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第95話 動き出す闇
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数日後、浦見市郊外にある廃工場。
そこに、『校長』と呼んだ人物と電話をしていた男性が現れる。
「おう、ようやく来おったか。ずいぶんと待たせよったなぁ、トラ」
その男性を『トラ』と呼んだ人物。そこに居たのはレオン・アトゥールだった。どうやら、『校長』と電話をしていた男性は、レオンに雇われているようである。
「あんなに急かされたんじゃ、来ないわけにはいかないからな。それにしても、ずいぶんとお前らしくもない慌て方だった気がするが……。一体どうしたというんだ、レオン」
トラがレオンに質問する。
「はっ、そんなもん、お前に関係あるんか? お前は俺の言う事聞いとったらええねんや」
レオンは軽く笑いながらトラに答えていた。理由は言わなかったのではぐらかしているようである。
「まあそうだな。依頼主の事情に踏み込まないのが、俺たちの鉄則だったな」
トラは納得したように、質問を取り下げた。
「まあつっ立っとるんもなんや、お前も座れや」
レオンはトラに座るように促す。すると、トラはそれに甘えるようにしてレオンと同じ卓に就いた。
「まあ、お前への依頼やけどな。最近俺らの周りを嗅ぎ回っとる奴が居るねん。お前にはそいつらを消してもらいたいんや。どや、できるやろ?」
「できなくはないが、そいつらの容姿とかは分かるんで?」
「残念やけどな、そいつらの人物像までは特定に至っとらん。会社の阿呆どもがうるそうてな、俺らでは調べるに手が回らんのや」
レオンから事情を聴いて、トラはふーむと考え込んだ。
「探偵ごっこは専門外だが、他でもないレオンの頼みとなったら仕方ないな」
トラはしょうがないと言いながらも、レオンからの依頼を引き受けた。
「悪いなぁ。俺の方は仕事もそうやけど、バーディアの連中の相手もあるさかいな。あいつらとの因縁は俺自身で決着着けるさかい、お前は手出し無用やで。……特にカルディの奴にはな」
「カルディ……、レオンの元同僚の男か」
トラもバーディア一家の事はよく知っているようである。カルディという単語で、誰の事かをすぐに特定してみせた。
「せや。あいつはバーディア一家の方針転換についていった臆病もんやけどな、銃の腕は確かやさかいなぁ。いくらお前やゆうても、荷が重いやろうからな」
レオンは笑いながらそのように言い切っていた。
トラはカルディの実力がよく分からないが、バーディアの現当主であるバロック・バーディアの護衛を務めていた事を知っている。ならば、確かに下手に手を出さない方が賢明だろう。だから、レオンの言い分に無言で頷いていた。
「ちゅうこっちゃ。怪しい連中はしばらく見とればわかるかも知れんなぁ。俺からもそういう奴の情報は渡すが、あくまでかも知れんってだけやからな」
「……分かった」
レオンはふざけたように言っているが、事が事だけに、トラは真剣な表情で聞いている。
正直、トラは面倒事を押し付けられたという印象だ。なにせ相手の姿がまったく分からないのだから。
通常、狙撃手として呼ばれたのなら、少なくとも相手の顔くらいは割れている状態で呼ばれるはずである。それがまったくの未知の状態で呼ばれたのだから、トラとしては頭を抱えたくなるものである。
「はっ、そうこなくっちゃなぁ。お前のしばらく住む事になる場所は用意しといたから安心せい。依頼主としては当然そのくらいはしたらんとなぁ」
レオンはけらっけらと明るく笑いながら、アパートの鍵を取り出した。
「俺の名義で借りとるさかいな、安心して使えや。家具もそろとるさかい、なーんも心配要らんで」
「分かった。相手が分からない以上、どこまでやれるか分からんが、お前との仲だからな」
鍵と地図を受け取ると、トラは立ち上がってそのまま無言で部屋を出ていった。室内にはレオンだけが取り残されている。
「はっ、相変わらずやなぁ、トラの奴」
椅子のもたれ掛かり、テーブルに足を放り上げるレオン。
「まっ、あいつも今回ばかりは捨て駒や。せいぜい俺らのために動いてくれや?」
そう呟いて、レオンは部屋を出ていった。
一足先に廃工場を出たトラは、地図を頼りにレオンが用意したというアパートへと向かう。
「レオンが用意したって事は、何かしら仕掛けてある可能性が高い。兄貴との連絡は外部でした方がよさそうだな」
レオンとは長い付き合いになるがゆえに、トラはかなり警戒しているようである。
先日の『校長』との会話の中で10年という単語が出ていたので、おそらくはその頃からの付き合いなのだろう。
レオンは実に警戒心の強い男だし、自己中心的でもある。あの男が優しくする時というのは、大抵はその裏に何か仕掛けや思惑があったりするのだ。
「おそらく、盗聴器くらいは仕掛けてあるだろうな。やりかねんだけに気を付けないとな……」
トラは、一路アパートに向けて車を走らせ続けた。
それにしても、新たな狙撃手まで呼び寄せたレオン。相当に自分たちを嗅ぎ回る存在を警戒している事がよく分かる。
はたして栞たちはその警戒の中を掻い潜って、草利中学校の噂をはじめとして、裏で暗躍する闇を暴き出す事ができるのだろうか。
そこに、『校長』と呼んだ人物と電話をしていた男性が現れる。
「おう、ようやく来おったか。ずいぶんと待たせよったなぁ、トラ」
その男性を『トラ』と呼んだ人物。そこに居たのはレオン・アトゥールだった。どうやら、『校長』と電話をしていた男性は、レオンに雇われているようである。
「あんなに急かされたんじゃ、来ないわけにはいかないからな。それにしても、ずいぶんとお前らしくもない慌て方だった気がするが……。一体どうしたというんだ、レオン」
トラがレオンに質問する。
「はっ、そんなもん、お前に関係あるんか? お前は俺の言う事聞いとったらええねんや」
レオンは軽く笑いながらトラに答えていた。理由は言わなかったのではぐらかしているようである。
「まあそうだな。依頼主の事情に踏み込まないのが、俺たちの鉄則だったな」
トラは納得したように、質問を取り下げた。
「まあつっ立っとるんもなんや、お前も座れや」
レオンはトラに座るように促す。すると、トラはそれに甘えるようにしてレオンと同じ卓に就いた。
「まあ、お前への依頼やけどな。最近俺らの周りを嗅ぎ回っとる奴が居るねん。お前にはそいつらを消してもらいたいんや。どや、できるやろ?」
「できなくはないが、そいつらの容姿とかは分かるんで?」
「残念やけどな、そいつらの人物像までは特定に至っとらん。会社の阿呆どもがうるそうてな、俺らでは調べるに手が回らんのや」
レオンから事情を聴いて、トラはふーむと考え込んだ。
「探偵ごっこは専門外だが、他でもないレオンの頼みとなったら仕方ないな」
トラはしょうがないと言いながらも、レオンからの依頼を引き受けた。
「悪いなぁ。俺の方は仕事もそうやけど、バーディアの連中の相手もあるさかいな。あいつらとの因縁は俺自身で決着着けるさかい、お前は手出し無用やで。……特にカルディの奴にはな」
「カルディ……、レオンの元同僚の男か」
トラもバーディア一家の事はよく知っているようである。カルディという単語で、誰の事かをすぐに特定してみせた。
「せや。あいつはバーディア一家の方針転換についていった臆病もんやけどな、銃の腕は確かやさかいなぁ。いくらお前やゆうても、荷が重いやろうからな」
レオンは笑いながらそのように言い切っていた。
トラはカルディの実力がよく分からないが、バーディアの現当主であるバロック・バーディアの護衛を務めていた事を知っている。ならば、確かに下手に手を出さない方が賢明だろう。だから、レオンの言い分に無言で頷いていた。
「ちゅうこっちゃ。怪しい連中はしばらく見とればわかるかも知れんなぁ。俺からもそういう奴の情報は渡すが、あくまでかも知れんってだけやからな」
「……分かった」
レオンはふざけたように言っているが、事が事だけに、トラは真剣な表情で聞いている。
正直、トラは面倒事を押し付けられたという印象だ。なにせ相手の姿がまったく分からないのだから。
通常、狙撃手として呼ばれたのなら、少なくとも相手の顔くらいは割れている状態で呼ばれるはずである。それがまったくの未知の状態で呼ばれたのだから、トラとしては頭を抱えたくなるものである。
「はっ、そうこなくっちゃなぁ。お前のしばらく住む事になる場所は用意しといたから安心せい。依頼主としては当然そのくらいはしたらんとなぁ」
レオンはけらっけらと明るく笑いながら、アパートの鍵を取り出した。
「俺の名義で借りとるさかいな、安心して使えや。家具もそろとるさかい、なーんも心配要らんで」
「分かった。相手が分からない以上、どこまでやれるか分からんが、お前との仲だからな」
鍵と地図を受け取ると、トラは立ち上がってそのまま無言で部屋を出ていった。室内にはレオンだけが取り残されている。
「はっ、相変わらずやなぁ、トラの奴」
椅子のもたれ掛かり、テーブルに足を放り上げるレオン。
「まっ、あいつも今回ばかりは捨て駒や。せいぜい俺らのために動いてくれや?」
そう呟いて、レオンは部屋を出ていった。
一足先に廃工場を出たトラは、地図を頼りにレオンが用意したというアパートへと向かう。
「レオンが用意したって事は、何かしら仕掛けてある可能性が高い。兄貴との連絡は外部でした方がよさそうだな」
レオンとは長い付き合いになるがゆえに、トラはかなり警戒しているようである。
先日の『校長』との会話の中で10年という単語が出ていたので、おそらくはその頃からの付き合いなのだろう。
レオンは実に警戒心の強い男だし、自己中心的でもある。あの男が優しくする時というのは、大抵はその裏に何か仕掛けや思惑があったりするのだ。
「おそらく、盗聴器くらいは仕掛けてあるだろうな。やりかねんだけに気を付けないとな……」
トラは、一路アパートに向けて車を走らせ続けた。
それにしても、新たな狙撃手まで呼び寄せたレオン。相当に自分たちを嗅ぎ回る存在を警戒している事がよく分かる。
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