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第101話 遅れてきた男
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栞たちが食事をしている頃、草利中学校の校長室では……。
「はあはあ……、くそっ、こんな時に……」
一つの怪しい影が、部屋の中でうごめいていた。カーテンを閉めて部屋の中をあさる人物。
「校長が居ないからやりたい放題できるのはいいが、今回はちょっと予想外に早い。あれは、どこだ?!」
がさごそと音を立てながら部屋の中をあさる人物。その顔には汗がたくさん浮かんでいる。
10月に入ってだいぶ涼しくなり始めたというのに、その発汗量は明らかに異常だった。何かの病気にかかっているのではないかというくらい、誰の目にも分かる異常な状態だった。
「くそっ、くそう……、一体どこにあるんだ?」
その人物は行動も異常だった。さっきから同じところを探し回っている。探した事を忘れているのだろうか。その顔には大量の汗と共に、焦りの表情が浮かんでいた。
「お探しのものは、これかな?」
突如として、部屋の中に別の人物の声が響き渡る。
この声に、怪しい行動をしていた人物の動きが止まる。
「誰……だ?」
こう発言すると同時に、怪しい動きの人物の顔が声のした方向へとゆっくり向いていく。その目は若干血走り始めていて、正気を失いつつあるようにも見える。
「おやおや、これは間違いなく禁断症状が出始めてますね。まったく、私が姿を見せなかった間に、やりたい放題とは……ね」
少し薄暗くて顔が見えなかった人物だが、怪しい人物の方に近付いた事でその顔が見えてくる。
「な、なぜここに居る?! 病気療養中ではなかったのか?」
怪しい人物が驚愕の表情を見せている。そして、後退っていくと、椅子にぶつかってそのままこけてしまった。
「なに、それは建前だよ。……君みたいな愚か者に尻尾を出させるための……ね」
目の前に立つ人物から、一気に言い知れぬ恐怖を感じる怪しい人物。床にへたり込んだまま立てなくなってしまっていた。
「まったく、そこまでボロボロになっているんだ。悪いけれども、君には退場してもらうしかないな」
目の前の人物から冷たい言葉を掛けられる怪しい人物。言葉の端々から冷たさを感じる。
「や、やめろ……。私は、死にたく……ない」
「それは遺言か? お前のような小物を殺してなんになる。安心しなさい、警察に突き出すだけだ」
怯えていた怪しい人物だが、目の前の人物が放った言葉に、その様子を豹変させる。震える足で立ち上がり、目の前の人物へと襲い掛かる。
「ふむ、その足で立ち上がるか。そして、私に殴りかかるその根性。それは認めてやってもいいかもな。だが……」
「お……ぶ……」
「勢いが甘い。それでは子どもにすら躱されてしまうぞ」
きれいにクロスカウンターが決まり、怪しい人物はずるずるとその場に倒れ込んでしまった。怪しい人物が倒れ込んで気絶したのを確認すると、その前に立つ人物はスマホを取り出してどこかへと電話をしていた。そして、その電話が終わると、怪しい人物をどこに持っていたのか分からないロープでぐるぐる巻きに縛っていた。いや、本当にどこから取り出したのだろうか。
「まったく、しばらく顔を出していないだけで、こんな愚か者が出てこようとはね……。レオン・アトゥール、あいつはどこまでこの町にこだわり続けるつもりなんだ」
電話を終え、怪しい人物を縛り上げた人物は、しばらくの間、その怪しい男の上に座っていたのだった。
翌日、朝の職員会議に出席した千夏と飛田先生は、衝撃の事実を知らされてしまう。教頭先生がこの日から休職となってしまったのだ。理由は教えてもらえなかった。
そして、驚く二人の前に、更なる衝撃が現れる。
「多分、多くの職員の方々には初めましてになりますかね。私はこの草利中学校の校長、四方津正人です。教頭先生が休職になったと連絡を受け、急遽現場に戻ってきました」
これまで一度も見た事のなかった校長先生が、ついにその姿を見せたのである。
(あれがこの中学校の校長先生。姿を見せない人物として噂にその名を連ねていたけれど、思ったより若いわね)
千夏が見た校長先生の第一印象はそんなものである。40~50代といったところだろうか。白髪があまり目立たずに若い印象を受ける。
「まあ、私が戻ってきたところで、わが校の基本的な教育方針は変わりません。みなさん、安心して今まで通りに過ごして頂いて大丈夫ですよ」
職員室の中が騒めている。
まあそれも無理はないというもの。今まで長い間姿を見せなかったのだから。それでいてこの挨拶である。一部の教師から反発が出てきてもおかしくないだろう。
しかし、よくよく見てみると、顔はにこにこと笑っているのに目が笑っていない。あの目に睨まれたら失神してしまいそうな気すらする。この感覚は一体何なのだろうか。千夏は終始気が張りっぱなしになってしまった。
秋も深まり始めたこの10月。今まで姿を見せなかった校長先生の職場復帰という衝撃が走った。この出来事は、栞たちの調査に一体どのような影響を与えるのだろうか。そして、姿を見せた校長の目的とは一体何なのだろうか。
この急展開に、職員会議が終わった千夏は、早速栞に連絡を入れたのだった。
「はあはあ……、くそっ、こんな時に……」
一つの怪しい影が、部屋の中でうごめいていた。カーテンを閉めて部屋の中をあさる人物。
「校長が居ないからやりたい放題できるのはいいが、今回はちょっと予想外に早い。あれは、どこだ?!」
がさごそと音を立てながら部屋の中をあさる人物。その顔には汗がたくさん浮かんでいる。
10月に入ってだいぶ涼しくなり始めたというのに、その発汗量は明らかに異常だった。何かの病気にかかっているのではないかというくらい、誰の目にも分かる異常な状態だった。
「くそっ、くそう……、一体どこにあるんだ?」
その人物は行動も異常だった。さっきから同じところを探し回っている。探した事を忘れているのだろうか。その顔には大量の汗と共に、焦りの表情が浮かんでいた。
「お探しのものは、これかな?」
突如として、部屋の中に別の人物の声が響き渡る。
この声に、怪しい行動をしていた人物の動きが止まる。
「誰……だ?」
こう発言すると同時に、怪しい動きの人物の顔が声のした方向へとゆっくり向いていく。その目は若干血走り始めていて、正気を失いつつあるようにも見える。
「おやおや、これは間違いなく禁断症状が出始めてますね。まったく、私が姿を見せなかった間に、やりたい放題とは……ね」
少し薄暗くて顔が見えなかった人物だが、怪しい人物の方に近付いた事でその顔が見えてくる。
「な、なぜここに居る?! 病気療養中ではなかったのか?」
怪しい人物が驚愕の表情を見せている。そして、後退っていくと、椅子にぶつかってそのままこけてしまった。
「なに、それは建前だよ。……君みたいな愚か者に尻尾を出させるための……ね」
目の前に立つ人物から、一気に言い知れぬ恐怖を感じる怪しい人物。床にへたり込んだまま立てなくなってしまっていた。
「まったく、そこまでボロボロになっているんだ。悪いけれども、君には退場してもらうしかないな」
目の前の人物から冷たい言葉を掛けられる怪しい人物。言葉の端々から冷たさを感じる。
「や、やめろ……。私は、死にたく……ない」
「それは遺言か? お前のような小物を殺してなんになる。安心しなさい、警察に突き出すだけだ」
怯えていた怪しい人物だが、目の前の人物が放った言葉に、その様子を豹変させる。震える足で立ち上がり、目の前の人物へと襲い掛かる。
「ふむ、その足で立ち上がるか。そして、私に殴りかかるその根性。それは認めてやってもいいかもな。だが……」
「お……ぶ……」
「勢いが甘い。それでは子どもにすら躱されてしまうぞ」
きれいにクロスカウンターが決まり、怪しい人物はずるずるとその場に倒れ込んでしまった。怪しい人物が倒れ込んで気絶したのを確認すると、その前に立つ人物はスマホを取り出してどこかへと電話をしていた。そして、その電話が終わると、怪しい人物をどこに持っていたのか分からないロープでぐるぐる巻きに縛っていた。いや、本当にどこから取り出したのだろうか。
「まったく、しばらく顔を出していないだけで、こんな愚か者が出てこようとはね……。レオン・アトゥール、あいつはどこまでこの町にこだわり続けるつもりなんだ」
電話を終え、怪しい人物を縛り上げた人物は、しばらくの間、その怪しい男の上に座っていたのだった。
翌日、朝の職員会議に出席した千夏と飛田先生は、衝撃の事実を知らされてしまう。教頭先生がこの日から休職となってしまったのだ。理由は教えてもらえなかった。
そして、驚く二人の前に、更なる衝撃が現れる。
「多分、多くの職員の方々には初めましてになりますかね。私はこの草利中学校の校長、四方津正人です。教頭先生が休職になったと連絡を受け、急遽現場に戻ってきました」
これまで一度も見た事のなかった校長先生が、ついにその姿を見せたのである。
(あれがこの中学校の校長先生。姿を見せない人物として噂にその名を連ねていたけれど、思ったより若いわね)
千夏が見た校長先生の第一印象はそんなものである。40~50代といったところだろうか。白髪があまり目立たずに若い印象を受ける。
「まあ、私が戻ってきたところで、わが校の基本的な教育方針は変わりません。みなさん、安心して今まで通りに過ごして頂いて大丈夫ですよ」
職員室の中が騒めている。
まあそれも無理はないというもの。今まで長い間姿を見せなかったのだから。それでいてこの挨拶である。一部の教師から反発が出てきてもおかしくないだろう。
しかし、よくよく見てみると、顔はにこにこと笑っているのに目が笑っていない。あの目に睨まれたら失神してしまいそうな気すらする。この感覚は一体何なのだろうか。千夏は終始気が張りっぱなしになってしまった。
秋も深まり始めたこの10月。今まで姿を見せなかった校長先生の職場復帰という衝撃が走った。この出来事は、栞たちの調査に一体どのような影響を与えるのだろうか。そして、姿を見せた校長の目的とは一体何なのだろうか。
この急展開に、職員会議が終わった千夏は、早速栞に連絡を入れたのだった。
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