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第24話 連休明け
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長いようで短かったゴールデンウィーク。気が付けばあっという間に終わってしまい、学校生活はふた月目へと突入していた。
このゴールデンウィーク中、栞は浦見氏を隅々まで再確認するようにジョギングをしていた。生まれてからずっと過ごしていた浦見市だが、こうやって走ってみるといろいろと再発見があるものである。
浦見市の人口は12万人。これだけ住んでいるのならば、やはり市の面積は予想外に広く、栞は地元を再発見した気分だった。
その一方で、福江にも事情を説明するためにこっそり会っていた。聞いた時は驚いていた福江だったが、そこはさすが栞の親友、事情の飲み込みは早かった。ところが、事情を黙ってあげる代わりに、自社の新作のモデルをして欲しいと言われた。栞はやむなくその条件を飲んだのだが、その時の福江の喜びようは忘れられないものとなった。
(まあいろいろと問題はあるけど、やっぱり親友は持っておくべきね)
栞は苦笑いしつつもそう思ったのだった。
こうして、ゴールデンウィーク明けで登校した栞は、机に座ってぼーっとしていた。そこへ真彩がやって来た。
「どうしたの、栞ちゃん。なんかぼーっとしてるけど、大丈夫?」
「あ、うん、まあね。ちょっと考え事してただけ」
栞は伸びをしながら真彩にそう答える。真彩が気になるので、質問を続けようとしたその時だった。
「わーはっはっはっ! おはようなのだぞ、諸君!」
わっけーが相変わらずの声量で挨拶をしながら登校してきた。
「おう、しおりん。どうした、元気がないぞっ!」
相変わらず、栞に対して執拗に絡んでくるわっけー。ずかずかと歩いてきて、栞にヘッドロックを仕掛けてきた。だが、こんな事をされても慌てないのが栞である。
「別になんだっていいでしょう? こればっかりはあんたは関係ないし」
頭をがっちりと掴まれながらも、栞の言い返しは冷静そのものである。冷静さの証拠に、栞はわっけーの肘を掴むと、関節辺りをゴリゴリと弄り始めたのだ。
するとわっけーは、
「ぐはっ、なんだか痛いぞーっ!」
と叫びながらヘッドロックを外した。
「しおりん、痛いぞ。何をするんだ!」
「痛い事したのはそっちが先でしょうが。私のは正当防衛。ね、まーちゃん」
「うん、その通りだよ」
「くそう、まあまで味方にするとは卑怯なーっ!」
相変わらず無茶苦茶を言うわっけーである。こうとまでなると、さすがに栞も呆れ返るばかりである。
草利中学校の噂の調査は進展もないし、給食費の一件も進捗の話が聞こえてこない。こういう状況も相まって、わっけーの理不尽さへの呆れ具合は増し増しとなっていたのだった。
一連のやり取りを終えた栞は、席に着くと盛大なため息を吐いたのだった。
昼休み、栞はトイレへと向かう。そこにはどういうわけか理恵もついてきていた。このくらいの年の女子というものは、どういうわけか連れ添ってトイレに向かってしまう。謎の行動である。
栞としてはいろいろ一人で考えたかったのだが、さすがに無下に断る事はできなかったようだ。
草利中学校のトイレの床は、タイル敷きではなく、溝と滑り止めのついた床だった。ゴムなのかプラスチックなのかはちょっと分からない。
そんなどうでもいい事は置いておいて、栞は個室に入ろうと歩いていると、ふとした違和感を察知した。何かが聞こえたような気がしたのだ。理恵の入った個室とは違う個室だったのだが、気になった栞はそっと気になった個室の扉に聞き耳を立てる。
(やっぱり何か変な音がする)
栞は気になったので、個室の扉を1つ1つ叩き始めた。
「どうしたの、しおりん」
用を足した理恵が出てきて、栞の行動を見て驚いていた。
「ごめん、ちょっと静かにして」
そうとだけ言うと、栞は聞き耳を立てて扉を叩いていく。
コンコンといい感じの音がする個室の扉。だが、気になった扉を叩いた時だった。
ココン、ココンと他の扉とは違った音がしたのである。
(ここだけ、何か仕込まれてるって事?)
扉の外側を見てみるが、これといって変わった様子はない。となれば、個室側を向く扉の反対側に何かあるのだろうと見た栞。早速、扉の反対派話を調べ始める。
(これは、まさか……ね?)
扉の内側には、見逃しそうなほどの小さい穴が、床から5~60cmの位置に開いていた。よく見ると、その部分の辺りの板だけが、周りと若干色が異なっている。
(はーん、そういう事……)
何かを察したようである。
「理恵ちゃん、紙とペンとセロテープを持ってきてくれる?」
「え?」
突然の栞の発言に困惑する理恵。
「いいから早く」
「う、うん。分かった」
栞が凄んでさらに強く言ってくるので、理恵は慌てて教室へと戻っていく。
その間に、栞は例の個室の扉を閉めて鍵を掛ける。こうすると栞は個室内に閉じ込められてしまうのだが、そこは運動神経のいい栞である。個室内の設備を使って仕切りをよじ登ってしまった。もしかしたらスカート内が見える状態だったかも知れないが、そこはスパッツを穿いているし、扉の閉まった個室内なので問題はない。
栞が仕切りを越えて飛び降りようとしたところで、理恵が言われた物を持ってきて戻ってきた。
「も、持ってきたよ、しおりん」
相当に慌てて持ってきたのか、理恵の呼吸は乱れていた。
「ありがとう、理恵ちゃん」
そう言いながら、栞は床へと着地する。そして、理恵から物を受け取ると、紙に『故障中』とでかでかと書いて鍵を掛けた個室に貼り付けた。
「い、一体何があったの?」
「すごく許せない事よ。この扉にはとんでもないものが仕掛けられていたわ」
心配そうに尋ねてくる理恵に、栞は怒りを露わにした表情で答える。
「この事は他言無用、特にわっけーには絶対言わないで」
強く言う栞に、理恵はぶんぶんと首を縦に振る。これに続けて栞から告げられた言葉は、とても信じられないものであった。
「この扉の中には、カメラが仕込まれているわ」
このゴールデンウィーク中、栞は浦見氏を隅々まで再確認するようにジョギングをしていた。生まれてからずっと過ごしていた浦見市だが、こうやって走ってみるといろいろと再発見があるものである。
浦見市の人口は12万人。これだけ住んでいるのならば、やはり市の面積は予想外に広く、栞は地元を再発見した気分だった。
その一方で、福江にも事情を説明するためにこっそり会っていた。聞いた時は驚いていた福江だったが、そこはさすが栞の親友、事情の飲み込みは早かった。ところが、事情を黙ってあげる代わりに、自社の新作のモデルをして欲しいと言われた。栞はやむなくその条件を飲んだのだが、その時の福江の喜びようは忘れられないものとなった。
(まあいろいろと問題はあるけど、やっぱり親友は持っておくべきね)
栞は苦笑いしつつもそう思ったのだった。
こうして、ゴールデンウィーク明けで登校した栞は、机に座ってぼーっとしていた。そこへ真彩がやって来た。
「どうしたの、栞ちゃん。なんかぼーっとしてるけど、大丈夫?」
「あ、うん、まあね。ちょっと考え事してただけ」
栞は伸びをしながら真彩にそう答える。真彩が気になるので、質問を続けようとしたその時だった。
「わーはっはっはっ! おはようなのだぞ、諸君!」
わっけーが相変わらずの声量で挨拶をしながら登校してきた。
「おう、しおりん。どうした、元気がないぞっ!」
相変わらず、栞に対して執拗に絡んでくるわっけー。ずかずかと歩いてきて、栞にヘッドロックを仕掛けてきた。だが、こんな事をされても慌てないのが栞である。
「別になんだっていいでしょう? こればっかりはあんたは関係ないし」
頭をがっちりと掴まれながらも、栞の言い返しは冷静そのものである。冷静さの証拠に、栞はわっけーの肘を掴むと、関節辺りをゴリゴリと弄り始めたのだ。
するとわっけーは、
「ぐはっ、なんだか痛いぞーっ!」
と叫びながらヘッドロックを外した。
「しおりん、痛いぞ。何をするんだ!」
「痛い事したのはそっちが先でしょうが。私のは正当防衛。ね、まーちゃん」
「うん、その通りだよ」
「くそう、まあまで味方にするとは卑怯なーっ!」
相変わらず無茶苦茶を言うわっけーである。こうとまでなると、さすがに栞も呆れ返るばかりである。
草利中学校の噂の調査は進展もないし、給食費の一件も進捗の話が聞こえてこない。こういう状況も相まって、わっけーの理不尽さへの呆れ具合は増し増しとなっていたのだった。
一連のやり取りを終えた栞は、席に着くと盛大なため息を吐いたのだった。
昼休み、栞はトイレへと向かう。そこにはどういうわけか理恵もついてきていた。このくらいの年の女子というものは、どういうわけか連れ添ってトイレに向かってしまう。謎の行動である。
栞としてはいろいろ一人で考えたかったのだが、さすがに無下に断る事はできなかったようだ。
草利中学校のトイレの床は、タイル敷きではなく、溝と滑り止めのついた床だった。ゴムなのかプラスチックなのかはちょっと分からない。
そんなどうでもいい事は置いておいて、栞は個室に入ろうと歩いていると、ふとした違和感を察知した。何かが聞こえたような気がしたのだ。理恵の入った個室とは違う個室だったのだが、気になった栞はそっと気になった個室の扉に聞き耳を立てる。
(やっぱり何か変な音がする)
栞は気になったので、個室の扉を1つ1つ叩き始めた。
「どうしたの、しおりん」
用を足した理恵が出てきて、栞の行動を見て驚いていた。
「ごめん、ちょっと静かにして」
そうとだけ言うと、栞は聞き耳を立てて扉を叩いていく。
コンコンといい感じの音がする個室の扉。だが、気になった扉を叩いた時だった。
ココン、ココンと他の扉とは違った音がしたのである。
(ここだけ、何か仕込まれてるって事?)
扉の外側を見てみるが、これといって変わった様子はない。となれば、個室側を向く扉の反対側に何かあるのだろうと見た栞。早速、扉の反対派話を調べ始める。
(これは、まさか……ね?)
扉の内側には、見逃しそうなほどの小さい穴が、床から5~60cmの位置に開いていた。よく見ると、その部分の辺りの板だけが、周りと若干色が異なっている。
(はーん、そういう事……)
何かを察したようである。
「理恵ちゃん、紙とペンとセロテープを持ってきてくれる?」
「え?」
突然の栞の発言に困惑する理恵。
「いいから早く」
「う、うん。分かった」
栞が凄んでさらに強く言ってくるので、理恵は慌てて教室へと戻っていく。
その間に、栞は例の個室の扉を閉めて鍵を掛ける。こうすると栞は個室内に閉じ込められてしまうのだが、そこは運動神経のいい栞である。個室内の設備を使って仕切りをよじ登ってしまった。もしかしたらスカート内が見える状態だったかも知れないが、そこはスパッツを穿いているし、扉の閉まった個室内なので問題はない。
栞が仕切りを越えて飛び降りようとしたところで、理恵が言われた物を持ってきて戻ってきた。
「も、持ってきたよ、しおりん」
相当に慌てて持ってきたのか、理恵の呼吸は乱れていた。
「ありがとう、理恵ちゃん」
そう言いながら、栞は床へと着地する。そして、理恵から物を受け取ると、紙に『故障中』とでかでかと書いて鍵を掛けた個室に貼り付けた。
「い、一体何があったの?」
「すごく許せない事よ。この扉にはとんでもないものが仕掛けられていたわ」
心配そうに尋ねてくる理恵に、栞は怒りを露わにした表情で答える。
「この事は他言無用、特にわっけーには絶対言わないで」
強く言う栞に、理恵はぶんぶんと首を縦に振る。これに続けて栞から告げられた言葉は、とても信じられないものであった。
「この扉の中には、カメラが仕込まれているわ」
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