ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第73話 楽しもう

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 出店の奥でちょっと休憩をしていた真彩は、ふと思い悩んでいた。
 そんな時だった。たまたま配達をしていて、真彩が手伝う出店の前を通った栞が様子を見に来たのである。真彩の事を聞いた栞が店の奥までやって来ると、そこでは真彩が下を向いていた。見るからにどことなく元気がなかった感じだったので、栞はつい声を掛けてしまう。
「どうしたの、まーちゃん」
 すると、急な声に真彩がもの凄く驚いて顔を上げてきたので、栞もついつられて大げさに驚いてしまった。
「あっ、栞ちゃん! び、びっくりしたぁ……」
「もう、それはこっちのセリフよ。奥で休んでるって聞いたから、具合でも悪くなったのかって心配しちゃったじゃないの」
「あっ、うん、ごめんね。ちょっと悩み事ができちゃったから、その……」
 話をしていると、どうにも真彩の歯切れが悪い。気にかかった栞はちょっと相談に乗る事にした。
 改めて話を聞いていると、真彩の悩みはわっけーの事のようだった。真彩も優しい性格なので、友人であるわっけーに隠し事をしている事を心苦しく思って、悩んでいるらしい。話を聞いた栞は、もの凄く状況に納得がいってしまった。
 今まで真彩は、友人としてわっけーに対して気軽に悩みなど相談していたのだが、調査員となった現在では、その機密性に加えて、わっけーの性格も相まって話せない事が増えてしまった。お互いあまり隠し事をしてこなかったがゆえに、その状況に葛藤を覚えてしまったわけだった。それがつらいとの事らしい。
「まぁねえ。わっけーってすぐに話すし、声もでかいから、言うにはそりゃ躊躇しちゃうわね……」
 栞は腕組みをしながら、もの凄く頷いていた。栞の方もその心境が理解できるのだ。なにせ栞の方は年齢も偽っている状況なので、真彩の比にはならないくらいに周りを警戒している。なにせこの浦見市で育ってきたから、言ってしまえば知り合いに溢れている状況なのである。どこから情報が漏れるかというのを常に警戒しなければならないのだ。
 だが、栞は成人済みの大人なのだ。そこはある程度割り切れるようになっていた。
「うん、私の周りはそこまでお喋りな友人は居ないけれど、今やってる事は知られちゃいけないから隠してるのはつらいわね。ただ、私の場合は大人だから割り切れちゃうけど、まーちゃんくらいの年齢だと、悩んじゃうわよね」
 栞は自分の事を話しながら、真彩に理解を示す。しかし、その直後に両腕を組んで悩む仕草をしながらこう続ける。
「ただ、わっけーって妙に鋭いからなぁ……。隠し事していてもばれるのは時間の問題かもね。わっけーが事情を察してくれればいいけど、悩ましいのはどちらかと言えばそこよね」
「や、やっぱりそうだよね」
 栞の話に、真彩はびっくりして頷いていた。付き合いが4か月程度の栞でも、わっけーの性格を把握していたからだ。あれだけうざく付きまとわれれば大概は分かっちゃいそうなものだが、こういうあたりがまだ真彩が子どもだという事の証明だろう。
「とりあえず、私たちは普段通りを心掛ける事かな。ばれようがばれまいが、最終的にはわっけーの問題だもの。もしわっけーに知られそうだなと感じたら、私に相談してちょうだいよ」
「うん、そうする。ありがとう栞ちゃん」
 栞がとにかく真彩が考えすぎないようにアドバイスを送る。変に緊張を持ってしまうと、人間はかえって失敗をしてしまうのだ。だからこそ栞は、真彩が気楽に構えられるように言葉を選んで話をしたのである。
 それが実にうまくいったようで、真彩からは重い空気が消えたようだった。そんな気がするくらいに、真彩の顔には笑顔が戻っていたのだ。
「うん、考え過ぎってよくないのね。私、気を付けるね」
 すっかりいつもの調子に戻った真彩を見て、栞は安心したように笑顔を見せる。すると真彩も微笑み返してきた。その様子に栞はすっと立ち上がる。
「もう大丈夫そうだから、私は手伝いに戻るわね」
「うん。栞ちゃん、本当にありがとう」
 真彩からそう言葉を返された栞は、親指を立ててにかっと笑うと出店を後にしたのだった。

 本部に戻ってきた栞を調部長が出迎える。
「あら、高石さん。顔がほころんでますけれど、何かありましたか?」
 調部長に言われて慌てる栞。どうやら破顔していたようである。慌てた栞は、どうにか表情を整えると、調部長にさっきあった事を話す。栞の話を聞き終わった調部長は、何とも難しい顔をしていた。
「なるほど、声が大きくてお喋りな友人ですか……。それはなんとも悩ましい問題ですね。人の性格なんてそう簡単には変わりませんからね」
 調部長は口に拳を当てて、真剣に悩んでいるようである。
「そうなんですよ。しかもやたらと勘が鋭いところがあるので、少々厄介な相手なんです。だから、あくまでも普段通りを心掛けるように伝えておきました。ああいう手合いはちょっとした違和感から気付いちゃいますからね」
「まぁそれがいいでしょうね。でしたら、高石さんもちゃんと自分で言ったようにするのですよ? 人に言っておきながら自分でできないようでは、それはそれで問題ですからね」
「あははは、肝に銘じておきます」
 なんとも大人びている調部長。これで誕生日前の14歳だというのだから、信じられないものである。
 調部長との話を済ませると、栞も再び手伝いを始める。
 それにしても、中学生というのは何かと難しい年代なんだなと再認識した栞だった。
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