121 / 182
第121話 球子の家
しおりを挟む
「ただいま」
「ああ、帰ったのかい、球子」
「あれ、お父さん?」
球子が帰宅すると、どういうわけか仕事中であるはずの父親が出迎えた。
「もしかして、調査が進んだのかしら」
靴を脱いで居間へと向かう球子は、父親に話し掛ける。
「ああ、一応ね。私の権限で調査するにはいろいろ制約があったものの、それなりに情報は得られたよ。今家に居るのは、その情報の整理のためさ」
コーヒーを飲みながら、父親は目の前に散らばったメモの山を見ている。
「なんで居間でするのかしら。お父さんの部屋でして欲しいわね」
「何を言う。球子も気にしていたから、こうやって居間でやってるんじゃないか」
「ちょっと、私のせいにしないでちょうだいよ」
ガミガミと言い合う親子である。
「うふふ、賑やかでいいわね」
「お母さん」
そこへ母親まで乱入する。
「球子、とりあえず着替えてらっしゃい。お父さんが話があるらしいし、その間にお菓子とか用意しておくわね」
「……分かりました」
母親に諭されて、とりあえず自分の部屋へ向かう球子。それを見送って、母親が父親に話し掛ける。
「……ずいぶんと面倒な事のようね。大丈夫なのかしら、あなた」
「まあ、確かに不安にはなるな。当時の市長たちのおかげで、私もこうやって今はただの役員をしているが、あの頃のごたごたが、いまだにこうやって尾を引いているなんて思いたくもない」
「四方津組でしたっけ。まさかあなたまでそこの構成員だっただなんて。知らなかったとはいえ、結婚して子どもまで授かるとは思ってなかったわ」
「それは私も同様だ。けれど、君の事は本気だからな。だからこうやって、市のための仕事に打ち込めるってものだよ」
「あなた……」
なんとまあ、球子の父親も、バリバリに四方津組とのかかわりを持ったどころか中に居た人物だったのだ。さすがは浦見市を拠点にしていた暴力団な事はある。
それにしても、元若頭である校長といい、球子の父親といい、まともになった人物も居るものである。駅前商店街の会長も少々問題行動はあるものの、まだマシな部類ようだ。
「お待たせ」
両親が話をしていると、球子が戻ってきた。だぼだぼトレーナーにスキニーというまあずいぶんとすごい格好である。
「球子が戻ってきたようだな。しばらく二人にさせてくれ」
「分かりましたよ。私は買い物にでも行ってきますね」
「ああ、今日は唐揚げを頼む」
「はいはい」
そう言って、母親は買い物の支度をしに、居間を出ていった。
居間には球子と父親だけが残される。
「それで、分かった事ってどんな事なの?」
改めて球子が父親に問い掛ける。それに対して、父親は静かに話し始めた。
「私が市のスポーツ振興を担当しているのは知っているな?」
父親の言葉に静かに頷く球子。
「草利中学校に不正の疑惑が浮かび上がった事も知っているな?」
これまた頷く。
「独自に調査してみた結果、校長先生のポケットマネーで拡充されていた事が分かったんだ。個人的なお金だから別に収支報告に入れなくてもいいという事なんだろうな」
「そんな、個人のお金を公的な設備に投入とかってできるの?」
「できなくはないさ。ただ、公的な設備である以上、その分もちゃんと管理者への報告は必要になるけどね」
驚く球子に、父親は淡々と説明していく。
「多分、校長職に就くにあたって、そういうところの密約でもあったのだろうね。なにせ校長先生は、四方津組の若頭だったんだからな」
「!!?」
父親からの思わぬ事実を告げられて、球子は声が出なかった。
「だけども、若頭は真面目な人物なんだよ。なにせ、時の組長だった自分の父親を説得して、四方津組の解体にこぎつけた功績者なんだから」
父親の語る内容は、球子にとって驚きの連続である。
「でも、驚きだね。いくら組長の息子だとはいっても、そこまでの金額を簡単に動かす事ができたんだから。だから、今はほぼ資産はない状態なんだろうね」
父親は腕を組み、椅子にもたれ掛かりながら語っていた。
「まあ、これが私の調べた限りの草利中学校の躍進の秘密だな。公立中学校であそこまで設備を持つ学校はまずないだろうからね。私立なら、それなりに存在しているけどね」
確かに、運動部に関しては、大体はグラウンドを共有している場合が多い。せいぜいテニス部のコートが独立しているくらいだ。しかも、トラックの外周だってまさか400mあるなんてのはまずありえない。良くて200m、それなりで150mである。これらも、今の校長先生になってから増強された設備なのである。
「とりあえず球子。これは内密にな」
「分かりました、お父さん」
「まあ、表沙汰にされていないだけで、市長とかは把握してそうではあるけれどな。若頭に校長をさせたんだから」
球子の父親がこう言っているが、確かにそれはありえそうな話だった。
「そんな事よりも、他にもいろいろ分かった事がある。だけど、こっちに関してはさすがにお前には言えない。まあそれに関係して明日は泊まり込みになるから、先に言っておくよ」
「分かりました。気を付けて下さいね、お父さん」
「ああ、気を付けて行ってくるよ」
こうして親子の内緒話が終わった。
それにしても球子の父親が突き止めた事とは、一体どんな事なのだろうか。
翌日、父親はいつものように家を出ていったのだった。
「ああ、帰ったのかい、球子」
「あれ、お父さん?」
球子が帰宅すると、どういうわけか仕事中であるはずの父親が出迎えた。
「もしかして、調査が進んだのかしら」
靴を脱いで居間へと向かう球子は、父親に話し掛ける。
「ああ、一応ね。私の権限で調査するにはいろいろ制約があったものの、それなりに情報は得られたよ。今家に居るのは、その情報の整理のためさ」
コーヒーを飲みながら、父親は目の前に散らばったメモの山を見ている。
「なんで居間でするのかしら。お父さんの部屋でして欲しいわね」
「何を言う。球子も気にしていたから、こうやって居間でやってるんじゃないか」
「ちょっと、私のせいにしないでちょうだいよ」
ガミガミと言い合う親子である。
「うふふ、賑やかでいいわね」
「お母さん」
そこへ母親まで乱入する。
「球子、とりあえず着替えてらっしゃい。お父さんが話があるらしいし、その間にお菓子とか用意しておくわね」
「……分かりました」
母親に諭されて、とりあえず自分の部屋へ向かう球子。それを見送って、母親が父親に話し掛ける。
「……ずいぶんと面倒な事のようね。大丈夫なのかしら、あなた」
「まあ、確かに不安にはなるな。当時の市長たちのおかげで、私もこうやって今はただの役員をしているが、あの頃のごたごたが、いまだにこうやって尾を引いているなんて思いたくもない」
「四方津組でしたっけ。まさかあなたまでそこの構成員だっただなんて。知らなかったとはいえ、結婚して子どもまで授かるとは思ってなかったわ」
「それは私も同様だ。けれど、君の事は本気だからな。だからこうやって、市のための仕事に打ち込めるってものだよ」
「あなた……」
なんとまあ、球子の父親も、バリバリに四方津組とのかかわりを持ったどころか中に居た人物だったのだ。さすがは浦見市を拠点にしていた暴力団な事はある。
それにしても、元若頭である校長といい、球子の父親といい、まともになった人物も居るものである。駅前商店街の会長も少々問題行動はあるものの、まだマシな部類ようだ。
「お待たせ」
両親が話をしていると、球子が戻ってきた。だぼだぼトレーナーにスキニーというまあずいぶんとすごい格好である。
「球子が戻ってきたようだな。しばらく二人にさせてくれ」
「分かりましたよ。私は買い物にでも行ってきますね」
「ああ、今日は唐揚げを頼む」
「はいはい」
そう言って、母親は買い物の支度をしに、居間を出ていった。
居間には球子と父親だけが残される。
「それで、分かった事ってどんな事なの?」
改めて球子が父親に問い掛ける。それに対して、父親は静かに話し始めた。
「私が市のスポーツ振興を担当しているのは知っているな?」
父親の言葉に静かに頷く球子。
「草利中学校に不正の疑惑が浮かび上がった事も知っているな?」
これまた頷く。
「独自に調査してみた結果、校長先生のポケットマネーで拡充されていた事が分かったんだ。個人的なお金だから別に収支報告に入れなくてもいいという事なんだろうな」
「そんな、個人のお金を公的な設備に投入とかってできるの?」
「できなくはないさ。ただ、公的な設備である以上、その分もちゃんと管理者への報告は必要になるけどね」
驚く球子に、父親は淡々と説明していく。
「多分、校長職に就くにあたって、そういうところの密約でもあったのだろうね。なにせ校長先生は、四方津組の若頭だったんだからな」
「!!?」
父親からの思わぬ事実を告げられて、球子は声が出なかった。
「だけども、若頭は真面目な人物なんだよ。なにせ、時の組長だった自分の父親を説得して、四方津組の解体にこぎつけた功績者なんだから」
父親の語る内容は、球子にとって驚きの連続である。
「でも、驚きだね。いくら組長の息子だとはいっても、そこまでの金額を簡単に動かす事ができたんだから。だから、今はほぼ資産はない状態なんだろうね」
父親は腕を組み、椅子にもたれ掛かりながら語っていた。
「まあ、これが私の調べた限りの草利中学校の躍進の秘密だな。公立中学校であそこまで設備を持つ学校はまずないだろうからね。私立なら、それなりに存在しているけどね」
確かに、運動部に関しては、大体はグラウンドを共有している場合が多い。せいぜいテニス部のコートが独立しているくらいだ。しかも、トラックの外周だってまさか400mあるなんてのはまずありえない。良くて200m、それなりで150mである。これらも、今の校長先生になってから増強された設備なのである。
「とりあえず球子。これは内密にな」
「分かりました、お父さん」
「まあ、表沙汰にされていないだけで、市長とかは把握してそうではあるけれどな。若頭に校長をさせたんだから」
球子の父親がこう言っているが、確かにそれはありえそうな話だった。
「そんな事よりも、他にもいろいろ分かった事がある。だけど、こっちに関してはさすがにお前には言えない。まあそれに関係して明日は泊まり込みになるから、先に言っておくよ」
「分かりました。気を付けて下さいね、お父さん」
「ああ、気を付けて行ってくるよ」
こうして親子の内緒話が終わった。
それにしても球子の父親が突き止めた事とは、一体どんな事なのだろうか。
翌日、父親はいつものように家を出ていったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる