439 / 487
第九章 拡張版ミズーナ編
第439話 王子が強い
しおりを挟む
チェスを作り上げたアンマリアは、ミズーナ王女と一緒にフィレン王子の部屋を訪れる。
「殿下、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい、アンマリア。今日の仕事は終わらせたところだから構わないよ」
フィレン王子は読んでいた書物を机に置くと、アンマリアとミズーナ王女を招き入れる。侍従も部屋にいるから問題はないので、二人部屋へと歩み入る。
「実はですね。誕生日を前にちょっと贈り物をさせて頂きたくて、こちらに寄りました」
「へえ、贈り物を。……見せてもらっても構わないかな」
フィレン王子は興味を持って、応接用のテーブルへとアンマリアとミズーナ王女を案内する。二人は緊張した様子でソファーに腰掛けていた。
「それで、その贈り物というのを見せてもらってもいいかな」
「は、はい。こちらでございます」
アンマリアはごそごそと、収納魔法からさっき作ったチェス盤を引っ張り出す。
8×8のきれいなマス目の引かれた板とその上に置かれた全部で32個の駒。それを見たフィレン王子は思わず息を飲んだ。
「すごいな……。これは一体何というものかな」
「はい、チェスと呼ばれる遊戯盤でございます」
フィレン王子の質問に粛々と答えるアンマリア。ミズーナ王女は隣で黙ったまま座っている。
「本当は色を塗り分けておきたかったのですが、私の魔法ではそれができませんでしたので、ひとまず駒の台座の形を変えて区別できるようにしました」
アンマリアが駒の台座を指し示す。よく見ると円形と正方形という感じに違っていた。
細かい違いのようには見えるが、こうでもしておかないとどちらの駒かというのが分からなくなるからやむなくといった感じである。
「ふむふむ。遊戯盤といったが、どうやって遊ぶのか教えてもらえないかな」
「それでしたら構いません。元よりそのつもりでございますので」
フィレン王子の質問に、アンマリアが答える。
しばらくするとリブロ王子とレッタス王子も混ざっており、気が付いたら五人でチェス大会となっていた。
「フィレンもリブロも強すぎじゃないか?」
何局か対戦した後、レッタス王子は文句をたれていた。
初心者であるのでミズーナ王女やアンマリアに負けているのはいいとして、その二人もフィレンとリブロというサーロインの王子たちにこてんぱんに負かされていたのである。予想外な実力を持ち合わせていたのだ。
今日初めて触った上に、ルールを簡単に聞いただけでこれである。本当に強すぎなる二人なのであった。
「そういえばアンマリア。ちょっと気になったんだが、いいか?」
「なんでございましょうか、殿下」
質問を受け付けるアンマリア。
「このポーンの駒がキラキラと光っていたのは何なんだい?」
どうやらフィレン王子は、ポーンの駒の球体部分が光っていたのが気になっているようだった。
「ああ、それはプロモーションの光ですね」
「プロモーション?」
「はい、ルールの説明をした時にも申しましたが、ポーンの駒は一番奥まで進むとクイーンと同じ動きができるようになります。その状態になった事を分かりやすくするために、そうやって光らせるようにしたのです」
「なるほど、そういうわけか」
アンマリアの説明に、フィレン王子は納得がいったようである。
確かに、こうしておかなければ普通のポーンとプロモーションしたポーンとが区別がつかなくなってしまうのは間違いないのである。
フィレン王子は興味深そうに駒をまじまじと見つめている。
「それにしても、どうして急にこんなものを作ろうと思ったのかな」
「なんといいましょうか……。娯楽が欲しくなったというところでございましょうかね」
理由を尋ねられたアンマリアは、視線を少々逸らすようにしながら答えている。
「ふむ、先日もリバーシを出したばかりではないか。それなのに新しいものを出す理由がなんなのかな?」
「ぐっ……」
笑顔でさらなる追及を受けたアンマリアは、思い切り言葉を詰まらせる。
「そ、それは私から説明致します!」
そういって部屋に乱入してきたのはメチルだった。隣にはサキやエスカもいた。
「えっ、なんで三人ともいるのよ」
「アンマリアたちが遅いから、様子を見に来たのよ」
アンマリアが驚いて問い掛けると、エスカから即答された。軽く説明してくるとだけ言ってきたので、あまりの遅さに我慢できなかったようだった。
「それは私の前世の世界での遊びでして、近々誕生日を迎えられるご友人のプレゼントとして作られたのです」
「ほう、サクラ嬢にか」
メチルの説明に、ちらりとアンマリアを見るフィレン王子。
「それで、さすがに婚約者に知らせずに初物を友人に贈るのはどうかというわけで、このような運びとなったのでございます」
メチルは全部説明してしまったのだった。
「なるほどね。それでまったく見たことがなかったのか」
「このナイトという馬の駒、これを見てその話に納得がいきましたね。バッサーシ辺境伯は馬の産地で、こちらとも取引がありますから」
「ああ、そういうわけですか」
王子三人ともがすっかり納得したようである。
「誕生日に贈るのは構わないけれど、これは父上にも見せておこうか」
サクラの誕生日プレゼントとして贈ることは了承されたが、なんとサーロイン国王に見せることになってしまったチェス盤。
予想外の展開に困るミズーナ王女たちなのであった。
「殿下、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい、アンマリア。今日の仕事は終わらせたところだから構わないよ」
フィレン王子は読んでいた書物を机に置くと、アンマリアとミズーナ王女を招き入れる。侍従も部屋にいるから問題はないので、二人部屋へと歩み入る。
「実はですね。誕生日を前にちょっと贈り物をさせて頂きたくて、こちらに寄りました」
「へえ、贈り物を。……見せてもらっても構わないかな」
フィレン王子は興味を持って、応接用のテーブルへとアンマリアとミズーナ王女を案内する。二人は緊張した様子でソファーに腰掛けていた。
「それで、その贈り物というのを見せてもらってもいいかな」
「は、はい。こちらでございます」
アンマリアはごそごそと、収納魔法からさっき作ったチェス盤を引っ張り出す。
8×8のきれいなマス目の引かれた板とその上に置かれた全部で32個の駒。それを見たフィレン王子は思わず息を飲んだ。
「すごいな……。これは一体何というものかな」
「はい、チェスと呼ばれる遊戯盤でございます」
フィレン王子の質問に粛々と答えるアンマリア。ミズーナ王女は隣で黙ったまま座っている。
「本当は色を塗り分けておきたかったのですが、私の魔法ではそれができませんでしたので、ひとまず駒の台座の形を変えて区別できるようにしました」
アンマリアが駒の台座を指し示す。よく見ると円形と正方形という感じに違っていた。
細かい違いのようには見えるが、こうでもしておかないとどちらの駒かというのが分からなくなるからやむなくといった感じである。
「ふむふむ。遊戯盤といったが、どうやって遊ぶのか教えてもらえないかな」
「それでしたら構いません。元よりそのつもりでございますので」
フィレン王子の質問に、アンマリアが答える。
しばらくするとリブロ王子とレッタス王子も混ざっており、気が付いたら五人でチェス大会となっていた。
「フィレンもリブロも強すぎじゃないか?」
何局か対戦した後、レッタス王子は文句をたれていた。
初心者であるのでミズーナ王女やアンマリアに負けているのはいいとして、その二人もフィレンとリブロというサーロインの王子たちにこてんぱんに負かされていたのである。予想外な実力を持ち合わせていたのだ。
今日初めて触った上に、ルールを簡単に聞いただけでこれである。本当に強すぎなる二人なのであった。
「そういえばアンマリア。ちょっと気になったんだが、いいか?」
「なんでございましょうか、殿下」
質問を受け付けるアンマリア。
「このポーンの駒がキラキラと光っていたのは何なんだい?」
どうやらフィレン王子は、ポーンの駒の球体部分が光っていたのが気になっているようだった。
「ああ、それはプロモーションの光ですね」
「プロモーション?」
「はい、ルールの説明をした時にも申しましたが、ポーンの駒は一番奥まで進むとクイーンと同じ動きができるようになります。その状態になった事を分かりやすくするために、そうやって光らせるようにしたのです」
「なるほど、そういうわけか」
アンマリアの説明に、フィレン王子は納得がいったようである。
確かに、こうしておかなければ普通のポーンとプロモーションしたポーンとが区別がつかなくなってしまうのは間違いないのである。
フィレン王子は興味深そうに駒をまじまじと見つめている。
「それにしても、どうして急にこんなものを作ろうと思ったのかな」
「なんといいましょうか……。娯楽が欲しくなったというところでございましょうかね」
理由を尋ねられたアンマリアは、視線を少々逸らすようにしながら答えている。
「ふむ、先日もリバーシを出したばかりではないか。それなのに新しいものを出す理由がなんなのかな?」
「ぐっ……」
笑顔でさらなる追及を受けたアンマリアは、思い切り言葉を詰まらせる。
「そ、それは私から説明致します!」
そういって部屋に乱入してきたのはメチルだった。隣にはサキやエスカもいた。
「えっ、なんで三人ともいるのよ」
「アンマリアたちが遅いから、様子を見に来たのよ」
アンマリアが驚いて問い掛けると、エスカから即答された。軽く説明してくるとだけ言ってきたので、あまりの遅さに我慢できなかったようだった。
「それは私の前世の世界での遊びでして、近々誕生日を迎えられるご友人のプレゼントとして作られたのです」
「ほう、サクラ嬢にか」
メチルの説明に、ちらりとアンマリアを見るフィレン王子。
「それで、さすがに婚約者に知らせずに初物を友人に贈るのはどうかというわけで、このような運びとなったのでございます」
メチルは全部説明してしまったのだった。
「なるほどね。それでまったく見たことがなかったのか」
「このナイトという馬の駒、これを見てその話に納得がいきましたね。バッサーシ辺境伯は馬の産地で、こちらとも取引がありますから」
「ああ、そういうわけですか」
王子三人ともがすっかり納得したようである。
「誕生日に贈るのは構わないけれど、これは父上にも見せておこうか」
サクラの誕生日プレゼントとして贈ることは了承されたが、なんとサーロイン国王に見せることになってしまったチェス盤。
予想外の展開に困るミズーナ王女たちなのであった。
21
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる