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第68話 打ち上げ花火
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手伝いを終えた栞たちは、商店街をぶらぶらと歩く。真彩が率先して歩く中、やって来たのは真彩たちがさっきまで手伝っていた店だった。
「おや、また来たのか。何か忘れものでもしたか?」
出店のおじさんは気さくに笑顔で声を掛けてくる。
「はい、とんでもないものを忘れてました」
「ほぉ、それは大変だな。何を忘れたんだ?」
真彩が笑顔で妙な事を言うものだから、おじさんは訝しんで真彩を見ている。だが、真彩の笑顔は崩れなかった。
「このお店での買い物ですよ。お昼はお弁当でしたから、出店の食べ物を食べ忘れてたんです」
「なあんだ、そういう事か。ならちょっと待ってな、会長から無料券貰ってきてるんだろ? すぐ作って出してやる」
出店のおじさんは安心すると、ちゃちゃっと人数分の食べ物と飲み物を用意してくれた。
「いやまぁ、ホントに昼間は助かったぞ。今日はお疲れさん」
そう言いながら、おじさんは真彩に6人分の食べ物を渡してきた。
「そうだ。お腹が空いたろう? そこで座って食ってくといいぞ。おーい、米用意してやってくれ」
「あいよー」
おじさんが奥に呼び掛けると、すぐさま返事があった。こうなると、栞たちはそこで食べざるを得なくなってしまったので、出店の脇に備え付けられた食事スペースへと入っていった。
しばらく待っていると、ご飯とみそ汁が出てきた。商店街の人のご厚意らしい。
「いやぁ、本当はお昼用にたくさん用意してたんだけど、余っちゃってね。助かっちゃったわ」
ご飯を運んできたおばさんは、恥ずかしげもなく笑顔で言っていた。それでももらえるなら、遠慮なくもらっておこう。
目の前に並んだご飯とみそ汁とお好み焼きとジュース。ちょっと炭水化物が多いかも知れないが、一日手伝いをして疲れた今ならちょうどよさそうである。栞たちは「いただきます」と食べ始めた。
「まーちゃん? どうかしたの?」
食べてる最中に、真彩の表情が気になった栞が声を掛ける。
「えっ。あっ、なんでもないよ」
「うん、そう?」
「ちょっと疲れちゃっただけだと思うから、うん、大丈夫」
驚きつつも笑って返す真彩にちょっと違和感を感じたものの、本人が否定をしてくるので栞は強く追及しなかった。汗だくになった後だから、まあそうかなと納得する事にしたのだった。
食事が終わった新聞部の面々は、お祭りの散策を再開する。さすがに夏という事もあって、時計が5時半を指してもまだまだ明るかった。それでも西日がきつくなり、影が大きく伸びている。
この商店街の夏祭りは、お盆に合わせて3日間行われる。初日と2日目には花火も上がる。花火が上がり始めるのは日の暮れた夜7時くらいからだ。
「まだ花火までは時間がありますね。迷子にならないように気を付けながら露店を回りましょうか」
調部長の言葉で、祭りの商店街を見て回る。軽部部長が一番騒いでいたのは言うまでもなかった。
出店以外の商店街の店は、ここぞとばかりにセールをしていたり、ちょっとしたミニイベントをしていたりと賑わっている。そして、普段は商店街を覆っているアーケードが、花火に向けて開けられ始めていた。その様子に、お祭りに来ている人たちは空を見上げていた。浴衣を着た人も居るなど、本当に商店街はお祭りムードに包まれていた。
「いやまぁ、手伝っている間はそんなに気にならなかったですけど、こうやって見てみたら、ちゃんとお祭りなんだなって思いますね」
栞は感動した物言いをしている。すると、その様子を見ていた調部長や真彩がくすくすと笑っていた。
「あら、高石さん。ここのお祭りは初めてなんですね」
調部長が笑いながら話し掛けてくる。それを聞いて栞はドキッとしてしまった。
「あ、いえ……。分かっちゃいますか?」
栞は照れくさそうにしながら、言葉を返した。それに対して、調部長は「当然です」と言わんばかりに笑顔で答えた。
そう、栞は浦見市駅前自体がそんなに来た事ない上に、お祭りが行われているなんて知らなかったのだ。なので、実はこの商店街の夏祭りは初参加なのである。
「ここ数年はだいぶ規模が大きくなっているんですよ。夜7時くらいから花火が上がり始めて、その後7時半から盆踊りも始まるんですよ。私はこっちに来てから毎年参加しているので、結構詳しいですよ」
「へえ~、そうなんですね」
しばらくわいわいと歩く新聞部の面々。しばらくして、栞が調部長を見る。
「どうかされましたか、高石さん」
「いえ、何て言うか、調部長って大人びて見えますよね。落ち着き具合といい、洞察力といい、本当に中学生なのか疑っちゃいますよ」
栞ははにかみながら言う。すると、調部長はくすくすと笑い出した。
「ふふふっ、よく言われますね。ですが、私は正真正銘の14歳ですよ。誕生日を一応年内に向かえる、現役中学三年生です」
笑ったまま調部長が答えると、栞も巻き込んで二人で大笑いしていた。
しばらくすると、ひゅるるるるという音が聞こえ始め、パーンと花火が開く。どうやら7時を回って花火の時間となったようだ。会場を歩いているうちに、知らず知らずに時間を迎えてしまったようだった。
「こんな明るい商店街の中から見ても、花火って目立ちますね」
「そうですね」
商店街のアーケードを取り除いた上空の闇夜には、三津川で打ち上げられた花火が花開いている。ちょうど商店街の伸びる方向が、その三津川方面に向いているためである。
夜空に咲く花火に、栞たちは今日の疲れが癒される気分だった。
この後盆踊りにも参加した栞たちのお祭り初日は、何事もなく無事に終わるのだった。
「おや、また来たのか。何か忘れものでもしたか?」
出店のおじさんは気さくに笑顔で声を掛けてくる。
「はい、とんでもないものを忘れてました」
「ほぉ、それは大変だな。何を忘れたんだ?」
真彩が笑顔で妙な事を言うものだから、おじさんは訝しんで真彩を見ている。だが、真彩の笑顔は崩れなかった。
「このお店での買い物ですよ。お昼はお弁当でしたから、出店の食べ物を食べ忘れてたんです」
「なあんだ、そういう事か。ならちょっと待ってな、会長から無料券貰ってきてるんだろ? すぐ作って出してやる」
出店のおじさんは安心すると、ちゃちゃっと人数分の食べ物と飲み物を用意してくれた。
「いやまぁ、ホントに昼間は助かったぞ。今日はお疲れさん」
そう言いながら、おじさんは真彩に6人分の食べ物を渡してきた。
「そうだ。お腹が空いたろう? そこで座って食ってくといいぞ。おーい、米用意してやってくれ」
「あいよー」
おじさんが奥に呼び掛けると、すぐさま返事があった。こうなると、栞たちはそこで食べざるを得なくなってしまったので、出店の脇に備え付けられた食事スペースへと入っていった。
しばらく待っていると、ご飯とみそ汁が出てきた。商店街の人のご厚意らしい。
「いやぁ、本当はお昼用にたくさん用意してたんだけど、余っちゃってね。助かっちゃったわ」
ご飯を運んできたおばさんは、恥ずかしげもなく笑顔で言っていた。それでももらえるなら、遠慮なくもらっておこう。
目の前に並んだご飯とみそ汁とお好み焼きとジュース。ちょっと炭水化物が多いかも知れないが、一日手伝いをして疲れた今ならちょうどよさそうである。栞たちは「いただきます」と食べ始めた。
「まーちゃん? どうかしたの?」
食べてる最中に、真彩の表情が気になった栞が声を掛ける。
「えっ。あっ、なんでもないよ」
「うん、そう?」
「ちょっと疲れちゃっただけだと思うから、うん、大丈夫」
驚きつつも笑って返す真彩にちょっと違和感を感じたものの、本人が否定をしてくるので栞は強く追及しなかった。汗だくになった後だから、まあそうかなと納得する事にしたのだった。
食事が終わった新聞部の面々は、お祭りの散策を再開する。さすがに夏という事もあって、時計が5時半を指してもまだまだ明るかった。それでも西日がきつくなり、影が大きく伸びている。
この商店街の夏祭りは、お盆に合わせて3日間行われる。初日と2日目には花火も上がる。花火が上がり始めるのは日の暮れた夜7時くらいからだ。
「まだ花火までは時間がありますね。迷子にならないように気を付けながら露店を回りましょうか」
調部長の言葉で、祭りの商店街を見て回る。軽部部長が一番騒いでいたのは言うまでもなかった。
出店以外の商店街の店は、ここぞとばかりにセールをしていたり、ちょっとしたミニイベントをしていたりと賑わっている。そして、普段は商店街を覆っているアーケードが、花火に向けて開けられ始めていた。その様子に、お祭りに来ている人たちは空を見上げていた。浴衣を着た人も居るなど、本当に商店街はお祭りムードに包まれていた。
「いやまぁ、手伝っている間はそんなに気にならなかったですけど、こうやって見てみたら、ちゃんとお祭りなんだなって思いますね」
栞は感動した物言いをしている。すると、その様子を見ていた調部長や真彩がくすくすと笑っていた。
「あら、高石さん。ここのお祭りは初めてなんですね」
調部長が笑いながら話し掛けてくる。それを聞いて栞はドキッとしてしまった。
「あ、いえ……。分かっちゃいますか?」
栞は照れくさそうにしながら、言葉を返した。それに対して、調部長は「当然です」と言わんばかりに笑顔で答えた。
そう、栞は浦見市駅前自体がそんなに来た事ない上に、お祭りが行われているなんて知らなかったのだ。なので、実はこの商店街の夏祭りは初参加なのである。
「ここ数年はだいぶ規模が大きくなっているんですよ。夜7時くらいから花火が上がり始めて、その後7時半から盆踊りも始まるんですよ。私はこっちに来てから毎年参加しているので、結構詳しいですよ」
「へえ~、そうなんですね」
しばらくわいわいと歩く新聞部の面々。しばらくして、栞が調部長を見る。
「どうかされましたか、高石さん」
「いえ、何て言うか、調部長って大人びて見えますよね。落ち着き具合といい、洞察力といい、本当に中学生なのか疑っちゃいますよ」
栞ははにかみながら言う。すると、調部長はくすくすと笑い出した。
「ふふふっ、よく言われますね。ですが、私は正真正銘の14歳ですよ。誕生日を一応年内に向かえる、現役中学三年生です」
笑ったまま調部長が答えると、栞も巻き込んで二人で大笑いしていた。
しばらくすると、ひゅるるるるという音が聞こえ始め、パーンと花火が開く。どうやら7時を回って花火の時間となったようだ。会場を歩いているうちに、知らず知らずに時間を迎えてしまったようだった。
「こんな明るい商店街の中から見ても、花火って目立ちますね」
「そうですね」
商店街のアーケードを取り除いた上空の闇夜には、三津川で打ち上げられた花火が花開いている。ちょうど商店街の伸びる方向が、その三津川方面に向いているためである。
夜空に咲く花火に、栞たちは今日の疲れが癒される気分だった。
この後盆踊りにも参加した栞たちのお祭り初日は、何事もなく無事に終わるのだった。
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