112 / 182
第112話 小さく確かな焦り
しおりを挟む
その頃、浦見市の郊外にある廃工場群。そこにとある男たちが集まっていた。
「おう、トラ。よう来たな……」
レオンが椅子に座りながら声を掛ける。
「こんな所に呼び出して、一体何の用なんだ」
トラこと義人は、レオンに淡々と質問する。
「まあ、そういうなて。こっち来て座れや」
ぶしつけな言葉に、いつもならキレそうなレオンが機嫌よさげに義人を近くに呼ぶ。それに対して、義人は仕方がないなと言わんばかりにため息を吐いてレオンの正面に座った。
「……草利の教頭が捕まったんは知っとるか?」
「……ああ、知ってる。前に連絡をくれただろう?」
レオンが切り出した質問に、義人は淡々と答える。それにしても、忘れているとはレオンにしては珍しい事もあるものだ。
「そうやったっけかな。まぁそれなら話は早いな。ここに呼ばれた理由、分かってんのやろ?」
レオンが鋭い眼光で義人を睨みながら言う。普通の人間ならその眼光に怯んでしまうところだが、義人は平然としていた。
「……消せ、という事でしょう?」
「せや」
義人が静かにそう答えると、レオンは強く肯定する。
「あのダボが捕まったとなるといろいろ都合悪いさかいなぁ……。まだクスリが効いとるさかい、口割る状況にはあらへんけどな」
レオンは椅子にもたれ掛かりながら、足を思いっきり大きく振って組み直す。
「どっかに入院させられたっちゅうんは聞いとる。そこでやトラ。お前さんはそこを突き止めて、さっさと教頭を消してもらおうっちゅうわけや。……どや、受けてくれるやろ?」
「報酬は?」
レオンの鋭い眼光から放たれる脅しに動じる事なく、義人は淡々とレオンにそう切り返した。
「はっ、さすがはその道で名を轟かせるスナイパーやな。俺の脅しにも動じひんとは驚いたで。せやなぁ、あいつが持っとる財産の半分、4億くらいでどや?」
レオンはにやついた顔をしながら、指で4と示しながら義人に迫る。
「……いいだろう」
「はっ、物分かりが早ようてええなぁ!」
少し溜めはあったものの、一発で要求に応じた義人の反応に、レオンはご機嫌になっている。
「はっ、やっぱ思い切ってお前さんに声掛けたんは間違うてへんかったな。お前さんには消してもらいたい奴らがたくさんおるからな」
レオンはこの上なく高笑いをして、見下すように義人を見ている。だが、義人はそれにもまったく動じず、ただただ黙って座っていた。
「ははっ、そんな怖い顔すんなや。お前はただ、俺に従うて目障りな連中を全部消してくれたらええんや……。お前さんの腕なら簡単な事やろ?」
レオンは義人の髪を掴んでじっくりと顔を覗き込んでくる。正直髪を引っ張られていたいのだが、義人はそれも我慢して平静を装い続けている。
「ははっ、その根性、気に入ったわ。このヤマ片付いたら、ずっと俺が雇ったるで。それこそ報酬も弾んだる。ははははっ、長い付き合いになりそうやなぁっ!」
廃工場にレオンの声が響き渡る。そこへ、レオンの部下が入ってくる。
「兄貴、あんまり騒ぐと見つかりますぜ!」
だが、その声を掛けると同時に、レオンが拳銃を部下へと向ける。
「ひっ!」
その状況には、さすがに部下は青ざめて両手を上げてしまった。
「やかましいな、このボケッ! 近付いてきた連中はみんなバラせばええやろうが! 口答えすんな、ダボが!」
「わ、分かりやした、兄貴……」
レオンの剣幕に、部下はすごすごと部屋を出て見張りに戻っていった。
(なるほどな。レオンの派閥はほぼレオンのワンマンというわけなんだな……)
その一部始終を見ていた義人は、そういう感想を持った。
「すまんなぁ。話の分からん部下ばかりで。まぁ、呼んだ理由としては、俺らもそれなりに情報を持ってきてるからや。とにかく、それを今から渡すからな」
「分かった。聞かせてもらおう」
レオンは義人にいろいろと情報を話す。だが、そのほとんどは、義人は正人を通じて握っている情報ばかりだった。
「なんや、反応うっすいなぁ……」
情報を聞きながら、ほとんど無表情で微動だにしない義人に、レオンはそんな事を言い放っていた。
「悪い。仕事柄あまり感情を外に出すものではないからな」
「ふっ、せやな」
義人の返答に、レオンはただそうとだけ言って笑っていた。
「大体分かった。では、私は早速動くとしよう」
「そうか。なら早い報告を期待しとるで」
「ああ、楽しみにしていてくれ」
義人はそう言って、淡々とした様子で廃工場を出て行った。
その後には、レオンの大きな笑い声が響いていたらしい。
「レオン・アトゥール。大した自信家だな」
義人はそう呟きながら、浦見市内を車で走り抜ける。
「だが、私にメールを出した事を忘れているあたり、相当に焦っているようにも取れるな」
今日のレオンの様子を見ながら、義人はそのような推理を立てていた。
「あとは兄貴と相談しながらうまくやり過ごせばいいだろう。今のレオンならばうまくやれば騙せるかも知れないからな」
義人は、まずは草利中学校元教頭の件をどうするか、それを考え始めたのだった。
それは紛れもなく、レオンとの知恵比べの始まりなのである。
「おう、トラ。よう来たな……」
レオンが椅子に座りながら声を掛ける。
「こんな所に呼び出して、一体何の用なんだ」
トラこと義人は、レオンに淡々と質問する。
「まあ、そういうなて。こっち来て座れや」
ぶしつけな言葉に、いつもならキレそうなレオンが機嫌よさげに義人を近くに呼ぶ。それに対して、義人は仕方がないなと言わんばかりにため息を吐いてレオンの正面に座った。
「……草利の教頭が捕まったんは知っとるか?」
「……ああ、知ってる。前に連絡をくれただろう?」
レオンが切り出した質問に、義人は淡々と答える。それにしても、忘れているとはレオンにしては珍しい事もあるものだ。
「そうやったっけかな。まぁそれなら話は早いな。ここに呼ばれた理由、分かってんのやろ?」
レオンが鋭い眼光で義人を睨みながら言う。普通の人間ならその眼光に怯んでしまうところだが、義人は平然としていた。
「……消せ、という事でしょう?」
「せや」
義人が静かにそう答えると、レオンは強く肯定する。
「あのダボが捕まったとなるといろいろ都合悪いさかいなぁ……。まだクスリが効いとるさかい、口割る状況にはあらへんけどな」
レオンは椅子にもたれ掛かりながら、足を思いっきり大きく振って組み直す。
「どっかに入院させられたっちゅうんは聞いとる。そこでやトラ。お前さんはそこを突き止めて、さっさと教頭を消してもらおうっちゅうわけや。……どや、受けてくれるやろ?」
「報酬は?」
レオンの鋭い眼光から放たれる脅しに動じる事なく、義人は淡々とレオンにそう切り返した。
「はっ、さすがはその道で名を轟かせるスナイパーやな。俺の脅しにも動じひんとは驚いたで。せやなぁ、あいつが持っとる財産の半分、4億くらいでどや?」
レオンはにやついた顔をしながら、指で4と示しながら義人に迫る。
「……いいだろう」
「はっ、物分かりが早ようてええなぁ!」
少し溜めはあったものの、一発で要求に応じた義人の反応に、レオンはご機嫌になっている。
「はっ、やっぱ思い切ってお前さんに声掛けたんは間違うてへんかったな。お前さんには消してもらいたい奴らがたくさんおるからな」
レオンはこの上なく高笑いをして、見下すように義人を見ている。だが、義人はそれにもまったく動じず、ただただ黙って座っていた。
「ははっ、そんな怖い顔すんなや。お前はただ、俺に従うて目障りな連中を全部消してくれたらええんや……。お前さんの腕なら簡単な事やろ?」
レオンは義人の髪を掴んでじっくりと顔を覗き込んでくる。正直髪を引っ張られていたいのだが、義人はそれも我慢して平静を装い続けている。
「ははっ、その根性、気に入ったわ。このヤマ片付いたら、ずっと俺が雇ったるで。それこそ報酬も弾んだる。ははははっ、長い付き合いになりそうやなぁっ!」
廃工場にレオンの声が響き渡る。そこへ、レオンの部下が入ってくる。
「兄貴、あんまり騒ぐと見つかりますぜ!」
だが、その声を掛けると同時に、レオンが拳銃を部下へと向ける。
「ひっ!」
その状況には、さすがに部下は青ざめて両手を上げてしまった。
「やかましいな、このボケッ! 近付いてきた連中はみんなバラせばええやろうが! 口答えすんな、ダボが!」
「わ、分かりやした、兄貴……」
レオンの剣幕に、部下はすごすごと部屋を出て見張りに戻っていった。
(なるほどな。レオンの派閥はほぼレオンのワンマンというわけなんだな……)
その一部始終を見ていた義人は、そういう感想を持った。
「すまんなぁ。話の分からん部下ばかりで。まぁ、呼んだ理由としては、俺らもそれなりに情報を持ってきてるからや。とにかく、それを今から渡すからな」
「分かった。聞かせてもらおう」
レオンは義人にいろいろと情報を話す。だが、そのほとんどは、義人は正人を通じて握っている情報ばかりだった。
「なんや、反応うっすいなぁ……」
情報を聞きながら、ほとんど無表情で微動だにしない義人に、レオンはそんな事を言い放っていた。
「悪い。仕事柄あまり感情を外に出すものではないからな」
「ふっ、せやな」
義人の返答に、レオンはただそうとだけ言って笑っていた。
「大体分かった。では、私は早速動くとしよう」
「そうか。なら早い報告を期待しとるで」
「ああ、楽しみにしていてくれ」
義人はそう言って、淡々とした様子で廃工場を出て行った。
その後には、レオンの大きな笑い声が響いていたらしい。
「レオン・アトゥール。大した自信家だな」
義人はそう呟きながら、浦見市内を車で走り抜ける。
「だが、私にメールを出した事を忘れているあたり、相当に焦っているようにも取れるな」
今日のレオンの様子を見ながら、義人はそのような推理を立てていた。
「あとは兄貴と相談しながらうまくやり過ごせばいいだろう。今のレオンならばうまくやれば騙せるかも知れないからな」
義人は、まずは草利中学校元教頭の件をどうするか、それを考え始めたのだった。
それは紛れもなく、レオンとの知恵比べの始まりなのである。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
鬼の閻火とおんぼろ喫茶
碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪
高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。
気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。
奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。
そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。
嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。
「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」
激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。
果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか?
ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。
あやかし観光専属絵師
紺青くじら
キャラ文芸
アルバイトで生計を立てるタカヒロは、公園で出会った美しい男ヤイに技量を認められ、彼の元で絵師として働く事となる。ヤイの営む店は、妖怪相手の旅行会社。彼らは写真にうつれない為、タカヒロが描くことで思い出を残す。
はじめは戸惑うタカヒロだが、妖怪との交流を通して、自分がしたい事に向き合っていく。だが事態は、思わぬ方向に進んでいきー…!
物語は序盤はヤイたちとのあやかし観光での仕事と、バイト先のイタリアンレストランを舞台にした物語それぞれ別に進行していきます。新しく来たアルバイトの女の子ツバキは何者なのかー…!?
楽しんで頂けたら幸いです!
きみは大好きな友達!
秋山龍央
キャラ文芸
pixivの「僕だけのトモダチ」企画の画にインスパイアされて書きました。このイラストめっちゃ大好き!
https://dic.pixiv.net/a/%E5%83%95%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%81?utm_source=pixiv&utm_campaign=search_novel&utm_medium=referral
素敵な表紙はこちらの闇深猫背様からお借りしました。ありがとうございました!
https://www.pixiv.net/artworks/103735312
九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
ミコマイ犯科帳・レポート①「ねずみ小僧に関する考察」
よこゆき
キャラ文芸
シャーマン(降霊)の能力を持つ歴女・御子柴舞。彼女の使命は、歴史上の理想の男性を現世に降霊させ結ばれることにある。シリーズ①で、舞は鼠小僧について調べるうちに、同時代を生きた遠山金四郎と水野忠邦が関係していると推論する。「ねずみ小僧」とは、忠邦と金四郎が裏金を運ぶために生み出した架空の盗人ではないかと。舞は田沼意次の末裔・真吾と知り合い、彼の身体を触媒にして意次の孫・意義の霊魂と接触する。舞の推理はあたっていて、彼がねずみ小僧のようだ。意義は従者の渡辺良左衛門の手を借り、農民たちを救うべく忠邦の蔵から一万両の裏金を盗み出す。だが忠邦の命を受けた金四郎が、大捕り物を組織し意義を追い詰める。万事休した意義は、その場で切腹したかと思われたが…。
絶世の美女の侍女になりました。
秋月一花
キャラ文芸
十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。
旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。
山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。
女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。
しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。
ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。
後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。
祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる