上 下
446 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編

第446話 事情を説明してもらおうか

しおりを挟む
 翌朝をクルスで迎えたミズーナ王女たち。メチルが防護壁を解いても特に気分の悪くなる事はなくなり、どうやら呪具が原因であることは間違いないようだった。
「ふぅ、すっきりしてよかったです」
 メチルも胸を無事に撫で下ろせたようだった。
 安心したメチルは回収した呪具を取り出して眺めている。
「それが原因となった呪具なの?」
「あっ、はい。今は私の力で浄化されてただのアクセサリーになってますけれど、これが原因で間違いないです」
 ミズーナ王女に聞かれて、呪具だったものを差し出すメチル。
 差し出された呪具だったものからは禍々しさはまったく感じられず、落ち着くような魔力しか感じられなくなっていた。
 これを見ていると、呪具が何たるかというものがよく分かる。
「神器というものとは作り方が真逆といっていいと思います。聖なる魔力を当てたものが神器であり、邪悪な魔力を当てたものが呪具といった感じですね。私は性質上どっちも触れますけれど」
「へえ、そうなのね」
 ミズーナ王女とメチルが話していると、部屋の扉が突然叩かれる。
「ミズーナ王女殿下、我が主であるミール国王陛下がお呼びでございます。至急おいで下さいませ。侍女のメチル殿もでございます」
 兵士の声が聞こえてきた。どうやらミール国王からの呼び出しらしい。
 おそらく用件は昨夜のことだろう。結局儀式の間ずっと姿を消していたので、それを問い詰められるといったところだと推測される。
「分かりました。すぐに参ります」
 どういう反応をされるかは問題ではない。儀式の裏で起きていた大事件なので、ミズーナ王女としても説明しなければならないので、望むところのようだった。

 宿の中の国王たちが泊まっている部屋までやって来たミズーナ王女とメチル。部屋の前で警備にあたる兵士に話し掛けて、部屋の中へと入っていく。
「ミズーナ・ベジタリウス、ただいま参りました」
「メチル・コールでございます」
 きちっと淑女の挨拶を決めるミズーナ王女とメチルである。
 ちらりと視線をやると、そこには気まずい感じで立っているエスカの姿があった。おそらくあれは既に説教を食らった後なのだろう。そう思うミズーナ王女だった。
「呼ばれた用件は、大体想像がついておろう。説明をしてもらえるか?」
 でんと椅子に座って睨み付けてくるミール国王。さすがに先祖が海賊とあってか、その眼力は鋭く恐怖を感じるものだ。アーサリーもその辺りはちゃっかり受け継いでいる。
 正直なところ、ミズーナ王女にとってこの程度の睨みは屁でもない。魔族たちと対峙したために慣れてしまっていた。むしろ、魔王を屈服させたエスカの今の姿の方が気になって仕方がない。何があってあんな顔をしているのか理解に苦しむのだ。
 とりあえず、ミズーナ王女は昨夜の建国祭の儀式の裏で何があったのかをすべて説明する。
 その生々しい報告に、エスカからある程度聞いていただろうミール国王の表情が面白いくらいに変化していく。どうやら、ミズーナ王女からの報告はエスカから聞いていた以上に酷いものだったようだ。
「……もうよい。そのくらいで十分だ」
「えっ、まだ半分くらいしか話していませんが?」
 頭を抱えるミール国王に、しれっとした表情で語るミズーナ王女である。どうやら許容量を超えたらしい。
「とにかく、海にはまだ魔物たちの死骸が浮いているとみていいのかな」
「潮の流れがありますので、だいぶ流されてはいるとは思います。多少なりと回収できるとは思いますが、できる限り私たちで回収しておきました」
 ミール国王の質問に、ミズーナ王女はその一部を収納魔法から取り出して見せつけていた。アンマリアが使えるなら、大体ミズーナ王女も使えるのである。ミズーナ王女が使えないのは瞬間移動魔法くらいだ。
「ずいぶんと多いな……」
「これでも1割もないのですが……」
「……」
 ミズーナ王女の頃場に、完全に言葉を失うミール国王。
「建国祭の裏で、こんな攻防が繰り広げられていたなんて、信じられませんね」
 代わりに反応するミール王妃である。ちなみにアーサリーはエスカと一緒に黙り込んだままである。
「あと、こちらはその魔物を呼び寄せる原因となっていた呪具でございます。メチルの力によって浄化されて無害となっておりますので、ご確認下さい」
 ミズーナ王女が紹介すれば、護衛の兵士がメチルから呪具を預かって国王たちに手渡していた。
「あら、きれいなアクセサリーね。これがその魔物たちを呼び寄せていたのですね」
「はい。去年倒したテトロという魔族の忘れ形見でしょう。まさかミール王国にまで仕掛けているとは予想外でした」
 話が終わると、王妃は呪具をメチルに返していた。やっぱりそもそもが呪具とあっては、きれいでも手元に置きたくないようである。
 そんなわけで、とんでもない魔物の量だったという話のために、ミズーナ王女たちはお咎めなしで解放となった。この決定に、エスカは心底ほっとした表情を見せていた。
 この話の後、国王は海の調査を兵士たちに命じ、自分たちは王都シャオンへと戻ることにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

処理中です...