ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第69話 光と影

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 栞たちがお祭りを巡って楽しんでいる頃、千夏もこのお祭りを楽しんでいた。
 その隣には意外な人物が立っていた。
「申し訳ありませんでしたね。思ったより点検に手間取ってしまって遅くなってしまいました」
「いえ、いつもご苦労様です」
 なんと、飛田先生だった。
 夏休みに入ってからも、お互いともが性分なのか何なのか、頻繁に学校へやって来ては顔を合わす事があった。その時に千夏の方から思い切って飛田先生をお祭りに誘ったらしく、こうやってお祭りで一緒に歩いているのだ。ちなみに飛田先生はその時、笑顔で了承していたそうな。
 ちなみに二人ともに服装は浴衣ではなく洋服である。家に戻る様な暇はなかったらしい。それでもせっかく来たのだからと、精一杯楽しんでいるようである。
「私の家はここの近所なのですが、この商店街のお祭りは何気に初めてですね。夏休みは基本的に家に閉じこもって、資格試験の勉強でしたからね」
「そうなんですね。ちなみにどんな資格をお持ちなのですか?」
 歩きながらそう話す飛田先生に、千夏はとても気になったらしくて、所持している資格について詳しく聞きたいようである。
 飛田先生はちょっと驚いていたものの、「いいですよ」と了承して話し始めた。
「えっとですね。今持っている資格は危険物や電気に、後は建築関係だとか、とにかくたくさんの資格ですよ。家がとび職ですから、どうしても必要なものが多かったですからね」
 そういえばそうだった。だからこそ、飛田先生は高いところも結構平気なのである。
「元々技術の先生を目指していたものですから、必要として取っていたのもあるんですね。気が付いたら数えられないくらいの資格を持っていました。ちなみに家一軒くらいなら自分一人でも平気で建てられますよ」
「ほへ?」
 飛田先生がとんでもない事を言うので、千夏の口から何ともまぬけな声が漏れた。つまりはクレーン車すら運転できるという事なのだろうか。その規模のでかさに千夏の開いた口はしばらく塞がらなかった。
 まだ花火の時間までは結構あるので、二人はいろいろと話をしながら時間を過ごしていった。

 花火の時間を迎えると、ドーンという音とともにまだ夕焼けの残る空に大輪の花が咲く。三津川の花火大会である。この時ばかりは浦見市駅前商店街の建物の一部の屋上が解放され、そこには簡易のビアホールが展開されていて、そこに多くの人が集まっている。
 この屋上は滅多に使う事がないだけに、お祭りの数日前から掃除をしたり重たい荷物などを上げたりと大変だったようだ。何と言っても屋上まで到達できるのは階段だけだからである。商店街の中にはアーケードのせいでクレーン車が持ち込めないから仕方がない。
 そんな大変な準備だったが、屋上の賑わいを見れば苦労が報われるというものである。10数か所あるという臨時の屋上ビアホールは、どこも大盛況のようだ。
 ついでな話だが、対象となるビルは最上階から屋上への階段を改良する工事もしたらしい。これは商店街の本気が窺える話だった。
 こうして商店街の各所では、多くの客や通行人たちが夜空に打ち上がる花火に酔いしれていたのだった。

 さて、花火が打ち上がり始めた頃、会長は休憩を取るために、一人自分の店である理髪店に戻っていた。まだ夏祭りの仕事があるからと、麦茶を飲みながら理髪店の待合スペースで商店街を眺めながら休んでいた。
 すると、急に入口の扉が開いてカランカランという音がする。
「こんな時間に一体誰だ。今日の営業はそもそも休みなんだ。悪いが帰ってくれ」
 ごくごくと麦茶を飲み干した会長は、椅子にもたれ掛かったまま面倒くさそうに入ってきた誰かに言い放つ。
 ところが、それにもかかわらず、入ってきた人物は会長に近付いてきて目の前に立った。会長がその影にゆっくりと見上げてみると、そこにあった姿に思わず体を震わせた。
「よぉ、久しぶりやなぁ、四方津の腰巾着。元気に生きとったんやなぁ?」
 会長の目の前に立っていたのは、関西弁の男だった。
「あ、あ、あ、あなた、様は……っ! お、お久しぶりで、ございますです、はい……」
 会長は完全に怯えており、言葉がもの凄く震えていた。
「あ、あの……。わ、私めに何か、ご、御用でございますでしょうか」
 怯えて震え上がる会長を目の前にして、関西弁の男はとても呆れているようだ。頭を掻きながらこう告げる。
「何をそんなに怯えとんねん。たまたま近くに来たからこうやって挨拶に来ただけや。色々調べさせてもろうたから、お前が完全に足を洗てるんは知っとる。せやから、安心せいや」
 そして、関西弁の男はずいっと会長に顔を近付ける。
「今さら、お前に頼む用はあらへんわ。このまま商店街を盛り上げとったらそれでええんやで?」
 舐め回すような視線で会長を見た関西弁の男は、すっと体を起こすとくるりと振り返る。
「さて、俺は人を待たせとるからもう行くで。まっ、せいぜい頑張るんやな」
 後ろ向きのまま手を振りながらそう言うと、関西弁の男は特に何もする事なくそのまま理髪店を出ていった。本当に挨拶だけだったようだ。
 関西弁の男が去った後の店内では、会長がまるで魂が抜けたように力なく椅子からずり落ちていた。そして、腰が完全に抜けていたようで、そのまましばらくの間、床にへたり込んでいたのだった。
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