431 / 497
第九章 拡張版ミズーナ編
第431話 おいしいところはさらわれる
しおりを挟む
魔力だまりがミズーナ王女たちに襲い掛かる。まったく、この手の厄介なものというのは一筋縄ではいかないものだ。
「甘いですね!」
アルーの声もあってか、ミズーナ王女たちは全員が対処できていた。
しかも避けるどころか防護魔法でしっかり防いでいる。サキですらもできているのは驚きである。
「ギャギャギャッ!」
魔力だまりが飛び出させた瘴気を引っ込ませると、不気味な笑い声を上げながら見る見るうちに変化させていく。
その動きはぐにょぐにょとなかなかに気持ち悪いものだった。
「な、なんなのですか、あれは……」
サキが怯えた表情で声を震わせる。
その目の前では、瘴気を膨らませながら形を変えていく。まるで意思を持った何かのように、その形がじわじわとはっきりしていく。
瘴気はローブを着た老婆のような姿になると、再びミズーナ王女たちに襲い掛かってきた。
「ギャギャッ!」
奇声を上げて襲い来る瘴気。ミズーナ王女は身構えて正面から立ち向かおうとする。
「ダメです。触れてはいけません!」
そこへメチルが割って入る。
護身用に持っていた短剣で瘴気の攻撃を受け止めている。
「メチル、あなたは大丈夫なのですか?」
「私は大丈夫です。なんといっても魔族ですからね」
力を込めて抵抗しながら、ミズーナ王女へと笑顔を向けるメチル。
「あまりこいつに近付きすぎると、徐々に精神を侵されていきます。距離を保ちながら、光魔法でじわじわ削っていくしかありません」
そう言い切ると、短剣を強く振って瘴気の塊を突き飛ばすメチル。
メチルの話を聞いていたアンマリアとサキは、光魔法で壁を作りながらどうにか瘴気の塊から逃げていた。
ミズーナ王女たちと合流したアンマリアは、こそこそと話しかける。
「あの瘴気の塊ですけど、まとっている魔力は覚えがありますね」
「本当ですか、アンマリア」
驚くミズーナ王女。
「ええ、おそらくは2年前の話ですけれど、平民街で起きた激やせ事件を覚えてらっしゃいますか?」
「ああ、ありましたね、食べても食べてもやせるっていう事件が……」
そう、これはアンマリア編の2年目の頭に起きるはずだった怪しい薬イベントの時の話である。
あの頃はアンマリアは一応回避条件を満たして、イベントは発生しないはずだった。
その代わりに起きたのが、食堂激やせ事件だった。
平民街にあるとある食堂で食事をした客が、揃いも揃ってやせ細るという奇妙な事件だった。店の主人が無事だった事も奇妙さに拍車をかけていた。
あの事件は結局のところ犯人が分からずじまいだったのだが、どうやら思わぬところでその犯人に出くわしてしまったようだった。
「なるほど、あの食堂を包んでいた呪いの実行者の魔力と、この瘴気の塊が放つ魔力が似ているというわけなのですね」
「そういうことです」
アンマリアの話に納得のいくミズーナ王女だった。
「オォォ、ギャギャッ!」
話をしている間も、瘴気の塊は攻撃を仕掛けてくる。そこはサキとメチルの聖女コンビがどうにか凌いでくれていた。
それにしても、この瘴気の塊はなんとも動きが速い。その上細かく攻撃を仕掛けてくるので、浄化のために大掛かりな魔法を使うには少し手が足りないという状況だった。
「姿は老婆なのに動きがすばしっこいですね」
「これじゃ大規模浄化をしようとしても、まともに詠唱できませんね」
メチルとサキもかなり困っているようだった。
だが、そこに突然聞き慣れた声が響いた。
「グラヴィティプレス!」
ズンという音とともに、瘴気の塊が地面へと押し付けられている。
何事かと思って振り向くと、そこには忘れてきたはずのエスカが立っていたのである。
「エスカ?!」
「どうやってここに来たのですか」
アンマリアとミズーナ王女が目を白黒させている。
あの距離をやってくるなど瞬間移動魔法でもないと無理ではあるが、行った事のない場所へは瞬間移動魔法で到達するのは無理なはずである。一体どうやってここへやって来たのか。
「ふふん、そんなの簡単よ。アンマリアの魔力を追跡したのですよ!」
ドヤ顔を決めながら言い放ったのは、なんともとんでもない話だった。
エスカが言うには対象の魔力を残滓を追いかけて、その場所を特定して跳んできたということらしいのだ。怖い話である。
「あっ!」
サキが叫ぶものだから何事かと見てみると、瘴気の塊が重力から逃れようとしていた。
「甘いわね」
エスカが再度魔法を放つと、瘴気の塊は地面に激しく押し付けられていた。
「言っておくけど、地面に逃げようとか考えないことね。地面に入ったら、その瞬間にぺっちゃんこだから」
エスカがぎろりと瘴気の塊を睨むと、瘴気の塊はビクッと震えて動きを止めていた。どうやら地面に逃げるつもりだったらしい。
だが、エスカの言った通り、地面にめり込んだ部分は地面に縫い付けられたかのように動けなくなっていた。
「あったり前でしょうに。重力で押し付けられて固まった地面よ? 隙間なんてあると思ってるわけ?」
冷たい視線を瘴気の塊に向けるエスカ。そして、続けざまに叫ぶのだった。
「さあ、ゆっくりと浄化しておしまいなさい!」
「甘いですね!」
アルーの声もあってか、ミズーナ王女たちは全員が対処できていた。
しかも避けるどころか防護魔法でしっかり防いでいる。サキですらもできているのは驚きである。
「ギャギャギャッ!」
魔力だまりが飛び出させた瘴気を引っ込ませると、不気味な笑い声を上げながら見る見るうちに変化させていく。
その動きはぐにょぐにょとなかなかに気持ち悪いものだった。
「な、なんなのですか、あれは……」
サキが怯えた表情で声を震わせる。
その目の前では、瘴気を膨らませながら形を変えていく。まるで意思を持った何かのように、その形がじわじわとはっきりしていく。
瘴気はローブを着た老婆のような姿になると、再びミズーナ王女たちに襲い掛かってきた。
「ギャギャッ!」
奇声を上げて襲い来る瘴気。ミズーナ王女は身構えて正面から立ち向かおうとする。
「ダメです。触れてはいけません!」
そこへメチルが割って入る。
護身用に持っていた短剣で瘴気の攻撃を受け止めている。
「メチル、あなたは大丈夫なのですか?」
「私は大丈夫です。なんといっても魔族ですからね」
力を込めて抵抗しながら、ミズーナ王女へと笑顔を向けるメチル。
「あまりこいつに近付きすぎると、徐々に精神を侵されていきます。距離を保ちながら、光魔法でじわじわ削っていくしかありません」
そう言い切ると、短剣を強く振って瘴気の塊を突き飛ばすメチル。
メチルの話を聞いていたアンマリアとサキは、光魔法で壁を作りながらどうにか瘴気の塊から逃げていた。
ミズーナ王女たちと合流したアンマリアは、こそこそと話しかける。
「あの瘴気の塊ですけど、まとっている魔力は覚えがありますね」
「本当ですか、アンマリア」
驚くミズーナ王女。
「ええ、おそらくは2年前の話ですけれど、平民街で起きた激やせ事件を覚えてらっしゃいますか?」
「ああ、ありましたね、食べても食べてもやせるっていう事件が……」
そう、これはアンマリア編の2年目の頭に起きるはずだった怪しい薬イベントの時の話である。
あの頃はアンマリアは一応回避条件を満たして、イベントは発生しないはずだった。
その代わりに起きたのが、食堂激やせ事件だった。
平民街にあるとある食堂で食事をした客が、揃いも揃ってやせ細るという奇妙な事件だった。店の主人が無事だった事も奇妙さに拍車をかけていた。
あの事件は結局のところ犯人が分からずじまいだったのだが、どうやら思わぬところでその犯人に出くわしてしまったようだった。
「なるほど、あの食堂を包んでいた呪いの実行者の魔力と、この瘴気の塊が放つ魔力が似ているというわけなのですね」
「そういうことです」
アンマリアの話に納得のいくミズーナ王女だった。
「オォォ、ギャギャッ!」
話をしている間も、瘴気の塊は攻撃を仕掛けてくる。そこはサキとメチルの聖女コンビがどうにか凌いでくれていた。
それにしても、この瘴気の塊はなんとも動きが速い。その上細かく攻撃を仕掛けてくるので、浄化のために大掛かりな魔法を使うには少し手が足りないという状況だった。
「姿は老婆なのに動きがすばしっこいですね」
「これじゃ大規模浄化をしようとしても、まともに詠唱できませんね」
メチルとサキもかなり困っているようだった。
だが、そこに突然聞き慣れた声が響いた。
「グラヴィティプレス!」
ズンという音とともに、瘴気の塊が地面へと押し付けられている。
何事かと思って振り向くと、そこには忘れてきたはずのエスカが立っていたのである。
「エスカ?!」
「どうやってここに来たのですか」
アンマリアとミズーナ王女が目を白黒させている。
あの距離をやってくるなど瞬間移動魔法でもないと無理ではあるが、行った事のない場所へは瞬間移動魔法で到達するのは無理なはずである。一体どうやってここへやって来たのか。
「ふふん、そんなの簡単よ。アンマリアの魔力を追跡したのですよ!」
ドヤ顔を決めながら言い放ったのは、なんともとんでもない話だった。
エスカが言うには対象の魔力を残滓を追いかけて、その場所を特定して跳んできたということらしいのだ。怖い話である。
「あっ!」
サキが叫ぶものだから何事かと見てみると、瘴気の塊が重力から逃れようとしていた。
「甘いわね」
エスカが再度魔法を放つと、瘴気の塊は地面に激しく押し付けられていた。
「言っておくけど、地面に逃げようとか考えないことね。地面に入ったら、その瞬間にぺっちゃんこだから」
エスカがぎろりと瘴気の塊を睨むと、瘴気の塊はビクッと震えて動きを止めていた。どうやら地面に逃げるつもりだったらしい。
だが、エスカの言った通り、地面にめり込んだ部分は地面に縫い付けられたかのように動けなくなっていた。
「あったり前でしょうに。重力で押し付けられて固まった地面よ? 隙間なんてあると思ってるわけ?」
冷たい視線を瘴気の塊に向けるエスカ。そして、続けざまに叫ぶのだった。
「さあ、ゆっくりと浄化しておしまいなさい!」
19
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約破棄にも寝過ごした
シアノ
恋愛
悪役令嬢なんて面倒くさい。
とにかくひたすら寝ていたい。
三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。
そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。
それって──最高じゃない?
ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる