ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
144 / 182

第144話 新たな事件

しおりを挟む
 週末の作戦決行を前に事件が起きる。
 それは教頭が入院している病院での事だった。
「きゃああっ!!」
 看護師の叫び声が響き渡る。
「どうした!」
 医師がすぐに駆け付ける。するとそこで見たものは、血を流して倒れる教頭の姿だった。
「一体何がどうしたんだ?」
 駆け寄った医師がすぐに容態を確認する。血を流している場所が頭である以上、下手に動かすのは危険だ。教頭を動かさずに、素早く頸動脈に指を当てる。
「ふぅ……、脈はあるみたいだ、生きている」
 次に口に手をかざすと呼吸も確認できたので、どうやら床に落ちて頭を打ったと考えられる。
 しかし、医師は不可解な事にすぐ気が付いた。
 それは何か。この教頭がベッドに縛り付けられていたという事実だ。
 麻薬の中毒症状の真っ只中である教頭は、暴れる危険性が高いからとベッドに縛り付けられていた。つまり、ベッドから体だけが落っこちるという事はまず考えられなかった。それならば、ベッドごとこけるか、拘束部分に何かしらの破壊された跡が見られなければならない。
 だが、拘束具に損傷の形跡はない。そののだ。
 つまり、ここにやって来た誰かが、故意に拘束具を全部外したという事になる。
「これは……実に面倒な事になった。すぐに他の医師と水崎警部を呼んでくれ」
「は、はい。承知致しました」
 看護師が走って部屋を出ていく。医師も教頭を助けるべく行動を開始する。
(この男だけは死なせるわけにはいかないからな。下手に動かせないからには、ここで処置をするしかない)
 医師が教頭を助けようとするのは、何も水崎警部との約束だけだからではない。医師としての使命感があるからだ。そこに助けられる命があるのなら、全力投入してしまうのである。
 一刻を争う状況に、医師は応援が駆け付けるまで一人で頑張り続けた。

「確かにこれは不自然ですな」
 病院に駆け付けた水崎警部は、現場検証をしながらそう呟いていた。
 ちなみに教頭は、止血を施された後、集中治療のために病室を移動になった。
「警部、外部からの侵入形跡はないようです」
 病室内を調べていた警察官が報告する。
 場所が場所ゆえに、捜査にあたっている警察官は最少人数だ。狭い場所ゆえに、それほど人が入れるわけがないのである。
「そうか……。ならば、犯人はこの正規の扉を使って入ってきたというわけか。ここは隔離病棟だから、訪問者の記録は全部ありますな?」
「はい、ございます」
 水崎警部の問い掛けに、呼びされた事務員が答えている。すぐさま水崎警部はそれを持ってくるように言うと、事務員は大慌てで事務室へと移動していった。
 今回の事件は病院内で起きたがために、事務員たちだって容疑者なのだ。彼だって疑いを掛けられたくないからこそ、精一杯に協力しているというわけなのである。
 第一、この教頭が入院しているという情報は秘匿されている情報だ。それゆえに知る者は少ない。こんな事をやらかすとなれば、内部犯が真っ先に疑われるのである。
(発作的な犯行というわけでもないだろうな。こんなにきれいに外せるとなれば、慌てていては難しいはずだからな)
 現場の状況を確認しながら、水崎警部はそう考えていた。
 拘束具の指紋も取り終わり、もう一度現場検証へと戻る水崎警部。その時、とんでもない事に気が付いてしまった。
「なあ、教頭はいつも寝ている時、どの方向に頭を置いていた?」
 水崎警部の問い掛けに、現場に居た医師や看護師、それと事務員が反応して水崎警部に視線が集中する。
「えっと、ベッドの位置と向きを考えれば、この向きで……あれ?」
 説明に入った看護師も違和感に気が付いた。
「おかしいですね。体が起こせるような状態ではなかったですから、そのままベッドから落ちて頭を打ち付けたとすると、血痕の位置がおかしすぎます」
 そう、ベッドの向きからして、教頭の頭の位置は壁側にあったはずである。ところが、落ちて血が出ている位置を考えると、その状況は明らかにおかしかった。
 それに、教頭が倒れていた体位もおかしい。ベッドから出ようとして落ちたとするならば、普通は横向きか俯せになるはずだ。しかも、頭の位置は少し体の下の方向に移動する。だが、実際のところはそのまま横移動したかのような位置で、仰向けで発見されていた。
 そうなると、考えられる犯人像がおのずと浮かび上がってきたのだ。
「第一発見者の看護師を呼んできてくれ」
「はい!」
 水崎警部は結論を出すと、部下にそう命じた。
 しばらくすると、部下の警察官が第一発見者の看護師を連れて戻ってきた。彼女の表情は青ざめていて、とても話ができるような状態ではない。
 だが、水崎警部はその看護師へと容赦なく近付いていく。
「さて、君が呼ばれた理由は分かっているな?」
 その問い掛けに、看護師はふるふると首を横に振る。
 その態度に、「そうか」と呟く水崎警部。
「とりあえず、署まで同行願おうか」
 水崎警部が声を掛けると、これには小さく頷いた看護師だった。
 夜の病院で一体何が起きたというのだろうか。事態は混迷を極めていく……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

黄龍国仙星譚 ~仙の絵師は遙かな運命に巡り逢う~

神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
黄龍国に住む莉美は、絵師として致命的な欠陥を持っている。 それは、右手で描いた絵が生命を持って抜け出してしまうというものだ。 そんなある日、住み込み先で思いを寄せていた若旦那が、莉美に優しい理由を金儲けの道具だからだと思っていることを知る。 悔しくてがむしゃらに走っているうちに、ひょんなことから手に持っていた絵から化け物が生まれてしまい、それが街を襲ってしまう。 その化け物をたった一本の矢で倒したのは、城主のぼんくらと呼ばれる息子で――。 悩みを抱える少女×秘密をもった青年が 国をも動かしていく幻想中華風物語。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想執筆:2022年、改稿投稿:2024年

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

宝石ランチを召し上がれ~子犬のマスターは、今日も素敵な時間を振る舞う~

櫛田こころ
キャラ文芸
久乃木柘榴(くのぎ ざくろ)の手元には、少し変わった形見がある。 小学六年のときに、病死した母の実家に伝わるおとぎ話。しゃべる犬と変わった人形が『宝石のご飯』を作って、お客さんのお悩みを解決していく喫茶店のお話。代々伝わるという、そのおとぎ話をもとに。柘榴は母と最後の自由研究で『絵本』を作成した。それが、少し変わった母の形見だ。 それを大切にしながら過ごし、高校生まで進級はしたが。母の喪失感をずっと抱えながら生きていくのがどこか辛かった。 父との関係も、交友も希薄になりがち。改善しようと思うと、母との思い出をきっかけに『終わる関係』へと行き着いてしまう。 それでも前を向こうと思ったのか、育った地元に赴き、母と過ごした病院に向かってみたのだが。 建物は病院どころかこじんまりとした喫茶店。中に居たのは、中年男性の声で話すトイプードルが柘榴を優しく出迎えてくれた。 さらに、柘榴がいつのまにか持っていた変わった形の石の正体のせいで。柘榴自身が『死人』であることが判明。 本の中の世界ではなく、現在とずれた空間にあるお悩み相談も兼ねた喫茶店の存在。 死人から生き返れるかを依頼した主人公・柘榴が人外と人間との絆を紡いでいくほっこりストーリー。

閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~

小花はな
キャラ文芸
 ――ここは冥土。天国と地獄の間。  気がついたらそこで閻魔様の裁判を受けていていた桃花は、急速に感じた空腹に耐えかね、あろうことか閻魔様のご飯を食べてしまう!  けれど怒られるどころか、美形の閻魔様に気に入られた上に、なぜか彼の宮殿で暮らすことになって……? 〝わたしは昔、あなたに会ったことがあるんですか?〟  これは記憶のない少女が過去を思い出しつつ、ご飯が食べられないワーカーホリックな閻魔様や家来の小鬼たちを餌付けしていく、ほのぼのグルメラブストーリー。  お品書きは全九品+デザート一品、是非ご賞味ください。  ※本作はキャラ文芸大賞に参加しております。どうぞよろしくお願いします!

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

きみは大好きな友達!

秋山龍央
キャラ文芸
pixivの「僕だけのトモダチ」企画の画にインスパイアされて書きました。このイラストめっちゃ大好き! https://dic.pixiv.net/a/%E5%83%95%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%81?utm_source=pixiv&utm_campaign=search_novel&utm_medium=referral 素敵な表紙はこちらの闇深猫背様からお借りしました。ありがとうございました! https://www.pixiv.net/artworks/103735312

処理中です...