ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
133 / 182

第133話 廃工場への対応は

しおりを挟む
 わっけーの活躍で判明した郊外の廃工場。どうやら会長の話によると、そこは会長の親戚が経営していた工場だったらしい。表向きは板金工場だったらしいが、その裏では四方津組向けの裏家業をしていたとの事だった。隠し倉庫などを備えており、四方津組の武器庫として稼働していたらしいのだ。
 これには栞とわっけーは驚いていた。自分の生まれ育った町に、そんな恐ろしい場所があったのだから。わっけーには生まれる前の話だが、栞にとっては幼少期の頃はまだ稼働していたのだから驚きは強かった。
「四方津組解散の5年前に倒産という事は、一体何があったのですか?」
 ただ一人関係の薄い調部長は、淡々と会長にさらに話を聞いていく。これには会長はあまりいい顔をしていなかった。不快感というよりは、あまり思い出したくもない話なのだろう。
「ちょうどあの頃は四方津組をたたもうという話が出始めた頃でもあるんだ。その中で真っ先に出たのが火力放棄ってわけさ。あそこは四方津組の武器庫が最大の収入源で、板金の仕事はおまけみたいなものだった。だから、大きな収入の柱を失って倒産しちまったってわけだよ」
 なんともな話だった。しかし、板金の仕事の方がおまけとは、よっぽど四方津組に恩があって仕事をしていたようなものだったのだろう。だが、その四方津組からいわば絶縁状を叩きつけられたのだから、その時のショックは計り知れないものだったに違いない。これには栞も黙って話を聞いていた。
 しかし、四方津組だって何もしなかったわけではない。ひいきにしていた工場が廃業したと聞いて、しっかりフォローはしておいたそうだ。今ではよその土地で元気にしている事だろうとの事。会長とはそれ以降疎遠であるがために、会長もその親戚の現状は分からないのだそうだ。
 話を聞き終わったところで、栞たちは沈黙していた。そこまで話の内容としては重くはなかったのだが、やはり何かを変えようとすると、しわ寄せを受ける人間は居るのである。バーディア一家の場合、それにあたるのがレオンというわけだろう。だが、レオンのやっている事にはとても同意できるものではない。あくまでもこの場合とは話が違うのだ。
「あそこの事を知っているの四方津組の連中だけだ。となると、レオンに協力している連中の中に四方津組の連中が居るって事だよな。……まったく、俺の持ち物で好き勝手してくれやがって……」
 レオンたちに自分が所有する廃工場を好きに使われていると知って、会長は怒りを露わにしていた。
「お気持ちは分からなくはないのですが、相手はレオンです。自棄を起こしてはいけません」
 調部長が会長を落ち着かせる。
「……そうだな。俺もレオンには直に会った事があるが、あいつの放つ殺気は半端じゃねえ……。確かに、気を抜いた瞬間に魂持ってかれそうな感じだったぜ」
 どうにか冷静になった会長だったが、その額からは異様なレベルの冷や汗が流れていた。夏祭りの際にレオンに会った時の事を思い出していたのである。その時全身から放たれていたオーラは、それは猛獣のようなものだった。
「会長さん、レオンと会ったのですか?」
「ああ、夏祭りの時だ。ひょろっと現れて少し話をした程度だが、それはもう死んだなと思わされるようなオーラだったぜ」
 調部長の質問に答える会長の顔は、完全に青ざめていた。
「確かに、私も異様なまでの冷たい雰囲気を感じましたね」
「高石さんも、そんな事があったのですね」
「ええ、夏休み中の事ですけれどね。配送に来た業者に探りを入れようと差し入れをしたら、その時に会ったのがレオンだったんですよ」
「……よくご無事で」
 栞の証言に、調部長もさすがに肝を冷やしたようである。
「それにしても、あそこの所有者が分かったのなら、次はどうするのがいいんだ?」
 話に入れなかったわっけーが声を掛けている。さすがのわっけーもこれに関しては次の手立てが思い浮かばなかったようだ。
「所有者がはっきりとしているのなら、あそこに誰かが居れば不法侵入と電気の窃盗で、警察が踏み込むには十分の理由ができるわ」
「なるほどなのだ」
 栞がそう言えば、わっけーは納得したようだった。
「あたしは機械には詳しいけど、法律はまったくダメだからな。あっはっはっ」
 そして、そんな事を言いながら笑っていた。
「必要なら六法貸すけど?」
「いや、あたしはちゃうで十分じゃー!」
 栞に対するわっけーの反応で、その場は少し和んだようだった。
「では、この情報は市と警察に共有しておいた方がよろしいですね。高石さん、連絡をお願いできますか?」
「分かりました。私の方で連絡を入れておきます」
 というわけで、今回の浦見市駅前商店街の会長との話の内容を、市役所と水崎警部とで共有する事になったのである。
「しかし、あのままあそこを放置していれば、レオンだけではなくいろいろな犯罪の温床になりそうですね。最悪手放す事も考えておいた方がよろしいと思われますよ」
「ああ、そうだな。考えておこう……」
 最後に調部長が会長にそう提案して話は終わったのだった。
 レオンを取り巻く包囲網は少しずつ狭まりつつある。決戦の日はもう近いようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

処理中です...