ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
93 / 182

第93話 抉り込む

しおりを挟む
 学校から走り去ったトラックは、その後も仕事を続けていた。
「あ、兄貴。一体どうしたんですか? いきなりあんな事をして、俺は寿命が縮む思いでしたよ」
 助手席に座る男が、運転する男におそるおそる問い掛けている。だが、運転席に座る男はそれに一切答える事なく、無言のままトラックを走らせていた。
「あ、兄貴……」
「黙れや、ボケェ! ……俺にも分からんが、あの時、屋上にやばい奴が居ったんは間違いない。俺の直感が騒いだんや、屋上の奴を消せとな」
 しつこい助手席の男に、運転席の男は怒鳴りつける。この特徴的な口調、運転席に座っていたのはレオン・アトゥールだった。
 だが、そのレオンをもってしても、あの時の自分の行動は理解不能だった。周りに見られる危険性まで冒して、なぜあそこで銃を取り出して撃ったのか。
 それでも、あの時には間違いなく、レオンの直感が告げていたのだ。屋上に居る奴を消せと。しかし、その直後にレオンは冷静さを取り戻し、今は普通に配送の仕事に戻っていた。
(あの時、確かにちらっとだけ屋上に人影が見えた。せやけど、あの反応は尋常やない。俺のチャカに気付いて、撃つ前に反応しとる……)
 レオンにとっても、あの時の出来事は鮮明に覚えていられるくらいには衝撃的だった。
(はっ、俺の銃撃を躱せる人物とは、おもろいなぁ……。どこの誰かは知らへんけど、俺の興味を引いた事は、あの世で後悔するんやなぁ……)
 思い出せば思い出すほど、レオンは胸の高鳴りを覚えていた。これだけ自分の興味を引く人物。それが一体誰なのか、正体を突き止めたくて仕方がなくなってきていた。その時のレオンの笑みに、助手席の人物は血の気が引いたように怯えていた。
 この時のレオンはかなり気分的にもやもやしていたのだが、自分の興味を引く人物の登場に、次第に高揚感を覚えていった。これはまるで初めてカルディを見た時のような感覚だった。
 この後のレオンたちの配送なのだが、そういう気持ちの高ぶりもあって、実にスムーズに終わったのだった。
 ただ、助手席の男だけは見た事のないレオンの姿に終始怯えていたらしい。

 一方の学校に居た栞たち。監視が誰も居なくなった事を確認すると、改めて屋上に出ていた。
「やっぱり、これ、銃弾の跡ですね」
 栞はさっき居た場所を確認していた。屋上の手すりには何かがぶつかって大きく抉れた跡が見つかった。
「高石さん、これは?」
「ええ、さっきの銃撃の跡ですよ。ただ、貫通してしまっていますし、この分じゃ銃弾を探そうにもかえってこっちが怪しくなってしまいますね」
 栞はスマホを取り出して、抉れた跡を撮影しておく。しかし、これを誰かに伝えたところで、まともに取り合ってもらえるか分からない。それどころか、銃撃した犯人にこちらを特定されて襲われる可能性だってある。水崎警部や調部長に相談したいところだが、これはリスクとの兼ね合い次第といったところだった。
「とりあえず、これはこのままにしておきましょう。どうせ飛田先生しかここには来れないんですし、下手に騒げば飛田先生に危険が及んでしまいます」
 栞は撮影を終えて、飛田先生にそう言う。
 自分たちはあくまでも調査員だ。今回の事は草利中学校の事とは現状無関係であるし、変なリスクを背負いこむ必要はない。栞は慎重な対応を取る事にした。
「ひとまず、LISEを使って水崎警部にだけは報告しておきましょう。直接会うのは顔が割れる危険性がありますからね」
 栞のその言葉に、飛田先生は静かに頷いていた。
 栞は見た目は子どもだが、その頭脳は本当に驚くべきレベルである。これが市の職員かと思うと、正直疑いたくなるほどだった。
 なにせ、反射光から拳銃を判別して反応するというだけで、常人離れをしているのだ。飛田先生も十分常人とは言えないところはあるが、その飛田先生をして驚かれる栞なのである。
 とりあえず対応が決まると後は早かった。屋上に居る事はリスクがあるので早々に立ち去ると、栞は飛田先生と別れて帰路に就いた。
 そして、屋上の手すりの抉れた跡を水崎警部に送って、自分のスマホからその写真を削除しておいた。残しておくと後々厄介事になるかも知れないからだ。特にわっけーには注意が必要だ。
(はー、驚いたわ。屋上から覗いただけで銃撃されるなんて思わなかったわよ。それくらいに、あの時のトラックに乗っていた人物は何かに警戒していたって事よね。となると、あの時運んでいた荷物は相当に危険なものって事なのかしらね)
 帰路を急ぎながら、栞はそう考えていた。
 こうなると、栞はもう一か所にもLISEで連絡を入れたおいた。隠しカメラの映像の転送先である新聞部、その部長である調部長だった。
 しばらくして、二人から驚きにあふれた返信があったのは言うまでもない。
 この事を受けて、栞と水崎警部と調部長は、秘密裏に顔を合わせる約束をした。
 今は噂の調査として秘密裏に証拠を集めている段階だ。現行犯以外では捕まえるのは厳しいだろう。そういう事もあって、ここまで得られた情報を互いにすり合わせて共有必要があると考えたのだ。
 はたして、草利中学校を舞台にして暗躍する者たちの正体を明かす事ができるのだろうか。栞たちの戦いはまだまだ続くのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あやかし狐の京都裏町案内人

狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~

束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。 八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。 けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。 ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。 神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。 薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。 何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。 鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。 とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

きみは大好きな友達!

秋山龍央
キャラ文芸
pixivの「僕だけのトモダチ」企画の画にインスパイアされて書きました。このイラストめっちゃ大好き! https://dic.pixiv.net/a/%E5%83%95%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%81?utm_source=pixiv&utm_campaign=search_novel&utm_medium=referral 素敵な表紙はこちらの闇深猫背様からお借りしました。ありがとうございました! https://www.pixiv.net/artworks/103735312

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

ミコマイ犯科帳・レポート①「ねずみ小僧に関する考察」

よこゆき
キャラ文芸
シャーマン(降霊)の能力を持つ歴女・御子柴舞。彼女の使命は、歴史上の理想の男性を現世に降霊させ結ばれることにある。シリーズ①で、舞は鼠小僧について調べるうちに、同時代を生きた遠山金四郎と水野忠邦が関係していると推論する。「ねずみ小僧」とは、忠邦と金四郎が裏金を運ぶために生み出した架空の盗人ではないかと。舞は田沼意次の末裔・真吾と知り合い、彼の身体を触媒にして意次の孫・意義の霊魂と接触する。舞の推理はあたっていて、彼がねずみ小僧のようだ。意義は従者の渡辺良左衛門の手を借り、農民たちを救うべく忠邦の蔵から一万両の裏金を盗み出す。だが忠邦の命を受けた金四郎が、大捕り物を組織し意義を追い詰める。万事休した意義は、その場で切腹したかと思われたが…。

鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。 気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。 奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。 そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。 嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。 「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」 激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。 果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか? ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。

処理中です...