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第九章 拡張版ミズーナ編
第440話 海からの不穏な風
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そんなこんなでサクラの誕生日も無事に終わってしまう。プレゼントしたチェスはたいそう気に入ってくれたので、アンマリアはほっとした様子だった。
それから三週間もすれば、今度はミズーナ王女たちの誕生日だ。
改めて誕生日のプレゼントを悩むミズーナ王女である。
「さて、お兄様はどうでもいいとして、フィレン殿下には何をお送りしましょうかね」
本気で悩むミズーナ王女である。
フリーな攻略対象はいないし、邪魔してくる悪役令嬢たちもいない。これといった問題も発生しない状況とあっては、すべてをそっちのけでそんな悩みを抱けるのである。
フィレン王子たちの誕生日が近付いてきた日のこと、エスカの元にアーサリーから連絡が入る。
「あっ、そういえばお兄様にスマホもどきを預けてましたっけか」
猛勉強から一時的に解放されたエスカがくつろいでいると、ぶるっと持っているスマホもどきが震えたのだ。
取り出して画面を確認すると、つい表情が強張ってしまうエスカである。
「これは本気なのかしら。お父様たちに確認してみませんとね」
送られてきた内容を確認したエスカは、サーロインの城でつけられている侍女によく朝帰ると伝えて瞬間移動魔法でミール王国へと戻ったのだった。
翌日、再び瞬間移動魔法でサーロインの城に戻ったエスカは、本気で頭が痛そうにしていた。
学園へと向かう馬車の中ではミズーナ王女と一緒に乗っているのだが、あまりの様子に心配されてしまうエスカである。
「どうしたのかしら、エスカったら」
「あ、うん……。今日学園から戻ったら話をするわ」
ミズーナ王女の言葉に反応したエスカはそのように答えていた。よくは分からないものの、エスカがそういうので、ミズーナ王女はそれ以上聞く事はしなかった。
学園から戻ったエスカは、ミズーナ王女たちを連れてサーロインの国王と王妃に謁見を申し出る。
突如の行動に驚くミズーナ王女たちだが、エスカの表情はものすごく真剣だった。
「だって、ミール王国からの申し入れだもの。国王陛下たちにお話しなくてどうするのよ。まったくなんでお兄様に連絡させたのよ」
ずいぶんと怒っているエスカの様子を見て、ミズーナ王女たちは言う通りに動くことにしたのだった。
そうやってどうにか整った国王たちとの謁見。
サーロイン国王と王妃の前に、フィレンとリブロの両王子、その婚約者であるアンマリアとサキ、エスカ、それとレッタス王子とミズーナ王女が揃う。そして、なぜかメチルまで付き合わされていた。
「なんで私まで?!」
「アーサリーの婚約者扱いだからしょうがないでしょ」
叫ぶメチルにエスカが即ツッコミを入れていた。
そんな漫才みたいなやり取りに、サーロイン国王が咳払いをする。
「茶番はいい。用件だけを伝えておくれ」
お叱りモードのサーロイン国王は短く怒鳴る。なにせフィレン王子の誕生日が近いためにその準備に追われているからだ。自分たちの誕生日はないがしろなのに、子どもたちの誕生日には熱心なサーロイン王国の風潮なのである。
「失礼致しました。要点をお話しますと、私たちに建国祭に来てほしい、ということでございます」
「また急な話だな」
エスカの説明に目を丸くするサーロイン国王である。
「私もそう思います。一応昨夜に向かいまして伺ってきましたが、どうにも様子がおかしかったのです」
「というと?」
サーロイン国王だけではなく、王子たちの表情も歪む。
「正直申しまして、今年の建国祭に呼ばれるのは私とメチルの二人だけでいいはずなんです。メチルはお兄様の婚約者候補に推薦しましたからね」
「ふむ」
この説明は納得のいくサーロイン国王である。
「問い詰めてはみましたが、連れてこいの一点張りで、まぁ話になりませんでしたね」
人を振り回す事の多いエスカが、似たような事をやられて不機嫌を露わにしていた。珍しい光景だなと思うアンマリアたちである。
結局のところ、エスカもあまり有益な情報を引き出す事ができず、学園に通うために朝には戻ってきたとの事だった。
「何か不穏な魔力を感じたりしましたか、エスカ王女殿下」
アンマリアが念のために確認してみると、エスカは黙って首を横に振っていた。不穏な魔力をまとっているせいか、エスカは何も感じなかったようだ。
何も感じなかったとはいっても、話を聞く限り不穏な点しか存在していない。さすがのサーロイン国王もおいそれと首を縦に振ることはできなかった。
「さすがにそんな不穏な場に大事な息子と婚約者を送り出せはせぬぞ」
さすがに怒ってしまうサーロイン国王である。
「もちろんですわよ。私も同意見です」
エスカは同調している。
「ですので、ここは私とミズーナ王女、それと侍女のメチルの三人だけで乗り込みます。おととしの事を思いますと、おそらく原因は王都シャオンではなく、港町クルスでしょうね」
エスカの推理では、様子がおかしい原因は建国祭のメイン会場となるクルスだと見ているようだ。
確かに、お供えに魔物が呼び寄せられていたが、その数が半端ない数だった記憶がよみがえるアンマリアである。
「三人で大丈夫かしらね」
「大丈夫と思いますよ。メチルには心強い味方がいますしね」
エスカがウィンクすると、思わずドキッとしてしまうメチルであった。
フィレン王子の16歳の誕生日パーティーを前に、なんとも不穏な話を聞かされてしまった。エスカの話を聞いたサーロイン国王は、予定通りパーティーの準備を進めたのだった。
それから三週間もすれば、今度はミズーナ王女たちの誕生日だ。
改めて誕生日のプレゼントを悩むミズーナ王女である。
「さて、お兄様はどうでもいいとして、フィレン殿下には何をお送りしましょうかね」
本気で悩むミズーナ王女である。
フリーな攻略対象はいないし、邪魔してくる悪役令嬢たちもいない。これといった問題も発生しない状況とあっては、すべてをそっちのけでそんな悩みを抱けるのである。
フィレン王子たちの誕生日が近付いてきた日のこと、エスカの元にアーサリーから連絡が入る。
「あっ、そういえばお兄様にスマホもどきを預けてましたっけか」
猛勉強から一時的に解放されたエスカがくつろいでいると、ぶるっと持っているスマホもどきが震えたのだ。
取り出して画面を確認すると、つい表情が強張ってしまうエスカである。
「これは本気なのかしら。お父様たちに確認してみませんとね」
送られてきた内容を確認したエスカは、サーロインの城でつけられている侍女によく朝帰ると伝えて瞬間移動魔法でミール王国へと戻ったのだった。
翌日、再び瞬間移動魔法でサーロインの城に戻ったエスカは、本気で頭が痛そうにしていた。
学園へと向かう馬車の中ではミズーナ王女と一緒に乗っているのだが、あまりの様子に心配されてしまうエスカである。
「どうしたのかしら、エスカったら」
「あ、うん……。今日学園から戻ったら話をするわ」
ミズーナ王女の言葉に反応したエスカはそのように答えていた。よくは分からないものの、エスカがそういうので、ミズーナ王女はそれ以上聞く事はしなかった。
学園から戻ったエスカは、ミズーナ王女たちを連れてサーロインの国王と王妃に謁見を申し出る。
突如の行動に驚くミズーナ王女たちだが、エスカの表情はものすごく真剣だった。
「だって、ミール王国からの申し入れだもの。国王陛下たちにお話しなくてどうするのよ。まったくなんでお兄様に連絡させたのよ」
ずいぶんと怒っているエスカの様子を見て、ミズーナ王女たちは言う通りに動くことにしたのだった。
そうやってどうにか整った国王たちとの謁見。
サーロイン国王と王妃の前に、フィレンとリブロの両王子、その婚約者であるアンマリアとサキ、エスカ、それとレッタス王子とミズーナ王女が揃う。そして、なぜかメチルまで付き合わされていた。
「なんで私まで?!」
「アーサリーの婚約者扱いだからしょうがないでしょ」
叫ぶメチルにエスカが即ツッコミを入れていた。
そんな漫才みたいなやり取りに、サーロイン国王が咳払いをする。
「茶番はいい。用件だけを伝えておくれ」
お叱りモードのサーロイン国王は短く怒鳴る。なにせフィレン王子の誕生日が近いためにその準備に追われているからだ。自分たちの誕生日はないがしろなのに、子どもたちの誕生日には熱心なサーロイン王国の風潮なのである。
「失礼致しました。要点をお話しますと、私たちに建国祭に来てほしい、ということでございます」
「また急な話だな」
エスカの説明に目を丸くするサーロイン国王である。
「私もそう思います。一応昨夜に向かいまして伺ってきましたが、どうにも様子がおかしかったのです」
「というと?」
サーロイン国王だけではなく、王子たちの表情も歪む。
「正直申しまして、今年の建国祭に呼ばれるのは私とメチルの二人だけでいいはずなんです。メチルはお兄様の婚約者候補に推薦しましたからね」
「ふむ」
この説明は納得のいくサーロイン国王である。
「問い詰めてはみましたが、連れてこいの一点張りで、まぁ話になりませんでしたね」
人を振り回す事の多いエスカが、似たような事をやられて不機嫌を露わにしていた。珍しい光景だなと思うアンマリアたちである。
結局のところ、エスカもあまり有益な情報を引き出す事ができず、学園に通うために朝には戻ってきたとの事だった。
「何か不穏な魔力を感じたりしましたか、エスカ王女殿下」
アンマリアが念のために確認してみると、エスカは黙って首を横に振っていた。不穏な魔力をまとっているせいか、エスカは何も感じなかったようだ。
何も感じなかったとはいっても、話を聞く限り不穏な点しか存在していない。さすがのサーロイン国王もおいそれと首を縦に振ることはできなかった。
「さすがにそんな不穏な場に大事な息子と婚約者を送り出せはせぬぞ」
さすがに怒ってしまうサーロイン国王である。
「もちろんですわよ。私も同意見です」
エスカは同調している。
「ですので、ここは私とミズーナ王女、それと侍女のメチルの三人だけで乗り込みます。おととしの事を思いますと、おそらく原因は王都シャオンではなく、港町クルスでしょうね」
エスカの推理では、様子がおかしい原因は建国祭のメイン会場となるクルスだと見ているようだ。
確かに、お供えに魔物が呼び寄せられていたが、その数が半端ない数だった記憶がよみがえるアンマリアである。
「三人で大丈夫かしらね」
「大丈夫と思いますよ。メチルには心強い味方がいますしね」
エスカがウィンクすると、思わずドキッとしてしまうメチルであった。
フィレン王子の16歳の誕生日パーティーを前に、なんとも不穏な話を聞かされてしまった。エスカの話を聞いたサーロイン国王は、予定通りパーティーの準備を進めたのだった。
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