上 下
459 / 497
第九章 拡張版ミズーナ編

第459話 予想外な参加者たち

しおりを挟む
 サーロイン王国へと戻った次の週末、リブロ王子の15歳の誕生日パーティーが開かれる。
 本来ならば王子の15歳ともなれば本格的な婚約者が決定をなされる時であり、令嬢たちは目の色を変える時でもある。
 ところが、リブロ王子には1歳年上のサキ・テトリバーという婚約者が既にいる。サキの家は男爵家とはいえ、そのサキ自身は聖女である。そのために婚約者になったという経緯があるのだ。
 そんなわけで、リブロ王子の誕生日パーティーは、純粋に誕生日を祝うだけの日となっていた。
「はあ、リブロ殿下も15歳ですか。時間の経つのは早いですね」
 パーティー用のドレスに着替えながら、大きな声で呟くミズーナ王女である。
「そうですね。魔王様との戦いから、もう一年が経っているだなんて信じられませんよ」
 ミズーナ王女の服を着替えさせながら、メチルはミズーナ王女の声に反応している。
「それよりもメチル」
「何でしょうか、王女殿下」
 その声に、ミズーナ王女を着替えさせるメチルの手が止まる。
「あなたも準備しなければだめよ。みなさんもそう思いますよね?」
「えっ」
 メチルが何かに気が付いて後ろを振り返る。すると、そこにはいつ入ってきたのか分からない侍女たちがたくさん並んでいた。
「ええっ、いつの間に?!」
「さあ、みなさん。私の仕上げと一緒にメチルも着替えさせてしまいましょう」
「畏まりました、王女殿下」
 ミズーナ王女がにこりと微笑んで命じると、侍女たちが一斉に動き出したのだった。
「ちょっと待ってぇっ!」
 メチルは思わず叫んでしまうが、熟練の侍女相手ではまったく歯が立たず、されるがままに着替えさせられたのだった。
「うう、なんでこんなことに……」
 すっかりドレスに化粧とめかし込まれたメチルは、現状に嘆いていた。
「似合っているわよ、メチル」
「ええ、とてもよくお似合いですよ、メチル様」
 ミズーナ王女と一緒に、着替えさせた侍女たちも両手を合わせながら褒めてくる。その様子に思わず真っ赤になってしまうメチルである。
「さあ、会場に向かいましょう」
 メチルの手を引いて歩き始めるミズーナ王女。その行動に、メチルは思わずミズーナ王女に話し掛けてしまう。
「あ、あの。私は一般の令嬢での入場ではないのですか?」
 メチルの質問に、ミズーナ王女はにやにやと笑っている。嫌な予感しかしなメチルである。
 結局、ミズーナ王女はそれに答えてくれることなく、王妃やアンマリアたちと合流したのだった。

 その頃のパーティー会場。
 しれっと紛れ込んだ一人の男性に、会場中の注目が集まっていた。
「まあ、あの方かなり美形ね」
「しかし、なんだあの頭の飾りは」
「本物じゃないかしら。聞いてみてよ」
「近寄りがたいわ」
 周りの人間がひそひそと話をしている。
「ふん、これが人間の行う儀式のようなものか。どれ、せっかく来たわけだ、楽しませてもらおうか」
 誰かと思えば魔王である。
「なんであんたがこんなところにいるのよ」
 そこへ、本来は壇上から登場するはずのエスカがやってきた。魔王の魔力を感じて慌てて顔を出したようである。
「誰かと思えば、我を伴侶にとか寝言を言う女か。着飾った人間どもが集まるものだから、気になってやって来ただけだ」
「よく入れたわね」
「お前の伴侶だといったら、おとなしく入れてくれたぞ。さすがは一国の姫といったところか、くくく」
 魔王は適当に料理をつまみながら笑っている。
「はあ、まぁいいわよ。今日はこのサーロインの第二王子の誕生日を祝うパーティーだから、おとなしくしておいてよ?」
「分かっておる。お前がいる時点で我には不利だ。今後はこういう席に慣れておかねばならぬだろうからな、おとなしくはさせてもらおう」
 意外と素直に引き下がる魔王だった。
「しかし、その青いドレスは結構似合っているな」
「ふふん、そうでしょう。とはいえ、主役であるリブロ殿下より目立っちゃいけないから、控えめにさせてもらったけれどね」
「お前に自重ということがあるとは意外だったな」
「なーによう」
 魔王が笑って言うものだから、エスカは不機嫌そうに視線を向けている。
「それよりも、どうしてサーロインの王都にいるのよ」
 当然ながら、そこが気になるというもの。先日のクッケン湖の件は分かるとしても、今回王都に居る理由がまったく分からないのだ。
「なに、この街の中から呪具の波動を感じ取っただけだ。場所は……、今はやめておいた方がよさそうだな。宴が始める」
 エスカから視線を外して、壇上を見つめる魔王。その状態まま視線だけエスカへと向ける。
「我とて宴は好きだからな。こういう時ばかりはおとなしくしておこう」
 そう言いながら、近くの給仕からワインを受け取って飲む魔王である。
 しかし、魔王が言いかけた言葉が気になるエスカは、どうにもこうにも楽しむ気持ちになれなかった。なので、魔王の足を思いっきり踏むエスカである。
「ふん、可愛い行動を取ってくれるな。さっきのことは後でちゃんと話をしてやる。我々が動けないのであれば、話すだけ無駄だからな」
 不敵な笑いを浮かべる魔王。その姿を見ながら、エスカはアンマリアのファッティ領で採れたオレンを使ったジュースを飲み干すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~

tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」 私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。 

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

処理中です...