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第九章 拡張版ミズーナ編
第466話 ふとした疑問
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ボンジール商会の出店を手伝いながら、エスカはミズーナ王女と話をしている。
「そういえば、なんで大会って剣術大会しかないのかしらね。武術型と魔法型と分かれているんだし、武術大会や魔法大会があってもいいんじゃないかしらね」
「今さらな話ね。でも、確かにそう言われればそうですね」
二人の話が耳に入ったギーモが、会話に割り込んでくる。
「聞いた話ですが、昔はあったようですよ。武術大会と魔法大会も」
「ええ、そうなのですか?!」
ギーモの言葉に、思わず声が出てしまうミズーナ王女とエスカ。
それによれば、体術を使った武術大会と魔法を使った魔法大会は、どちらも学園を半壊するほどの被害が毎年出ていたらしく、その度に修復するのも面倒になって中止になったらしい。やり過ぎたわけである。
結果として、毎年平穏無事に終わっていた剣術大会だけがこうやって残ったというわけだった。
「魔法はともかくとして、武術の方も学園を半壊させるって……。どこぞのバトル漫画かしらね」
「本当、私もそれが浮かびましたわ」
前世の話を思い出して、苦笑いをするしかない二人である。
「何を笑っているのですか、お二方とも」
「メチル、やっと来ましたのね」
バスケットを提げて登場したメチルに、笑いを堪えながら反応するミズーナ王女である。相当に急いできたのか、その呼吸は荒いようだった。
「お二方が先に行かれてしまっただけです。まったく、魔族でなければまだ追いつけていませんでしたよ」
ずいぶんと怒っているようだ。
実は、メチルが今日の最終準備をしている間に、ミズーナ王女とエスカは先に城を出ていってしまったのだ。バスケットを持って現れた時には部屋はもぬけの殻。二人が先に行った事が判明して、慌てて追いかけてきたのである。
「えっと、何を持っているのかしらね」
エスカがよく思い出せないと、眉間にしわを寄せながらメチルに尋ねている。これにはさすがにミズーナ王女とメチルが揃ってショックを受けている。
それもそうだろう。このバスケットの中身は、エスカが言い出して作ったものが入っているのだから。
「エスカ、さすがにそれはどうかと思います。そもそも自分が何を作ったのか覚えていないのは、酷すぎませんかしら」
「んんん?」
どうやらまったく思い出せないようである。これには二人揃ってため息を吐くしかなかった。
「まったく、せっけんのついでだといって、アロマキャンドルの新作を作っていたのを忘れたのでしょうかね……」
額に手を当てて実に残念そうな表情をするミズーナ王女。
これを聞いてようやくエスカは思い出したようである。本当にいろいろ思いつく割りには投げっぱなしになってしまうのは、エスカの悪いところだ。これには目を丸くして引いてしまう。
「ああ、そっか。柑橘系以外のアロマを試そうとしていろいろやってたんだっけか。せっけんに気を取られてすっかり忘れていたわ」
それでいいのか王女様。思わず心の中でツッコミを入れるミズーナ王女とメチルである。目には見えないものの、アルーもしっかりツッコミを入れている。
「ちょっと見せてもらってもよろしいですかな」
準備をしながらちらちらと話を聞いていたギーモがやって来る。メチルは気前よく了承して、ギーモにアロマキャンドルの入ったバスケットを手渡していた。
「ほう、柑橘系とはまた違った色のキャンドルですな」
柑橘系はかなりはっきりとした黄色だっただけに、ちょっと意外な感じのキャンドルがそこにはあった。
「搾った時の油の色がそのまま出ますからね。とはいっても、柑橘系は着色のために果汁を混ぜていただけなんですけれどね」
なぜか説明をするのはミズーナ王女だった。さっきまですっかり忘れていたエスカに任せられないからである。
「なるほど、それであんな色をしているのか」
「ええ、見た目にも違いが分かりやすい方がいいかと思いましてね。似たような見た目ですと、買う時、使う時にどれがどれやら分からなくなってしまいますから」
「そこまで考えていたのか。いやはや、姫様だと思って甘く見ておりました。実に感服致します」
しれっと失礼なことを言いながら褒めてくるギーモ。だいぶ商人としては真面目になっているのだが、根本的なところは変えられないのである。
「まぁお話はまた後でゆっくりしましょう。このまま手を止めていますと、開始時間に間に合いませんからね」
「おお、そうでしたな。では、とっとと開店準備を済ませてしまいましょうか」
話を打ち切って、メチルも加わった上で設営を進めていくミズーナ王女たち。そして、どうにか学園祭が始まるまでに準備を済ます事ができた。
「さあ、これから一週間は学園祭です。この機会にじゃんじゃんとアロマを広めていきますよ」
「おーっ!」
ミズーナ王女の音頭で、気合いを入れるエスカたち。露店を手伝いボンジール商会の職員たちも気合い十分である。
こうして、拡張版最終年の学園祭がついに開幕したのであった。
「そういえば、なんで大会って剣術大会しかないのかしらね。武術型と魔法型と分かれているんだし、武術大会や魔法大会があってもいいんじゃないかしらね」
「今さらな話ね。でも、確かにそう言われればそうですね」
二人の話が耳に入ったギーモが、会話に割り込んでくる。
「聞いた話ですが、昔はあったようですよ。武術大会と魔法大会も」
「ええ、そうなのですか?!」
ギーモの言葉に、思わず声が出てしまうミズーナ王女とエスカ。
それによれば、体術を使った武術大会と魔法を使った魔法大会は、どちらも学園を半壊するほどの被害が毎年出ていたらしく、その度に修復するのも面倒になって中止になったらしい。やり過ぎたわけである。
結果として、毎年平穏無事に終わっていた剣術大会だけがこうやって残ったというわけだった。
「魔法はともかくとして、武術の方も学園を半壊させるって……。どこぞのバトル漫画かしらね」
「本当、私もそれが浮かびましたわ」
前世の話を思い出して、苦笑いをするしかない二人である。
「何を笑っているのですか、お二方とも」
「メチル、やっと来ましたのね」
バスケットを提げて登場したメチルに、笑いを堪えながら反応するミズーナ王女である。相当に急いできたのか、その呼吸は荒いようだった。
「お二方が先に行かれてしまっただけです。まったく、魔族でなければまだ追いつけていませんでしたよ」
ずいぶんと怒っているようだ。
実は、メチルが今日の最終準備をしている間に、ミズーナ王女とエスカは先に城を出ていってしまったのだ。バスケットを持って現れた時には部屋はもぬけの殻。二人が先に行った事が判明して、慌てて追いかけてきたのである。
「えっと、何を持っているのかしらね」
エスカがよく思い出せないと、眉間にしわを寄せながらメチルに尋ねている。これにはさすがにミズーナ王女とメチルが揃ってショックを受けている。
それもそうだろう。このバスケットの中身は、エスカが言い出して作ったものが入っているのだから。
「エスカ、さすがにそれはどうかと思います。そもそも自分が何を作ったのか覚えていないのは、酷すぎませんかしら」
「んんん?」
どうやらまったく思い出せないようである。これには二人揃ってため息を吐くしかなかった。
「まったく、せっけんのついでだといって、アロマキャンドルの新作を作っていたのを忘れたのでしょうかね……」
額に手を当てて実に残念そうな表情をするミズーナ王女。
これを聞いてようやくエスカは思い出したようである。本当にいろいろ思いつく割りには投げっぱなしになってしまうのは、エスカの悪いところだ。これには目を丸くして引いてしまう。
「ああ、そっか。柑橘系以外のアロマを試そうとしていろいろやってたんだっけか。せっけんに気を取られてすっかり忘れていたわ」
それでいいのか王女様。思わず心の中でツッコミを入れるミズーナ王女とメチルである。目には見えないものの、アルーもしっかりツッコミを入れている。
「ちょっと見せてもらってもよろしいですかな」
準備をしながらちらちらと話を聞いていたギーモがやって来る。メチルは気前よく了承して、ギーモにアロマキャンドルの入ったバスケットを手渡していた。
「ほう、柑橘系とはまた違った色のキャンドルですな」
柑橘系はかなりはっきりとした黄色だっただけに、ちょっと意外な感じのキャンドルがそこにはあった。
「搾った時の油の色がそのまま出ますからね。とはいっても、柑橘系は着色のために果汁を混ぜていただけなんですけれどね」
なぜか説明をするのはミズーナ王女だった。さっきまですっかり忘れていたエスカに任せられないからである。
「なるほど、それであんな色をしているのか」
「ええ、見た目にも違いが分かりやすい方がいいかと思いましてね。似たような見た目ですと、買う時、使う時にどれがどれやら分からなくなってしまいますから」
「そこまで考えていたのか。いやはや、姫様だと思って甘く見ておりました。実に感服致します」
しれっと失礼なことを言いながら褒めてくるギーモ。だいぶ商人としては真面目になっているのだが、根本的なところは変えられないのである。
「まぁお話はまた後でゆっくりしましょう。このまま手を止めていますと、開始時間に間に合いませんからね」
「おお、そうでしたな。では、とっとと開店準備を済ませてしまいましょうか」
話を打ち切って、メチルも加わった上で設営を進めていくミズーナ王女たち。そして、どうにか学園祭が始まるまでに準備を済ます事ができた。
「さあ、これから一週間は学園祭です。この機会にじゃんじゃんとアロマを広めていきますよ」
「おーっ!」
ミズーナ王女の音頭で、気合いを入れるエスカたち。露店を手伝いボンジール商会の職員たちも気合い十分である。
こうして、拡張版最終年の学園祭がついに開幕したのであった。
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