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第九章 拡張版ミズーナ編
第460話 静かじゃない夜
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リブロ王子の誕生日パーティーは、まさかの魔王の参列という異常事態だったにもかかわらず、サキもメチルも空気を読んで騒がなかったので何の問題もなく終わった。
魔王が会場にいるなんて知れたら、パニックは避けられなかったのが間違いないからだ。堂々とし過ぎていたので馴染んでいたので助かったようなものである。
パーティーが終わると、魔王は国王たちと同じ部屋に移動する。隣にエスカが居るので非常におとなしくしていた。
「魔王様、なんでいらしてたんですか」
王族と関係者だけで集まった部屋で、メチルから開口一番に質問を食らう魔王である。
「なに。残りの呪具を探していて、この街の中に反応を見つけたのでやって来ただけだ。なにやら人が集まって楽しそうにしておったから、こうやって参列したまでよ」
すらすらと理由を答える魔王。
その発言の中に気になる点があったので、アンマリアたちが反応している。
「呪具が王都の中にあると?」
険しい表情をするアンマリア。隣のミズーナ王女も同様である。
「うむ。反応が弱くて影響はないのだがな。おそらくは主を失って力が発揮できぬのだろう。心配ならば今からでも出向いて回収していくがな」
「いえ、待って下さい。王国内での問題であるというのなら、私たちも立ち会うべきでしょう。ですよね、父上」
魔王の発言の直後、フィレンが待ったをかける。続けて、父親である国王へと確認を取っていた。
「うむ、そうだな。今日はもう遅いし、誕生日の祝賀ムードを壊すのもよろしくはないな。明日で構わないか?」
「問題はない。魔力の監視は今もしておるし、小さい状態で安定している。だが、何かあったら勝手に動かせてもらうからな。我としては人間など何があっても構わんのだが、こいつらがうるさいからな」
国王の確認に答えた魔王は、実に嫌そうな表情でエスカたちの方へと視線を向けている。
エスカに重力魔法で手も足も出なくなった事実は、いまだにトラウマとして抱えているようである。
ミズーナ王女やメチルは苦笑いをしているものの、当のエスカは得意げな表情をしている。その姿にはアンマリアとサキが呆れかえるくらいだった。
この日は、呪具に関してひとまず保留という形で決着したのだった。
真夜中のこと、サーロイン王国の王都の中。呪具があるとされた場所は、ひっそりと静まり返っている。
周りは閉ざされた空間のようだが、何ものかがその場所への侵入に成功したようだ。
暗闇の中が光を放つそれは、とてもよく目立つというもの。
その存在は光の元へと近付き、そして、何を思ったかおもむろに口に放り込んだ。
どくん……。
呪具を取り込んだ何ものかは、突如として暴走し出した魔力に飲み込まれていった。
その時のサーロイン王城内。
「むっ、呪具に反応があったな」
立ったまま眠る魔王の右目が開く。
「魔王様、感じられましたか」
どこからともなくメチルがやって来て魔王と合流する。
「我を誰だと思っておる。それよりも、お前も感じ取ったか」
「はい、もちろんでございます。元人間の聖女とはいえ、魔族になった以上は嫌でも敏感になりますよ」
メチルがちょっと怒ったように反応すると、魔王は面白そうに笑っていた。
「さて、お前がいるのなら問題はなさそうだな。あの精霊もいるのだろう?」
「私もいるわよ。メチルと私は一心同体なんだからね」
魔王に言われてアルーが顔を出す。その姿を見た魔王は安心したかのように笑う。
「それでは、騒ぎが大きくなる前に現場に向かうとしようか。はっきりいって我の不始末だ。自分のことくらい、自分で処理できるようでなければな」
魔王はメチルの肩を持つと、城の中から呪具のある辺りへと一気に瞬間移動魔法で移動するのだった。
魔王たちが姿を現したのは、王都の中の貴族の住む区画と平民街の境目辺りだった。真夜中であるがために見づらいが、実に対照的な景色が目の前に広がっている。
「反応があったのはこっちの方だな」
薄暗い中を歩き出す魔王。それに平然とついて行くメチル。どうやら魔族というのは真っ暗闇の中でも目が利くらしい。
歩いていると、メチルは身の毛もよだつような妙な魔力を感じる。それは当然魔王も感じたらしく、目の前をじっと睨みつけている。
「どうやら、魔力はあの小屋から流れ出てくるようだな」
魔王は原因の家に当たりをつけたようだ。
「魔力が発動しているということは、何者かが呪具に触れたということだ。何者かは分からないが、扱い方の知らぬ奴が触れば、面倒なことになる。まだ何も起きてない間に済ませるぞ」
「はい、魔王様」
「私も同行致しますわよ」
「うわぁっ?!」
いざ踏み込もうとすると、後ろから急に聞こえた声に驚く魔王とメチルである。そこに居たのはなんとアンマリアだった。
「あ、アンマリア様? なぜこちらにいらっしゃるのですか」
「魔力を感じて目が覚めてしまいましたのでね。そしたら、あなたたちが出ていくのが見えたので追跡してきました」
笑っているアンマリアである。
まったく、一国の王太子の婚約者が何をしているんだと思う魔王とメチルなのだった。
魔王が会場にいるなんて知れたら、パニックは避けられなかったのが間違いないからだ。堂々とし過ぎていたので馴染んでいたので助かったようなものである。
パーティーが終わると、魔王は国王たちと同じ部屋に移動する。隣にエスカが居るので非常におとなしくしていた。
「魔王様、なんでいらしてたんですか」
王族と関係者だけで集まった部屋で、メチルから開口一番に質問を食らう魔王である。
「なに。残りの呪具を探していて、この街の中に反応を見つけたのでやって来ただけだ。なにやら人が集まって楽しそうにしておったから、こうやって参列したまでよ」
すらすらと理由を答える魔王。
その発言の中に気になる点があったので、アンマリアたちが反応している。
「呪具が王都の中にあると?」
険しい表情をするアンマリア。隣のミズーナ王女も同様である。
「うむ。反応が弱くて影響はないのだがな。おそらくは主を失って力が発揮できぬのだろう。心配ならば今からでも出向いて回収していくがな」
「いえ、待って下さい。王国内での問題であるというのなら、私たちも立ち会うべきでしょう。ですよね、父上」
魔王の発言の直後、フィレンが待ったをかける。続けて、父親である国王へと確認を取っていた。
「うむ、そうだな。今日はもう遅いし、誕生日の祝賀ムードを壊すのもよろしくはないな。明日で構わないか?」
「問題はない。魔力の監視は今もしておるし、小さい状態で安定している。だが、何かあったら勝手に動かせてもらうからな。我としては人間など何があっても構わんのだが、こいつらがうるさいからな」
国王の確認に答えた魔王は、実に嫌そうな表情でエスカたちの方へと視線を向けている。
エスカに重力魔法で手も足も出なくなった事実は、いまだにトラウマとして抱えているようである。
ミズーナ王女やメチルは苦笑いをしているものの、当のエスカは得意げな表情をしている。その姿にはアンマリアとサキが呆れかえるくらいだった。
この日は、呪具に関してひとまず保留という形で決着したのだった。
真夜中のこと、サーロイン王国の王都の中。呪具があるとされた場所は、ひっそりと静まり返っている。
周りは閉ざされた空間のようだが、何ものかがその場所への侵入に成功したようだ。
暗闇の中が光を放つそれは、とてもよく目立つというもの。
その存在は光の元へと近付き、そして、何を思ったかおもむろに口に放り込んだ。
どくん……。
呪具を取り込んだ何ものかは、突如として暴走し出した魔力に飲み込まれていった。
その時のサーロイン王城内。
「むっ、呪具に反応があったな」
立ったまま眠る魔王の右目が開く。
「魔王様、感じられましたか」
どこからともなくメチルがやって来て魔王と合流する。
「我を誰だと思っておる。それよりも、お前も感じ取ったか」
「はい、もちろんでございます。元人間の聖女とはいえ、魔族になった以上は嫌でも敏感になりますよ」
メチルがちょっと怒ったように反応すると、魔王は面白そうに笑っていた。
「さて、お前がいるのなら問題はなさそうだな。あの精霊もいるのだろう?」
「私もいるわよ。メチルと私は一心同体なんだからね」
魔王に言われてアルーが顔を出す。その姿を見た魔王は安心したかのように笑う。
「それでは、騒ぎが大きくなる前に現場に向かうとしようか。はっきりいって我の不始末だ。自分のことくらい、自分で処理できるようでなければな」
魔王はメチルの肩を持つと、城の中から呪具のある辺りへと一気に瞬間移動魔法で移動するのだった。
魔王たちが姿を現したのは、王都の中の貴族の住む区画と平民街の境目辺りだった。真夜中であるがために見づらいが、実に対照的な景色が目の前に広がっている。
「反応があったのはこっちの方だな」
薄暗い中を歩き出す魔王。それに平然とついて行くメチル。どうやら魔族というのは真っ暗闇の中でも目が利くらしい。
歩いていると、メチルは身の毛もよだつような妙な魔力を感じる。それは当然魔王も感じたらしく、目の前をじっと睨みつけている。
「どうやら、魔力はあの小屋から流れ出てくるようだな」
魔王は原因の家に当たりをつけたようだ。
「魔力が発動しているということは、何者かが呪具に触れたということだ。何者かは分からないが、扱い方の知らぬ奴が触れば、面倒なことになる。まだ何も起きてない間に済ませるぞ」
「はい、魔王様」
「私も同行致しますわよ」
「うわぁっ?!」
いざ踏み込もうとすると、後ろから急に聞こえた声に驚く魔王とメチルである。そこに居たのはなんとアンマリアだった。
「あ、アンマリア様? なぜこちらにいらっしゃるのですか」
「魔力を感じて目が覚めてしまいましたのでね。そしたら、あなたたちが出ていくのが見えたので追跡してきました」
笑っているアンマリアである。
まったく、一国の王太子の婚約者が何をしているんだと思う魔王とメチルなのだった。
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