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第106話 それでも変わらない日常
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翌日、ひと晩悩んだ挙句、栞は粛々と調査を続けていくという結論に達した。レオン・アトゥールという明確な敵が出てきたものの、正直今の栞たちにとって、どういう対応を取ればいいのか分からないのだ。ひとつ分かっているとするならば、クラスメイトの阿藤理恵の父親だという事くらいだ。
しかし、下手に探りを入れて理恵を危険にさらすのはよくないと考えている。理恵の普段の様子から察するに、父親が何をしているのかというのは、多分運送業の仕事の事しか知らないはずだからだ。
(まあ、聞くとしても普段の様子くらいなものかしらね。理恵ちゃんから引き出せる情報は少なそう)
栞はそう考えながら、登校の準備をし終えたのだった。
「行ってきます!」
そう家族に告げて家を出る栞。
学校へ向かう通学路はしっかり頭に入っているし、市役所の職員たる権限を活かして道路工事の場所と時間もきっちり把握している。おかげでいつ家を出てどこを通れば理想的な時間に学校に着くのか頭に入ってしまっているのだ。本当に普通の市役所の職員じゃない栞である。
学校に着いた栞は、早速朝練を開始する。陸上部はそろそろ秋の記録大会が行われるのだ。調査員ではあるとはいえ、陸上部に所属してしまった以上、出ないわけにはいかなかった。
(正直、本気出したら高校記録すら塗り替えそうだものね。どうやって適度に手を抜くか、そこが問題だわ)
栞はそんな事を考えながら朝練に励んでいた。
それが終わると教室に移動する。
「おはよう栞ちゃん」
「おはよう、まーちゃん」
先日いろいろ話をしたけれど、真彩とは今まで通りの関係を続けられている。真彩は市警の警部の娘とはいっても、まだ13歳の少女だ。これ以上危険な事に首を突っ込ませるわけにはいかなかった。だからこそ、本格的な調査からは身を引かせた。とはいえども、普段通りにしていて気になった事とかはLISEで報告してもらうようにはなっている。
真彩は安全圏に身を引く事になった事にちょっと後ろめたさがあるような感じだけれども、この調査のどこに安全圏があるのだろうかというのが栞の本音だ。暴力団やギャングが関わっている時点で、すでに安全な場所などなかった。だったら、少しでも巻き込まれるリスクを下げたいと思うのが年長者としての栞の気持ちなのである。
「おっはよー、しおりーんっ!」
栞がしんみりした気持ちでいると、今日も歩く拡声器の元気すぎる声がこだまする。なんで自分にばかり構うのかと、栞はものすごく仏頂面になっていた。
正直言って、わっけーの存在は調査をする上ではこの上ないレベルの邪魔である。栞を見つければ猪突猛進、そして、周りに響き渡るくそデカボイス。正直、栞にとって邪魔という感想以外もはや存在していなかった。
そして、そこから少し遅れて理恵と詩音がそろっての登場である。おとなしい性格同士気が合うらしくて、最近は一緒に居る事が増えた。しかし、理恵からはレオンの気配がバリバリ漂っているので、それに慣れるまではずいぶんと苦労したようである。
「だーっ、わっけー、本当に鬱陶しいわね。なんで私にばっかり構うのよ!」
栞は抱きついて来ようとするわっけーの顔を手で押さえて突き放そうとしている。1年5組の恒例となった光景に、周りのクラスメイトは止める事もせず微笑ましくその様子を見守っている状況である。正直誰か止めて欲しいと思う栞だが、その願いは叶う事はなさそうなのである。
「あたしも分からんのだ! だが、直感的にこの子は仲良くなれると思ったのだーっ!」
わっけーも分からんのかーいっ!
そういうツッコミが聞こえてきそうな返答である。
これを聞いた栞は、
「ええい、それを聞いてますます鬱陶しくなったわ。いい加減に離れろーっ!」
片足まで上げてわっけーを剥がしにかかる。ところが、わっけーもなかなかどうして聞き分けがない。一向に離れる気配がないのだ。
「おーい、ホームルームを始めたいのですが、いつまでそこは遊んでいるのですかな?」
知らない間に飛田先生が入ってきていた。その声を聞いた栞は、引きつった笑顔を飛田先生に向けた後、わっけーを睨み付けていた。ところが、これにもわっけーは堪えていない。どういう神経の持ち主なのやら。だけれども、さすがにホームルームが始まるという事で、わっけーもすごすごと自分の席へと戻っていった。
「あーそうです。高石さんは昼休みにちょっと手伝って欲しい事があるので、よろしいでしょうかね?」
ホームルームを終えた飛田先生が栞に声を掛ける。それに対して栞は、
「分かりました、昼休みですね。どちらに伺えばよろしいでしょうか」
快く了承していた。
「職員室です。では、お待ちしていますよ」
こう答えて、飛田先生は教室を出ていったのだった。
はてさて、飛田先生からの直接の呼び出しを食らった栞だったが、これにはどういうわけか妙な感覚を覚えていた。
そうして、あっという間に向かえた昼休み。栞は単独職員室へと向かっていた。一体どういう用事なのかと警戒しながら進む栞。いろいろ思いを巡らせる中、栞は職員室の扉の前に立ったのだった。
しかし、下手に探りを入れて理恵を危険にさらすのはよくないと考えている。理恵の普段の様子から察するに、父親が何をしているのかというのは、多分運送業の仕事の事しか知らないはずだからだ。
(まあ、聞くとしても普段の様子くらいなものかしらね。理恵ちゃんから引き出せる情報は少なそう)
栞はそう考えながら、登校の準備をし終えたのだった。
「行ってきます!」
そう家族に告げて家を出る栞。
学校へ向かう通学路はしっかり頭に入っているし、市役所の職員たる権限を活かして道路工事の場所と時間もきっちり把握している。おかげでいつ家を出てどこを通れば理想的な時間に学校に着くのか頭に入ってしまっているのだ。本当に普通の市役所の職員じゃない栞である。
学校に着いた栞は、早速朝練を開始する。陸上部はそろそろ秋の記録大会が行われるのだ。調査員ではあるとはいえ、陸上部に所属してしまった以上、出ないわけにはいかなかった。
(正直、本気出したら高校記録すら塗り替えそうだものね。どうやって適度に手を抜くか、そこが問題だわ)
栞はそんな事を考えながら朝練に励んでいた。
それが終わると教室に移動する。
「おはよう栞ちゃん」
「おはよう、まーちゃん」
先日いろいろ話をしたけれど、真彩とは今まで通りの関係を続けられている。真彩は市警の警部の娘とはいっても、まだ13歳の少女だ。これ以上危険な事に首を突っ込ませるわけにはいかなかった。だからこそ、本格的な調査からは身を引かせた。とはいえども、普段通りにしていて気になった事とかはLISEで報告してもらうようにはなっている。
真彩は安全圏に身を引く事になった事にちょっと後ろめたさがあるような感じだけれども、この調査のどこに安全圏があるのだろうかというのが栞の本音だ。暴力団やギャングが関わっている時点で、すでに安全な場所などなかった。だったら、少しでも巻き込まれるリスクを下げたいと思うのが年長者としての栞の気持ちなのである。
「おっはよー、しおりーんっ!」
栞がしんみりした気持ちでいると、今日も歩く拡声器の元気すぎる声がこだまする。なんで自分にばかり構うのかと、栞はものすごく仏頂面になっていた。
正直言って、わっけーの存在は調査をする上ではこの上ないレベルの邪魔である。栞を見つければ猪突猛進、そして、周りに響き渡るくそデカボイス。正直、栞にとって邪魔という感想以外もはや存在していなかった。
そして、そこから少し遅れて理恵と詩音がそろっての登場である。おとなしい性格同士気が合うらしくて、最近は一緒に居る事が増えた。しかし、理恵からはレオンの気配がバリバリ漂っているので、それに慣れるまではずいぶんと苦労したようである。
「だーっ、わっけー、本当に鬱陶しいわね。なんで私にばっかり構うのよ!」
栞は抱きついて来ようとするわっけーの顔を手で押さえて突き放そうとしている。1年5組の恒例となった光景に、周りのクラスメイトは止める事もせず微笑ましくその様子を見守っている状況である。正直誰か止めて欲しいと思う栞だが、その願いは叶う事はなさそうなのである。
「あたしも分からんのだ! だが、直感的にこの子は仲良くなれると思ったのだーっ!」
わっけーも分からんのかーいっ!
そういうツッコミが聞こえてきそうな返答である。
これを聞いた栞は、
「ええい、それを聞いてますます鬱陶しくなったわ。いい加減に離れろーっ!」
片足まで上げてわっけーを剥がしにかかる。ところが、わっけーもなかなかどうして聞き分けがない。一向に離れる気配がないのだ。
「おーい、ホームルームを始めたいのですが、いつまでそこは遊んでいるのですかな?」
知らない間に飛田先生が入ってきていた。その声を聞いた栞は、引きつった笑顔を飛田先生に向けた後、わっけーを睨み付けていた。ところが、これにもわっけーは堪えていない。どういう神経の持ち主なのやら。だけれども、さすがにホームルームが始まるという事で、わっけーもすごすごと自分の席へと戻っていった。
「あーそうです。高石さんは昼休みにちょっと手伝って欲しい事があるので、よろしいでしょうかね?」
ホームルームを終えた飛田先生が栞に声を掛ける。それに対して栞は、
「分かりました、昼休みですね。どちらに伺えばよろしいでしょうか」
快く了承していた。
「職員室です。では、お待ちしていますよ」
こう答えて、飛田先生は教室を出ていったのだった。
はてさて、飛田先生からの直接の呼び出しを食らった栞だったが、これにはどういうわけか妙な感覚を覚えていた。
そうして、あっという間に向かえた昼休み。栞は単独職員室へと向かっていた。一体どういう用事なのかと警戒しながら進む栞。いろいろ思いを巡らせる中、栞は職員室の扉の前に立ったのだった。
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