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第九章 拡張版ミズーナ編

第432話 呪具の脅威

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 さっきまでの恐ろしさは何だったのだろうか。エスカが現れた瞬間、瘴気の塊は身動き取れずにあっさりと浄化されてしまった。
「ずいぶんとあっさり終わっちゃったわね……」
 あまりの呆気なさに、アンマリアが瘴気の塊のいた場所へと歩み寄っていく。
 地面を見て転がっていたものに、思わず顔を青ざめさせてしまう。
「どうしたのよ、アンマリア」
「ほ、ほ、骨……」
「骨? ……ひゃうっ!」
 思わず近付いたミズーナ王女も悲鳴を上げてしまう。
 そう、そこにはどういうわけか白骨が転がっていたのだ。おそらくは瘴気に体を乗っ取られていたのだろう。
「こ、ここ、これは兵士たちに任せた方がいいですね」
「ええ、そうね……」
 ミズーナ王女とアンマリアは体を震わせながらそう結論付けたのだった。
 遅れて近付いて来たメチルは、恐れることなくそのそばに転がっていた何かを見つけると、ひょいと拾い上げていた。
「これは……『血実のネックレス』かしらね」
「メチル、怖く、ないの?」
 震えながらも声を掛けるアンマリアである。
「魔族だとこういうの見慣れちゃってましてね。ほら、サンカリーもテリアもテトロも、そういうやつばっかりだったじゃないですか」
 思わず苦笑いを浮かべてしまうメチルである。
 しかし、そのメチルの言葉に思わず納得してしまうミズーナ王女たちだった。
「それはそうと、『血実のネックレス』って何なのですかね」
 サキがメチルに問い掛けている。
「それは、帰りの馬車の中でお話しましょう。ちなみにですが、呪具には間違いないです」
「やっぱりなのね……」
 メチルがはっきりと断言したために、思わずため息が出てしまうミズーナ王女たちだった。

 帰りの馬車の中で、呪具についてメチルから話を聞く事ができた。
 どうやらメチルはテトロからある程度の呪具については話を聞かされていたようだ。
 血実のネックレスというのは、結実と同音ということもあり、願いを叶えるためのアクセサリー型の呪具なのだという。
 ただ、けつじつの『けつ』の字が『血』であることが示す通り、願いを叶えようとして願うたびに呪具にの力に蝕まれ、最終的には瘴気に完全に飲まれてしまうということのようだった。
 おそらく瘴気が浄化されて消え去った後に残った骨は、呪具を持っていた人物の成れの果てなのだろう。哀れな話である。
 魔力の痕跡などの話を総合すると、収穫祭に魔物をけしかけさせたのはその血実のネックレスの持ち主と見て間違いないだろう。
 瘴気は無事に浄化されたので、あとは魔法使いたちに任せておけば詳細が分かると思われる。そんなわけで、いろいろ事情があるので残りのことは専門家に任せるミズーナ王女たちだった。

 7日間をかけてサーロインの城に戻ったミズーナ王女たちは、疲れのあまり、その日はとっとと休むことにした。
「ミズーナ王女殿下、お疲れ様です。すぐに湯浴みの準備を始めますね」
 部屋に戻ったところで、メチルはバタバタとお風呂の準備を始める。魔族となった事もあって、まだまだ元気そうである。
「メチル」
「何でしょうか、王女殿下」
 急にミズーナ王女に声を掛けられて、にこやかな表情のまま反応するメチル。
「あとで、呪具に関して知っている限り話して下さい。今回の事を思うと、放っておくのは危険だと思われますからね」
「しょ、承知致しました。知っている限りをお話し致しますね」
 ミズーナ王女と約束したメチルは、お風呂の準備のために部屋から出ていった。
 その後、呪具に関する話をするために選ばれた場所は、なんと王家の食卓だった。つまり、サーロイン国王と王妃たちを交えての場所だった。
 なぜこうなったのかというと、ベジタリウス王国の密偵たちがサーロイン王国内で呪具を使っていた過去があるからだ。
 呪具使いのテトロが憑依していたイスンセ。それとテールの父親であるロートント男爵。二つも例があればサーロイン王国とて他人事ではないのだから。
 王族に囲まれる事はだいぶ慣れたメチルとはいえ、状況が状況ゆえに、この時ばかりは違った緊張感に包まれていた。
「では、メチルよ。呪具とやらについて話をしてもらおうか」
「ふぁ、ふぁいっ!」
 緊張のあまり、声が裏返っているメチルである。説明の補佐のために、メチルの頭の上ではアルーが待機している。
 それというのも、メチルはかなりぼんやりした存在だったためだった。途中で転生者が入り込んで復活したとはいっても、それはつい最近のこと。それまでの事となると、本来のメチルであるアルーの方が詳しいのである。
「管理はテトロがしていましたが、多くは拠点となっていたコール子爵邸内の地下空間にあります。その地下空間は魔王様の復活の際に崩れたので、多くは地中に埋まっていると思いますが、何とも言えませんね」
 どうやら、大半は地面に埋まったらしいのだが、詳しい事はメチルでも分からないようだ。完全にお手上げといった感じである。
「ただ、私やアルーは呪具の魔力を感じ取れますから、出てくれば対処はできると思います。探知機のような真似事までは……申し訳ございませんけれども無理でございます」
 メチルはテーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げていた。
 とはいえ、呪具の多くは地中に埋まったとの事で、少しは安心する一同。
 その後、ミズーナ王女が直に頼んだ事で、念のために確認に向かうことになったメチルとアルーなのであった。
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