470 / 485
第九章 拡張版ミズーナ編
第470話 信じるのよ
しおりを挟む
「はあはあ、間に合いましたでしょうか」
アンマリアたちのいる場所に、サキが息を切らせながら現れた。
「サキ様、ちょうどいいところに。今から始まりますよ」
「はあはあ、よかったぁ。ちょっと聖女としての仕事が長引いてしまって、どうしようかと思いましたよ……」
席に座ったサキは、アンマリアの出した柑橘ジュースを口に含む。
「うっ、酸っぱい……」
「柑橘ですからね」
眉間にしわを寄せて反応するサキの表情に、思わず笑ってしまうアンマリアとミズーナ王女である。
ひとまずジュースを飲んで落ち着いたサキが会場に視線を向けると、対戦相手を見て小さく声を漏らした。
「あら、相手を知っているの?」
「はい、テトリバーとも親交のあるカックテール男爵家のご子息ワトル様です」
なんと、サキとは知り合いに当たり人物だった。
そんな相手がサキと婚約者になったリブロ王子の初戦の相手とは、なんとも因縁めいたものがあった。
「実力はどのくらいなのかな」
フィレン王子がサキに問い掛けると、サキは首を横に振っていた。
「分かりません。親交があったというくらいの面識しかありませんので。学園に通ってからは、顔を合わせることがありませんでした」
「そうか……」
サキの答えを聞いて、フィレン王子はリブロ王子への方へと視線を戻した。
「申し訳ございません、お役に立てなくて……」
「仕方ないわ、サキ様。私たちに付き合わせていたので、しょうがないですよ」
アンマリアもそう声を掛けて、サキを責めるような事はしなかった。なにせ、その機会を奪っていたのが自分たちだったのだから。
「始め!」
話がちょうど落ち着くと、リブロ王子の戦いが始まってしまった。
「始まってしまったようですね。さあ、しっかりと応援しましょう」
「はい、承知しました」
話を打ち切り、アンマリアたちの視線が試合会場へと向けられたのだった。
試合会場では、リブロ王子とワトルの戦いが繰り広げられている。
一時期、魔力循環不全で寝込んでいたとはいえ、リブロの動きはまったく悪いものではなかった。兄のフィレン王子同様に、王国騎士団とけいこを積んでいるのだから当然だろう。
ただ、その病気があった事が間違いなく原因であろう。その動きは少々精彩を欠いているようだ。
「サキの婚約者のくせに、腕前は大した事がないようだな。失望したぞ、リブロ殿下」
偉そうな口を叩くワトル。
だが、そんな口を叩くだけあって、リブロ王子は押され気味に試合が進んでいる。誰の目にもワトル・カックテールの優勢のようにしか映らない。
フィレン王子は強かったというのに、弟はこの程度なのかと、失望の声すらささやかれ始めている。
そんな中、ワトルだけは違う印象を受けていた。
(こいつ……。俺の攻撃をことごとく受け止めてやがる。それにこの目……。まったく諦めている様子がない。どうしてそんな目をしていられるんだ)
リブロ王子の剣は、ワトルの攻撃を確実に捌いていたのだ。ただ、受けに回っているがために、周りには気付かれていないようである。
(このまま押し切って勝ってやる!)
ワトルはさらに攻撃の手を強めていった。
「うん、ごり押しになったね」
フィレン王子がぽつりと呟く。
「ええ。リブロ殿下がしっかりと攻撃に対応してくるものですから、相手は相当に焦っているようですね」
アンマリアも状況をそう分析している。
「どうして二人ともそんなに冷静でいられるのですか」
「リブロ殿下……」
完全な魔法型であるミズーナ王女とサキが、リブロ王子のことを心配している。特にミズーナ王女はフィレン王子とアンマリアに怒っているようだ。
だが、二人は剣術大会に参加したことがある身だ。だからこそ、状況というものがよく見えているのである。
「落ち着きなさい、ミズーナ王女殿下。王族たる者、この程度で慌てていてどうするというのですか」
真顔でミズーナ王女を諭すアンマリア。さすが王太子フィレンの婚約者となっただけのことはあるというものだ。
「そうですよ。ああいう時こそ、相手は最後に大きな隙を見せるのです。リブロはそれを狙っているのですよ」
「えっ?」
フィレン王子の言葉に、思わず変な声を出してしまうサキ。
「ほら、見て下さい」
それと同時にアンマリアが声を出す。それにつられるように、ミズーナ王女とサキが試合会場へと視線を向ける。そこには、まさに決着をつけようとして大きく振りかぶったワトルの姿があった。
思わず顔を覆いたくなるサキだが、アンマリアが手を割り込ませて阻止する。
「しっかり見ておくのです、自分の婚約者の姿を」
アンマリアの言葉に、しっかりとリブロ王子の姿を見るサキだった。
その瞬間だった。
ワトルの動きがぴたりと止まる。よく見ると、リブロ王子が剣を鋭く薙ぎ払っていたのだ。
「か……は……」
苦悶の声を上げながら、ワトルの手から剣がするりと零れ落ちる。
「勝者、リブロ・サーロイン!」
地面に落ちた剣の音が響くと同時に、リブロ王子の勝ち名乗りが会場に響き渡ったのだった。
アンマリアたちのいる場所に、サキが息を切らせながら現れた。
「サキ様、ちょうどいいところに。今から始まりますよ」
「はあはあ、よかったぁ。ちょっと聖女としての仕事が長引いてしまって、どうしようかと思いましたよ……」
席に座ったサキは、アンマリアの出した柑橘ジュースを口に含む。
「うっ、酸っぱい……」
「柑橘ですからね」
眉間にしわを寄せて反応するサキの表情に、思わず笑ってしまうアンマリアとミズーナ王女である。
ひとまずジュースを飲んで落ち着いたサキが会場に視線を向けると、対戦相手を見て小さく声を漏らした。
「あら、相手を知っているの?」
「はい、テトリバーとも親交のあるカックテール男爵家のご子息ワトル様です」
なんと、サキとは知り合いに当たり人物だった。
そんな相手がサキと婚約者になったリブロ王子の初戦の相手とは、なんとも因縁めいたものがあった。
「実力はどのくらいなのかな」
フィレン王子がサキに問い掛けると、サキは首を横に振っていた。
「分かりません。親交があったというくらいの面識しかありませんので。学園に通ってからは、顔を合わせることがありませんでした」
「そうか……」
サキの答えを聞いて、フィレン王子はリブロ王子への方へと視線を戻した。
「申し訳ございません、お役に立てなくて……」
「仕方ないわ、サキ様。私たちに付き合わせていたので、しょうがないですよ」
アンマリアもそう声を掛けて、サキを責めるような事はしなかった。なにせ、その機会を奪っていたのが自分たちだったのだから。
「始め!」
話がちょうど落ち着くと、リブロ王子の戦いが始まってしまった。
「始まってしまったようですね。さあ、しっかりと応援しましょう」
「はい、承知しました」
話を打ち切り、アンマリアたちの視線が試合会場へと向けられたのだった。
試合会場では、リブロ王子とワトルの戦いが繰り広げられている。
一時期、魔力循環不全で寝込んでいたとはいえ、リブロの動きはまったく悪いものではなかった。兄のフィレン王子同様に、王国騎士団とけいこを積んでいるのだから当然だろう。
ただ、その病気があった事が間違いなく原因であろう。その動きは少々精彩を欠いているようだ。
「サキの婚約者のくせに、腕前は大した事がないようだな。失望したぞ、リブロ殿下」
偉そうな口を叩くワトル。
だが、そんな口を叩くだけあって、リブロ王子は押され気味に試合が進んでいる。誰の目にもワトル・カックテールの優勢のようにしか映らない。
フィレン王子は強かったというのに、弟はこの程度なのかと、失望の声すらささやかれ始めている。
そんな中、ワトルだけは違う印象を受けていた。
(こいつ……。俺の攻撃をことごとく受け止めてやがる。それにこの目……。まったく諦めている様子がない。どうしてそんな目をしていられるんだ)
リブロ王子の剣は、ワトルの攻撃を確実に捌いていたのだ。ただ、受けに回っているがために、周りには気付かれていないようである。
(このまま押し切って勝ってやる!)
ワトルはさらに攻撃の手を強めていった。
「うん、ごり押しになったね」
フィレン王子がぽつりと呟く。
「ええ。リブロ殿下がしっかりと攻撃に対応してくるものですから、相手は相当に焦っているようですね」
アンマリアも状況をそう分析している。
「どうして二人ともそんなに冷静でいられるのですか」
「リブロ殿下……」
完全な魔法型であるミズーナ王女とサキが、リブロ王子のことを心配している。特にミズーナ王女はフィレン王子とアンマリアに怒っているようだ。
だが、二人は剣術大会に参加したことがある身だ。だからこそ、状況というものがよく見えているのである。
「落ち着きなさい、ミズーナ王女殿下。王族たる者、この程度で慌てていてどうするというのですか」
真顔でミズーナ王女を諭すアンマリア。さすが王太子フィレンの婚約者となっただけのことはあるというものだ。
「そうですよ。ああいう時こそ、相手は最後に大きな隙を見せるのです。リブロはそれを狙っているのですよ」
「えっ?」
フィレン王子の言葉に、思わず変な声を出してしまうサキ。
「ほら、見て下さい」
それと同時にアンマリアが声を出す。それにつられるように、ミズーナ王女とサキが試合会場へと視線を向ける。そこには、まさに決着をつけようとして大きく振りかぶったワトルの姿があった。
思わず顔を覆いたくなるサキだが、アンマリアが手を割り込ませて阻止する。
「しっかり見ておくのです、自分の婚約者の姿を」
アンマリアの言葉に、しっかりとリブロ王子の姿を見るサキだった。
その瞬間だった。
ワトルの動きがぴたりと止まる。よく見ると、リブロ王子が剣を鋭く薙ぎ払っていたのだ。
「か……は……」
苦悶の声を上げながら、ワトルの手から剣がするりと零れ落ちる。
「勝者、リブロ・サーロイン!」
地面に落ちた剣の音が響くと同時に、リブロ王子の勝ち名乗りが会場に響き渡ったのだった。
17
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる