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第86話 体育祭が始まる
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天気に恵まれて、草利中学校の体育祭が始まる。
保護者席には学生たちの保護者の姿もちらほら見えている。調部長と詩音の護衛であるカルディも、保護者席に陣取っている。
「ふふっ、高石さん、おはようございます」
わっけーたちが騒ぐ中、栞のところに調部長がやって来た。
「あっ、調部長、おはようございます」
挨拶をされたら挨拶をし返す栞。
「調部長、おはようございます」
その声に気付いた真彩も、調部長に挨拶をする。
「今日は楽しみですね。私は3組ですので今日は敵となってしまいますが、負けるつもりはありませんよ」
「望むところですよ。とはいっても、同じ競技にあたるとは限りませんけれどね」
「ええ、そうですね。実に楽しみですよ」
栞と調部長の間で激しい火花が散っている。そこへ、わっけーと理恵もやって来る。
「まあ、しおりん、その人は誰なんだ?」
「私たちが所属している新聞部の部長さんよ。大人と勘違いするくらいに落ち着いていて、とても頼れる人よ」
わっけーが聞いてくるものだから、栞は調部長を紹介する。
「あらあら、我が部の部員のクラスメイトさんね。元気がよさそうな子ね」
「ええ、うるさすぎるのがいい点を全部打ち消してくれてますけれどね」
調部長と栞は、もの凄く困った顔をしている。そのくらいにはわっけーはいろいろと残念なのである。
「その方、新聞部の部長さんなんですね。うちの部長が嘆いてましたよ。なんで取材に来てくれないのかって」
「あらあら、これはこれ……は?」
理恵が顔を出したところで、調部長の顔が驚愕に固まる。
「調部長?」
その様子に異変を感じた栞が、心配そうに調部長にお声を掛ける。すると、調部長は我に返って、普段の笑顔に戻った。一体何だったのだろうか。
「……こほん、失礼しました。えっと、部長さんとはどちらの部でしょうかね」
「美術部です。この間のコンクールで入賞者が出ただけに、新聞部からの取材を期待していたようでして、そんな嘆きを漏らしていました」
調部長が気を取り直して尋ねると、理恵は正直に答えていた。美術部という単語を聞いて、調部長は何か思い当たったようだった。
「ああ、ありましたね。申し訳ございませんね、夏祭りの手伝いに出ていた事で、すっかり失念してしまっていたようです。改めて、後日お話を伺いに参ります」
どうやら、ちょうど夏休み期間中の選考結果の発表で、浦見市駅前商店街の夏祭りの時期と重なってしまったために、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたようだった。
「鳥子ーっ! どこ行ってるのよ」
「あ、これはすみません。部の後輩に挨拶をしていただけですので、すぐに戻ります」
調部長はクラスメイトが呼びに来たらしく、
「それでは、本日はお互い頑張りましょうね」
と笑顔で言い残してクラスへと戻っていった。
「もう、鳥子が居ないと、まとまるものもまとまらないわよー」
「ふふっ、それはすみませんでしたね。ですが、私に頼りっぱなしというのも、少々考え物だと思いますよ」
「うー……、それはそうなんだけどさ」
調部長はクラスメイトと話をしながら、まったく別の事を考えていた。
(高石さんと居たあのポニーテールの子、レオンと一緒に居た少女ですね。という事は、あの少女はレオンの娘という事になりますかね。……似ているだけの赤の他人ならよいのですが、そうでもなさそうですね)
調部長はちらちらと栞たちの方を振り返っている。
「もう鳥子ったら聞いてるの?!」
「聞いてますよ。本当に、なんで私が居ないとまとまらないんですかね」
「私が聞きたいわよぉっ!」
叫んで髪をぐしゃぐしゃに掻き乱すクラスメイトの姿に、調部長は苦笑いを浮かべるしかなかった。
(あの少女の親がここにやって来るとなったら、これは警戒せざるを得ませんね。なにせカルディは保護者席に居ますし、レオンだとしたら、すぐにカルディと私には気が付くはずです。カルディの弟とリリックとは面識がありませんから、そっちは大丈夫だとは思うのですが、相手があのレオンならまったく油断なりませんね)
結局クラスに戻っても、ずっと悩みが解消されない調部長だった。それくらいに、レオン・アトゥールという男はシャレにならないくらいやばい男なのである。理恵がレオンの娘であって、この場にやって来るとするのなら、少なくとも調部長の存在は知られてしまう。そうなると、もう日本での調査続行というのは難しくなってしまうかも知れない。
……調部長は頭の中で幾パターンものシミュレートを行い始めた。しかし、いくら考えてみてもいい予測は立てられなかった。
(ダメですね。相手がレオンでは、とてもいい展望が望めませんね)
どうにもこうにもならない事に、調部長にしては珍しく、諦めるしかなかったようだ。
クラスに戻った調部長は、騒がしいクラスメイトを一言も発する事なく、その笑顔だけで黙らせてしまった。これがギャングの娘のカリスマ性というものなのだろうか。
「まったく、本日は体育祭なのです。力を発揮するのは競技中にして下さい」
ぷんすかと怒る調部長に、しゅんと静まり返るクラスメイト。まるで先生とやんちゃな子どもたちである。
とまあ、いろいろあったものの、どうにかこうにか落ち着いた状態で開会式を迎えられそうだ。
静かな緊張感が漂う中、ついに草利中学校の体育祭の幕が開けたのだった。
保護者席には学生たちの保護者の姿もちらほら見えている。調部長と詩音の護衛であるカルディも、保護者席に陣取っている。
「ふふっ、高石さん、おはようございます」
わっけーたちが騒ぐ中、栞のところに調部長がやって来た。
「あっ、調部長、おはようございます」
挨拶をされたら挨拶をし返す栞。
「調部長、おはようございます」
その声に気付いた真彩も、調部長に挨拶をする。
「今日は楽しみですね。私は3組ですので今日は敵となってしまいますが、負けるつもりはありませんよ」
「望むところですよ。とはいっても、同じ競技にあたるとは限りませんけれどね」
「ええ、そうですね。実に楽しみですよ」
栞と調部長の間で激しい火花が散っている。そこへ、わっけーと理恵もやって来る。
「まあ、しおりん、その人は誰なんだ?」
「私たちが所属している新聞部の部長さんよ。大人と勘違いするくらいに落ち着いていて、とても頼れる人よ」
わっけーが聞いてくるものだから、栞は調部長を紹介する。
「あらあら、我が部の部員のクラスメイトさんね。元気がよさそうな子ね」
「ええ、うるさすぎるのがいい点を全部打ち消してくれてますけれどね」
調部長と栞は、もの凄く困った顔をしている。そのくらいにはわっけーはいろいろと残念なのである。
「その方、新聞部の部長さんなんですね。うちの部長が嘆いてましたよ。なんで取材に来てくれないのかって」
「あらあら、これはこれ……は?」
理恵が顔を出したところで、調部長の顔が驚愕に固まる。
「調部長?」
その様子に異変を感じた栞が、心配そうに調部長にお声を掛ける。すると、調部長は我に返って、普段の笑顔に戻った。一体何だったのだろうか。
「……こほん、失礼しました。えっと、部長さんとはどちらの部でしょうかね」
「美術部です。この間のコンクールで入賞者が出ただけに、新聞部からの取材を期待していたようでして、そんな嘆きを漏らしていました」
調部長が気を取り直して尋ねると、理恵は正直に答えていた。美術部という単語を聞いて、調部長は何か思い当たったようだった。
「ああ、ありましたね。申し訳ございませんね、夏祭りの手伝いに出ていた事で、すっかり失念してしまっていたようです。改めて、後日お話を伺いに参ります」
どうやら、ちょうど夏休み期間中の選考結果の発表で、浦見市駅前商店街の夏祭りの時期と重なってしまったために、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたようだった。
「鳥子ーっ! どこ行ってるのよ」
「あ、これはすみません。部の後輩に挨拶をしていただけですので、すぐに戻ります」
調部長はクラスメイトが呼びに来たらしく、
「それでは、本日はお互い頑張りましょうね」
と笑顔で言い残してクラスへと戻っていった。
「もう、鳥子が居ないと、まとまるものもまとまらないわよー」
「ふふっ、それはすみませんでしたね。ですが、私に頼りっぱなしというのも、少々考え物だと思いますよ」
「うー……、それはそうなんだけどさ」
調部長はクラスメイトと話をしながら、まったく別の事を考えていた。
(高石さんと居たあのポニーテールの子、レオンと一緒に居た少女ですね。という事は、あの少女はレオンの娘という事になりますかね。……似ているだけの赤の他人ならよいのですが、そうでもなさそうですね)
調部長はちらちらと栞たちの方を振り返っている。
「もう鳥子ったら聞いてるの?!」
「聞いてますよ。本当に、なんで私が居ないとまとまらないんですかね」
「私が聞きたいわよぉっ!」
叫んで髪をぐしゃぐしゃに掻き乱すクラスメイトの姿に、調部長は苦笑いを浮かべるしかなかった。
(あの少女の親がここにやって来るとなったら、これは警戒せざるを得ませんね。なにせカルディは保護者席に居ますし、レオンだとしたら、すぐにカルディと私には気が付くはずです。カルディの弟とリリックとは面識がありませんから、そっちは大丈夫だとは思うのですが、相手があのレオンならまったく油断なりませんね)
結局クラスに戻っても、ずっと悩みが解消されない調部長だった。それくらいに、レオン・アトゥールという男はシャレにならないくらいやばい男なのである。理恵がレオンの娘であって、この場にやって来るとするのなら、少なくとも調部長の存在は知られてしまう。そうなると、もう日本での調査続行というのは難しくなってしまうかも知れない。
……調部長は頭の中で幾パターンものシミュレートを行い始めた。しかし、いくら考えてみてもいい予測は立てられなかった。
(ダメですね。相手がレオンでは、とてもいい展望が望めませんね)
どうにもこうにもならない事に、調部長にしては珍しく、諦めるしかなかったようだ。
クラスに戻った調部長は、騒がしいクラスメイトを一言も発する事なく、その笑顔だけで黙らせてしまった。これがギャングの娘のカリスマ性というものなのだろうか。
「まったく、本日は体育祭なのです。力を発揮するのは競技中にして下さい」
ぷんすかと怒る調部長に、しゅんと静まり返るクラスメイト。まるで先生とやんちゃな子どもたちである。
とまあ、いろいろあったものの、どうにかこうにか落ち着いた状態で開会式を迎えられそうだ。
静かな緊張感が漂う中、ついに草利中学校の体育祭の幕が開けたのだった。
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