伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
435 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編

第435話 魔王を脅せる王女様

しおりを挟む
「というわけで、サーロイン王国内にあった呪具は全部魔王様が回収して帰られました……」
 王都に戻って来たメチルとイスンセは、国王やミズーナ王女たちに報告していた。
 だが、この報告を聞いて、誰一人とし安心した表情はしていなかった。
 無理もないだろう。回収していったのが魔族の親玉である魔王である。誰が安心できるというのだろうか。
「うふふふ、もし何かやろうというのなら、私の重力魔法で完膚なきまでにやってやりますよ。あの瘴気の塊のようにね……」
 話を聞いていたエスカが、暗黒微笑を浮かべながら恐ろしい事を呟いていた。
 実際に魔王を地べたに這わせた実績があるとはいえ、こればかりは王女がしていい表情ではなかった。
 その場に居合わせた誰もが思わず失笑してしまう光景だった。そのくらいにエスカは悪い顔をしていたのだ。
「一応釘刺してきておくわね」
 そういって、エスカは瞬間移動魔法で姿を消したのだった。
「……魔王の事はエスカに任せておけば大丈夫でしょう。メチル、イスンセ、お疲れさまでした」
「はっ、俺は本来の仕事に戻らさせて頂きます」
 ミズーナ王女が労うと、メチルは普通に頭を下げ、イスンセは跪いて深々と頭を下げていた。
「ええ、クガリと仲良くね」
「ちょっ、姫様?!」
 慌てるイスンセに対して、ミズーナ王女が無言の笑顔で手を振っている。その姿に、イスンセは参ったなと項垂れながら謁見の間を出ていった。
 その様子を見たサーロインの王妃がミズーナ王女に声を掛ける。
「諜報の人たちの間でもそういうことはありますのね」
「ええ、彼らとて人間ですからね。それに、テトロに乗っ取られながらもクガリにだけ影響がなかったことを考えると、必死に抵抗していたんだと思いますよ。大事な人を守るために」
「なるほどですね……」
 ミズーナ王女の答えに、王妃はものすごく納得したように優しい目をしていた。
 さすがは前世ではそこそこの年齢に達していたミズーナ王女である。こういうことにはかなり鋭いようなのだ。
「とはいえ、魔王が呪具を回収していったのであれば、今後サーロイン王国内では呪具絡みの問題は起きないでしょうね」
「そうだといいですね。どうやら収穫祭の時の魔物の襲撃も呪具が原因でしたようですからね」
「うむ、そうあることを願いたい限りだ」
 ミズーナ王女の言葉に、国王も王妃も確信を持てないようだった。
「そこは多分、エスカが何かしらの報告を持ってくるでしょう。気長にお待ち頂くしかないでしょうね」
 ミズーナ王女がそう話すので、それを信じて待つしかなさそうだった。
 そんなこんなで、サーロイン王国内の呪具を起因とする事件はひとまずの解決を見たのである。

 ―――

 一方、ベジタリウス王国へと跳んだエスカは魔王のもとを訪れていた。
「な、なんだ。どうしたというのだ、その目は……」
 エスカを見た瞬間に震え上がる魔王である。
 まあ、復活した直後にあんな目に遭わされればトラウマにもなろうというものだ。そこには魔族の王たる威厳など存在していなかった。
「うふふ、メチルから聞きましたよ。呪具を全部回収して戻ったそうですね。悪さしないように確認に来ただけです。約束して頂けるのでしたら、何もしないで戻りますよ、ええ」
 エスカの目が据わっている。笑顔だというのに、そこにはとんでもない恐怖しかなかった。
 魔王を尻に敷けるのは、エスカくらいだろう。
 まったく、メチル以外に魔族がいなくなっているのは正直幸いといったところだろう。
 魔王はその気になれば魔族を復活させられるのだろうが、こんな情けないところを見られたくないがためにそれができないでいた。
 魔王にとってしてみれば、エスカという存在は目の上のたんこぶのような存在なのである。
「とりあえず魔王様。わけの分からない人間の手に渡らないように、呪具の管理はしっかりお願いしますよ?」
「分かっておる。分かっておるからその魔法を使うのはやめてくれ」
 怖い表情で魔王を見下ろすエスカ。
 右手に禍々しいまでの闇の魔力を携えたエスカの姿に、魔王は必死に嘆願するしかなかったのである。
 エスカの右手の魔法が、自分に地面の味を覚えさせたあの魔法だと分かっているから本当に必死である。
「では、本当に頼みましたよ。特に崩れたコール子爵邸の地下の呪具を早急にね」
「分かった、ちゃんとやるからその魔法をしまえ」
 魔王が土下座するような勢いである。その態度に満足したのか、エスカは右手の魔力を霧散させて魔法を解除した。
「では、私はサーロインに戻りますのでね。しっかりと頼みましたよ」
 エスカはそう言って、短距離転移でまずはベジタリウス王国の王都を目指したのだった。
 エスカが立ち去ると、魔王はへなへなと腰を抜かしてその場に座り込む。本当に部下である魔族を侍らせていなくて正解である。
「まったく、何なのだ、あの人間は。この魔王をここまで震え上がらせるとは、本当に人間なのか……」
 まったくもって生きた心地のしない魔王である。
 落ち着きを取り戻した魔王は、ベジタリウス王国内に散らばった呪具の回収にようやく動き出したのであった。
 エスカに目をつけられたのが運の尽きである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

処理中です...