ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第61話 それぞれの動き

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 その後の浦見市警察署。
 水崎警部は調査のまとめに追われていた。なにぶんここに来て、新たに浮上した根田間市の一件が加わってしまい、これによって更に頭を悩ませる結果となってしまったからだ。
 この調査は外部には漏らせない重要な案件なので、大っぴらに人員を投入できない。もしそんな事をすれば、相手にもこちらの状況が伝わってしまって捜査がやりづらくなってしまう。結局、捜査は内々に限られた人員で進めるしかなく、実に困難な状況に陥っていた。
(あいつなら相談はできる……か。よし)
 思い詰めた水崎警部は、とある人物に打診を試みる事にした。
 受話器に手を掛けて難しい顔をする水崎警部。そこへ部下が近付いてきて、声を掛けてきた。
「警部、ちょっとよろしいですか?」
「どうした。悪いが急ぎの案件でなければ後にしてくれないか?」
「警部、電話ですか?」
「まぁ、ちょっとな」
 警部の放つ雰囲気に、部下は何か訝しそうにしている。しかし、警部の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「はっ、承知致しました。では、また後ほど伺います」
 部下を遠ざけた水崎警部は、考え抜いた末に受話器を取った。

 それから2時間後。
 水崎警部は慌てたように浦見市警察署を出ていく。
(まさか、あいつを頼る事になるとはな。だが、この一件はあいつの管轄だ。相談しないわけにはいかんだろうな)
 この時の水崎警部の表情は、いつになく険しいものだった。いや、普段も険しい事はあるのだが、今日のこれはいつも以上のものだったのだ。
 車を走らせる事25分、水崎警部は目的の場所に着いた。その建物の入口にはこう書かれている。
『根田間市警察署』
 そう、水崎警部がやって来たのは、隣町である根田間市の警察署だった。もちろん、何の目的もなくこんな所へはやって来ない。車を降りた水崎警部を、警察署の入口でとある人物が出迎えた。
「久しぶりだな、水崎。どうだ、元気にしているか?」
「ああ、どうにか元気だ。しかし、お前は相変わらずの様子だな、度会わたらい
 水崎警部と親しげに話す人物。実はこの人物、水崎警部と警察学校時代の同期で友人である度会という名の人物だった。水崎警部ががっしりしたタイプなのに対し、度会は少しふくよかな感じである。ちなみにこの度会という男は、根田間市警察署で警部という地位にある人物なのだ。
「しかし、久しぶりに電話をしてきたと思ったら、相談がしたいとは。お前にしては珍しい。一体何があったんだ?」
 すると、水崎警部は渋ったような顔しながら、
「悪い、ここじゃ話せない」
 と言うと、
「分かった。では、場所を変えようか」
 度会も察したように返している。さすがは警察官の友人同士といったところか。二人は連れ立って、市内の料理店へと車を走らせる。
 たどり着いた料理店では、個室を選んで部屋へと移動する二人。そして、料理を注文すると、それが出揃うまでは昔話に花を咲かせていた。
「それにしても、こうやって二人で食事をするのも、すごく久しぶりだな。最後はいつだったかな。……そう、確か互いに警部に昇進した頃だったかな」
「前回の食事はそんなに前の話になるのか。それだとすると、5年くらい前の話になるのか。時の流れは本当に速いもんだな」
 それを皮切りに、警察学校時代の話や今の家族の話など、思いの外語り合う内容は尽きなかった。これだけ話ができるあたりも、二人の仲の良さが窺える。
 こうして話しているうちに、次々と料理が運ばれてくる。その料理が出揃った時、水崎警部の表情が変わる。まるで、頃合いかと言わんばかりの変化である。その表情の変化に、度会警部も息を飲むほどだった。
「実は言うとな、今回お前にしたい相談というのはな……」
 水崎警部が重々しく語り出す。初めのうちこそ黙って聞いていた度会警部だったのだが、その語られる内容に段々と表情が険しくなっていく。
「……その話は本当なのか?」
 度会警部は水崎警部に尋ねる。そりゃもう最初はとても信じられないものだ。
「ああ、その分析結果はここにある。詳しい入手経路は話せないが、おかしな事を考えている連中が、根田間市に手を出したのは間違いないようだ」
 水崎警部から渡された分析結果のコピーを食い入るように見る度会警部。その内容に愕然とする。
「浦見市の話は聞いていたが、まさかこっちに飛び火して来るとはな。だが、うちは隣の市だ。ついに来たかという感じだな……」
 度会警部は頭を抱えていた。水崎警部はそう言いたくなる気持ちがよく分かるので、掛ける言葉がちょっと見つからなかった。
「しかし、場所が場所ゆえに、犯人が市役所とかの内部に入り込んでいる可能性があるな。こうなると、信用できる部下を精査するところから始めなければならないぞ。……こいつは骨の折れる仕事だな」
「まあ頑張ってくれ。私はこっちには詳しくないから、人員選びを手伝ってやれん。こっちもこっちで手一杯なんだ」
「面倒だと言えば面倒な作業だが、市民のためだ。やってやろうじゃないか」
 度会警部は半ばやけくそに調査依頼を引き受ける事にしたのだった。
「ああ、市民のためだ。悪人どもをとっちめてやろうじゃないか」
 二人の間で話がまとまる。そうしてようやく、目の前の料理を食べ始めたのだった。
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