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第九章 拡張版ミズーナ編
第438話 誕生日プレゼントには初物を
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フィレン王子たちの誕生日の前に、サクラの誕生日がやって来る。その直前には中間試験だってある。
この中間試験、勉強が苦手なエスカにとってはかなり厄介なもので、特に苦手にしている座学が中心となるのだ。
そこまで脳筋でもないのに、どうしてエスカはここまで苦手なのか。
城にやって来たエスカは、アンマリアやミズーナ王女、それにサキにも勉強を見てもらっている始末である。王妃教育で忙しいはずのアンマリアとサキにまで見てもらえるとは、エスカはなんて贅沢なのだろうか。
王妃候補と王女というとんでもない面々が集った勉強会だが、当のエスカの表情はまったくもって思わしくなかった。まったく、どこまで勉強が苦手なのだろうか。
エスカのつらそうな表情に、アンマリアとミズーナ王女は困った表情を浮かべていた。
そして、12ターン目。
中間試験を迎える。これが終わればサクラの誕生日である。
アンマリアとサキは友人のための贈り物を作るために、エスカのテスト勉強からは撤退している。
そんなわけで、直前までミズーナ王女がつきっきりでその勉強を見ていた。しかし、エスカは相変わらず頭から煙を上げてノックダウンされており、はっきり言って不安しかなかった。
「どう、エスカの様子は」
気になったアンマリアがミズーナ王女に問い掛ける。
「うん、ダメね。赤点回避が精一杯よ」
「そっか……。エスカに引っ張られないでね」
「もちろんよ」
アンマリアはミズーナ王女を励ましていた。これがテストの前日の話である。
2日後、城に戻ってきたエスカは真っ白に燃え尽きていた。
「ああ、だからテストって嫌いなのよ……」
口から魂が抜け出そうなくらいに落ち込む姿に、ミズーナ王女は苦笑い、アンマリアは呆れ、サキは心配しておろおろとしていた。
こんな状態だというのに、よくここまで追試を経験せずに済んだものだ。ミール王国七不思議に加えても差し支えないかもしれない。
「さて、ちょっと厨房を借りてお菓子でも作ってくるわ。このまま放っておいたら、この辺りにきのこが生えちゃうかもしれないからね」
「アンマリアったら、優しいように見えて酷いことを言うわね」
ミズーナ王女の言葉に、「相手はエスカだからよ」と言い残していくアンマリアだった。
「んー、おいしいわ」
アンマリアの作ったお菓子を食べて、すっかり元気を取り戻したエスカである。
「これだけ料理ができるっていうのはいいわよね。長く作ってなかったから、私も作ってみようかしらね」
すっかり復活したエスカはそんなことを言っている。
転生者であるアンマリアたちは、それなりに前世で料理に親しんできたために、そういうところがあるのだ。
「あっ、そうだわ。誕生日プレゼントに料理ってどうかしら」
急に思いついたかのように話すエスカだが、ミズーナ王女もアンマリアも、それとメチルも反対の立場である。
「ええ、どうしてよ……」
揃って否定されてショックを隠し切れないエスカである。
「あのね、エスカ。王族っていうのはどこでどう命を狙われるのか分からないのよ? こんな時ばかり前世感覚でいてもらっちゃ困るわよ」
「そうですね。友好国とはいっても、そのすべてが友好的とは限りませんからね。ゲームと現実はしっかり分けて下さい」
ミズーナ王女とメチルからぼろっかすに言われるエスカである。本当に先日からやられ放題だった。
それを見かねたのがアンマリアだった。
収納魔法からトレント木材を取り出すと、なにやら魔法を使って変形していく。
「アンマリア様、一体何を作られているのですか?」
気になるサキが問い掛けるが、アンマリアは集中しているので答えられない。
その様子を見ていたメチルが代わりに答える。メチルにはとても見覚えがあったからだ。
「これは、チェスですね」
「チェス?」
サキがわけが分からないといった感じの反応を見せている。この世界にないものだからそうなるだろう。
「娯楽がないと言っていた延長かしらね」
ミズーナ王女がこう言っている間に、アンマリアはチェス盤と駒を1セット作り上げてしまっていた。
「なんでチェスなのよ」
アンマリアの行動が理解できないエスカが問い掛けている。
「これよ、これ」
アンマリアはそう言いながら、ナイトの駒を手に取っている。
「ああ、そういうことなのですね」
真っ先に反応を示したのはサキだった。さすがは同じ国の人間といったところだ。
「どういうことなのよ」
エスカがアンマリアに食って掛かる。まったく、どうしてこうも気の短い人間になってるのよ。
「ミズーナ王女なら、分かりますよね。サクラ様の故郷はバッサーシ辺境伯なんですから」
「ああ、馬ですか」
アンマリアが問い掛ければ、ミズーナ王女はすぐさま思い当っていた。
なぜなら、バッサーシ辺境伯領とベジタリウス王国は馬の取引を行っているからである。これには納得というところだった。
「さて、殿下たちの誕生日を先取りして、あと2セットくらい作っておきましょうか。初物を王子様以外に先に渡したとあっては、いろいろと揉め事になりそうですからね」
そんなわけで、アンマリアはトレント木材を取り出してチェスを2セット追加で作ってしまったのだった。
この中間試験、勉強が苦手なエスカにとってはかなり厄介なもので、特に苦手にしている座学が中心となるのだ。
そこまで脳筋でもないのに、どうしてエスカはここまで苦手なのか。
城にやって来たエスカは、アンマリアやミズーナ王女、それにサキにも勉強を見てもらっている始末である。王妃教育で忙しいはずのアンマリアとサキにまで見てもらえるとは、エスカはなんて贅沢なのだろうか。
王妃候補と王女というとんでもない面々が集った勉強会だが、当のエスカの表情はまったくもって思わしくなかった。まったく、どこまで勉強が苦手なのだろうか。
エスカのつらそうな表情に、アンマリアとミズーナ王女は困った表情を浮かべていた。
そして、12ターン目。
中間試験を迎える。これが終わればサクラの誕生日である。
アンマリアとサキは友人のための贈り物を作るために、エスカのテスト勉強からは撤退している。
そんなわけで、直前までミズーナ王女がつきっきりでその勉強を見ていた。しかし、エスカは相変わらず頭から煙を上げてノックダウンされており、はっきり言って不安しかなかった。
「どう、エスカの様子は」
気になったアンマリアがミズーナ王女に問い掛ける。
「うん、ダメね。赤点回避が精一杯よ」
「そっか……。エスカに引っ張られないでね」
「もちろんよ」
アンマリアはミズーナ王女を励ましていた。これがテストの前日の話である。
2日後、城に戻ってきたエスカは真っ白に燃え尽きていた。
「ああ、だからテストって嫌いなのよ……」
口から魂が抜け出そうなくらいに落ち込む姿に、ミズーナ王女は苦笑い、アンマリアは呆れ、サキは心配しておろおろとしていた。
こんな状態だというのに、よくここまで追試を経験せずに済んだものだ。ミール王国七不思議に加えても差し支えないかもしれない。
「さて、ちょっと厨房を借りてお菓子でも作ってくるわ。このまま放っておいたら、この辺りにきのこが生えちゃうかもしれないからね」
「アンマリアったら、優しいように見えて酷いことを言うわね」
ミズーナ王女の言葉に、「相手はエスカだからよ」と言い残していくアンマリアだった。
「んー、おいしいわ」
アンマリアの作ったお菓子を食べて、すっかり元気を取り戻したエスカである。
「これだけ料理ができるっていうのはいいわよね。長く作ってなかったから、私も作ってみようかしらね」
すっかり復活したエスカはそんなことを言っている。
転生者であるアンマリアたちは、それなりに前世で料理に親しんできたために、そういうところがあるのだ。
「あっ、そうだわ。誕生日プレゼントに料理ってどうかしら」
急に思いついたかのように話すエスカだが、ミズーナ王女もアンマリアも、それとメチルも反対の立場である。
「ええ、どうしてよ……」
揃って否定されてショックを隠し切れないエスカである。
「あのね、エスカ。王族っていうのはどこでどう命を狙われるのか分からないのよ? こんな時ばかり前世感覚でいてもらっちゃ困るわよ」
「そうですね。友好国とはいっても、そのすべてが友好的とは限りませんからね。ゲームと現実はしっかり分けて下さい」
ミズーナ王女とメチルからぼろっかすに言われるエスカである。本当に先日からやられ放題だった。
それを見かねたのがアンマリアだった。
収納魔法からトレント木材を取り出すと、なにやら魔法を使って変形していく。
「アンマリア様、一体何を作られているのですか?」
気になるサキが問い掛けるが、アンマリアは集中しているので答えられない。
その様子を見ていたメチルが代わりに答える。メチルにはとても見覚えがあったからだ。
「これは、チェスですね」
「チェス?」
サキがわけが分からないといった感じの反応を見せている。この世界にないものだからそうなるだろう。
「娯楽がないと言っていた延長かしらね」
ミズーナ王女がこう言っている間に、アンマリアはチェス盤と駒を1セット作り上げてしまっていた。
「なんでチェスなのよ」
アンマリアの行動が理解できないエスカが問い掛けている。
「これよ、これ」
アンマリアはそう言いながら、ナイトの駒を手に取っている。
「ああ、そういうことなのですね」
真っ先に反応を示したのはサキだった。さすがは同じ国の人間といったところだ。
「どういうことなのよ」
エスカがアンマリアに食って掛かる。まったく、どうしてこうも気の短い人間になってるのよ。
「ミズーナ王女なら、分かりますよね。サクラ様の故郷はバッサーシ辺境伯なんですから」
「ああ、馬ですか」
アンマリアが問い掛ければ、ミズーナ王女はすぐさま思い当っていた。
なぜなら、バッサーシ辺境伯領とベジタリウス王国は馬の取引を行っているからである。これには納得というところだった。
「さて、殿下たちの誕生日を先取りして、あと2セットくらい作っておきましょうか。初物を王子様以外に先に渡したとあっては、いろいろと揉め事になりそうですからね」
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