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第77話 隠しカメラは何を見た
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お盆が過ぎたある日の事、栞と調部長、それと軽部副部長は予想外な場所に出向いていた。
「夏休み中の校長室の様子ですけれど、面白いものが撮れていたのでお持ち致しました」
調部長はそう言って、水崎警部にUSBメモリーを手渡した。そのメモリーの中には、夏休み中に仕掛けた隠しカメラの映像が収められている。外付けのHDDも活用しながら、実に一週間分の映像をチェックした調部長。目にクマを作りながら気になる映像を引っ張り出してきたのだった。しかも音声付とあって、水崎警部もひそかに期待を寄せていた。
そう、この日、栞たちは浦見市警察署に出向いていたのだ。
本来なら警察署なんて気軽に来れるような場所ではないが、どういうわけか三人にはそれほどの気後れはなかった。まあ、軽部副部長はまったく気にしていないだけなのだが、どうして彼だけはそんなに無神経でいられるのだろうか、本当によく分からない。
というわけで、警察署内の一室を借りて、栞たちは水崎警部と一緒に映像を確認する。調部長がまとめた映像はほぼ日中の時間、宅配業者たちが出入りしている時間帯のようである。
映像には何組のも宅配業者の姿が映っていたのだが、とあるところで水崎警部が、
「今のところ、もう一度出せるか?」
「はい、できますよ」
声を出して指示してきたので、調部長は応じて映像を巻き戻す。
「そこだ。そこで止めてくれ」
水崎警部が指定した画像には、宅配業者が校長室で何かを触っているところが映っていた。通常、宅配業者は荷物を置いてサインを受け取るとそのまま帰るはずである。不用意に他人の部屋の中を弄る事はない。しかし、映像に移っていた宅配業者は明らかに校長室内を物色しているように見える。これはありえない事である。
「日付と時間をメモするが、この時間は正確かね?」
「正確ですね。新聞部のパソコンは、室内の電波時計トレイどうして時間を常に自動で調整していますから、狂う事は手動で弄らない事にはありえないです」
調部長は強気に言い切った。
「新聞部の部室の鍵は私が持っていますし、パスワードを入力しなければパソコンの操作は不可能ですからね。それに、3回間違えればロックが掛かります。できる限りのセキュリティは掛けていますよ」
さすが調部長、まったくもって抜かりはなかった。
「えらく厳重にしているんだな」
「私を誰だと思っているのですか。これでも世界最大のギャングとも言われたバーディア一家の正当な跡取りの一人ですよ」
調部長が胸に手を当ててドヤっている。その横では軽部副部長がまったく気にせずスマホゲームに興じていた。そして、栞はあまりの調部長の啖呵きりに感動して拍手をしていた。
「さすがですね、調部長」
「当然です。いつだって情報は武器なのですから、そう簡単に奪われるわけにはいきませんよ」
調部長は眼光鋭く言った。
「水崎警部、他にも気になる点がありましたら、いくらでも使って下さい。それはコピーガードを掛けてありますのでコピーはできませんけれどね」
「本当に抜かりがないな」
調部長の言葉に、すぐさま水崎警部はツッコミを入れる。そのくらいには、調部長が優秀過ぎるのだ。本当にまだ15歳の誕生日を迎えていないのか疑ってしまうレベルである。
「それにしても、なんで私まで連れてきたんですか? これだけなら、別に私は要らないじゃないですか」
栞がふとした疑問を、今さらながらに調部長にぶつけた。すると、調部長はしれっとこう答えた。
「念のためのボディガードですよ。軽部副部長は見ての通りあてになりませんし、カルディはリリック……詩音に付けていますから。以前の狙撃に対する反応を見る限り、高石さんは十分通用すると思いましたからね」
「ああ、あの時の事ですか」
調部長が言った以前の狙撃というのは、商店街の取材の時の、花屋での出来事を指している。あの時は狙撃手からの銃撃にいち早く反応して、その場にあった金属バケツで銃弾を受け止めているのだ。普通にできる芸当ではない。だからこそ、調部長は栞の事を高く買っているのである。
その時の実行犯は黙秘のまま銃刀法違反で捕まって、現在はすでに裁判を終えて刑務所に放り込まれている。殺人未遂までついているのでしばらくは出てこれないだろう。
「そんな、普通の市の職員に過度な期待をしないで下さいよ」
「普通の職員はあんな事はできませんから」
あっさり論破される栞。それに対して男性陣二人はついおかしく笑ってしまっていた。軽部副部長も一体何がツボに入ったというのだろうか。
「まぁ、このUSBは預かっておくよ。映像班に渡しておけばより高度な解析ができる。そしたら、こいつらが何をしていたのかが分かるだろう」
水崎警部はやる気十分のようである。
「まあ、プライバシー云々、注意点があるからな。証拠が固まるまでは強制捜査すらできやしない。しばらくはよろしく頼むよ」
「はい、了解しました。私たちもできる限り提供させて頂きます」
水崎警部の言葉に、調部長はもちろんと言わんばかりのきりっとした表情で答える。
何にしても、校長室に立ち入る一部の宅配業者は白でない事が判明した。これが指し示す事は一体何のか、これから注意深く見ていく必要がありそうである。
「夏休み中の校長室の様子ですけれど、面白いものが撮れていたのでお持ち致しました」
調部長はそう言って、水崎警部にUSBメモリーを手渡した。そのメモリーの中には、夏休み中に仕掛けた隠しカメラの映像が収められている。外付けのHDDも活用しながら、実に一週間分の映像をチェックした調部長。目にクマを作りながら気になる映像を引っ張り出してきたのだった。しかも音声付とあって、水崎警部もひそかに期待を寄せていた。
そう、この日、栞たちは浦見市警察署に出向いていたのだ。
本来なら警察署なんて気軽に来れるような場所ではないが、どういうわけか三人にはそれほどの気後れはなかった。まあ、軽部副部長はまったく気にしていないだけなのだが、どうして彼だけはそんなに無神経でいられるのだろうか、本当によく分からない。
というわけで、警察署内の一室を借りて、栞たちは水崎警部と一緒に映像を確認する。調部長がまとめた映像はほぼ日中の時間、宅配業者たちが出入りしている時間帯のようである。
映像には何組のも宅配業者の姿が映っていたのだが、とあるところで水崎警部が、
「今のところ、もう一度出せるか?」
「はい、できますよ」
声を出して指示してきたので、調部長は応じて映像を巻き戻す。
「そこだ。そこで止めてくれ」
水崎警部が指定した画像には、宅配業者が校長室で何かを触っているところが映っていた。通常、宅配業者は荷物を置いてサインを受け取るとそのまま帰るはずである。不用意に他人の部屋の中を弄る事はない。しかし、映像に移っていた宅配業者は明らかに校長室内を物色しているように見える。これはありえない事である。
「日付と時間をメモするが、この時間は正確かね?」
「正確ですね。新聞部のパソコンは、室内の電波時計トレイどうして時間を常に自動で調整していますから、狂う事は手動で弄らない事にはありえないです」
調部長は強気に言い切った。
「新聞部の部室の鍵は私が持っていますし、パスワードを入力しなければパソコンの操作は不可能ですからね。それに、3回間違えればロックが掛かります。できる限りのセキュリティは掛けていますよ」
さすが調部長、まったくもって抜かりはなかった。
「えらく厳重にしているんだな」
「私を誰だと思っているのですか。これでも世界最大のギャングとも言われたバーディア一家の正当な跡取りの一人ですよ」
調部長が胸に手を当ててドヤっている。その横では軽部副部長がまったく気にせずスマホゲームに興じていた。そして、栞はあまりの調部長の啖呵きりに感動して拍手をしていた。
「さすがですね、調部長」
「当然です。いつだって情報は武器なのですから、そう簡単に奪われるわけにはいきませんよ」
調部長は眼光鋭く言った。
「水崎警部、他にも気になる点がありましたら、いくらでも使って下さい。それはコピーガードを掛けてありますのでコピーはできませんけれどね」
「本当に抜かりがないな」
調部長の言葉に、すぐさま水崎警部はツッコミを入れる。そのくらいには、調部長が優秀過ぎるのだ。本当にまだ15歳の誕生日を迎えていないのか疑ってしまうレベルである。
「それにしても、なんで私まで連れてきたんですか? これだけなら、別に私は要らないじゃないですか」
栞がふとした疑問を、今さらながらに調部長にぶつけた。すると、調部長はしれっとこう答えた。
「念のためのボディガードですよ。軽部副部長は見ての通りあてになりませんし、カルディはリリック……詩音に付けていますから。以前の狙撃に対する反応を見る限り、高石さんは十分通用すると思いましたからね」
「ああ、あの時の事ですか」
調部長が言った以前の狙撃というのは、商店街の取材の時の、花屋での出来事を指している。あの時は狙撃手からの銃撃にいち早く反応して、その場にあった金属バケツで銃弾を受け止めているのだ。普通にできる芸当ではない。だからこそ、調部長は栞の事を高く買っているのである。
その時の実行犯は黙秘のまま銃刀法違反で捕まって、現在はすでに裁判を終えて刑務所に放り込まれている。殺人未遂までついているのでしばらくは出てこれないだろう。
「そんな、普通の市の職員に過度な期待をしないで下さいよ」
「普通の職員はあんな事はできませんから」
あっさり論破される栞。それに対して男性陣二人はついおかしく笑ってしまっていた。軽部副部長も一体何がツボに入ったというのだろうか。
「まぁ、このUSBは預かっておくよ。映像班に渡しておけばより高度な解析ができる。そしたら、こいつらが何をしていたのかが分かるだろう」
水崎警部はやる気十分のようである。
「まあ、プライバシー云々、注意点があるからな。証拠が固まるまでは強制捜査すらできやしない。しばらくはよろしく頼むよ」
「はい、了解しました。私たちもできる限り提供させて頂きます」
水崎警部の言葉に、調部長はもちろんと言わんばかりのきりっとした表情で答える。
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