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第九章 拡張版ミズーナ編

第439話 王子が強い

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 チェスを作り上げたアンマリアは、ミズーナ王女と一緒にフィレン王子の部屋を訪れる。
「殿下、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい、アンマリア。今日の仕事は終わらせたところだから構わないよ」
 フィレン王子は読んでいた書物を机に置くと、アンマリアとミズーナ王女を招き入れる。侍従も部屋にいるから問題はないので、二人部屋へと歩み入る。
「実はですね。誕生日を前にちょっと贈り物をさせて頂きたくて、こちらに寄りました」
「へえ、贈り物を。……見せてもらっても構わないかな」
 フィレン王子は興味を持って、応接用のテーブルへとアンマリアとミズーナ王女を案内する。二人は緊張した様子でソファーに腰掛けていた。
「それで、その贈り物というのを見せてもらってもいいかな」
「は、はい。こちらでございます」
 アンマリアはごそごそと、収納魔法からさっき作ったチェス盤を引っ張り出す。
 8×8のきれいなマス目の引かれた板とその上に置かれた全部で32個の駒。それを見たフィレン王子は思わず息を飲んだ。
「すごいな……。これは一体何というものかな」
「はい、チェスと呼ばれる遊戯盤でございます」
 フィレン王子の質問に粛々と答えるアンマリア。ミズーナ王女は隣で黙ったまま座っている。
「本当は色を塗り分けておきたかったのですが、私の魔法ではそれができませんでしたので、ひとまず駒の台座の形を変えて区別できるようにしました」
 アンマリアが駒の台座を指し示す。よく見ると円形と正方形という感じに違っていた。
 細かい違いのようには見えるが、こうでもしておかないとどちらの駒かというのが分からなくなるからやむなくといった感じである。
「ふむふむ。遊戯盤といったが、どうやって遊ぶのか教えてもらえないかな」
「それでしたら構いません。元よりそのつもりでございますので」
 フィレン王子の質問に、アンマリアが答える。
 しばらくするとリブロ王子とレッタス王子も混ざっており、気が付いたら五人でチェス大会となっていた。
「フィレンもリブロも強すぎじゃないか?」
 何局か対戦した後、レッタス王子は文句をたれていた。
 初心者であるのでミズーナ王女やアンマリアに負けているのはいいとして、その二人もフィレンとリブロというサーロインの王子たちにこてんぱんに負かされていたのである。予想外な実力を持ち合わせていたのだ。
 今日初めて触った上に、ルールを簡単に聞いただけでこれである。本当に強すぎなる二人なのであった。
「そういえばアンマリア。ちょっと気になったんだが、いいか?」
「なんでございましょうか、殿下」
 質問を受け付けるアンマリア。
「このポーンの駒がキラキラと光っていたのは何なんだい?」
 どうやらフィレン王子は、ポーンの駒の球体部分が光っていたのが気になっているようだった。
「ああ、それはプロモーションの光ですね」
「プロモーション?」
「はい、ルールの説明をした時にも申しましたが、ポーンの駒は一番奥まで進むとクイーンと同じ動きができるようになります。その状態になった事を分かりやすくするために、そうやって光らせるようにしたのです」
「なるほど、そういうわけか」
 アンマリアの説明に、フィレン王子は納得がいったようである。
 確かに、こうしておかなければ普通のポーンとプロモーションしたポーンとが区別がつかなくなってしまうのは間違いないのである。
 フィレン王子は興味深そうに駒をまじまじと見つめている。
「それにしても、どうして急にこんなものを作ろうと思ったのかな」
「なんといいましょうか……。娯楽が欲しくなったというところでございましょうかね」
 理由を尋ねられたアンマリアは、視線を少々逸らすようにしながら答えている。
「ふむ、先日もリバーシを出したばかりではないか。それなのに新しいものを出す理由がなんなのかな?」
「ぐっ……」
 笑顔でさらなる追及を受けたアンマリアは、思い切り言葉を詰まらせる。
「そ、それは私から説明致します!」
 そういって部屋に乱入してきたのはメチルだった。隣にはサキやエスカもいた。
「えっ、なんで三人ともいるのよ」
「アンマリアたちが遅いから、様子を見に来たのよ」
 アンマリアが驚いて問い掛けると、エスカから即答された。軽く説明してくるとだけ言ってきたので、あまりの遅さに我慢できなかったようだった。
「それは私の前世の世界での遊びでして、近々誕生日を迎えられるご友人のプレゼントとして作られたのです」
「ほう、サクラ嬢にか」
 メチルの説明に、ちらりとアンマリアを見るフィレン王子。
「それで、さすがに婚約者に知らせずに初物を友人に贈るのはどうかというわけで、このような運びとなったのでございます」
 メチルは全部説明してしまったのだった。
「なるほどね。それでまったく見たことがなかったのか」
「このナイトという馬の駒、これを見てその話に納得がいきましたね。バッサーシ辺境伯は馬の産地で、こちらとも取引がありますから」
「ああ、そういうわけですか」
 王子三人ともがすっかり納得したようである。
「誕生日に贈るのは構わないけれど、これは父上にも見せておこうか」
 サクラの誕生日プレゼントとして贈ることは了承されたが、なんとサーロイン国王に見せることになってしまったチェス盤。
 予想外の展開に困るミズーナ王女たちなのであった。
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