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第九章 拡張版ミズーナ編
第452話 最後の合宿が始まる
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モモの誕生日はミズーナ王女とメチル、それと婚約者のタカーが参加しても、それはこじんまりとして行われた。
そこでは、タカーとの結婚などを含めた今後の予定も話し合われたようである。
ゲームではクリア後でも簡単にしか語られなかった光景を目の前で見れて、ミズーナ王女はそれは幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「はあ、いいですわね」
「そうですね。私も感動してしまいました」
城に戻ったミズーナ王女は余韻を楽しみながらも、夏の合宿に向けた準備を始めている。
今年の合宿の場所は、バッサーシ辺境伯領のクッケン湖だ。安全が確認できたからということで、今年も開催地として選ばれたのである。
ちょくちょくエスカも入ってきて、邪魔されながらではあるものの、無事に合宿の準備を終わらせたミズーナ王女である。
モモの誕生日の翌々日、ミズーナ王女、レッタス王子、エスカ、それとリブロ王子の四人は、揃って城から学園へと向かう。
そう、今日から学園の夏合宿の始まりである。
この合宿においては、王族とはいえど使用人たちを連れてこれない。そのために、メチルはお留守番である。
学園では、ミスミ・バッサーシ教官が引率の一人として参加している。
なにせミスミ教官の実家のあるバッサーシ領だから当然だろう。
だが、鬼教官として知られるミスミ教官の参加には、それなりに嫌な顔をする学生も少なくなかった。
「私に不満のある学生がいるようだな。よろしい、この合宿では徹底的に鍛えてあげようではないか。くくく、楽しみにしているといいぞ」
怖い顔をして笑いミスミ教官なものだから、学生たちはあまりの恐怖に震え上がっていた。
ミズーナ王女とエスカは困ったような顔をしているものの、魔法型の学生である二人はあまり接点ができないので余裕のようである。
そんなこんなで、いろいろと不安もある中で、夏の合宿がスタートしたのだった。
ミズーナ王女たちが馬車で移動し始めてから2日後のこと、サーロインの城には魔王が姿を見せていた。
「メチル、そろそろ我らも向かうか」
「あれ、私も連れていかれるんですか?」
のんびりと城の仕事の手伝いをする予定だったメチルは、意外だという反応を見せている。
「そうよそうよ。いくなら一人で行けばいいじゃないのよ」
アルーも姿を見せて抗議をしている。
だが、魔王の方だって引きはしなかった。
「魔王が一人で姿を見せるというのも格好がつかないであろう。今や我の部下はお前だけだ。連れていくしかあるまい」
魔王は困った表情でメチルに話している。これにはアルーは嫌悪感を示しているが、メチルは納得しているような感じだ。
「それにだ。今はお前が仕える相手であるミズーナとかいう王女の身が心配ではないのか? 我の力の反応がある以上、何が起こるかは我にも分からぬからな」
魔王がこういえば、メチルは本気で悩み始めた。
そして、しばらくすると結論を出す。
「分かりました。私も向かいます」
「そうこなくてはな。では、我につかまれ。先回りするぞ」
「あ、ちょっと待って下さい。城の使用人たちに伝言していかなくては」
飛び立つ気満々だった魔王はちょっとずっこける。
「分かった、ちょっとだけなら待ってやる。できる限り早くしろ」
「はい」
というわけで、しばらく出かけることを知り合いの使用人たちに話し、メチルは魔王と一緒にクッケン湖へと飛び立っていった。
クッケン湖。そこは、バッサーシ辺境伯領内にある塩の湖である。
サーロイン王国内における塩の生産のほとんどを賄う湖で、ここでは辺境伯の私兵たちも時折訓練を行っている。
「さすがにまだ着いていませんね。なにせ王都から7日間かかりますからね」
「ならば都合がいいな。邪魔者のいない間に調査ができる」
魔王はそう言うと、メチルをクッケン湖のほとりに残して、一人で飛び去っていってしまった。まったくどうしたらいいのだろうか。
しばらく呆けていると、メチルの前に訓練中のバッサーシ兵たちが現れた。
「だ、誰だ、お前は」
剣を構えられている。つまりはものすごく警戒されているのである。まあ、それも仕方ない。メチルの見た目は人間じゃないのだから。
しかし、メチルは特に慌てなかった。王族の相手もしているので、そこそこ肝は据わっているのである。
「みなさま、初めまして。私、ベジタリウス王国王女ミズーナ殿下の専属侍女でメチルと申します。わけがございまして、今回こちらに出向いてきております」
丁寧な挨拶である。
その丁寧な挨拶に、兵士たちは納得して剣を収める。
「それは失礼した。なにゆえ、ここへ参られたのでしょうか」
「それは、今年の合宿の場所がこのクッケン湖だからでございます。姫様に危険が及ばないように、事前に確認に参りました」
もっともらしい理由を述べるメチル。だが、その所作のせいもあって、すんなり兵士たちは信じてしまった。
そんなこんなな成り行きで、メチルはミズーナ王女たちが到着するまでの間、兵士たちの食事当番をやらされることになったのだった。
どうしてこうなったという顔のメチルだったが、メイドだから仕方ないかと諦めたのだった。
そこでは、タカーとの結婚などを含めた今後の予定も話し合われたようである。
ゲームではクリア後でも簡単にしか語られなかった光景を目の前で見れて、ミズーナ王女はそれは幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「はあ、いいですわね」
「そうですね。私も感動してしまいました」
城に戻ったミズーナ王女は余韻を楽しみながらも、夏の合宿に向けた準備を始めている。
今年の合宿の場所は、バッサーシ辺境伯領のクッケン湖だ。安全が確認できたからということで、今年も開催地として選ばれたのである。
ちょくちょくエスカも入ってきて、邪魔されながらではあるものの、無事に合宿の準備を終わらせたミズーナ王女である。
モモの誕生日の翌々日、ミズーナ王女、レッタス王子、エスカ、それとリブロ王子の四人は、揃って城から学園へと向かう。
そう、今日から学園の夏合宿の始まりである。
この合宿においては、王族とはいえど使用人たちを連れてこれない。そのために、メチルはお留守番である。
学園では、ミスミ・バッサーシ教官が引率の一人として参加している。
なにせミスミ教官の実家のあるバッサーシ領だから当然だろう。
だが、鬼教官として知られるミスミ教官の参加には、それなりに嫌な顔をする学生も少なくなかった。
「私に不満のある学生がいるようだな。よろしい、この合宿では徹底的に鍛えてあげようではないか。くくく、楽しみにしているといいぞ」
怖い顔をして笑いミスミ教官なものだから、学生たちはあまりの恐怖に震え上がっていた。
ミズーナ王女とエスカは困ったような顔をしているものの、魔法型の学生である二人はあまり接点ができないので余裕のようである。
そんなこんなで、いろいろと不安もある中で、夏の合宿がスタートしたのだった。
ミズーナ王女たちが馬車で移動し始めてから2日後のこと、サーロインの城には魔王が姿を見せていた。
「メチル、そろそろ我らも向かうか」
「あれ、私も連れていかれるんですか?」
のんびりと城の仕事の手伝いをする予定だったメチルは、意外だという反応を見せている。
「そうよそうよ。いくなら一人で行けばいいじゃないのよ」
アルーも姿を見せて抗議をしている。
だが、魔王の方だって引きはしなかった。
「魔王が一人で姿を見せるというのも格好がつかないであろう。今や我の部下はお前だけだ。連れていくしかあるまい」
魔王は困った表情でメチルに話している。これにはアルーは嫌悪感を示しているが、メチルは納得しているような感じだ。
「それにだ。今はお前が仕える相手であるミズーナとかいう王女の身が心配ではないのか? 我の力の反応がある以上、何が起こるかは我にも分からぬからな」
魔王がこういえば、メチルは本気で悩み始めた。
そして、しばらくすると結論を出す。
「分かりました。私も向かいます」
「そうこなくてはな。では、我につかまれ。先回りするぞ」
「あ、ちょっと待って下さい。城の使用人たちに伝言していかなくては」
飛び立つ気満々だった魔王はちょっとずっこける。
「分かった、ちょっとだけなら待ってやる。できる限り早くしろ」
「はい」
というわけで、しばらく出かけることを知り合いの使用人たちに話し、メチルは魔王と一緒にクッケン湖へと飛び立っていった。
クッケン湖。そこは、バッサーシ辺境伯領内にある塩の湖である。
サーロイン王国内における塩の生産のほとんどを賄う湖で、ここでは辺境伯の私兵たちも時折訓練を行っている。
「さすがにまだ着いていませんね。なにせ王都から7日間かかりますからね」
「ならば都合がいいな。邪魔者のいない間に調査ができる」
魔王はそう言うと、メチルをクッケン湖のほとりに残して、一人で飛び去っていってしまった。まったくどうしたらいいのだろうか。
しばらく呆けていると、メチルの前に訓練中のバッサーシ兵たちが現れた。
「だ、誰だ、お前は」
剣を構えられている。つまりはものすごく警戒されているのである。まあ、それも仕方ない。メチルの見た目は人間じゃないのだから。
しかし、メチルは特に慌てなかった。王族の相手もしているので、そこそこ肝は据わっているのである。
「みなさま、初めまして。私、ベジタリウス王国王女ミズーナ殿下の専属侍女でメチルと申します。わけがございまして、今回こちらに出向いてきております」
丁寧な挨拶である。
その丁寧な挨拶に、兵士たちは納得して剣を収める。
「それは失礼した。なにゆえ、ここへ参られたのでしょうか」
「それは、今年の合宿の場所がこのクッケン湖だからでございます。姫様に危険が及ばないように、事前に確認に参りました」
もっともらしい理由を述べるメチル。だが、その所作のせいもあって、すんなり兵士たちは信じてしまった。
そんなこんなな成り行きで、メチルはミズーナ王女たちが到着するまでの間、兵士たちの食事当番をやらされることになったのだった。
どうしてこうなったという顔のメチルだったが、メイドだから仕方ないかと諦めたのだった。
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