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第144話 新たな事件
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週末の作戦決行を前に事件が起きる。
それは教頭が入院している病院での事だった。
「きゃああっ!!」
看護師の叫び声が響き渡る。
「どうした!」
医師がすぐに駆け付ける。するとそこで見たものは、血を流して倒れる教頭の姿だった。
「一体何がどうしたんだ?」
駆け寄った医師がすぐに容態を確認する。血を流している場所が頭である以上、下手に動かすのは危険だ。教頭を動かさずに、素早く頸動脈に指を当てる。
「ふぅ……、脈はあるみたいだ、生きている」
次に口に手をかざすと呼吸も確認できたので、どうやら床に落ちて頭を打ったと考えられる。
しかし、医師は不可解な事にすぐ気が付いた。
それは何か。この教頭がベッドに縛り付けられていたという事実だ。
麻薬の中毒症状の真っ只中である教頭は、暴れる危険性が高いからとベッドに縛り付けられていた。つまり、ベッドから体だけが落っこちるという事はまず考えられなかった。それならば、ベッドごとこけるか、拘束部分に何かしらの破壊された跡が見られなければならない。
だが、拘束具に損傷の形跡はない。そのすべてがきれいに外されていたのだ。
つまり、ここにやって来た誰かが、故意に拘束具を全部外したという事になる。
「これは……実に面倒な事になった。すぐに他の医師と水崎警部を呼んでくれ」
「は、はい。承知致しました」
看護師が走って部屋を出ていく。医師も教頭を助けるべく行動を開始する。
(この男だけは死なせるわけにはいかないからな。下手に動かせないからには、ここで処置をするしかない)
医師が教頭を助けようとするのは、何も水崎警部との約束だけだからではない。医師としての使命感があるからだ。そこに助けられる命があるのなら、全力投入してしまうのである。
一刻を争う状況に、医師は応援が駆け付けるまで一人で頑張り続けた。
「確かにこれは不自然ですな」
病院に駆け付けた水崎警部は、現場検証をしながらそう呟いていた。
ちなみに教頭は、止血を施された後、集中治療のために病室を移動になった。
「警部、外部からの侵入形跡はないようです」
病室内を調べていた警察官が報告する。
場所が場所ゆえに、捜査にあたっている警察官は最少人数だ。狭い場所ゆえに、それほど人が入れるわけがないのである。
「そうか……。ならば、犯人はこの正規の扉を使って入ってきたというわけか。ここは隔離病棟だから、訪問者の記録は全部ありますな?」
「はい、ございます」
水崎警部の問い掛けに、呼びされた事務員が答えている。すぐさま水崎警部はそれを持ってくるように言うと、事務員は大慌てで事務室へと移動していった。
今回の事件は病院内で起きたがために、事務員たちだって容疑者なのだ。彼だって疑いを掛けられたくないからこそ、精一杯に協力しているというわけなのである。
第一、この教頭が入院しているという情報は秘匿されている情報だ。それゆえに知る者は少ない。こんな事をやらかすとなれば、内部犯が真っ先に疑われるのである。
(発作的な犯行というわけでもないだろうな。こんなにきれいに外せるとなれば、慌てていては難しいはずだからな)
現場の状況を確認しながら、水崎警部はそう考えていた。
拘束具の指紋も取り終わり、もう一度現場検証へと戻る水崎警部。その時、とんでもない事に気が付いてしまった。
「なあ、教頭はいつも寝ている時、どの方向に頭を置いていた?」
水崎警部の問い掛けに、現場に居た医師や看護師、それと事務員が反応して水崎警部に視線が集中する。
「えっと、ベッドの位置と向きを考えれば、この向きで……あれ?」
説明に入った看護師も違和感に気が付いた。
「おかしいですね。体が起こせるような状態ではなかったですから、そのままベッドから落ちて頭を打ち付けたとすると、血痕の位置がおかしすぎます」
そう、ベッドの向きからして、教頭の頭の位置は壁側にあったはずである。ところが、落ちて血が出ている位置を考えると、その状況は明らかにおかしかった。
それに、教頭が倒れていた体位もおかしい。ベッドから出ようとして落ちたとするならば、普通は横向きか俯せになるはずだ。しかも、頭の位置は少し体の下の方向に移動する。だが、実際のところはそのまま横移動したかのような位置で、仰向けで発見されていた。
そうなると、考えられる犯人像がおのずと浮かび上がってきたのだ。
「第一発見者の看護師を呼んできてくれ」
「はい!」
水崎警部は結論を出すと、部下にそう命じた。
しばらくすると、部下の警察官が第一発見者の看護師を連れて戻ってきた。彼女の表情は青ざめていて、とても話ができるような状態ではない。
だが、水崎警部はその看護師へと容赦なく近付いていく。
「さて、君が呼ばれた理由は分かっているな?」
その問い掛けに、看護師はふるふると首を横に振る。
その態度に、「そうか」と呟く水崎警部。
「とりあえず、署まで同行願おうか」
水崎警部が声を掛けると、これには小さく頷いた看護師だった。
夜の病院で一体何が起きたというのだろうか。事態は混迷を極めていく……。
それは教頭が入院している病院での事だった。
「きゃああっ!!」
看護師の叫び声が響き渡る。
「どうした!」
医師がすぐに駆け付ける。するとそこで見たものは、血を流して倒れる教頭の姿だった。
「一体何がどうしたんだ?」
駆け寄った医師がすぐに容態を確認する。血を流している場所が頭である以上、下手に動かすのは危険だ。教頭を動かさずに、素早く頸動脈に指を当てる。
「ふぅ……、脈はあるみたいだ、生きている」
次に口に手をかざすと呼吸も確認できたので、どうやら床に落ちて頭を打ったと考えられる。
しかし、医師は不可解な事にすぐ気が付いた。
それは何か。この教頭がベッドに縛り付けられていたという事実だ。
麻薬の中毒症状の真っ只中である教頭は、暴れる危険性が高いからとベッドに縛り付けられていた。つまり、ベッドから体だけが落っこちるという事はまず考えられなかった。それならば、ベッドごとこけるか、拘束部分に何かしらの破壊された跡が見られなければならない。
だが、拘束具に損傷の形跡はない。そのすべてがきれいに外されていたのだ。
つまり、ここにやって来た誰かが、故意に拘束具を全部外したという事になる。
「これは……実に面倒な事になった。すぐに他の医師と水崎警部を呼んでくれ」
「は、はい。承知致しました」
看護師が走って部屋を出ていく。医師も教頭を助けるべく行動を開始する。
(この男だけは死なせるわけにはいかないからな。下手に動かせないからには、ここで処置をするしかない)
医師が教頭を助けようとするのは、何も水崎警部との約束だけだからではない。医師としての使命感があるからだ。そこに助けられる命があるのなら、全力投入してしまうのである。
一刻を争う状況に、医師は応援が駆け付けるまで一人で頑張り続けた。
「確かにこれは不自然ですな」
病院に駆け付けた水崎警部は、現場検証をしながらそう呟いていた。
ちなみに教頭は、止血を施された後、集中治療のために病室を移動になった。
「警部、外部からの侵入形跡はないようです」
病室内を調べていた警察官が報告する。
場所が場所ゆえに、捜査にあたっている警察官は最少人数だ。狭い場所ゆえに、それほど人が入れるわけがないのである。
「そうか……。ならば、犯人はこの正規の扉を使って入ってきたというわけか。ここは隔離病棟だから、訪問者の記録は全部ありますな?」
「はい、ございます」
水崎警部の問い掛けに、呼びされた事務員が答えている。すぐさま水崎警部はそれを持ってくるように言うと、事務員は大慌てで事務室へと移動していった。
今回の事件は病院内で起きたがために、事務員たちだって容疑者なのだ。彼だって疑いを掛けられたくないからこそ、精一杯に協力しているというわけなのである。
第一、この教頭が入院しているという情報は秘匿されている情報だ。それゆえに知る者は少ない。こんな事をやらかすとなれば、内部犯が真っ先に疑われるのである。
(発作的な犯行というわけでもないだろうな。こんなにきれいに外せるとなれば、慌てていては難しいはずだからな)
現場の状況を確認しながら、水崎警部はそう考えていた。
拘束具の指紋も取り終わり、もう一度現場検証へと戻る水崎警部。その時、とんでもない事に気が付いてしまった。
「なあ、教頭はいつも寝ている時、どの方向に頭を置いていた?」
水崎警部の問い掛けに、現場に居た医師や看護師、それと事務員が反応して水崎警部に視線が集中する。
「えっと、ベッドの位置と向きを考えれば、この向きで……あれ?」
説明に入った看護師も違和感に気が付いた。
「おかしいですね。体が起こせるような状態ではなかったですから、そのままベッドから落ちて頭を打ち付けたとすると、血痕の位置がおかしすぎます」
そう、ベッドの向きからして、教頭の頭の位置は壁側にあったはずである。ところが、落ちて血が出ている位置を考えると、その状況は明らかにおかしかった。
それに、教頭が倒れていた体位もおかしい。ベッドから出ようとして落ちたとするならば、普通は横向きか俯せになるはずだ。しかも、頭の位置は少し体の下の方向に移動する。だが、実際のところはそのまま横移動したかのような位置で、仰向けで発見されていた。
そうなると、考えられる犯人像がおのずと浮かび上がってきたのだ。
「第一発見者の看護師を呼んできてくれ」
「はい!」
水崎警部は結論を出すと、部下にそう命じた。
しばらくすると、部下の警察官が第一発見者の看護師を連れて戻ってきた。彼女の表情は青ざめていて、とても話ができるような状態ではない。
だが、水崎警部はその看護師へと容赦なく近付いていく。
「さて、君が呼ばれた理由は分かっているな?」
その問い掛けに、看護師はふるふると首を横に振る。
その態度に、「そうか」と呟く水崎警部。
「とりあえず、署まで同行願おうか」
水崎警部が声を掛けると、これには小さく頷いた看護師だった。
夜の病院で一体何が起きたというのだろうか。事態は混迷を極めていく……。
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