466 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第466話 ふとした疑問
しおりを挟む
ボンジール商会の出店を手伝いながら、エスカはミズーナ王女と話をしている。
「そういえば、なんで大会って剣術大会しかないのかしらね。武術型と魔法型と分かれているんだし、武術大会や魔法大会があってもいいんじゃないかしらね」
「今さらな話ね。でも、確かにそう言われればそうですね」
二人の話が耳に入ったギーモが、会話に割り込んでくる。
「聞いた話ですが、昔はあったようですよ。武術大会と魔法大会も」
「ええ、そうなのですか?!」
ギーモの言葉に、思わず声が出てしまうミズーナ王女とエスカ。
それによれば、体術を使った武術大会と魔法を使った魔法大会は、どちらも学園を半壊するほどの被害が毎年出ていたらしく、その度に修復するのも面倒になって中止になったらしい。やり過ぎたわけである。
結果として、毎年平穏無事に終わっていた剣術大会だけがこうやって残ったというわけだった。
「魔法はともかくとして、武術の方も学園を半壊させるって……。どこぞのバトル漫画かしらね」
「本当、私もそれが浮かびましたわ」
前世の話を思い出して、苦笑いをするしかない二人である。
「何を笑っているのですか、お二方とも」
「メチル、やっと来ましたのね」
バスケットを提げて登場したメチルに、笑いを堪えながら反応するミズーナ王女である。相当に急いできたのか、その呼吸は荒いようだった。
「お二方が先に行かれてしまっただけです。まったく、魔族でなければまだ追いつけていませんでしたよ」
ずいぶんと怒っているようだ。
実は、メチルが今日の最終準備をしている間に、ミズーナ王女とエスカは先に城を出ていってしまったのだ。バスケットを持って現れた時には部屋はもぬけの殻。二人が先に行った事が判明して、慌てて追いかけてきたのである。
「えっと、何を持っているのかしらね」
エスカがよく思い出せないと、眉間にしわを寄せながらメチルに尋ねている。これにはさすがにミズーナ王女とメチルが揃ってショックを受けている。
それもそうだろう。このバスケットの中身は、エスカが言い出して作ったものが入っているのだから。
「エスカ、さすがにそれはどうかと思います。そもそも自分が何を作ったのか覚えていないのは、酷すぎませんかしら」
「んんん?」
どうやらまったく思い出せないようである。これには二人揃ってため息を吐くしかなかった。
「まったく、せっけんのついでだといって、アロマキャンドルの新作を作っていたのを忘れたのでしょうかね……」
額に手を当てて実に残念そうな表情をするミズーナ王女。
これを聞いてようやくエスカは思い出したようである。本当にいろいろ思いつく割りには投げっぱなしになってしまうのは、エスカの悪いところだ。これには目を丸くして引いてしまう。
「ああ、そっか。柑橘系以外のアロマを試そうとしていろいろやってたんだっけか。せっけんに気を取られてすっかり忘れていたわ」
それでいいのか王女様。思わず心の中でツッコミを入れるミズーナ王女とメチルである。目には見えないものの、アルーもしっかりツッコミを入れている。
「ちょっと見せてもらってもよろしいですかな」
準備をしながらちらちらと話を聞いていたギーモがやって来る。メチルは気前よく了承して、ギーモにアロマキャンドルの入ったバスケットを手渡していた。
「ほう、柑橘系とはまた違った色のキャンドルですな」
柑橘系はかなりはっきりとした黄色だっただけに、ちょっと意外な感じのキャンドルがそこにはあった。
「搾った時の油の色がそのまま出ますからね。とはいっても、柑橘系は着色のために果汁を混ぜていただけなんですけれどね」
なぜか説明をするのはミズーナ王女だった。さっきまですっかり忘れていたエスカに任せられないからである。
「なるほど、それであんな色をしているのか」
「ええ、見た目にも違いが分かりやすい方がいいかと思いましてね。似たような見た目ですと、買う時、使う時にどれがどれやら分からなくなってしまいますから」
「そこまで考えていたのか。いやはや、姫様だと思って甘く見ておりました。実に感服致します」
しれっと失礼なことを言いながら褒めてくるギーモ。だいぶ商人としては真面目になっているのだが、根本的なところは変えられないのである。
「まぁお話はまた後でゆっくりしましょう。このまま手を止めていますと、開始時間に間に合いませんからね」
「おお、そうでしたな。では、とっとと開店準備を済ませてしまいましょうか」
話を打ち切って、メチルも加わった上で設営を進めていくミズーナ王女たち。そして、どうにか学園祭が始まるまでに準備を済ます事ができた。
「さあ、これから一週間は学園祭です。この機会にじゃんじゃんとアロマを広めていきますよ」
「おーっ!」
ミズーナ王女の音頭で、気合いを入れるエスカたち。露店を手伝いボンジール商会の職員たちも気合い十分である。
こうして、拡張版最終年の学園祭がついに開幕したのであった。
「そういえば、なんで大会って剣術大会しかないのかしらね。武術型と魔法型と分かれているんだし、武術大会や魔法大会があってもいいんじゃないかしらね」
「今さらな話ね。でも、確かにそう言われればそうですね」
二人の話が耳に入ったギーモが、会話に割り込んでくる。
「聞いた話ですが、昔はあったようですよ。武術大会と魔法大会も」
「ええ、そうなのですか?!」
ギーモの言葉に、思わず声が出てしまうミズーナ王女とエスカ。
それによれば、体術を使った武術大会と魔法を使った魔法大会は、どちらも学園を半壊するほどの被害が毎年出ていたらしく、その度に修復するのも面倒になって中止になったらしい。やり過ぎたわけである。
結果として、毎年平穏無事に終わっていた剣術大会だけがこうやって残ったというわけだった。
「魔法はともかくとして、武術の方も学園を半壊させるって……。どこぞのバトル漫画かしらね」
「本当、私もそれが浮かびましたわ」
前世の話を思い出して、苦笑いをするしかない二人である。
「何を笑っているのですか、お二方とも」
「メチル、やっと来ましたのね」
バスケットを提げて登場したメチルに、笑いを堪えながら反応するミズーナ王女である。相当に急いできたのか、その呼吸は荒いようだった。
「お二方が先に行かれてしまっただけです。まったく、魔族でなければまだ追いつけていませんでしたよ」
ずいぶんと怒っているようだ。
実は、メチルが今日の最終準備をしている間に、ミズーナ王女とエスカは先に城を出ていってしまったのだ。バスケットを持って現れた時には部屋はもぬけの殻。二人が先に行った事が判明して、慌てて追いかけてきたのである。
「えっと、何を持っているのかしらね」
エスカがよく思い出せないと、眉間にしわを寄せながらメチルに尋ねている。これにはさすがにミズーナ王女とメチルが揃ってショックを受けている。
それもそうだろう。このバスケットの中身は、エスカが言い出して作ったものが入っているのだから。
「エスカ、さすがにそれはどうかと思います。そもそも自分が何を作ったのか覚えていないのは、酷すぎませんかしら」
「んんん?」
どうやらまったく思い出せないようである。これには二人揃ってため息を吐くしかなかった。
「まったく、せっけんのついでだといって、アロマキャンドルの新作を作っていたのを忘れたのでしょうかね……」
額に手を当てて実に残念そうな表情をするミズーナ王女。
これを聞いてようやくエスカは思い出したようである。本当にいろいろ思いつく割りには投げっぱなしになってしまうのは、エスカの悪いところだ。これには目を丸くして引いてしまう。
「ああ、そっか。柑橘系以外のアロマを試そうとしていろいろやってたんだっけか。せっけんに気を取られてすっかり忘れていたわ」
それでいいのか王女様。思わず心の中でツッコミを入れるミズーナ王女とメチルである。目には見えないものの、アルーもしっかりツッコミを入れている。
「ちょっと見せてもらってもよろしいですかな」
準備をしながらちらちらと話を聞いていたギーモがやって来る。メチルは気前よく了承して、ギーモにアロマキャンドルの入ったバスケットを手渡していた。
「ほう、柑橘系とはまた違った色のキャンドルですな」
柑橘系はかなりはっきりとした黄色だっただけに、ちょっと意外な感じのキャンドルがそこにはあった。
「搾った時の油の色がそのまま出ますからね。とはいっても、柑橘系は着色のために果汁を混ぜていただけなんですけれどね」
なぜか説明をするのはミズーナ王女だった。さっきまですっかり忘れていたエスカに任せられないからである。
「なるほど、それであんな色をしているのか」
「ええ、見た目にも違いが分かりやすい方がいいかと思いましてね。似たような見た目ですと、買う時、使う時にどれがどれやら分からなくなってしまいますから」
「そこまで考えていたのか。いやはや、姫様だと思って甘く見ておりました。実に感服致します」
しれっと失礼なことを言いながら褒めてくるギーモ。だいぶ商人としては真面目になっているのだが、根本的なところは変えられないのである。
「まぁお話はまた後でゆっくりしましょう。このまま手を止めていますと、開始時間に間に合いませんからね」
「おお、そうでしたな。では、とっとと開店準備を済ませてしまいましょうか」
話を打ち切って、メチルも加わった上で設営を進めていくミズーナ王女たち。そして、どうにか学園祭が始まるまでに準備を済ます事ができた。
「さあ、これから一週間は学園祭です。この機会にじゃんじゃんとアロマを広めていきますよ」
「おーっ!」
ミズーナ王女の音頭で、気合いを入れるエスカたち。露店を手伝いボンジール商会の職員たちも気合い十分である。
こうして、拡張版最終年の学園祭がついに開幕したのであった。
19
お気に入りに追加
263
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる