんだ』
思ったより早く電話に出た義人。
「ああ、教頭が殺されかけた」
『なんだって?』
校長が静かに告げた言葉に、義人が驚きを持って反応している。
「やられたよ。あの野郎、他にも殺しの手を回していたようだ。四方津組の親族を使ってまでな」
『……』
校長から告げられた予想もしなかった内容に、義人は言葉を失っていた。念には念をという事だろうが、これは自分が信用されていないという評価以外のなにものでもなかったのだから。
『……兄貴』
「なんだ?」
ぽつりと呟いた義人の言葉から、おぞましいまでの殺気を感じる校長。対応が電話越しで助かったものである。目の前だったら身震いをしている様を見られていたのだから。
『レオンの奴をとっ捕まえるのは、いつやるんだ?』
電話越しからも怒りがよく伝わってくる。
「水崎との調整次第だな。なにぶんいろいろ重なっちまった事もあって、あっちもあっちで忙しい。人を割くのも手厳しいだろうな」
校長はこのように言う。実際、教頭殺害未遂が起きてしまったのだ。病室内での現場検証など人手が割かれてしまうのは容易に想像がつく。ただでさえ、わっけーのおじさんの件でも人手を割いている。これ以上人が回せるのかという疑問が頭をよぎるのだ。
『……できる限り早くしてくれ。でなければ、俺があいつを殺してしまいそうだ。兄貴だって、俺を人殺しにしたくはないだろう?』
だが、さすがに今回の事には義人に衝撃を与えすぎてしまったようだった。
「それはそうだが、相手はあのレオンだ。慎重に越した事はない。数日は耐えてくれ」
『分かった。だが、守れる保証はないからな』
義人はそう言うと、電話を切ってしまった。
「やれやれ、さすがに今回の件はあいつの堪忍袋の緒が切れたか……。早まってくれるなよ、義人」
落ち着かせようとした校長だったが、電話を終えて厳しそうな表情をしていた。あまり感情的にならなかった弟が、あそこまで怒りの感情を露わにしていたのだ。心配にならない方がおかしいというものだ。
その後、校長は水崎警部ともう一度連絡を取り合い、ようやく帰路についたのだった。
迫るレオンとの最終決戦。浦見市を舞台とした、暴力団とギャングによる暗躍に終止符を打つ事ができるのだろうか。その時が刻一刻と迫りつつあった。
様々な人物の思いが交錯する中、草利中学校の噂に端を発した一連の事件は最終局面を迎える。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる