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第九章 拡張版ミズーナ編
第471話 負けませんよ
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こうして、無事に三年生となったミズーナ王女たちの最後の学園祭の初日が終わり、二日目を迎える。
この日も同じようミズーナ王女たちはボンジール商会の手伝いに、王子たちは剣術大会へと向かっていく。
昨日の戦いの様子をフィレン王子から咎められたリブロ王子は、ちょっと緊張した様子を見せていた。あれだけ受けに回って相手に攻めさせていたのだ。様子を見るのはいいが、調子に乗り過ぎるなと釘を刺されていた。
門に入ってしばらくのところで分かれ、ミズーナ王女たちは話しながら移動している。
「まったく、昨日みたいな人使いの荒い事はやめて下さいよ。アルーの魔法は私の魔力を使ってるんですから、無茶をさせ過ぎると私が疲れるんですから」
メチルはエスカに本気で怒っているようだった。
昨日はその場でせっけんを大量に作っていたので、帰る頃にはメチルが軽い貧血を起こしていたのである。魔族も貧血になるとは驚きである。
「分かったわよ。無茶はさせないから、疲れたのなら言ってちょうだい」
頭を押さえながら首を横に振るメチルの愚痴に、エスカは少し申し訳なさそうに約束していた。メチルはその言葉に反応して、エスカに強く迫っていた。
二人のやり取りに、ミズーナ王女もついつい苦笑いを浮かべていた。
「まったく、途中から延々と木を燃やして灰を作っては、せっけんを固めて風魔法で乾かしての繰り返しです。今のアルーは精霊ですから疲れを知りませんが、さっきも言いましたが、アルーの魔力のほとんどは私からの供給なんです。使えば使うほど、安静にしていても私は疲れていくんですよ」
怒鳴りながらエスカに顔を近付けるメチルである。まったく許す気がないのがよく分かるというものだ。
「エスカ王女殿下ってば、本当にその言葉守って下さいよ。嘘だったら一生恨みますからね」
「分かった、分かったから。もう、怒りを収めてちょうだいよ」
怒りの収まらないメチルの様子に、エスカは本気で困っているようだった。ミズーナ王女はその様子を見ながら、困惑したように笑いを堪えていた。
学園祭の二日目も基本的には前日と同じ流れだ。
剣術大会は二回戦と三回戦が行われる。
タミールたちは無事に勝ち上がっていったものの、三回戦ではついにこのカードが実現してしまった。
「ここで君とぶつかるとはね」
「それはボクの方のセリフですね」
そう、レッタス王子とリブロ王子の王子対決である。
基本的にトーナメント方式であるがために、初戦の組み合わせが決まった時点で分かっていた事だ。
観戦に訪れている観衆たちも、多くはサーロイン王国の国民だ。当然、応援はリブロ王子の方だろう。
しかし、レッタス王子の方はまだ婚約者が決まっていないとあってか、令嬢やその親たちが真剣にレッタス王子の応援に回っていた。まぁ単純に媚を売るといったところだろうか。
レッタス王子に気に入られて婚約者の地位におさまる事ができれば、この上ない玉の輿になるからである。フィレン王子もリブロ王子も婚約者が決まってしまっている以上、令嬢たちは必死なのである。
「ずいぶんと令嬢たちの声援が飛んできますね」
「ははっ、私の相手が決まっていないからでしょうね。ベジタリウス王国の王妃の座を狙っての応援というわけでしょう」
リブロ王子の率直な感想に、レッタス王子は平然としていた。
「ですが、私は自分の伴侶くらい、自分で決めます。おそらく本国ではお母様が必死に探していらっしゃるでしょうが、これは私の問題です」
レッタス王子はそう言いながら、剣をしっかりと構えている。
「それもそうですね。ですが、今は剣術大会です。レッタス殿下の覚悟、ボクにしっかりと見せて下さいね」
リブロ王子に言われて、思わず笑みをこぼしてしまうレッタス王子。
二人の態勢が整い、審判の声が響き渡る。
「始め!」
レッタス王子が攻撃を仕掛けるが、リブロ王子はここでも見の構えだ。
すっとリブロ王子の剣が下に動いたのを見ると、レッタス王子は上段からの構えを素早く変更する。
横薙ぎ一閃。
だが、リブロ王子もさすがで、その動きにしっかりと対応していた。
「さすがに簡単にはいかないですね」
「そりゃねえ。お互い王国騎士に鍛えられ、お互いの動きを見てきたんだ。簡単に終わっては困るというもの」
せめぎ合っていた剣を弾き合い、一度距離を取る二人。
「はあっ!」
気合いを込めた声と同時に、再び斬りかかっていく。
だが、一緒に訓練を受けてきただけあって、ちょっと変化を入れた攻撃をしてもお互いにすぐに反応して防いでしまう。実力が拮抗していることもあって、なかなか決着がつかない。
息を飲むような攻防がしばらく続いていたのだが、それもやがて終わりを迎える。
「ぐっ……」
リブロ王子がかすかに体勢を崩したのだ。
そこへすかさずレッタス王子がたたみ掛けに入る。
「いい勝負だったよ、リブロ殿下」
だが、リブロ王子は笑っていた。
「なに?!」
次の瞬間、鋭い一撃がレッタス王子の剣を弾き飛ばしていた。剣は宙を舞い、カランカランという音を立てて会場に転がった。
長い戦いが、ここに決着したのである。
この日も同じようミズーナ王女たちはボンジール商会の手伝いに、王子たちは剣術大会へと向かっていく。
昨日の戦いの様子をフィレン王子から咎められたリブロ王子は、ちょっと緊張した様子を見せていた。あれだけ受けに回って相手に攻めさせていたのだ。様子を見るのはいいが、調子に乗り過ぎるなと釘を刺されていた。
門に入ってしばらくのところで分かれ、ミズーナ王女たちは話しながら移動している。
「まったく、昨日みたいな人使いの荒い事はやめて下さいよ。アルーの魔法は私の魔力を使ってるんですから、無茶をさせ過ぎると私が疲れるんですから」
メチルはエスカに本気で怒っているようだった。
昨日はその場でせっけんを大量に作っていたので、帰る頃にはメチルが軽い貧血を起こしていたのである。魔族も貧血になるとは驚きである。
「分かったわよ。無茶はさせないから、疲れたのなら言ってちょうだい」
頭を押さえながら首を横に振るメチルの愚痴に、エスカは少し申し訳なさそうに約束していた。メチルはその言葉に反応して、エスカに強く迫っていた。
二人のやり取りに、ミズーナ王女もついつい苦笑いを浮かべていた。
「まったく、途中から延々と木を燃やして灰を作っては、せっけんを固めて風魔法で乾かしての繰り返しです。今のアルーは精霊ですから疲れを知りませんが、さっきも言いましたが、アルーの魔力のほとんどは私からの供給なんです。使えば使うほど、安静にしていても私は疲れていくんですよ」
怒鳴りながらエスカに顔を近付けるメチルである。まったく許す気がないのがよく分かるというものだ。
「エスカ王女殿下ってば、本当にその言葉守って下さいよ。嘘だったら一生恨みますからね」
「分かった、分かったから。もう、怒りを収めてちょうだいよ」
怒りの収まらないメチルの様子に、エスカは本気で困っているようだった。ミズーナ王女はその様子を見ながら、困惑したように笑いを堪えていた。
学園祭の二日目も基本的には前日と同じ流れだ。
剣術大会は二回戦と三回戦が行われる。
タミールたちは無事に勝ち上がっていったものの、三回戦ではついにこのカードが実現してしまった。
「ここで君とぶつかるとはね」
「それはボクの方のセリフですね」
そう、レッタス王子とリブロ王子の王子対決である。
基本的にトーナメント方式であるがために、初戦の組み合わせが決まった時点で分かっていた事だ。
観戦に訪れている観衆たちも、多くはサーロイン王国の国民だ。当然、応援はリブロ王子の方だろう。
しかし、レッタス王子の方はまだ婚約者が決まっていないとあってか、令嬢やその親たちが真剣にレッタス王子の応援に回っていた。まぁ単純に媚を売るといったところだろうか。
レッタス王子に気に入られて婚約者の地位におさまる事ができれば、この上ない玉の輿になるからである。フィレン王子もリブロ王子も婚約者が決まってしまっている以上、令嬢たちは必死なのである。
「ずいぶんと令嬢たちの声援が飛んできますね」
「ははっ、私の相手が決まっていないからでしょうね。ベジタリウス王国の王妃の座を狙っての応援というわけでしょう」
リブロ王子の率直な感想に、レッタス王子は平然としていた。
「ですが、私は自分の伴侶くらい、自分で決めます。おそらく本国ではお母様が必死に探していらっしゃるでしょうが、これは私の問題です」
レッタス王子はそう言いながら、剣をしっかりと構えている。
「それもそうですね。ですが、今は剣術大会です。レッタス殿下の覚悟、ボクにしっかりと見せて下さいね」
リブロ王子に言われて、思わず笑みをこぼしてしまうレッタス王子。
二人の態勢が整い、審判の声が響き渡る。
「始め!」
レッタス王子が攻撃を仕掛けるが、リブロ王子はここでも見の構えだ。
すっとリブロ王子の剣が下に動いたのを見ると、レッタス王子は上段からの構えを素早く変更する。
横薙ぎ一閃。
だが、リブロ王子もさすがで、その動きにしっかりと対応していた。
「さすがに簡単にはいかないですね」
「そりゃねえ。お互い王国騎士に鍛えられ、お互いの動きを見てきたんだ。簡単に終わっては困るというもの」
せめぎ合っていた剣を弾き合い、一度距離を取る二人。
「はあっ!」
気合いを込めた声と同時に、再び斬りかかっていく。
だが、一緒に訓練を受けてきただけあって、ちょっと変化を入れた攻撃をしてもお互いにすぐに反応して防いでしまう。実力が拮抗していることもあって、なかなか決着がつかない。
息を飲むような攻防がしばらく続いていたのだが、それもやがて終わりを迎える。
「ぐっ……」
リブロ王子がかすかに体勢を崩したのだ。
そこへすかさずレッタス王子がたたみ掛けに入る。
「いい勝負だったよ、リブロ殿下」
だが、リブロ王子は笑っていた。
「なに?!」
次の瞬間、鋭い一撃がレッタス王子の剣を弾き飛ばしていた。剣は宙を舞い、カランカランという音を立てて会場に転がった。
長い戦いが、ここに決着したのである。
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