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第120話 調部長と丹羽球子
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レオン・アトゥールの関与は間違いない。
しかし、そこに繋がる証拠が乏しいがために、調部長は焦っていた。唯一強いつながりがあると見られる教頭は、麻薬の中毒症状でまともに話もできない状態に陥っていた。
一方で校長室へ出入りする宅配業者の数は目に見えて減っていたので、この点からも追及できそうだが、あくまでも推測の域を出られなかった。
正直強い手詰まり感のある状況だけに、調部長はすごく焦りを覚えていた。
(焦っても仕方のない事は分かっていますが、中学校卒業という明確なタイムリミットが迫ってきていますし、焦らざるを得ませんね……)
調部長には、ここに来て進学についての悩みも増えた。元々は3年間で解決してアメリカに戻るつもりだったが、まったく進展しない調査に加えて、妹のリリックまでやって来て状況が複雑化していた。それゆえに、高校も日本で通ってそれから帰国という選択肢も出てきてしまったのである。一般の高校入試は年度末の3月中旬だが、手続きだのなんだので、年明けには答えを出さなければならなかった。正直言って、調部長には頭の痛い話なのであった。
給食を終えた調部長は、球子と一緒に教室から出て移動していく。一体どこへ行くというのだろうか。
そうしてやって来たのは、意外な事に新聞部の部室だった。
「さて、いろいろ話を聞きましょうかね」
ドカッと椅子に座った球子は、調部長にそう話し掛けた。
「まあそうですね。こっちに来てから一番最初に仲良くなった相手ですしね。腹を割って話せる事は話しますよ」
調部長もちょっと諦めたのか、おとなしく椅子に座って球子と向かい合った。
「鳥子がいろいろ隠し事しているのは気が付いているけれど、あえてそこには触れないでおくわ」
「そう、それは助かりますね」
お互いに笑顔を浮かべる二人。
「とりあえず聞きたいのは、鳥子の進路でしょうかね。うまく日本人に擬態しているみたいですけれど、結構初見でも分かりましたからね」
「あれは驚きましたね。声を掛けてきた第一声が『Nice to meet you』で驚きましたよ」
あははと笑う声が漏れる。
「でも、日本語で答えが返ってきて驚きました。それにとてもアメリカ人とは思えないくらい流暢で。一体何で勉強したのかしら」
「日本の漫画やアニメは人気ですから、大体はそこからでしたね」
「やっぱりそうなるのね。ありきたりという感じで残念かしら」
「自国の文化は誇って下さいな」
「そうね」
会話が弾んでくる調部長と球子である。
「さて、進路なのですけれども、正直まだ迷っているのですよね」
笑い終えた調部長は現状を正直に話す。
「やっぱり妹ちゃんの事が心配?」
「そういえば話してましたね、詩音の事」
球子が言及したのは、詩音の事だった。アメリカからやって来た、調部長の2つ下の妹である。
「ええ。それと、うちの部活のうるさい後輩から話が入ってきましたからね」
「ああ、確か……脇田さんでしたっけ」
「そうそう、その脇田さん」
球子はにこにこしているけれども、正直球子も迷惑しているわっけーである。歩く拡声器はどこでも健在なのだった。
「調っていう名字は珍しいですし、容姿を聞いてすぐにすぐにあなたの妹だと分かりましたね」
球子もかなり鋭い勘の持ち主だったのであった。
「本当に、球子は侮れませんね」
これには調部長も苦笑いである。
「正直言いまして、3年間でアメリカに帰るつもりでしたが、詩音の事もありますし、高校3年間も残ろうかという方向に傾いてきています。まだはっきりとは言えませんが……」
「そう結論は急がなくてもいいんじゃないかしら。本国のご両親とも相談された方がいいわよ」
悩む調部長に、球子は冷静にアドバイスを送っている。それを聞いた調部長は、ちょっとホッとしたような顔を見せていた。
「ありがとうございます。……こういう時はやはり友だちが居るのは心強いですね」
「ええ。私とあなたの仲ですよ」
そうやって少し笑い合う調部長と球子だった。
「あら、そろそろ時間だわね」
時計を確認した球子が言葉に出すと、
「もうそんな時間ですのね。私はもう少しやる事がありますので、球子、先に戻っていて下さい」
「了解」
そう言って、調部長は球子を部室から先に立ち去らせたのだった。球子の方も、調部長の事を察してか、それ以上は何も言わずに新聞部の部室から立ち去ったのだった。
(そうですね。もう3か月を切ってしまいましたね。今後の進路を確定させるまで、それほどまでに余裕がなくなっていたとは、思いませんでした)
調部長は部室の中を見回しながら、ぽつりと考え込んだ。
(もし日本にもう3年間残るというのなら、やはりお父様に許可を頂きませんとね。時間を見計らって電話をしましょう)
日本が13時の今、向こうは夜中だ。バロックの仕事を考えると、電話は控えた方が賢明なのだ。
調部長は思いつめたような顔をすると、部室の机の上に置いてある写真を手に取って、少し額に当てて祈るように目を閉じた。そして、再び目を開くと、写真を置き直して部室を出ていったのだった。
問題が解決できていない今、自分は一体どうすべきなのか。その答えをすぐに出す事はできるのだろうか。調部長の苦悩は続くのである。
しかし、そこに繋がる証拠が乏しいがために、調部長は焦っていた。唯一強いつながりがあると見られる教頭は、麻薬の中毒症状でまともに話もできない状態に陥っていた。
一方で校長室へ出入りする宅配業者の数は目に見えて減っていたので、この点からも追及できそうだが、あくまでも推測の域を出られなかった。
正直強い手詰まり感のある状況だけに、調部長はすごく焦りを覚えていた。
(焦っても仕方のない事は分かっていますが、中学校卒業という明確なタイムリミットが迫ってきていますし、焦らざるを得ませんね……)
調部長には、ここに来て進学についての悩みも増えた。元々は3年間で解決してアメリカに戻るつもりだったが、まったく進展しない調査に加えて、妹のリリックまでやって来て状況が複雑化していた。それゆえに、高校も日本で通ってそれから帰国という選択肢も出てきてしまったのである。一般の高校入試は年度末の3月中旬だが、手続きだのなんだので、年明けには答えを出さなければならなかった。正直言って、調部長には頭の痛い話なのであった。
給食を終えた調部長は、球子と一緒に教室から出て移動していく。一体どこへ行くというのだろうか。
そうしてやって来たのは、意外な事に新聞部の部室だった。
「さて、いろいろ話を聞きましょうかね」
ドカッと椅子に座った球子は、調部長にそう話し掛けた。
「まあそうですね。こっちに来てから一番最初に仲良くなった相手ですしね。腹を割って話せる事は話しますよ」
調部長もちょっと諦めたのか、おとなしく椅子に座って球子と向かい合った。
「鳥子がいろいろ隠し事しているのは気が付いているけれど、あえてそこには触れないでおくわ」
「そう、それは助かりますね」
お互いに笑顔を浮かべる二人。
「とりあえず聞きたいのは、鳥子の進路でしょうかね。うまく日本人に擬態しているみたいですけれど、結構初見でも分かりましたからね」
「あれは驚きましたね。声を掛けてきた第一声が『Nice to meet you』で驚きましたよ」
あははと笑う声が漏れる。
「でも、日本語で答えが返ってきて驚きました。それにとてもアメリカ人とは思えないくらい流暢で。一体何で勉強したのかしら」
「日本の漫画やアニメは人気ですから、大体はそこからでしたね」
「やっぱりそうなるのね。ありきたりという感じで残念かしら」
「自国の文化は誇って下さいな」
「そうね」
会話が弾んでくる調部長と球子である。
「さて、進路なのですけれども、正直まだ迷っているのですよね」
笑い終えた調部長は現状を正直に話す。
「やっぱり妹ちゃんの事が心配?」
「そういえば話してましたね、詩音の事」
球子が言及したのは、詩音の事だった。アメリカからやって来た、調部長の2つ下の妹である。
「ええ。それと、うちの部活のうるさい後輩から話が入ってきましたからね」
「ああ、確か……脇田さんでしたっけ」
「そうそう、その脇田さん」
球子はにこにこしているけれども、正直球子も迷惑しているわっけーである。歩く拡声器はどこでも健在なのだった。
「調っていう名字は珍しいですし、容姿を聞いてすぐにすぐにあなたの妹だと分かりましたね」
球子もかなり鋭い勘の持ち主だったのであった。
「本当に、球子は侮れませんね」
これには調部長も苦笑いである。
「正直言いまして、3年間でアメリカに帰るつもりでしたが、詩音の事もありますし、高校3年間も残ろうかという方向に傾いてきています。まだはっきりとは言えませんが……」
「そう結論は急がなくてもいいんじゃないかしら。本国のご両親とも相談された方がいいわよ」
悩む調部長に、球子は冷静にアドバイスを送っている。それを聞いた調部長は、ちょっとホッとしたような顔を見せていた。
「ありがとうございます。……こういう時はやはり友だちが居るのは心強いですね」
「ええ。私とあなたの仲ですよ」
そうやって少し笑い合う調部長と球子だった。
「あら、そろそろ時間だわね」
時計を確認した球子が言葉に出すと、
「もうそんな時間ですのね。私はもう少しやる事がありますので、球子、先に戻っていて下さい」
「了解」
そう言って、調部長は球子を部室から先に立ち去らせたのだった。球子の方も、調部長の事を察してか、それ以上は何も言わずに新聞部の部室から立ち去ったのだった。
(そうですね。もう3か月を切ってしまいましたね。今後の進路を確定させるまで、それほどまでに余裕がなくなっていたとは、思いませんでした)
調部長は部室の中を見回しながら、ぽつりと考え込んだ。
(もし日本にもう3年間残るというのなら、やはりお父様に許可を頂きませんとね。時間を見計らって電話をしましょう)
日本が13時の今、向こうは夜中だ。バロックの仕事を考えると、電話は控えた方が賢明なのだ。
調部長は思いつめたような顔をすると、部室の机の上に置いてある写真を手に取って、少し額に当てて祈るように目を閉じた。そして、再び目を開くと、写真を置き直して部室を出ていったのだった。
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