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第九章 拡張版ミズーナ編
第474話 学園祭4日目
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そして、迎えた4日目。
準々決勝の最初の試合でタミールが登場する。フィレン王子とアンマリアの席には、サキとモモの二人も顔を見せていた。
モモは本来は貴賓席に入れる立場ではないものの、アンマリアの身内であり、フィレン王子の特別な計らいあって実現したのである。貴賓席に案内された時には、モモは丁寧に頭を下げていた。
「さあ、いきなりタミールの登場よ。2回戦は危なかったけれど、よくここまで勝ち進んでくれたものだわ」
「私としては、甥っ子がレッタス殿下に負けたのがショックでしたね」
アンマリアの気分の昂っている後ろで、侍女のスーラが残念そうに呟いていた。レッタス王子の2回戦相手であるカール・イースは彼女の甥っ子なのである。
「まあ仕方ないですよ。レッタス殿下は私たちと一緒に王国騎士と毎日のように手合わせをしていますからね。それでも善戦したとは思いますから、卒業後は便宜を図ってもいいとは思います」
「ありがとう存じます、フィレン王太子殿下」
スーラがフィレン王子に頭を下げている。
「あっ、そろそろタミールの試合が始まりますよ」
モモが声を上げているので、話を切り上げて会場へと視線を向ける。
タミールの対戦相手はちょっと体格のいい学生のようだ。しかも、現在二年生でタミールの1つ下らしい。
結果、タミールは善戦したものの負けてしまった。
「あら、タミールってば負けてしまいましたね」
モモが残念そうに呟いている。
「あれは相手が強すぎましたね」
「仕方ないよ。彼は騎士団の団長の甥っ子だからね」
「なるほど、それは強いのは頷けますね。タミールは単純に相手が悪かったというわけですか。私もタン様には結局勝てませんでしたしね……」
アンマリアは自分が参加した3年間の剣術大会を思い出してため息をついていた。結局一度もタンには勝てていなかったのだ。
そのタン・ミノレバーといえば、父親が王国の騎士の一人である。いとこともども、王国の騎士の血縁者に敗北したのだった。
「私、タミールを慰めに行ってきますね」
「ええ、私はここを離れられないからお願いね、モモ」
こくりと頷いたモモは、貴賓席を出て控室へと移動していった。
タミールの事をモモに任せ、しばらくするとリブロ王子が登場する。
だが、タミールと同じように魔力循環不全を患ったはずのリブロ王子はかなり強かった。レッタス王子の時とは違い、あっという間に決着をつけてしまっていた。
「ちょっと、リブロ殿下もしばらく見てない間にずいぶんと腕を上げましたね」
「まぁね。昨夜、私と打ち合いをしたいといってきたので、付き合ってあげたんですよ」
「そんな事が?!」
フィレン王子の証言に衝撃を受けるアンマリアである。
そんなこんなで話をしているうちに、昼食を挟んでいよいよ決勝戦を迎える。
対戦はタミールに勝ったマーメル・ハラミールである。サガリー騎士団長の弟の息子である。
対するはリブロ王子だ。どちらも剣の腕は確かとあって、昨年のフィレン王子とタン・ミノレバーの戦いを彷彿とさせる戦いが期待されているようだ。会場の盛り上がりがそれだけ異様なのである。
「まったく、これは私の戦いの再現でも期待されているのでしょうかね」
「かも知れませんよ、殿下」
くすくすと笑うフィレン王子の後ろから、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「やあ、タン。仕事はさぼりかい?」
「いいえ、隊長から言われてやって来ましたよ、フィレン殿下」
「あら、サクラ様まで」
続けて聞こえてきた声に、アンマリアが反応する。
そこにいたのはタンとサクラだった。婚約者同士だということもあって、二人揃って貴賓席に顔を出してきた。
「まったく、私は警備を続けたかったのですが、殿下たちの護衛に行って来いと学園祭の警備隊長から言われまして、無理やり向かわされたのです」
サクラは不満たっぷりのようである。
「まったく、お固い騎士団だと思ったら、妙なところで気を遣ってくれるものですから困りましたよ、本気で」
タンもすっかり困り顔になっていた。
気が付けば、貴賓席の中は去年の剣術大会の参加者が揃うというある意味怖いスペースになっていた。サキだけが参加者ではないので、ちょっと場違いに感じて席の端っこの方に避けてしまうくらいである。
「さて、リブロ殿下の実力を拝見と参りましょうかね」
タンがこう言っているということは、タンもリブロ王子とは戦っていないようだった。
「去年は相手が悪すぎましたね。なにせ、初戦はこの私でしたから」
どうやら去年の剣術大会、リブロの初戦の相手はサクラだったようだ。これは不運が過ぎる。
「手加減は恥。全力でいかせて頂きましたよ」
「お前な、王族相手に何をやってるんだ」
「言いましたでしょう、手加減は恥と」
大事な事なので二度言うサクラである。さすがは辺境の守護者たるバッサーシ辺境伯の血筋の者である。戦いこそがすべて、筋肉こそ至高という脳筋の一族なのである。
思わず苦笑いを浮かべるフィレン王子とアンマリアである。
フィレン王子はタンに負けてしまったが、今年も行われる王族と王国騎士の親類による戦いである。俄然注目が違うというものだ。
会場中の注目が集まる中、いよいよ剣術大会の決勝戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。
準々決勝の最初の試合でタミールが登場する。フィレン王子とアンマリアの席には、サキとモモの二人も顔を見せていた。
モモは本来は貴賓席に入れる立場ではないものの、アンマリアの身内であり、フィレン王子の特別な計らいあって実現したのである。貴賓席に案内された時には、モモは丁寧に頭を下げていた。
「さあ、いきなりタミールの登場よ。2回戦は危なかったけれど、よくここまで勝ち進んでくれたものだわ」
「私としては、甥っ子がレッタス殿下に負けたのがショックでしたね」
アンマリアの気分の昂っている後ろで、侍女のスーラが残念そうに呟いていた。レッタス王子の2回戦相手であるカール・イースは彼女の甥っ子なのである。
「まあ仕方ないですよ。レッタス殿下は私たちと一緒に王国騎士と毎日のように手合わせをしていますからね。それでも善戦したとは思いますから、卒業後は便宜を図ってもいいとは思います」
「ありがとう存じます、フィレン王太子殿下」
スーラがフィレン王子に頭を下げている。
「あっ、そろそろタミールの試合が始まりますよ」
モモが声を上げているので、話を切り上げて会場へと視線を向ける。
タミールの対戦相手はちょっと体格のいい学生のようだ。しかも、現在二年生でタミールの1つ下らしい。
結果、タミールは善戦したものの負けてしまった。
「あら、タミールってば負けてしまいましたね」
モモが残念そうに呟いている。
「あれは相手が強すぎましたね」
「仕方ないよ。彼は騎士団の団長の甥っ子だからね」
「なるほど、それは強いのは頷けますね。タミールは単純に相手が悪かったというわけですか。私もタン様には結局勝てませんでしたしね……」
アンマリアは自分が参加した3年間の剣術大会を思い出してため息をついていた。結局一度もタンには勝てていなかったのだ。
そのタン・ミノレバーといえば、父親が王国の騎士の一人である。いとこともども、王国の騎士の血縁者に敗北したのだった。
「私、タミールを慰めに行ってきますね」
「ええ、私はここを離れられないからお願いね、モモ」
こくりと頷いたモモは、貴賓席を出て控室へと移動していった。
タミールの事をモモに任せ、しばらくするとリブロ王子が登場する。
だが、タミールと同じように魔力循環不全を患ったはずのリブロ王子はかなり強かった。レッタス王子の時とは違い、あっという間に決着をつけてしまっていた。
「ちょっと、リブロ殿下もしばらく見てない間にずいぶんと腕を上げましたね」
「まぁね。昨夜、私と打ち合いをしたいといってきたので、付き合ってあげたんですよ」
「そんな事が?!」
フィレン王子の証言に衝撃を受けるアンマリアである。
そんなこんなで話をしているうちに、昼食を挟んでいよいよ決勝戦を迎える。
対戦はタミールに勝ったマーメル・ハラミールである。サガリー騎士団長の弟の息子である。
対するはリブロ王子だ。どちらも剣の腕は確かとあって、昨年のフィレン王子とタン・ミノレバーの戦いを彷彿とさせる戦いが期待されているようだ。会場の盛り上がりがそれだけ異様なのである。
「まったく、これは私の戦いの再現でも期待されているのでしょうかね」
「かも知れませんよ、殿下」
くすくすと笑うフィレン王子の後ろから、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「やあ、タン。仕事はさぼりかい?」
「いいえ、隊長から言われてやって来ましたよ、フィレン殿下」
「あら、サクラ様まで」
続けて聞こえてきた声に、アンマリアが反応する。
そこにいたのはタンとサクラだった。婚約者同士だということもあって、二人揃って貴賓席に顔を出してきた。
「まったく、私は警備を続けたかったのですが、殿下たちの護衛に行って来いと学園祭の警備隊長から言われまして、無理やり向かわされたのです」
サクラは不満たっぷりのようである。
「まったく、お固い騎士団だと思ったら、妙なところで気を遣ってくれるものですから困りましたよ、本気で」
タンもすっかり困り顔になっていた。
気が付けば、貴賓席の中は去年の剣術大会の参加者が揃うというある意味怖いスペースになっていた。サキだけが参加者ではないので、ちょっと場違いに感じて席の端っこの方に避けてしまうくらいである。
「さて、リブロ殿下の実力を拝見と参りましょうかね」
タンがこう言っているということは、タンもリブロ王子とは戦っていないようだった。
「去年は相手が悪すぎましたね。なにせ、初戦はこの私でしたから」
どうやら去年の剣術大会、リブロの初戦の相手はサクラだったようだ。これは不運が過ぎる。
「手加減は恥。全力でいかせて頂きましたよ」
「お前な、王族相手に何をやってるんだ」
「言いましたでしょう、手加減は恥と」
大事な事なので二度言うサクラである。さすがは辺境の守護者たるバッサーシ辺境伯の血筋の者である。戦いこそがすべて、筋肉こそ至高という脳筋の一族なのである。
思わず苦笑いを浮かべるフィレン王子とアンマリアである。
フィレン王子はタンに負けてしまったが、今年も行われる王族と王国騎士の親類による戦いである。俄然注目が違うというものだ。
会場中の注目が集まる中、いよいよ剣術大会の決勝戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。
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