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第91話 走る走る
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「さーて、私の番ね」
栞が席を立つ。栞が出るのは200m走である。これは4×100mリレーの前の競技である。ちなみに100m走自体は午前中にあった。だが、その100m走は他の生徒に取られてしまい、栞は仕方なくその次に短い200m走を選択したのだ。
まあ、栞は400mまでなら本来の学生時代に経験しているので、まったく問題はないのである。ちなみに200m走の栞の記録はほぼ25秒台である。かなり速い。まぁそんな記録で走ってしまえば目立ってしまうので、少し調整するつもりである。相手は中学生なので、28秒程度で走れば十分だろう。
ちなみに栞が席を立つと4×100mリレーに出る理恵も動いた。
「おー、しおりん、りぃ、頑張ってくるのだぞ」
偉そうなわっけーである。
「栞ちゃん、理恵ちゃん、ファイト!」
真彩も応援してくれている。栞はわっけーには仏頂面で親指を立て、真彩には笑顔で手を振った。
「おいこら、しおりん。なんでそんなに対応が違うのじゃーっ!」
わっけーが手足をばたばたさせるが気にしない。その様子を理恵は心配そうに見ながら入場門へ向かい、真彩はどうどうとわっけーを宥めていた。
栞にとってわっけーは、いちいちうざ絡みしてくる面倒な相手でしかないのだ。だから、これくらいの塩対応がちょうどいいのである。
さて、栞が200m走の面々を確認すると、そこには見知った顔が居た。
「あっ、栞ちゃん」
「あれ、杏梨ちゃんじゃないの。杏梨ちゃんも200?」
そう、隣の6組の長谷杏梨だった。部活や体育でちょくちょく顔を合わせるので、そこそこ親しい仲の少女だ。
「うん、そうだよ。出たかったのは全部他の子に取られちゃったの」
「はははっ、私と一緒かぁ」
「でも、ちょうどいいね。栞ちゃんとどっちが早いか走ってみたかったの。長距離志望だからといっても、甘く見ないでね」
普段は1500m以上を走る杏梨だが、短距離だって思った以上に速い。油断はできない相手である。
「望むところよ。むしろ、1位2位を独占してやろうじゃないの」
「面白い事言うのね、栞ちゃんって」
栞が大きく出たものだから、杏梨は呆れて笑っていた。
で、その結果はと言うと、
「まぁ余裕かな。陸上部だし」
栞がちゃっかり一着を取っていた。他の子も意外と足が速かったので、それに合わせるように徐々にスピードを上げて、最後は差し切ってしまった。
「うー、負けちゃったあ……」
杏梨は3位である。間に挟まってたのはわっけーと同じテニス部の子だった。
「次は負けないからね」
「私だって、負ける気はないわよ」
栞と杏梨は握手をして退場していった。
「おー、おい見ろ。理恵が走るぞ」
レオンがさっきまで殺気を放っていたのが嘘のようにはしゃいでいる。親バカかよ。
「あなた、そうはしゃがないで下さい。下手に目立つと理恵が恥ずかしがりますよ」
「せやけどなぁ、理恵の晴れ舞台やから精一杯応援したくなるんやわ」
さすがは一人娘の父親である。カルディとあれだけバチバチとやり合っていた男とは思えない豹変ぶりだった。
「気持ちは分かりますが、控えて下さい」
「しゃーないなぁ。お前がそう言うんやったら従うわ」
レオンはすごすごと保護者席に座った。
「で、理恵は何走者目って言っとったか?」
「第3走者ですよ。聞いてなかったんですか」
「悪いなぁ、いろいろあって忘れてもうたんやわ。昔の馴染みがおったからな」
レオンにこれだけ強く言える理恵の母親。本当に強い。
そう言っているうちに、理恵は第3走者の位置に立つ。ちょうど席の真ん前である。
だが、この第3走者の位置、第1走者と同じで常にカーブなのだ。思ったよりスピードが出ないというか出せないので、理恵がここに配置されたのだろう。他のクラスの走者も女子ばかりである。
号砲一発、リレーがスタートする。第1走者もひたすら第1カーブから第2カーブを駆け抜けるポイントなので、全員のスピードが出ない。
そして、第2走者はバックストレッチで直線なのでスピードが出る。ここにはどのクラスも主力となる男子が配置されている。ここを一気に駆け抜け、第3走者にバトンが渡る。
「いっけー理恵! いてもうたれやっ!」
レオンがもの凄く熱く応援している。実にこういう姿は父親らしいものである。
ところが、理恵はそもそもあまり運動が得意じゃないので、トップでバトンを受けたのに一人、また一人と抜かされていった。
「くっそぅ、理恵が苦手にしとる運動やさかい、思ったより抜かされよる」
だが、根性で二人に抜かされただけで、3位でバトンをつないだ。
「おっしゃーっ、よう頑張ったで理恵。おらあ、いてこましたれ!」
熱くなりすぎて言葉が乱暴になるレオン。そのあまりの熱の入り様に、周りの父兄の目が点になっていた。
結局、5組は一人抜き返して2位でゴールした。その健闘に、レオンはただただ拍手を送っていた。……本当に調部長やカルディと面向かって殺気をバチバチさせていた人と同一人物なのか、非常に疑いたくなる光景である。
そのレオンの視線の先では、あまりのレオンの声援に理恵はちょっと恥ずかしくなっていた。やりすぎだったのだ。
「カルディ、あれ、レオンですよね?」
「そうですね。間違いありません」
「狂犬とまで言われた男が、信じられませんね」
こっそりと今後の打ち合わせをしていた調部長とカルディが、そのレオンの豹変っぷりに驚いていた。かなり遠くではあったが、声はでかいしオーバーアクションなのでとにかく目立っていたのだ。
何とも意外な一面を見たりといった感じである。
こうして、体育祭は様々な衝撃をもたらして、その幕を閉じたのであった。
栞が席を立つ。栞が出るのは200m走である。これは4×100mリレーの前の競技である。ちなみに100m走自体は午前中にあった。だが、その100m走は他の生徒に取られてしまい、栞は仕方なくその次に短い200m走を選択したのだ。
まあ、栞は400mまでなら本来の学生時代に経験しているので、まったく問題はないのである。ちなみに200m走の栞の記録はほぼ25秒台である。かなり速い。まぁそんな記録で走ってしまえば目立ってしまうので、少し調整するつもりである。相手は中学生なので、28秒程度で走れば十分だろう。
ちなみに栞が席を立つと4×100mリレーに出る理恵も動いた。
「おー、しおりん、りぃ、頑張ってくるのだぞ」
偉そうなわっけーである。
「栞ちゃん、理恵ちゃん、ファイト!」
真彩も応援してくれている。栞はわっけーには仏頂面で親指を立て、真彩には笑顔で手を振った。
「おいこら、しおりん。なんでそんなに対応が違うのじゃーっ!」
わっけーが手足をばたばたさせるが気にしない。その様子を理恵は心配そうに見ながら入場門へ向かい、真彩はどうどうとわっけーを宥めていた。
栞にとってわっけーは、いちいちうざ絡みしてくる面倒な相手でしかないのだ。だから、これくらいの塩対応がちょうどいいのである。
さて、栞が200m走の面々を確認すると、そこには見知った顔が居た。
「あっ、栞ちゃん」
「あれ、杏梨ちゃんじゃないの。杏梨ちゃんも200?」
そう、隣の6組の長谷杏梨だった。部活や体育でちょくちょく顔を合わせるので、そこそこ親しい仲の少女だ。
「うん、そうだよ。出たかったのは全部他の子に取られちゃったの」
「はははっ、私と一緒かぁ」
「でも、ちょうどいいね。栞ちゃんとどっちが早いか走ってみたかったの。長距離志望だからといっても、甘く見ないでね」
普段は1500m以上を走る杏梨だが、短距離だって思った以上に速い。油断はできない相手である。
「望むところよ。むしろ、1位2位を独占してやろうじゃないの」
「面白い事言うのね、栞ちゃんって」
栞が大きく出たものだから、杏梨は呆れて笑っていた。
で、その結果はと言うと、
「まぁ余裕かな。陸上部だし」
栞がちゃっかり一着を取っていた。他の子も意外と足が速かったので、それに合わせるように徐々にスピードを上げて、最後は差し切ってしまった。
「うー、負けちゃったあ……」
杏梨は3位である。間に挟まってたのはわっけーと同じテニス部の子だった。
「次は負けないからね」
「私だって、負ける気はないわよ」
栞と杏梨は握手をして退場していった。
「おー、おい見ろ。理恵が走るぞ」
レオンがさっきまで殺気を放っていたのが嘘のようにはしゃいでいる。親バカかよ。
「あなた、そうはしゃがないで下さい。下手に目立つと理恵が恥ずかしがりますよ」
「せやけどなぁ、理恵の晴れ舞台やから精一杯応援したくなるんやわ」
さすがは一人娘の父親である。カルディとあれだけバチバチとやり合っていた男とは思えない豹変ぶりだった。
「気持ちは分かりますが、控えて下さい」
「しゃーないなぁ。お前がそう言うんやったら従うわ」
レオンはすごすごと保護者席に座った。
「で、理恵は何走者目って言っとったか?」
「第3走者ですよ。聞いてなかったんですか」
「悪いなぁ、いろいろあって忘れてもうたんやわ。昔の馴染みがおったからな」
レオンにこれだけ強く言える理恵の母親。本当に強い。
そう言っているうちに、理恵は第3走者の位置に立つ。ちょうど席の真ん前である。
だが、この第3走者の位置、第1走者と同じで常にカーブなのだ。思ったよりスピードが出ないというか出せないので、理恵がここに配置されたのだろう。他のクラスの走者も女子ばかりである。
号砲一発、リレーがスタートする。第1走者もひたすら第1カーブから第2カーブを駆け抜けるポイントなので、全員のスピードが出ない。
そして、第2走者はバックストレッチで直線なのでスピードが出る。ここにはどのクラスも主力となる男子が配置されている。ここを一気に駆け抜け、第3走者にバトンが渡る。
「いっけー理恵! いてもうたれやっ!」
レオンがもの凄く熱く応援している。実にこういう姿は父親らしいものである。
ところが、理恵はそもそもあまり運動が得意じゃないので、トップでバトンを受けたのに一人、また一人と抜かされていった。
「くっそぅ、理恵が苦手にしとる運動やさかい、思ったより抜かされよる」
だが、根性で二人に抜かされただけで、3位でバトンをつないだ。
「おっしゃーっ、よう頑張ったで理恵。おらあ、いてこましたれ!」
熱くなりすぎて言葉が乱暴になるレオン。そのあまりの熱の入り様に、周りの父兄の目が点になっていた。
結局、5組は一人抜き返して2位でゴールした。その健闘に、レオンはただただ拍手を送っていた。……本当に調部長やカルディと面向かって殺気をバチバチさせていた人と同一人物なのか、非常に疑いたくなる光景である。
そのレオンの視線の先では、あまりのレオンの声援に理恵はちょっと恥ずかしくなっていた。やりすぎだったのだ。
「カルディ、あれ、レオンですよね?」
「そうですね。間違いありません」
「狂犬とまで言われた男が、信じられませんね」
こっそりと今後の打ち合わせをしていた調部長とカルディが、そのレオンの豹変っぷりに驚いていた。かなり遠くではあったが、声はでかいしオーバーアクションなのでとにかく目立っていたのだ。
何とも意外な一面を見たりといった感じである。
こうして、体育祭は様々な衝撃をもたらして、その幕を閉じたのであった。
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